ドイツ歴史ミステリー映画の力作である。
フィリップ・カーデルバッハ監督は、ヒトラーの第三帝国が戦争へと突き進んでいた時代を背景に、“空のタイタニック号”とも呼べる、豪華飛行船の最後のフライトを、緊迫感一杯に映画化した。
ヒンデンブルグ号は、1936年に運航を開始した、ドイツの旅客輸送用の巨大硬式飛行船だ。
就航期間は14カ月だったが、ドイツ国家の象徴として、世界へ知らしめる役割を担っていた。
そのヒンデンベルグ号は、アメリカ・ニュージャージー州マンチェスターで、着陸寸前に火災が発生、瞬時に爆発炎上し、97人の乗員乗客のうち35人が死亡するという大惨事となった。
この作品は、そうした史実を巧みに生かした、大規模な冒険・サスペンス映画で、ドラマのスリリングな展開と壮絶なアクションに、ラストまではらはらさせられる。
1937年、ヒンデンベルグ号の設計技師マーテン(マクシミリアン・ジモニシェック)は、母とドイツを訪れていたアメリカ人実業家エドワード・ヴァンサント(ステイシー・キーチ)の娘ジェニファー(ローレン・リー・スミス)と、グライダー処女飛行事故をきっかけに、恋に落ちる。
しかし、ジェニファーには既に許婚のフリッツ(アンドレアス・ピーチュマン)がいた。
領事館でのパーティーの当日、ジェニファーと母ヘレン(グレタ・スカッキ)は、父の病の報を受ける。
二人は、急遽ヒンデンブルグ号で、アメリカに帰国することになった。
飛行当日、マーテンはヒンデンブルグ号に“爆弾”が仕掛けられていることを知り、ヴァンサント母娘の乗船を阻もうとするが、何故かフリッツに邪魔をされ、格闘の末フリッツを殺してしまう。
マーテンはそれでも、離陸寸前のヒンデンブルグ号に乗り込む。
しかい、フリッツ殺害容疑で指名手配を受け、船内に専横くしていることも地上から通報され、追われる身に・・・。
マーテンは追われながらも、船内に潜んで爆弾を探すうち、とてつもない陰謀に気づくのだった。
高いハードルを超える、ドイツ人男性とアメリカ人女性という若い二人のラブストーリーが絡んで、飛行船に乗り合わせた人々の、様々な思惑や葛藤が交錯する人間ドラマだ。
ヒンデンブルグ号の爆発事故そのものについては、今日なお全容は解明されていない。
映画は、この点に着目した。
戦争に関係するナチの陰謀、破壊活動、ユダヤ人の亡命なども絡めて、ストーリーは構成されている。
この飛行船の事故によって、飛行船自体の安全性が問われ、以後巨大飛行船の製造は行われなくなった。
キャスティングを見ても、日本ではほとんどなじみがないが、近来稀に見るドイツ映画としては大作の方だ。
豪華客船と遜色ないヒンデンブルグ号だが、こんな巨大な飛行船が大西洋を横断していたのは、もう遠い過去のことになってしまったのか。
順風満帆かと思われていたヒンデンブルグ号に、とんでもない災禍が待ちかまえていたとは・・・。
世界に飛行船時代が到来しなかったのは、それもそうだろう、この巨大飛行船の爆発事故のせいと見られている。
それが、このドイツ映画「ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀」の主題だ。
衝撃的なラストシーンの前、マーテンは、船体の外側に設置された爆弾をついに発見し、解除する。
が、万全を期して、爆発予定時刻以前に、飛行船を着陸させようと操縦したものの、船体は崩壊寸前となり、ガス嚢も敗れ、帯電を示す“セントエルモの火”にマーテンが気付いた直後、着陸態勢にあった飛行船は一気に爆発炎上した。
マーテンとジェニファーは間一髪で脱出したが、ヘレンら多くの人が命を落とした・・・。(時にはネタバレも許されるだろう)
さすが、迫力満点である!
ドラマ全体としてみると、作り物っぽい感じがないわけではないが、なかなかお目にかかれない、巨大飛行船の謎に迫るミステリアスな作品だ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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その悲劇性から,こういう映画も作られたりするのですね。
当時の硬式水素型から,現在では軟式ヘリウム型になっていて,安全性も飛躍的に高まっているとか。
Julienさんは,現代の飛行船なら豪華遊覧飛行とかにご興味ありますか?
愛称「ヒンデンブルグ号」、日本にも来ているのですか。
現代の飛行船が安全性が高いなら、遊覧飛行なんていいでしょうね。
飛行船に限らず、風船や気球でも・・・。
乗ってみたいものです。