社会現象にもなった実際の事件をもとに描かれる、衝撃的な作品だ。
弱冠27歳の新人ライアン・クーグラー監督の、初長編映画である。
生きる希望に満ちたひとりの青年が、虫けらのように殺害されたという事実は、当時全米を揺るがした。
この作品に込められた、深いメッセージは何だろうか。
人間の命の尊厳が、とても重いはずなのに、こんなにも軽々しく扱われて・・・。
2009年元旦・・・。
新しい年を迎え、歓喜に沸く人々でごった返すサンフランシスコ「フルートベール駅」のホームで、22歳の黒人青年オスカー・グラント(マイケル・B・ジョ-ダン)は、鉄道警察官に銃で撃たれて死亡した。
彼は前科者だったが、心優しい青年で、恋人ソフィーナ(メロニー・ディアス)との間に愛娘タチアナ(アリアナ・ニール)がいた。
オスカーは、大晦日が誕生日の母親ワンダ(オクタヴィア・スペンサー)に祝福の言葉をかけ、よき息子、よき夫、よき父として、前向きに人生をやり直そうとしていた。
出所したての彼は無職だった。
そのオスカーが、ソフィーナと新年を祝いに、仲間たちとサンフランシスコへ花火を見に行こうとする電車内で喧嘩を売られる。
彼の仲間たちまで巻き込み、乱闘となったところへ鉄道警察が出動し、オスカーはフルートベール駅のホームに引きずり出されてしまった。
そして・・・、事件は起こった。
銃を持たない丸腰の青年が、何故悲惨な死を迎えることになったのか。
あってはならないことが、現実に起こったのだ。
全米で抗議集会が行われるなど、大きな波紋を巻き起こしたこの事件をもとに、この映画は作られた。
彼が事件に巻き込まれる前の、「人生最後の日」を描くことで、ニュースなどで報じられた人種差別という一面性ではなく、ひとりの人間の非業の死が、どんなに悲しく、どれほど周囲の人々を傷つけるものであるか、そしてただひとりの人間の命が、いかに重いものであるかを問いかけてくる作品だ。
ライアン・クーグラー監督は、まさかの事件が起きるまでの、オスカーの日常と心情をきめ細かく追っている。
生きの良い風俗描写も取り入れて、好感が持てる。
「それでも夜は明ける」に続いて、この作品もそうだが、映像の力強さを前面に出した黒人監督の作品がこのところ目につく。
アメリカ映画「フルートベール駅で」は、2009年元旦、名もない一青年の非業の死を描いた小品だけれど、リアリティもあり、十分見ごたえを感じる。
クーグラー監督の若き才能に、当然次作の期待もかかる一作だ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)