徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「未来を生きる君たちへ」―憎しみを越えたその先へ―

2011-11-08 12:00:00 | 映画


     全く異なる二つの世界を舞台にして、二つの物語が同時に語られる。
     そこには、何ら変わりない人間の本質が映し出される。

     いま世界でも注目されている、デンマーク出身のスサンネ・ビア監督の秀作だ。
      アカデミー賞ゴールデン・グローブ賞の、最優秀外国語映画賞受賞した。
     予期せぬ事態に直面した、登場人物たちの感情、葛藤をリアルに描いている。
     







   
デンマークに家を持つ、スウェーデンの医師アントン(ミカエル・パーシュブラント)は、アフリカの地に赴任し、キャンプに避難している人々の治療にあたっていた。
そんな父親のアントンだけが、心の支えだった息子のエリアス(マークス・リーゴード)は、学校で執拗ないじめに遭っていた。
ある日、エリアスのクラスに、転校生のクリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)がやって来る。
そのクリスチャンによる、いじめっ子への復讐で救われたエリアスは、彼との距離を急速に縮める。

アントンはといえば、自身の離婚問題や、毎日のように搬送される瀕死の重傷患者に苦悩していた。
そんな時、“ビッグマン”と呼ばれる男が大怪我を負って、キャンプに現れる。
彼こそが、子供や妊婦までも切り裂くモンスターだった。
そんな世界と、確執を抱えた家庭との間を行き来する医師アントンであったが・・・。

ビア監督は、登場人物が直面する様々な問題と、世界で生じるグローバルな問題とを浮き彫りにし、それぞれの赦しと復讐、善と悪の狭間で揺れ動く様を、緊張感をもって描く。
原題には「復讐」という意味があり、それは、しかしやがて鮮やかな赦しへと反転していく。
憎しみを越え、その先に見えてくるのは、どんな世界か。

このデンマーク・スウェーデン合作映画「未来を生きる君たちへ(公式サイト)は、親子と夫婦それぞれの溝が負のスパイラルを生み出していく。
クリスチャンは父親と対峙するのではなく、エリアスを殴った男に怒りを覚える。
マリアン(トリーネ・ディアホルム)が、夫アントンの不貞を赦していれば、状況は変わっていたかもしれない。
しかも、彼女は、息子のエリアスを危険な目に遭わせたクリスチャンに、激しく詰め寄る。

かつて妻を裏切ったアントンも、決してゆるぎない信念を持って行動しているわけではない。
アフリカの避難キャンプで、自分を見失ってしまう弱さも持っている。
だからこそ、アントンはクリスチャンの心情を理解し、その命を救うことができた。
登場人物たちは、赦しと復讐、善と悪、生と死、愛と憎しみ、これらの境界ぎりぎりの線上で、揺れ動いている。
誰もが、懸命に生き、そして苦悩している。

スサンネ・ビア監督は、社会的な問題を取り上げながら、それをあくまでも家族の物語として描き切った。
大人の世界と子供の世界は対等に描かれ、子供の心の内面を掘り下げていく。
エリアスとクリスチャンは、母親の庇護から離れ、精神的に自立していく時期に、身近であるはずの父親との間にわだかまりがあり、自分の声が父親には届いていない。
しかし、そうしたわだかまりも、最期には消えて、クリスチャン父子ははじめて抱擁を交わすのだ。

映画は、難民キャンプに運び込まれた妊婦と、クリスチャンの母親の葬儀という二つの死から幕が上がり、アントンらを乗せた車を追うアフリカの子供たちの映像で終わる。
これから新しい世界を切り開いていくかのように、彼らの笑顔が、未来を見出そうとしていることを暗示する。
90年代に映画界に登場したビア監督は、デンマークとスウェーデンの両方で活躍しているが、女性としてのその研ぎ澄まされた繊細な監視眼は、いつも人間の‘絆’を描きながら、人間の本質に迫ろうとする姿勢を貫いている。


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2 コメント

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死と復讐と・・・ (茶柱)
2011-11-08 22:01:14
そして赦しと・・・。
そこまでの強烈な体験はないので,よく解りませんが・・・。

出来れば許せる人でありたいです。
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憎しみや悲しみを・・・ (Julien)
2011-11-09 17:11:41
越えて、赦しから希望へ。
なかなか描きにくいテーマです。
スサンネ・ビア監督という人は、こういう作品を創らせると、心理描写にしても、独特の細やかな演出はさすがですし、斬新さを感じます。
いくつか作品を観ましたが、いつもそう思います。
そのあたりが、世界的にも高い評価を得ているのではないでしょうか。
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