人間の潜在意識をめぐるサスペンスだ。
クリストファー・ノーラン監督のアメリカ映画で、常識を根底から覆すような、SFを縦横に駆使した超大作だ。
現実から夢へ、さらに夢から夢へ・・・、と思うのもつかの間、一瞬の現実があるかと思うと続いてまた夢の世界へ、その夢も二重三重の多層構造となっていて、解りにくい。
解りにくいが、現在と過去が交錯し、物語の中にまた物語があるのだが、よく整理すれば理解できないものではない。
ただ、物語はスケールが大きく、荒唐無稽である。
その荒唐無稽も、あまりにもリアルさがあって、映画がここまでやるかという面白さは否定しない
自分ではない、他人の頭の中に侵入して、アイデアを盗み出すというプロ集団がいて、このグループのリーダーが、コブ(レオナルド・ディカプリオ)と呼ばれる男だ。
そのコブの前に、突然サイトー(渡辺謙)と名乗る男が現れ、ライバル企業の御曹司ロバート(キリアン・マーフィー)にアイディアを植えつける、「インセプション」という困難なミッションを依頼するのだ。
コブは、そこで最高のメンバーを集める。
必要なのは、ターゲットが現実だと信じる精密な世界を、夢の中に創り上げる「設計士」だ。
かつて、コブ自身が天才的な設計士だったが、妻のモル(マリオン・コティヤール)が死んでから、その才能を封印していた。
そこには、モルとの間に、誰にも言えないある秘密があったのだ。
コブは、義父マイルズ(マイケル・ケイン)に、教え子のアリアドネ(エレン・ペイジ)を紹介され、彼女を「設計士」に採用する。
さらに、夢の中で様々な人間に姿を変えてターゲットを騙す「偽造師」イームス(トム・ハーディ)や、夢の世界を安定させる深い眠りをもたらす「調合師」ユスフ(ディリープ・ラオ)らまで選ぶ。
メンバーが揃うと、結果を見定めるサイトーを加えた6人が、ロバートの頭の中に入ることになる。
彼らは、ロバートが乗る飛行機を密かに買取り、彼を薬で眠らせ、潜在意識に侵入する。
だが、彼らは武装した男たちに襲われる。
強い薬のせいで、目覚めることもできない彼らを待ち受けていたものは、まだ人類の誰もが見たことのない世界であった・・・。
クリストファー・ノーラン監督のアメリカ映画「インセプション」では、辺りの風景が突然屈曲したり、無重力化する。
夢の構造は三層にも四層にも重なり、非現実の世界がめまぐるしく展開する。
他人の頭の中に侵入するという発想は、ノーラン監督自身がかなり前からあたためていたらしい。
この監督の頭の中は、一体どうなっているのかと思わせる。
どうやら、クリストファー・ノーランという人は、とてつもない才能を持つフィルムメーカーのようだ。
夢と現実の境はどこなのか。
一瞬考えたときには、もう場面が変わっている。
正常な神経ではついてゆけない。
劇中には、幻想的なシークエンスがいくつもあって、凝りに凝った映像表現が観るものをあきさせない。
CGの使用は最小限にとどめていて、可能な限り、実際に撮影したということだ。
リアリティにこだわるノーラン監督は、世界の四大陸をまたにかけ、6カ国で主要な撮影の大部分のロケを行ったそうだ。
虚構の世界を作る際でも、常に現実を下敷きにしているのがわかる。
列車が大都会の町中を暴走する場面があるが、これもCGではなく、何と線路のない公道で本当に列車を走らせたというから、もう驚きである。
凄い映画が登場したものだ。
とにかく、驚愕の映像マジックに翻弄されっぱなしだが、主人公コブには過去に家族をめぐる苦悩が内在するあたりに、この作品の主軸があるようだ。
まあ、個人的な好みは別として、この映画を鑑賞した。
興奮の2時間半、連日の猛暑を吹き飛ばすような作品のスケールに、さて、度肝を抜くような、エキサイティングのお味はいかがなものですか。
あらすじから80年代サイバーパンクのようなものをイメージしていたのですが、どちらかというとこちらのほうが近いみたいですね。。。
映画も観たことがありませんので、何とも・・・。
そういう思想(哲学)に近い部分があるのかもしれません。
資本主義の社会で、通常は目にすることのない、形のないもの(アイデアとか)をめぐる、‘映像’作家の知性とでもいいますか。
ノーラン監督は、もともと英文学が専攻だったそうで、今回の脚本も彼の完全なオリジナルなんですね。