棚からぼた餅--岩淵龍王丸

信州の山郷での暮らしと、絵本と無縁になってしまった大人に向けた創作絵本や、芸術活動をお話します。

4-おふくろ--質屋の教え

2008-07-02 09:06:26 | エッセイ・随筆
老舗旅館の長女として生まれた母は、温泉町の三姉妹小町といわれたらしい。
私が30歳代のとき「谷崎潤一郎の「細雪」だったかい」とちゃかしたことがあった。
「田舎では、物語ほどでもなかったが・・・」
と、てれながらもまんざらでもない母に,艶っぽさを観た。
母はすでに70歳代で、5人の子供と父を支えた、戦後30数年の誇りと、もって生まれたプライドの高さがあった。
そおです、母はプライドが非常に高く、世間ずれした妥協はしない人のようだった。

鮮明な記憶に残っているのが、小学生のときのことだ。
「たつおお・・いっしょにきなさい」と、うす暗くなった時刻に、街中を30分ばかり歩いた。
裸電球の街路灯がボーと照らす路地に入り、格子戸をくぐる。
母は手にしていた袋包を主人に渡す。
それから何かやり取りがあった末
「ここは質屋さんといって、お金を貸してくれるところです。
あなたが大人になっても来てはいけない所です。いいですね!」
主人はよほど決まりが悪かったと見え
「ぼっちゃん、お待ちください。」とおひねりを渡そうとしたが、母は丁重に、しかし、きっぱりと断ってしまった。

母の教訓もむなしく、私の若い頃はいよいよ質草がなくなり、絵の具箱を持ち込んだこともあった。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿