「小沢問題」はなお続いていくと思うし、「世論」次第によってはさらに不公正でさらにファッショ的な方向に進みうると、大変恐れている。
「小沢問題の諸側面」を分けて明確にしつつ、論じてみたい。
この献金の「違法性の有無」は重要な問題であるが、今の段階ではこの違法性を、誰も断言できるものではない。
が、この「検察立件が従来ルールを破った問題点」がこれだけあるとまず指摘しておきたい。
そして、「大マスコミ、政府が一致協力して意識的に違法性を印象づける」よう「世論を作ってきた」側面が強く、こういう「世論」が検察を支えて、ファッショ性をさらに醸成していく現状を、恐れている。
1 検察立件の問題点
これについては、4月26~28日にここにご紹介した原さんの論文が実に周到に描いている。
【 政治資金規正法による立件は「裏献金」、すなわち献金隠しが通常であり、政治団体の寄付であろうが企業献金であろうが、政治団体からの寄付の出所が企業であるかどうかを寄付を受領する政治家が認識していたかどうか(今回の検察が主張する容疑)も含めて、政治資金収支報告書に記載のある「表献金」は立件してこなかったのである。だから、これまでの検察の立件基準からすれば、小沢への西松からの献金は問題にならなかった。立件対象献金額も3500万円と、従来の目安1億円からはほど遠い。
「表献金」まで立件すると、捜査の公平性(法の下の平等)という要請からすれば、政権側にある有力政治家(二階だけに限らない)を軒並み立件しなければならず、また、自民党の資金管理団体「国民政治協会」に流れる経団連会員企業の献金29億円(07年度)の中にある”ひも付き献金”(特定の政治家あての献金)も”迂回献金”、虚偽記載として捜査・立件しなければならないことになる。
そういうわけで、検察の物理的な捜査能力ばかりでなく、自民党全体が大混乱に陥るという政治判断などにより、「表献金」は立件しないという政治資金規正法の運用を検察はおこなってきたのである。この従来の運用を東京地検特捜部はみずから踏み破っている。
また、立件の時期が問題で、衆議院選間近で政権交代が現実味を帯びてきている時期に、政治的影響があまりにも大きくなることが確実に予想できる時期に行っている。この時期の選択も検察の捜査の政治的中立性という社会的要請を踏み破っている。
検察の三重のルール破り、すなわち、政治資金規正法による立件・運用ルール、捜査の公平性というルール、政治的中立性というルールを検察みずからが踏み破っているという”異常”捜査が今回の特徴なのであって、この異常捜査を政権交代を妨害する政治的ねらいをもった”国策捜査”と言わずに一体何と呼ぶのか。 】
2 マスコミ、政府が不公正言動
以上のように不公正な「検察の三重のルール破り」に政府も悪のりし、大マスコミが一斉に同調して支えたという問題点がある。これがいわゆる「反小沢世論」をどれだけ大きなものにしたことだろう。そして今は逆に、「これだけの世論があるのだから」というのが民主党への最大の牽制になっているのだ。
①官房副長官がいち早く「自民党には捜査は及ばない」と断言して見せた。この副長官ポストが官僚出身の事務方トップの立場のかたであるとは周知の事実であるので、一時かなり問題になった。
②3月後半に大マスコミが一斉に「大久保秘書が犯罪性認識を自白」とキャンペーンを張ったが、その直後に彼の弁護人によってこれが否定されるという出来事があった。
③検察と弁護士しか知り得ないと言う意味で当事者の一方が欠けたこの作為的・一方的キャンペーンは極めて不公正なものであるのに、現在までのところ何の後始末もなされていず、マスコミの垂れ流し・言い放題になっている。
3 こんな世論ってなんだ?
こんな場合の世論って、一体なんだ。「検察が3重のルール破りをし」、このルール破りを黙認するだけでなく検察の一方的リークだけを世に垂れ流してまで形作られたこの世論って。そしてマスコミは今やこの世論でもって、民主党の中にまで大々的に手を突っ込み、かき回し始めたらしい。今朝の毎日新聞1面トップ大見出しに、こうあった。
「民主党次期代表 『岡田氏を』最多25%」、「本社世論調査 鳩山氏は13%」
こんな大見出しの「世論」を錦の御旗とした関連記事は、こんなふうに一方だけを持ち上げて見せている。すべて、上の「小沢問題世論」を持ち出してのことなのである。
「『非小沢』派の目には、『鳩山後継』を狙う小沢氏が『世論は岡田氏』と見て国会議員のみの投票を急いだと映る」
「一方、岡田氏を支持する前原誠司副代表は『国民的人気がある代表を選ぶことで、より政権交代の可能性が高くなる』と調査結果を歓迎する。党内情勢と世論の『ねじれ』については『(党所属議員は)こういった調査結果を重く受け止めて判断するのではないか』と語り、世論に合わせた流れが生まれることに期待感を示した」
一つの野党内部問題での、もの凄い世論誘導ではないだろうか。そして、これらの記事を前にするとき、官僚・政府・マスコミ一体のこんな雰囲気を改めて強く感じてならない。
「官僚出身の岡田克也ならば、小沢とは違って官僚制度に対して節度を心得ているはずだ」
みなさん、こう思われないだろうか。この「国策捜査」と、それに先導された「政府・官僚・マスコミの同調」と、これらに動かされた「世論」とがラセン状に相乗しあい、ファッショの雰囲気がどんどん醸成されていると。
何度も言うが、現下の世界経済状況などは、「窮余の時だし、背に腹はかえられない」とばかりの乱暴な論理を通しやすい。
僕などは「苦しい時代こそ、体制を厳しく見る目を」と思うばかりなのだが。