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カクレマショウ

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『レ・ミゼラブル』覚え書き(その16)

2005-06-26 | └『レ・ミゼラブル』
第二部 コゼット
第三編 死者への約束の履行(岩波文庫第2巻p.35~p.126)#2

「死者」(フォンティーヌ)への約束を果たすため、ついにコゼットと出会うことができたジャン・ヴァルジャン。ここで舞台は数時間さかのぼり、1823年の同じクリスマスの午後のパリに移ります。彼は、「粗末な石黄色の布地(きれじ)のすっかり糸目まですり切れてしまった」フロックコートをまとってオピタル大通りを歩いていました(この黄色のコートは、これからジャンの衣装としてたびたび登場することになります)。その頃、国王ルイ18世は毎日決まって午後2時頃にこの通りを通ることになっていました。果たして、ジャンが歩いていたその日も国王の馬車が通りかかります。そんなことは露ほども知らないジャンは、馬車の護衛兵にうさんくさい目で見られます。ユゴーは、国王と民衆の関係をこんなふうに記しています。

彼は冷然と人民をながめ、人民の方でも冷然と彼を見上げた。彼が初めてサン・マルソーの方面に姿を見せた時、彼の成功といってはただ、その郭外の一人の男が次の言葉を仲間に言ったことばかりだった。「あの大きな男がこんどの政府だよ。」

ナポレオンなきあと、いかにブルボン復古王朝が国民に不人気だったかを示すような部分です。

さて、ジャンは警官の尾行をまくと、馬車に乗り込み、モントルイュ・スュール・メールに向かいます。途中で馬車を降りて、森の中を歩いていくと、小さな少女が水桶を運んでいるのに出会いました。話すうちにそれがまさにコゼットであることがわかり、彼は「電気に打たれたよう」に驚きました。そして、彼女からテナルディエのもとでどんな暮らしをしているかを聞き出します。おもちゃといえば、「鉛の小さな剣を一つ持ってるきり」だということも。

テナルディエの店に着くと、ジャンは一晩泊めてくれるように頼みます。テナルディエはジャンの粗末な身なりを認めると、ふだんの2倍程度に宿賃をふっかけてみることにします。ジャンはそれで承知し、椅子に腰掛け、コゼットの様子を観察し始めます。神に見放されたような8歳の少女の、あまりにも貧相で醜い姿と、陰鬱な悲惨な目つきを。

それから、テナルディエ夫婦にとって、そしてコゼットにとって「いつも」とは違ういくつかの小さな事件がジャンの手によって起こされることになります。

まず第1弾は、パンを買うことになっていた15スー事件。パンを買うことなどすっかり忘れていたコゼット、しかもポケットに入れておいた銀貨を泉に落としてきてしまったコゼット。絶体絶命のピンチ。

「お前はあの15スー銀貨をなくしたのかい。」と上さんは声を荒らげた。「それとも盗むつもりか。」
それとともに彼女は、暖炉の所に下っている鞭の方へ腕を伸ばした。


その時ジャンが、床にころがってきたと言って、「20スー」銀貨をさっと上さんに差し出すのです。

次に、5フランの靴下事件。テナルディエの二人の娘が遊んでいるのを見て、コゼットにも遊ばせるように二人に頼むジャン。彼女の仕事として与えられていた靴下編みをやめさせるためにジャンはなんと5フランも出してその靴下を買い取るのです。あっけにとられたのはテナルディエ夫婦です。この男はいったい何者なんだ─?

第3弾は、人形事件。二人の娘が猫に夢中になり、遊んでいた人形を放り出しているのを見て、コゼットは誰も見ていないことを確かめながら、そっとその人形を手にとってみるのです。それに気づいた上さんは烈火のごとく怒る。

「どうしたのです。」と彼は上さんに言った。
「わかりませんか。」と上さんは言って、コゼットの足下に横たわってる罪証物件を指で指し示した。
「で、あれがどうしたのです。」と男は言った。
「あの乞食娘が、家の子供の人形に手をつけたんです。」と上さんは答えた。
「それでこんな騒ぎですか!」と男は言った。「あの児が人形で遊んだというのがどうしたというんです。」
「あのきたない手で触ったんです、」と上さんは言い続けた、「あの身震いが出るほどきたない手で。」


ジャンは外に出ると、例の店に飾ってあった人形を買ってくると、それをコゼットに与えます。「あの人形はどんなにか仕合わせだろう!」とまで考えていた例の人形。「幸福の幻影」だったあの人形が自分のものだと言われても、にわかには信じられないコゼットは、躊躇しながらもその美しさに引かれるように「彼女」を手に取り、「カトリーヌ」と名付けるのです。そして、階段の下のすき間に作られた寝床で寝る時にも、「ほとんど痙攣(けいれん)的に」人形を腕に抱きしめているのでした。

そんな姿をそっと覗き見たジャンは、彼女の木靴に「ルイ金貨」を一つ入れておきます。そう、この日は靴の中に「親切なお爺さんがりっぱな贈物を持ってきてくれる」クリスマスの夜だったのです。

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