YS Journal アメリカからの雑感

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West Virginia 州の炭鉱事故とアメリカのエネルギー事情

2010-04-21 05:53:48 | アメリカ経済
4月5日に発生した West Virginia 州の炭鉱事故は、死者29人を出す惨事であった。安全対策に問題のあった炭鉱だったようで、昨年からの採掘量の増加で、監督省庁の安全指導も増えており、関係者の中には起こるべきして起きたと感じる人もいるようだ。

しかし、West Virginia の田舎にでは、炭鉱の長い歴史がある上に、これといった産業が無い事もあり、炭鉱で働く事が、それなりの生活を保障する唯一の職なので、事故も生活の一部として受け入れられている感じがある。

炭鉱の経営者は、叩き上げではないがこの地区の出身で、組合が嫌いで、グリーン政策がアメリカを滅ぼすといって憚らない問題人物でもあるようだが、一方で自然災害の折は、自治体への重機を提供したり、いろんな寄付などを行う人でもあるようだ。

アメリカのエネルギー消費量の25%は、現在石炭で賄われており、石炭産出量の5%は、輸出さえされている。石油が主にガソリンとして消費されている事を考えると、アメリカの電力の7割は石炭がになっているのである。埋蔵量は、豊富で石炭抜きには、アメリカのエネルギー政策は考えられないのである。

しかし、アメリカの人々が石炭、ましてや炭鉱、炭鉱夫に付いて考える事は、皆無であろう。話題になるのは、今回のような炭鉱事故の時だけである。

『遠い空の向うに』(October Sky)という、炭鉱の町出身のNASA技術者の実体験を基にした映画がある。内容的には、炭鉱で働く事よりロケット技術者になる夢を実現させるという青春映画なのだが、高校の時から炭鉱夫になる事を運命付けられるような様子がリアルに出てくる。炭鉱があるからこそ成り立つ町、労働争議や対立、事故、しかし、過酷な条件で働く炭坑夫が気持ちよく描かれている。このようなアメリカ(60年代だが、基本的にはそんなに変わっていないと思う)もあるということを知る上でも見て損の無い映画だ。

この映画の原作『Rocket Boys』の著者は、今回の事故を悼みながらも、アメリカの国力を根底で支える人々への変わらぬ尊敬の念を表わしている。

日本は地下資源を輸入に頼っているので、このような現実が段々無くなってきているのは、危機的である。いくら技術的に進化しようと、自然を相手にする労働者という現実が無くなれば、技術も枯れざるを得ないと思う。いつの間にか、日本の労働は、製造業の現実くらいしか無くなってしまった様な気がするが、これもエネルギーを輸入に頼った上での話である事を、認識して置く必要がある。

アメリカで、コンピュターのスイッチを入れる度に石炭の事を思い、亡くなった炭坑夫の事に思いを馳せるのは悪い事ではないと思う。

12月6日は、1906年にやはり West Virginia 州で起きた大規模の炭鉱事故を忘れない為に、Natonal Miners Day (炭坑夫の日)となっているとの事だ。