徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「孤独のススメ」―とぼけた可笑しみの中でひょんなことから人生をやり直した男の物語―

2016-05-10 16:30:00 | 映画


 孤独と友情、そして人間解放を描く笑いと涙の物語だ。
 人間、心のままに生きることの何と難しいことか。
 でも、大切なものを失い続けるとしたら、そんな人生ほどわびしいものはない。

 正しいと信ずる生き方に執着するあまり、自分を失いかけた男が、名前さえも持たない男から幸せを学ぶことが出来るものだろうか。
 オランダ新生ディーデリク・エビンゲ監督の初監督作品だ。
 人生の素晴らしさと家族の大切さを伝えてくれる、オランダ流の人生のやり方がこのドラマで綴られる。
 自分らしく生きるヒントが、自由の国オランダから届いた。
 オランダ映画とは、これまた大変珍しい。








オランダの美しい村に暮らすフレッド(トン・カス)は、最愛の妻を亡くし、天使の歌声を持つ息子とは長いこと音信不通となっていた。
フレッドは周囲との付き合いも嫌って、毎週日曜日の礼拝以外は、単調な日々をひっそりと暮らしていた。
そんなフレッドのもとに、ある日、言葉を持たない奇妙な男テオ(ルネ・ファント・ホフ)が迷い込み、フレッドが慈悲の心から、食事を与え、家に泊めてあげたことから、男二人の奇妙な共同生活が始まった。
キリスト教の厳格な教義が支配する村で、村人たちは二人の共同生活を好奇の目で見守っていた。
ところが、村人との間に起きた衝突がきっかけで、ルールに縛られていた、フレッドの単調で振り子のような生活がざわめき始める。
そして、そのことと呼応するように、フレッドとテオは親子のような絆で結ばれていく・・・。


このドラマに登場する男性は、正反対の性格を持つ二人だ。
そんな二人が不思議な縁で結ばれていく。
じわじわと、どこか可笑しみが深まる光景の連続に、ストーリーテリングの妙が感じられる。
そして、フレッドのおのれの人生に対する“こだわり”がゆっくりと解かれていく。
孤独とは孤毒ではない。

人はひとりで生まれてきて、ひとりで死んでいく。
そう、きっと一人で・・・。
生きている時ぐらい誰かと居てもいい。
人は、孤独そのものを辛いと感じる時がある。
冒頭のフレッドのわびしい生活は孤独に映るが、そんな孤独を恐れる必要はない。
孤独というものを、しばしば否定的にとらえることがあるけれど、孤独の時間を持つまで、ひとり時間という、初めて、自分が自分と向き合うことができる時間のあることを、教えてくれる。
現実の社会に横たわる、様々なしがらみの中で、ともすれば自分を見失っている自分に気づくことがある。

定刻に起き、定刻通りに食事を済ませる。
規則正しいといえばそれまでだが、実に味気ない生活だ。
肉体的に生きていても、心は死んだ状態になっている。
妻に交通事故で先立たれ、息子に家出されたフレッドの人生の時間は、そこで止まってしまっている。
人には、自分たちを取り巻いている‘しがらみ’を手放して、‘ひとり’になり、自分と向き合う時間が必要なのではないか。
孤独の力とは、ひとりになり、しがらみを手放すことで、本当に大切なものが見えてくるということだ。
孤独というものを、決して否定的にとらえることはない。
孤独とは、そんなにさみしいものではない。
ディーデリク・エビンゲ監督オランダ映画「孤独のススメ」は、自己の開放を描いた、一種の清涼剤のような小品だ。
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本映画「無伴奏」を取り上げます。


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2 コメント

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孤独 (茶柱)
2016-05-10 23:00:13
私なんかは差し詰め「仕事できているうちが華」でしょうか。
ね。
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華というのであれば・・・ (Julien)
2016-05-14 12:39:15
やはり生きてこそでしょう。
生きているからこその華でありたいものです。
ところがどっこい、そうは問屋が許さないもの、それが人生です。
華ある人生ねえ・・・。
人間死ぬときはみな孤独です。
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