徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「孤島の王」―自由を渇望する少年たちの痛切な魂の叫び―

2012-05-15 13:00:00 | 映画


 北欧発の小品ながら、なかなか見応えのある一作だ。
 ノ ルウェー本国でもあまり知られていない、歴史の一部を切り取ったドラマだ。
 実話をもとにしているが、それほど遠い昔の話ではない。
 ほとんどの人は知る由もない、不条理な現実が描かれる。
 はっきり言って、暗く痛ましい、衝撃のドラマに胸を締めつけられる。

 ノルウェーの首都オスロの南方に浮かぶ、バストイ島が舞台だ。
 この島には、かつて11歳から18歳の少年向けの矯正施設が存在し、1915年には軍隊が鎮圧に乗り出すほどの、壮大な反乱事件が勃発した。
 マリウス・ホルスト監督は、その歴史の闇に光をあて、圧倒的なリアリティと、静謐な映像美で、想像を絶する重い真実を炙り出している。



     
1915年、ノルウェーのバストイ島にエーリング(ベンヤミン・ヘールスター)という非行少年が送還されてくる。

そこで、彼が目の当たりにしたのは、外界と隔絶した矯正施設の、あまりにも理不尽な現実だった。
島では、厳格な院長(ステラン・スカルスガルド)のもとで、大勢の少年たちが、青い作業着をまとい、過酷な自然環境での労働に従事していた。
そこでのいじめにも似た重労働の刑罰、教育者による性的な虐待は日常茶飯事であった。

偉大なる王のように君臨する院長や、冷酷な寮長ブローテン(クリストッフェル・ヨーネル)に、エーリングはことあるごとに反発を繰り返していた。
エーリングの孤独な抵抗は、施設の優等生オーラヴ(トロン・ニルセン)ら、過剰な抑圧にさらされた少年たちの心を突き動かした。
自由を渇望するエーリングとオーラヴは、ある日、監守の一瞬の隙をついて、監禁室の暗闇から脱出し、彼らの命がけの抵抗は、ついに監獄島(バストイ島)をゆるがすまでの凄まじい反乱へと発展していくのだった。

この世の果てとでもいうべき、過酷な極限状況を生き抜く、少年たちの魂の叫びが凄い。
少年たちの、自由への渇望、友情と葛藤を活写して、その心理描写は繊細でかつみずみずしい。
昼なお日の射さない荒涼とした風景、一方見渡す限り広がる雪景色、真冬の海は結氷し、危険を顧みずにその氷の上を渡って脱走を試みる若者たち・・・。

北欧に実在したドラマには、かくも凄まじい真実が隠されていたのか。
ひたすら自由を求め、希望を抱こうとする少年たちの、澄んだ眼差しや勇気ある決断が胸を打つ。
マリウス・ホルスト監督による、ノルウェー・スウェーデン・フランス・ポーランド合作「孤島の王」は、全篇ノルウェー語で描かれる、極限の孤島サバイバルと脱出のサスペンスは、もう見応え十分である。
院長役の名優ステラン・スカルスガルドは、「ドラゴン・タトゥ―の女」で知られるが、それ以外は少年たちをはじめほとんどが、無名のスタッフ&キャストによる作品だ。
それでいて、ノルウェー国内外において、数多くの映画賞に輝いたのも、この作品の並々ならぬクオリティを裏付けているようだ。

1915年5月20日に、実際に起こった少年たちの反乱をもとにしており、鎮圧のため150人の兵士が島に上陸したといわれる。
映画で使用された軍艦は、当時使用されたものと同型のものだそうだ。
未来に生きようとする、少年たちの力が反乱につながったのだが、そこにこのドラマの感動的な強さがある。
どんな人間にだって、命の尊厳がある。
観る者の期待に、十分応えうる、力強い物語である。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点