徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「それでも夜は明ける」―アメリカ社会の歴史的恥部を生々しく―

2014-03-23 17:35:00 | 映画


 今年のアカデミー賞最優秀作品賞、脚色賞受賞作である。
 イギリス出身の鬼才スティーヴ・マックウィーン監督は、この作品で、アメリカの黒人奴隷制度と正面から対峙した。
 主題の残酷さ、重さが強調され、映画のスタイルも斬新だ。
民主国家アメリカの恥部ともいわれる奴隷制度を、ここまで苦渋に満ちて描いた作品は少ないのではないか。

 人間の尊厳さをも、醜悪に踏みにじる愚行が繰り広げられる。
 正義はどこにあるのか。
 怒りを感じさせる映画だ。
 冷厳な現実を前にして、同じ人間同士でありながら、支配する者と支配される者がいる。
 虐待も隷属も、そしてここに描かれる狂気も、決して過去のことではなく、現代人の胸に突き刺さる・・・。





南北戦争の20年前、生まれながらにして自由黒人で、妻子と幸せに暮らしていたバイオリン奏者ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は、ワシントンでの公演後に拉致され、ルジアナ州の農園主フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)のもとに売られてしまう。

ソロモンは、有能さゆえに、白人使用人の嫉妬と反感を買う。
フォードは優しい男だったが、トラブルを嫌って彼を厄介扱いする。

ソロモンが転売された先の農場は、さらなる地獄だった。
ソロモンは、狂信的な人種差別主義者、エップス(マイケル・ファスベンダー)の暴力に虐げられ続ける。
仲間の若い女奴隷パッツイー(ルピタ・ニョンゴ)は、エップスに残忍に弄ばれる始末で、それらを目の当たりにしたソロモンは、人間としての尊厳を失わず、家族のところに戻れるチャンスをじっと待ち続けるのだった・・・。

アメリカに、かつて存在した奴隷制度の非人間性を、真っ向から見すえた問題作だ。
娯楽作品がもてはやされるハリウッドだから、社会問題に取り組む映画は少なくなっている。
黒人初の作品賞受賞となったこの作品では、奴隷たちへの非人道的な行為が描き出されるが、そうした光景を素知らぬ顔をして通り過ぎる人々の、当たり前の無表情にはぞっとさせられる。
それほど冷徹に、マックウィーン監督は、衝撃的な場面を観客の脳裏に焼き付けてくるのだ。

のどかで美しい自然の広がる環境と、主人公の明日さえわからぬ過酷な日常と・・・、容赦なく見せつけてくる情景は、息苦しく、重々しい。
何とも陰惨で、厳しい映画だ。
自由民として暮らしていたソロモン・ノーサップの、12年間の奴隷生活の実話をもとに描かれる作品だ。
アメリカ映画「それでも夜は開ける」では、女奴隷パッツイー役のルピタ・ニョンゴも、見事助演女優賞に輝いた。
・・・しかし、この作品を観て思うことがある。
奴隷制のみならず、世界には大きな不公正や、馬鹿げたことだが南アフリカのアパルトヘイトのように、どこの国にも人種差別は今でも起きているのだ。
そうだ、今でも・・・。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点