大人になりきれない親が、幼い子供を上手く育てられないという、今日的なテーマを扱った作品だ。
貧しいシングルマザーは、2人の子供を放置して遊び歩いている。
それでも、子供たちは母を求め続ける。
しかし、ただの母親探しの物語ではない。
重く切ないテーマを切り取って、それは間違いなく未来への希望を志向する。
エドワード・ベルガー監督は、10歳と6歳の兄弟が母を捜す3日間の旅を綴った。
名匠ダルデンヌ兄弟やケン・ローチの傑作と並び称される、注目の才能がここにある。
ドイツ・ベルリン・・・。
10歳のジャック(イヴォ・ピッツカー)は、今日も朝から大忙しだ。
6歳になる弟のマヌエル(ゲオルグ・アームズ)に朝食を食べさせると、洗濯物を取り込み、もう学校へ行く時間だ。
まだ若いシングルマザーのザナ(ルイーズ・ヘイヤー)は、子育てより恋人との時間や夜遊びを優先していた。
そんな母親の代わりに、ジャックが家事と弟の面倒を一手に引き受けているのだ。
だが、ジャックもまだ子供だ。
あるとき、風呂の湯の温度を調節するのを忘れて、マヌエルに火傷を負わせてしまう。
このことをきっかけに、ジャックは養護施設に預けられることになる。
入所まもなく、乱暴な上級生のいじめを受けたり、迎えに来るはずの母は夏休みになってもジャックを放りっぱなしで、姿を見せない。
友達もできず、施設にも馴染めないジャックは、施設を飛び出す。
夜通し歩き続けて家に着くが、母ザナは不在でカギもない。
携帯電話は留守番メッセージばかりで、ジャックは母に伝言を残して、一時預かり先まで弟のマヌエルを迎えに行く。
仕事場、ナイトクラブ、昔の恋人の事務所まで、母を捜してベルリン中を駆けまわる兄弟だった。
小さな肩を寄せ合って、ひたすら母の腕の中に帰ることを願って・・・。
お金もない。食べ物もない。母は不在でカギもない。靴ひもも上手く結べない。
頼りになる大人もいない。
幼い二人に次々にトラブルが襲いかかるのだが、勇気と知恵をふりしぼって、次第に逞しくなっていくジャック・・・。
カメラは緊迫感をもって、少年ジャックの目線でジャックの感情に寄り添い、行動を追い続ける。
母親は子供たちに愛情を抱いてはいるが、男と遊びまわることの方が忙しい。
どうしようもない女だ。
子供たちは、怒りと悲しみを必死でこらえている。
けれど、ママには会いたい。会いたくてたまらない。
そんな心情を演じる、イヴォ・ピッツカーの表情から目が離せないし、弟を演じるゲオルグ・アームズのあどけない純真さがとても愛しく、二人してママを捜し続ける姿がいじらしい。
このドラマに不必要な説明は、ほとんどない。
オーディションで選ばれた兄を演じる少年の表情が、全てを物語っている。
さまよえる幼い兄弟の足取りを、現在進行形で追いかけていく。
母親には、自分の子供がそれほど必死に家庭を求めているかがわからない。
子供たちが不憫だ。
子供たちがある決断をするラストシーンを観終わって、まさに子供たちが大人になるしかないことに気づかされる。
素人同然の少年に存在感がある。
ドイツ映画「ぼくらの家路」は、社会派のヒューマンドラマだ。
少年の冒険と成長を描いた、感動的な一作である。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はフランス映画の大作「愛と哀しみのボレロ」を取り上げます。
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これだけグローバル化している現代なのですから、いたずらに「欧米では」などと考えないことも大事ですね。
家庭の問題、学校の問題、親子、家族、友人と、世界共通のテーマは、いつでも映画作品として一番身近なことだからでしょうか。