徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「おじいちゃんの里帰り」―ドイツで暮らすトルコ系一家の笑いと涙の奮戦記―

2014-03-01 20:00:00 | 映画


あるいは、家族の未来へと続く、新しい旅への始まりの物語とでもいおうか。
ドイツから故郷トルコへのはるか3000キロ・・・、異文化の中で生きる親、子、孫の三代が、この現代的なテーマを細やかに綴っていく。
女性監督ヤセミン・サムデレリが、実妹ネスリンとともに、実体験をもとに50回も脚本を書きなおして完成させた作品だ。

文化の違いに戸惑う人たちの姿が、ときに回想シーンを交ぜながらユーモラスに描かれる。
ドイツでは7ヵ月間のロングランヒットとなり、150万人の観客を動員したというのもうなずける。
ちょっと素敵な、楽しいドイツ映画だ。










 
ドイツでがむしゃらに働き続けて50年になる。

イルマズ家の主人フセイン(ヴェダット・エリンチン)も、今や70代だ。
孫もいる大家族の、おじいちゃんになっていた。
一見平凡に見える家族だが、それぞれが悩みを抱えていた。

まだ大学生の孫娘チャナンは、内緒で付き合っているイギリス人の恋人との間に子供ができて、誰にも話せず混乱の真っただ中で、孫息子で6歳のチェンク(ラファエル・コスリース)は、父がトルコ人で母はドイツ人、自分はいったいどこの国の人なのかと、アイデンティティの悩みに直面している。
また、息子のヴェリとモハメドは兄弟なのに、大人になった今でも相変わらず仲が悪い。
そんなある日おじいちゃんが、突然、故郷のトルコの村へみんなで行こうと言い出したのだ・・・。

ドイツ映画「おじいちゃんの里帰り」は、孫を含めた一家総出演で、それぞれのエピソードを散りばめ、家族の抱える悩みを軽やかに描き出している。
それも、結構手際の良いまとめ方で、胸がきゅんとなったり、おかしくて笑いが止まらなかったりと、トルコとドイツという異文化の中で生きる家族を、くすぐったいような演出で綴っていく。
好感のもてる、楽しいヒューマンドラマだ。

異文化における難しさは、家族や文化といった大きなテーマもあるが、ちょっとした見方や考え方の違いであって、そういうことが相手を傷つけることもある。
日常どこにでも潜んでいて、何気なく口にした当人はいささかも気づいていない。
21世紀は明らかに、国籍や人種や宗教が昔語りになるような時代なのだろう。

戦後ドイツは、数多くの外国人労働者を受け入れてきた。
当初は、単身で出稼ぎ労働にやって来た外国人たちが、滞在が長期化すると家族を呼び寄せドイツに定住するようだ。
いまのドイツ映画は、こうした移民や外国人の活躍なくしては語ることができないし、ひとつの国の映画が実は国境を越えて、グローバルな映画世界へとつながっていると見てよさそうだ。

ドイツからトルコへ、一家を引き連れて里帰りするおじいちゃんの話はそれだけでも面白いが、主人子フセインがはじめドイツの家族を迎えてから、子供たちが異文化にぶつかっていく様子も愉快だ。
それぞれが、国の違いや意味の取り違えが終始笑わせるではないか。
3世代10人の大家族は、おんぼろバスでトルコを目指すことになるのだが、このおじいちゃんにとっての半世紀ぶりの里帰りが醸し出す、ヒューマンドラマの味わいが結構いける。
まあ、登場する当人たちはみんな大真面目なのだが、それだけに時代遅れのドタバタ劇に映るかもしれないが、そこはお許し願うしかあるまい。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)