ウクライナ戦争は、これを起こしたロシアが無条件でとにかく悪いにせよ、ゼレンスキー大統領が「NATOには加盟するが、ロシアの侵攻はない」と言い続けて来た上で起こったもの。2014年の「ミンスク合意」をウクライナが履行しなかったことがロシアの安全保障上の危機感をそれほどに強めたということだろうが、対するゼレンスキーは今になってあわてたように「ミンスク合意」通りの譲歩発言を始めた。その間に何万という人々が死に続けているのだが、アメリカ以外の大国としては近年珍しい戦争犯罪国に踏み切ってしまった今のロシアには、今はもう和平を急ぐ必要もなくなった。
だからなのだろう。この10日に開戦以来初めて行われたウクライナ・ロシア外相会談でも停戦になど至るはずがない。「毒を食らわば皿まで」とばかりに、ウクライナが承知できない難問をロシアが提起し続けたにちがいない。「ドネツク・ルガンスクの独立国化を即時に認めよ!」とか。
加えるに、米を含めたNATO加盟主要国はというと「兵器はいくらでも援助してきたしこれからもするが、兵は送らない」と、ここでもゼレンスキーは欺されたのだろう。
さて、ゼレンスキー大統領は今、途方に暮れているだろう。政治経験が全くなかった芸人がいきなり大統領になって、本業である人気コメディアンよろしく見事に芝居がかってロシアを戦争に引きずり出しただけではなく、他国の兵器をさらにどんどんつぎ込まれるという新たな国、世界新時代を切り開いたわけだ。そして、この事件はいまやさらに、社会ダーウィニズム信奉者である世界中の右翼ポピュリストらに鬼の首でも取ったような言動を今後長く吐かせていくことにもなった。
「やはり国防には核兵器がいる」
「日本でも核共有論を」
「中国の台湾侵攻がもっと早まった(「6年期限」が1年過ぎたから5年よりももっと早く?)」
「敵基地先制攻撃的『防衛力』がますます必要な時代になった」
これらすべて、21世紀唯一の戦争常習大国を誇示してきたアメリカを理論上免罪してやるような、とんでもないロシアの蛮行の一つの帰結という他はないのか。ウクライナを語る人は、必ずアフガニスタン、イラクも語らねばならぬ。三つを対等に語り、そこから学ばねば、この地球の地獄度が増して行くに違いないという今なのではないか。