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『PLUTO』覚書その1─「安心しろ。私は、人間を撃てないようにできている」

2007-04-12 | └『PLUTO』覚書
このコミック、正しいタイトルは『鉄腕アトム「地上最大のロボット」より PLUTOプルートゥ』。プロローグでも書きましたが、手塚治虫の名作に敬意を表しつつも、作品自体は完全に浦沢作品となっています。両作品を比べながら、第1巻からたどっていきたいと思います。ゆっくりと。

物語の始まりは、「地上最大のロボット」と同じく、スイスの山中で「モンブラン」が殺されるシーンに設定されています。両作品に出てくる「ロボット」は姿形こそ異なりますが(もちろん絵のタッチの違いもありますが)、基本的には性格やスタイルは手塚作品を踏襲したものになっています。

モンブランは、手塚作品では登場して2ページ目にはプルートウにバラバラにされてしまいます。一方、浦沢作品では「山案内ロボット」としてだけでなく、「森林保護担当官」として「自然と共存する森林伐採のプランを熱心にプログラミング」しているロボットという設定になっています。

モンブランの死を伝える朝のニュースを妻とともに聞くユーロポールの特別捜査官ゲジヒト。彼は「ユーロ連邦・デュッセルドルフ」に住んでいます。「ユーロ連邦」というのは、現在のEUが拡大した国らしい。デュッセルドルフはもちろん現在のドイツにある都市です。

ゲジヒトは、モンブランの死を気にしつつ、ロボット保護団体の幹部ベルナルド・ランケが殺害されたという連絡を受け、現場に向かいます。そこで、ゲジヒトはランケの遺体の頭に突っ立てられた2本の「角」を目にするのです。さらに、不審人物が検問を突破したという通報。ゲジヒトが駆けつけると、巡査ロボットが粉々に破壊されている。彼は犯人を追って廃墟ビルに侵入する。「銃」を構えて犯人を威嚇するゲジヒト。撃たないでくれと懇願する犯人に向かって、彼はこう言うのです。

「安心しろ。私は、人間を撃てないようにできている…」

そこで初めて、ゲジヒトがロボットであることが明かされるのです。そして、構えていた「銃」が実は彼自身の左手を変形させたものであることも…。

ゲジヒトがそうであるように、『プルートゥ』には外見上、人間と全く区別がつかないロボットが登場します。これは手塚作品には見られない大きな特徴です。人間の姿をしたロボット。こうなるともはや「ロボット」という呼び方さえふさわしくないような気もしてきます。「アンドロイド」とでも言った方がいいのでしょうか。映画「ブレードランナー」では「レプリカント」と呼ばれていました。しかし、浦沢は、これも手塚への表敬でしょうか、あえて「ロボット」という呼び方をしています。

さて、犯人を逮捕したゲジヒトは、破壊された巡査ロボット、愛称ロビーの自宅を尋ね、ロビーの「妻」に夫の死を告げます。彼女は「旧式のロボット」で、見た目はいわゆる「ロボット」らしいロボット。しかし、彼女も、夫の死に対する「悲しみ」を感じるのです。夫の記憶を消しましょうかというゲジヒトの申し出を彼女は断る。「あの人の思い出を消さないで…」と言って。

ユーロポール・ドイツ支局に戻ったゲジヒトは、モンブランの頭部にも、ランケと同じような2本の角が突き立てられていたという事実を知ります。モンブランを破壊できるのは、ロボット以外にあり得ない。そして、ランケの殺害現場に、彼自身以外の人間の痕跡がなかったこともゲジヒトは既に探知しています。おそらくは、この2つの殺害事件は同一犯人で、しかもその犯人はロボット…。

先ほどの巡査ロボット殺害犯人の逮捕の時にゲジヒトが言っていたように、「ロボットは人間を傷つけたり殺したりできない」と、「ロボット法 第13条」で定められています。しかし、これまで、1度だけそのタブーが犯されたことがありました。8年前のことです。もしこの犯人がロボットだとしたら、それ以来の一大事ということになります…。

ゲジヒトは、ブリュッセルの「人工知能矯正キャンプ」を訪れます。そこには「ブラウ1589」というほとんど原型をとどめないほど破壊された「人工知能」が収容されています。「彼」こそ、8年前の「人間殺害」の犯人なのです。質問したいことがある、というゲジヒトの心を読み透かすように、「彼」は言う。「8年前、人間を殺したロボットが何を考えていたか、かい?」「人間は、私の人工知能を細部にわたって調査した…だが、そこにも欠陥は見あたらなかった…どこにも欠陥はなかったんだよ…」

ゲジヒトに今回の殺害現場の「角」の写真を見せられ、その意味を問われたブラウ1589は、ある恐ろしい神の名前を口にする。

「ヨーロッパの古き神々… 死の神には角がついていた…」
「戦士の魂を奪う狩人ハーンは“角の王”と呼ばれた…」
「ギリシア神話においては、冥界の王ハデス、あるいは、ローマ神話の冥王…プルートゥだ」

さらに、ブラウは、犯人があと6人を狙うと予言する。「世界の科学技術の粋を集めて作りあげられた最高峰のロボット達… 大量破壊兵器にもなりうるロボット達…」
「君も含めてだ…」

プルートゥの目的は何なのか? 「ブラウ1589」の役割とは? 否が応でも興味をかきたてられつつ、突然舞台はスコットランドに飛びます。その話は次回に。

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2 コメント

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プルートゥ (あけのぼ)
2007-04-18 19:11:02
面白いですよね、この漫画。残念ながら手塚作品の方はしらないんですが。もともとパイナップルアーミーの頃からの浦沢ファンとしては、今後の展開に期待してしまいます。今でもすでに面白いですが。
同時に書かれている”20世紀少年”もかなりの面白さです。少年時代が、やや僕の年代時代にかぶる面もあり、ああー、こんな頃もあったー!って思いながら読んでます。やっぴさんはお読みでしょうか?
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Unknown (やっぴ)
2007-04-19 08:27:00
20世紀少年は気になりつつ、読んだことがないのです。MASTERキートンは大体読みました。MONSTERは途中までです。

20世紀少年、読んでみますね。
ありがとうございます。
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