アイルランドを舞台とする映画といえば、独立運動の英雄の生涯を描いた「マイケル・コリンズ」を思い出します。それと全く同時期のアイルランドを舞台としながらも、より「民衆」側にアプローチしたのがこの映画です。
原題は"THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY"。邦題はそれをそのまま訳したものですが、これはアイルランドの「レベル・ソングrebel song」の一つです。レベル・ソングとは、英国支配への抵抗をテーマとする歌。その詩は、1798年の“タラの丘”における蜂起の際、恋人を捨てて独立運動に身を投じた一人の青年の悲劇を題材にしていると言います。映画の中で、英国兵に殺された若者を悼んで女性が静かに歌っていたように、独立運動で命を落とした者を弔う時に歌われた歌なのだとか。
アイルランド。
ケルトに根ざした独特の文化と言語を持つこの国は、何百年もの間、アングロサクソン系イングランドの支配下に置かれてきました。映画でも、英国兵に向かって主人公デミアンが「もう700年間耐えろというのか」と叫ぶシーンがありますが、それほど長い間、アイルランドはイングランドの支配下にあったのです。
とりわけ、16世紀の宗教改革以降、新教のイギリス国教会を奉ずるようになるイングランドに対し、かたくなにカトリックの信仰を守ろうとするアイルランドは厳しい弾圧の対象となります。カトリックは明らさまに社会的差別の対象とされ、アイルランド人はカトリックであるというだけで、公職につくことさえできなかったのです。法的には、そうした差別は1829年のカトリック教徒解放法によってなくなりますが、現実には差別や経済的格差は依然として続きました。(※アイルランドの歴史については、「マイケル・コリンズ」の項で紹介しています。)
この映画の舞台であるアイルランド南部の町コークは、独立運動の英雄マイケル・コリンズを生んだ町であり、1922年8月22日、31歳という若さで彼が暗殺された町でもありました。「麦の穂をゆらす風」の物語は、その2年前に起こった、まさに「マイケル」という名前を持つ若者が英国兵に惨殺される事件から始まります。
ハーリング(ホッケーに似たゲーム)を楽しんでいた若者たちを、「集会は禁止だ」というわけのわからない名目で尋問する「ブラック・アンド・タンズ」と呼ばれる英国兵。マイケルという17歳の若者が、自分の名前を、アイルランド名である「ミホール」と答えたことに激怒した兵士たちは、彼を縛り上げて殺してしまうのです。
自分の名前さえ自国語の言葉で言うことが許されない。アイルランドの文化や風習を一切認めようとしないイングランドの姿勢が垣間見られるエピソードです。日本がかつて朝鮮半島を支配した時に行った「創氏改名」も同じ種類の文化の抹殺政策ですね。
自分の名前にこだわったばかりに殺されてしまった若者は、医者を志してロンドンに向かおうとしていた主人公デミアンの恋人の弟でした。デミアンはさらに別の場所で、英国兵が列車に乗せろと言って駅員に暴行する場面にも出くわす。英国兵に食ってかかり、乗車拒否を貫く運転士ダンに強く惹かれたデミアンは、医者になる夢を捨て、独立運動に身を投じる決意を固めます。それを一番喜んだのは、既に活動の中心メンバーだった兄テディでした。
独立運動の闘士であるダンは、この戦いはアイルランドの貧しい人々をこそ救わなければならないとダミアンに説く。アイルランドの農民たちは、顔も知らないイングランド人の領主(「不在地主」)に法外な小作料を支払っていました。この映画は、アイルランドにおいてもっとも虐げられていた人々に初めてスポットをあてた映画と言えるでしょう。「マイケル・コリンズ」と並べて見てみると、歴史は民衆によってこそ作られるんだなということを改めて感じます。歴史の教科書には決してその名前が載らない人々の怒りや悲しみ、あるいは喜びや笑い、そういうものが歴史の根底には必ず横たわっているのです。
たとえば、デミアンとテディの兄弟。アイルランドの独立という共通の願いを抱きながら、あれほど悲劇的な結末を迎えなければならなかったのはなぜか…。二人は架空の人物ではありますが、そのことを考えてみるだけでも、ある意味で立派な歴史の勉強だと私は思います。
主人公のデミアンを演ずるキリアン・マーフィは、この映画の舞台となったアイルランド、コークの出身なのだそうです。ダニー・ボイル監督の「28日後…」(2002)で主演に抜擢され、この映画でも、少しなよなよっとしたイメージながら、独立への強い意志を貫く青年を好演しています。今週末に公開されるボイル監督の新作「サンシャイン 2057」では、真田広之と共演しています。
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突然のコメント失礼致します。
私のサイトで、こちらの記事を紹介させて頂きましたので
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これからもよろしくお願いいたします^^
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該当ページは、
http://1ikuji.blog75.fc2.com/blog-entry-163.htmlです。
今後ともよろしくお願いします。
私は北アイルランドから来ている女性を知っているのですが、彼女からオレンジ党の話を聞いたことがあります。彼女は悲しそうに7月12日のオレンジ党のパレードの話をしてくれました。そのオレンジがオレンジ公ウィリアムのオレンジだとわかって驚きました。彼女は「その日は決して街には出ない」と言っていました。
でも彼女も「どこから来たのですか」と聞かれると必ず「北アイルランド」と答えます。UKとは決して言いません。ましてイギリスだなんて絶対言わない。
(そういえばエディンバラから来ていた青年も自分をイギリス人だとは決して言いませんでした)
ケルト文化や小泉八雲など私にはアイルランドは憧れの国ですが、北アイルランドや宗教の問題などいろいろなことを抱えている国なのですね。
特に宗教の問題は本当に根が深く世界を動かしている感じがします。
オレンジ公ウィリアム、プロテスタントのシンボルですね。
誰しも自分の出自には誇りを持っていて、まして宗教もそれに絡むからますますややこしいことになりますね。寛容の精神が大切ですね。お互いの存在をきちんと認め合うこと。