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『PLUTO』覚書その9─「科学者はロボットを兵器として作っているんじゃない!!」

2007-10-10 | └『PLUTO』覚書
浦沢直樹『PLUTO』は、現在単行本は第4巻までしか出ていません。第4巻の構成は次のとおり。

 Act.24 博士の休日の巻
 Act.25 竜巻日和の巻
 Act.26 対決の巻
 Act.27 違った夢の巻
 Act.28 緊急コールの巻
 Act.29 つぶやく影の巻
 Act.30 キンバリーの三博士の巻
 Act.31 地上最大のロボットの巻

今回は、Act.24からAct.26の部分を取り上げます。

「鉄腕アトム」のキャラクターは、どれも個性豊かですが、中でも最も印象的な人物の一人が、お茶の水博士でしょう。その変わった名前はもちろん、短躯、頭は両側にかろうじて残る一房ずつの髪以外は禿頭という忘れられない造形。浦沢作品のお茶の水博士は、手塚治虫が「デフォルメ」する前の「本来の姿」といった趣があります。

科学省長官という肩書き、そしてアトムの父代わりという役割という設定はそのままですが、浦沢作品のお茶の水博士は、手塚作品ではあまり感じられなかった「苦悩」を垣間見せてくれます。公園で拾った古いロボット犬を徹夜で修理し、それでも直してやることができずに涙する姿は、おちゃらけたお茶の水博士のイメージからは程遠いものです。

彼は科学省長官として、トラキア合衆国の度重なる要請にもかかわらず、ペルシアへのロボット兵派遣の増員に頑強に反対している。「科学者はロボットを兵器として作っているんじゃない!!」という彼の叫びは、ペルシアで人間とロボットの身に起こっている悲惨な状況に対する反対表明にほかなりません。

さて、彼が公園で拾った古いロボット犬は、「ゴジ博士」が仕掛けた罠でした。お茶の水博士なら哀れなロボット犬に同情して拾っていくだろうことを予測しての巧妙な罠。ゴジのねらいは、アトムをおびき出すことでした。

ところで、「ゴジ博士」っていったい誰…?

手塚版「地上最大のロボット」を振り返ってみましょう。ゴジ博士は、プルートゥをあやつるサルタンのもとに突然現れる謎の男。「世界一のロボット」とうそぶくサルタンに対し、ボラーという巨体ロボットを連れて挑戦しにくるのです。ところが、実はゴジ博士は、覆面をかぶると、プルートゥを作ったアブーラ博士に早変わり~。アブーラ博士は、サルタンの命令でプルートゥを作りながら、ひそかにボラーも作っていたというわけ。んーフクザツだ! しかーし、それだけではない。最後の最後に正体を明かしたゴジ博士ことアブーラ博士の正体は……。

浦沢版「PLUTO」では、ゴジ博士は、第39次中央アジア紛争のさなか、ペルシア王国で高度なロボット兵団を作りあげ、さらに大量破壊兵器となりうるロボットを製造したという設定になっています。そのゴジ博士が、お茶の水博士を含む「ボラー調査団」の元メンバーの命をねらい、アトムたち世界最高水準のロボットを破壊しようとしているのは、結局、大量破壊兵器が見つからなかったのに、トラキア合衆国によって戦争を起こされ、焦土と化したペルシアの復讐のためではないか…お茶の水博士はそんなふうに考えます。

素性を表したゴジは、お茶の水博士の孫、隆史の命が危ないことを告げる。隆史の家が竜巻に巻き込まれていると。そして、そこにアトムを送るように言います。アトムは、隆史が飼っているロボット犬ボビーの警報信号をキャッチし、お茶の水博士の家に急行してきますが、ゴジに逃げられてしまう。実は、ゴジとして登場する男は、ある人間型ロボットの体を借りただけの仮の姿だったのです。役目を終えたゴジの本体=電子頭脳は、仮の体から取り出され、例のゴキブリメカによってしずしずと運び去されていくのです。「彼」を操るのはもちろんアブーラ博士。ゴジのバックにはアブーラがいることにお茶の水博士もまだ気づいてはいない。

同じ頃、やはりボビーの警報信号をキャッチしたウランは隆史の家に飛んでいました。そして、アトムもそれを追う。

ゴジの登場、そして突如起こったという竜巻。これは世界的な規模の危機であることに気づいたお茶の水博士は、ユーロポールに連絡を取るよう警察に言う。担当のゲジヒトと回線をつないで、一刻も早く手を打たなければ、アトムの命が危ない。

隆史の住む海辺の家では、ウランが恐ろしい光景を前に立ちすくんでいました。単なる竜巻ではない、得体のしれない力。牙をむく海。

ウランは思わず叫ぶ。「お兄ちゃん、来ちゃだめー!」。

しかし、アトムは…。

              …ええっ!? まさか…?

ここで読者は思いもよらないシーンを目にすることになるのです…。


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