戦国の時代、大きなうねりに巻き込まれてゆく、名もなき勇猛果敢な男たちがいた。
そして、輝きを放ちつつその時代をたくましく生きる女たちがいた。
バレリア・サルミエント監督が、2011年にこの世を去った、「ミステリーズ 運命のリスボン」の名匠ラウル・ルイス監督最後のプロジェクトを完成させた大作だ。
19世紀のナポレオン戦争を背景に、イギリス・ポルトガル連合軍がナポレオンを破った歴史絵巻を描いた。
皇帝ナポレオンの永遠のライバルとまで言われた、知将ウェリントン(ジョン・マルコヴィッチ)の知られざる戦いに見どころがある。
1810年、2度の侵攻失敗ののち、ナポレオン皇帝はマッセナ元帥(メルヴィル・プポー)にポルトガル征服を命じる。
フランス軍は難なくポルトガルの侵攻に成功したかに見えたが、それはウェリントン将軍の仕掛けた罠であった。
ウェリントンの戦略により、イギリス軍は見事フランス軍を追い払うことに成功した。
だが、勝利を収めたにもかかわらず、イギリス軍はウェリントンが建設した要塞トレス線へ、いまだ数的に圧倒的有利なフランス軍を誘い込むため、南部山地への戦略的撤退を試みるが・・・。
フランス軍のポルトガル征服とその侵略を食い止める、イギリス・ポルトガル連合軍とのブサコ作戦の知られざる攻防である。
敵兵の迫害から必死に逃れる者、貧しくも歯を食いしばり生き延びようとする者、私利私欲のために混乱に乗じる者たちを同線上で描き、兵士と民衆の生きることに貪欲な姿を、分け隔てなく丁寧にしかも劇的に描き上げている。
さらに、登場する強く美しい女性たちは、動乱の時代を生き延びるために、ある者は娼婦や追いはぎで日銭を稼ぎ、裕福な男性との結婚を選び、ある者は男装して戦火に飛び込む。
ここでは、女性監督バレリア・サルミエントの手によって、戦時下における女性たちの苦しみと生命力がいっそう生き生きと活写されている。
イギリスとポルトガルは、政治的、経済的にきわめて強いつながりを持って、同盟関係を結んでいた。
1807年、まだフランスの支配下にはなかったポルトガルに対して、ナポレオンはイギリスとの関係を断つように迫ったが、ポルトガルはそれを拒み、フランス軍の侵攻と英ポ軍の抗戦は始まった。
その戦争での重要局面が、この映画に集約されている。
フランス・ポルトガル合作映画「皇帝と公爵」は、当時戦時下のヨーロッパの複雑な状況を考えると、大変興味深い作品といえる。
出演はほかに、、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペールらそうそうたる名優が集結し、彼らのアンサンブルによる歴史時代絵巻が楽しめる。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)