海側生活

「今さら」ではなく「今から」

怒号が聞こえる絵

2012年06月12日 | 鎌倉散策

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                                                        (東慶寺/鎌倉)

展示室では「立ち止まらないでお進み下さい」と誘導していた。

『ひそかにおもんみれば、三皇五帝の国をおさめ、四岳八元の民をなづる-----』で始まる平治物語。この絵巻の一部の「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」が展示された。

鎌倉幕府の創設と源頼朝の研究を始めて三年目、歴史探訪家としてどうしても見たかった。この「三条殿夜討巻」は日本には無い。10万点を越える日本美術を収集しているアメリカのボストン美術館が所有者で、今回東京国立博物館で仏像・仏画・水墨画等90点を展示した、その中の一点だ。

保元の乱の三年後の平治の乱(1159年)は、武士の台頭を示す大きな変革の一つであり、源平争乱の幕開けともなる戦いだったとされる。源頼朝は13歳で表舞台にはまだ登場してない、平清盛は41歳の時の出来事だ。

『三条殿夜討巻』は、藤原信頼が源義朝(頼朝の父)とともに平清盛の留守をねらって上皇の御所三条殿を夜襲し、上皇を車にのせて内裏へ渡す一方、義朝は宿敵信西を求めて果たさず、御所に火を放ち狼藉の限りを尽くすところを描く。この一巻は慌しい人馬の動きで始まり、紅蓮の炎の下で敵味方入り乱れ、繰りひろげられる凄惨な光景、そして次第に隊列を整えながら引き上げていく武士団まで、絵巻としては幅広の一連の長大な画面を、時間の経過と共にダイナミックに構成し、堂々とした建物の描写、武者たちの機敏な動勢、武具装束なども冷徹なまでに表現されている。

しかし入場者が極端に多い、肩がぶつかり合うほどだ。しかも展示室は薄暗い、眼を凝らさないと細部は見えない。何せ800年前頃に描かれた絵だ。茶色に変色もしている。それなのに「立ち止まらないでお進み下さい」と係りは誘導していた。絵巻は横700㎝足らず、縦40㎝余りしかないのに歩きながら観られるわけが無い。もっと時間をかけて観たかった。

学校では冒頭の一部しか習わなかった古典は、前文を何度も読むうちに、古典が現代に残っている理由や意義がわかってくるような気がする。