イタリアの新鋭監督アリーチェ・ロルヴァケル監督による、2作目の長編映画だ。
ロルヴァケル監督自身の故郷トスカーナ地方を舞台に綴る、養蜂業を営む家族が過ごしたあるひと夏の物語だ。
少女のひと夏の成長と家族の葛藤を描いた、半自叙伝的な作品で、2014年カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに次ぐグランプリに輝いた。
アリーチェ・ロルヴァケル監督は1981年生まれの33歳で、みずみずしく卓越した才能が高く評価され、新世代を代表する存在となった。
近頃、国内外を問わず、こうした女性監督の映画界での活躍にめざましいものがある。
この映画は長女ジェルソミーナの視点で、彼女の成長とともに綴られるノスタルジック豊饒な映像日記である。
光、風、草木の緑といった絵画的な美しさの中で、現代の空気を吸収する、新たな才能を見る思いがする。
イタリア中部、トスカーナ州の人里離れた土地・・・。
この地に、昔からの手法で養蜂を営む一家がいた。
ドイツ人の頑固な父ヴォルフガング(サム・ルーウィック)とイタリア人の母親アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)、思春期の長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)ら娘4人と、同居人がおり、父親以外はみんな女性だ。
4人姉妹の長女ジェルソミーナは、自然との共存を目指す父ヴォルフガングの独自の教育と寵愛を受け、いまや父よりもミツバチに精通していた。
家族は自然のリズムの中で、生活を営んできたが・・・。
ある日、テレビ番組のクルーがこの地を訪れ、ここに根付くエトルリア文化を紹介したいという。
ジェルソミーナは、古代の女神のような司会者ミリー・カテナ(モニカ・ベルッチ)に魅せられ、番組への出演をもくろむ。
一方、父親は犯罪少年の更生事業に賛同し、窃盗と放火で捕まった14歳のドイツ少年マルティン(ルイス・ウィルカ・ログローニョ)を預かり、家の仕事を手伝わせる。
テレビ番組の行なわれた日、その少年が失踪する。
そして、一家にさざ波が立ち始める・・・。
都市文明に背を向けて生きる一家の物語だ。
自然のままに生きる彼らが、現代社会に追いつめられていく姿が描かれる。
繊細で生々しいまでのイタリアの自然が、画面に定着していて心地よい。
マルティンは口笛で小鳥のように美しい声で歌い、一家は屋外のベッドで眠り、洞窟の奥で遊ぶジェルソミーナとマルティンの影・・・。
作品には、監督とその姉の子供時代が投影されていて、ありのままの自然の風景に、幻想的な光景が多用され、物語そのものよりも様々な瞬間の映像が観る者の心を打つ。
記憶に寄り添って、大事に大事に作られた映画のようだ。
一家は世の中からかけ離れたように、養蜂の仕事に携わっている。
その家についてはほとんど説明がない。
大人たちはどうやら地元出身ではないらしく、夫婦の過去も語られない。
居候らしき女性ココ(ザビーネ・ティモテオ)の素性もわからない。
物語はいくつもエピソードをつなぎ、蛇行しながら進んでいく。
どこか頼りないと言えば頼りないのだが、これもまたたゆたうような世界というのだろうか。
詩的な、ときには幻想的な映像と、複雑な登場人物の人物像、それらの陰影といい、一家のあり方といい、豊かな美しさの中に混沌としている。
行方不明となったマルティンを捜す、ジェルソミーナの一夜の冒険から宴会の終幕まで、釈然としないシーンも多いが見心地は悪くない。
イタリア映画「夏をゆく人々」は、現実と幻想、自然と不自然と・・・、ミツバチと交感する少女、一家のペットとして突然現れたラクダ、石器時代の壁画が動き出しそうな洞窟など、古代的な感覚を呼び覚まそうとする設定も珍しい。
ジェルソミーナというヒロイン名は、フェリーニの名作「道」で、ジュリエッタ・マシーナが演じた永遠の聖なる道化そのものだといわれ、巨匠フェリーニを髣髴とさせるものだ。
現実と幻想の狭間に、風のように去っていく家族と少年・・・、少女の頃(監督自身の投影)に感じた主人公の胸騒ぎや淡い想いが、夏の日の思い出の中に収められている長編の抒情詩であり、意外性に富んだ不思議な映画である。
夢を見ているような、奇妙なぬくもりに満ちて・・・。
ロルヴァケル監督の、かくも大胆にして繊細な感性に脱帽だ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はドイツ映画「ぼくらの家路」を取り上げます。
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