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書評 「隷属なき道」(文藝春秋社)  文科系

2022年05月15日 12時46分37秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 14年に出版されたこの本は、オランダ国内でベストセラーになり、世界20か国に翻訳されたもの。著者は、オランダ人でBBC、ガーディアン、ワシントンポストなども注目、紹介して来た若手論客で、この日本語訳は文藝春秋から出たものだ。この本には、末尾の解説に日本語版編集部自身の要約があるので、この要約を以下そのまま書評に代えることにする。20世紀最大の経済学者ケインズの「将来予測」を現代的にアレンジした以下の議論は、日本ではいかにも荒唐無稽に見えるはずだが、経済学の基礎知識をちょっと囓った者ならば現代経済学史上の王道の一角を相変わらず占め続けている議論なのである。

『産業革命以来、人類の労働時間はずっと減り続けていた。ケインズは、第一次世界大戦のあと、スペインで講演を行い、その中で、「2030年までに週の労働時間は15時間にまでなる」と予測した。ところが、今日の我々はそんな状況ではまったくない。確かに1970年代まで労働時間は減り続けていた。しかし、80年代以降、減少が止まり、逆に上昇に転じた国もある。
 労働生産性を見てみよう。これは、80年代以降も順調に上がっている。しかし、逆に労働者の実質賃金は下がり、貧富の差は、国内で見ても、また世界的に見てもこれ以上ないくらいに拡大している。何しろ、今世界では上位62人の富豪は、下位35億人の総資産より多い富を所有しているのだ。
 そうした世界を救う方法として著者が提案しているのが、ベーシックインカムと1日3時間労働そして国境線の解放だ。
 中でもベーシックインカムをめぐる著者の議論には、目からうろこが何枚も落ちる人が多いのではないだろうか。日本のケースに当てはめてみれば、生活保護、奨学金などの学費援助制度、母子家庭保護のための福祉プログラム等々を全て廃止する。そのかわりに全ての個人に年間150万円なりのお金を直接支給するのである。
 2009年のイギリスでの実験例が第2章で紹介されている。3000ポンド(約45万円)のお金を与えられた13人のホームレスは、酒やギャンブルに使ってしまうだろうという予想に反し、電話、辞書、補聴器などまず自分にとって本当に必要なものを買い求めた。20年間ヘロインを常用していたサイモンの場合、身ぎれいにしてガーデニング教室に通いだした。そして実験開始から1年半後には、13人の路上生活者のうち7人が屋根のある生活をするようになった、というのである。
 つまり、貧困者は第一にまとまったお金がないことで、貧困から抜け出せないのだ。教育制度や奨学金にいくらお金を使っても、そもそも貧困家庭の子どもたちはそうした制度を利用するということを思いつかない。だからまず、すべての国民に、施しではなく権利として必要最低限の生活を保障するお金を渡すという考え方だ。』

 この文章にかかわって、イギリスのホームレスについて別の文献から一言。イギリスのこれらの人々はアルコール中毒がほとんどで、日本のいわゆるホームレスはいないと聞いてきた。

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