徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「私の男」―流氷に閉ざされた大地に生きる父と娘の禁断の愛―

2014-06-29 22:15:00 | 映画


 「海炭市叙景」「夏の終わり」などの話題作に続いて、北海道出身の熊切和嘉監督は、この作品でもまた北の町を舞台に選んだ。
 人気女流作家・桜庭一樹直木賞に輝いた同名小説を、熊切監督のコンビで知られる宇治田隆史が巧みに脚本化した。
( 原作は文句なし、作者渾身の力作だ)

 北海道の厳しい冬景色を背景に、孤独な男とその彼に引き取られた娘との禁断の愛を、重厚な見ごたえのある映像で描きだしている。
 いびつな物語かも知れないが、不思議と説得力がある。
 流氷の町で何があったのか。
 脚本、撮影、演出、演技と、多くの要素や技術を巧みに結集させて、原作の味わいを映画独自の濃密なサスペンスの世界に昇華させた。
 この作品は、28日に行われた第36回モスクワ国際映画祭で、最優秀男優賞(浅野忠信)、最優秀作品賞受賞した。しかもW受賞である。
 故新藤兼人監督「生きたい」(99年)以来、15年ぶりの快挙だそうだ。
 日本映画が北の大地を熱くした。


奥尻島を襲った大地震から物語は始まる。

津波で孤児となった10歳の少女、花(山田望叶)は、遠縁を名乗る30手前の男・淳吾(浅野忠信)に引き取られる。
以来、北海道紋別で父と娘(二階堂ふみ)としてひっそりと暮らすうちに、中学生になった花は、淳吾への強い思いを抱くようになった。

海上保安庁で働く淳吾は、独身で留守がちのため周囲は困惑するが、親類の大塩(藤竜也)らに見守られ、生活を続けていた。
・・・流氷が近づく、ある冬のことであった。
二人の家を通りかかった大塩は、看過できない光景を目撃し、花を呼び出して真実を伝える。
しかし、逆上した花は大塩を導くように、流氷の海岸へ向かった・・・。

映像化不可能といわれた桜庭一樹の小説に、熊切監督は果敢に挑戦した。
原作と映画では、時系列を逆に作っている。
原作では時間軸が現在から過去へさかのぼるが、脚本では過去から現在へ再構築される。
流氷きしむ不穏な音と映像に、二人の魂を乗せ、許されない愛の行方を描く。
殺人事件をめぐるミステリーよりも、血を溶け合わせるように寄り添って生きる、花と淳吾の運命を見つめることに演出の主眼が置かれる。
少女が25歳になるまでの、16年間の軌跡を綴った物語である。

熊切監督は、時の経過を映像で見せるため、山田望叶が演じる幼少期を19ミリで、二階堂ふみの演じる少女時代を35ミリフィルムで撮影した。
紋別で事件が起き、花と淳吾が東京へ逃れてからは、デジタルで撮影した。
これが効果的だったのは、16ミリの暗くざらついた湿気のある画面が、少女と男のただならぬ運命を予感させ、35ミリは紋別の冬の大自然をスケール豊かにとらえたからだ。
その情景の中で、禁じられた二人の愛も、孤独な魂の寄り添う幸福感をも映し出すのだ。
だがその愛は、ドラマの舞台が東京へ移ると、異様で猟奇的なものへと変質する。
そこでは、今度はデジタルのクリアな映像が、とくにヒロインの美しさを際立たせるといった具合だ。
愛に対してひるむことのない花を演じた二階堂ふみの存在感も凄まじく、
とりわけ、幕切れに見せる彼女の逞しい美しさは、落ちる淳吾と変身する花の対比を見せて、秀逸である。

二階堂ふみは、極寒の流氷の海に飛び込むシーンをはじめ、中学生から社会人までの多感な時期も体当たりで演じ、一方浅野忠信は葛藤のなかで、少女との愛にとらわれて自分を失っていく主人公を、寡黙ながら鬼気迫る迫力で演じきった。
物語を先取りするフラッシュ・フォワードという手法が使われ、物語に膨らみを与え、映像にも奥行と深さが工夫されるなど、演出も凝っている。
しかし、流氷の海で起きた殺人事件など、どういう捜査が行われたのか、犯人はどういう風にその網をかいくぐったのかなど、疑問点はいくつもあるが・・・。

熊切和嘉
監督「私の男」は、実際に流氷に覆われた真冬のオホーツク海でロケを行うなど、原作の持つ厳しさにこだわりを見せる。
流氷の白い冷たさが、作品全体を支配しているようで、感覚に訴える、新しいタイプの映画作りを目指した稀有な作品だ。
田舎町の匂い、男と女の匂いが画面から立ち上ってくるようで、突き刺さるようなリアリティを感じさせ、それが新鮮な驚きでもある。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
へええ (茶柱)
2014-06-30 23:11:58
これはまた色々と。
桜庭一樹では[Gosick]を読んだことはあるのですが・・・。
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モスクワ国際映画祭で・・・ (Julien)
2014-07-04 09:12:25
最優秀作品賞と最優秀男優賞とは!
W受賞ですものね。
まさかと思っていましたので、正直日本人としてはうれしいですね。
映画もよく撮れていましたし、受賞はわかりますね。
しかし受賞が決まったら、上映館に一気に観客が押し寄せたようで、満席で次の回まで待つ人でごったがえしていました。
映画ファンもげんきんなものですね。
いや、いや。(笑)
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