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「淺井裕介個展 八百万(やおよろず)の物語 ~強く生きる 繰り返す~」

2012-06-11 | ■美術/博物
国際芸術センター青森で開催されている「淺井裕介個展 八百万(やおよろず)の物語 ~強く生きる 繰り返す~」(2012年4月28日~6月24日)。



チラシに描かれているのは、淺井裕介が2月にインドの聖地ブッダガヤで描いたという「泥絵」です。「泥絵」は、現地で採集した土、藁灰、牛の糞、レンガの粉などを水で溶いたものを画材として、壁や天井に直接描くもの。今回、彼が用いるこの独特の手法で、県内各地で採集された土を使って、展覧会場の壁いっぱいに「八百万の物語」が展開されていました。

 
   
「八百万の」というだけあって、アースカラーで彩られた壁画には、実に数多くのシーンが描かれています。巨大な首の長い動物、大きな瞳をした女の子、象、火山、木々、ニョキニョキ生える手や足、そうした「メイン」となる事物があり、その中に更に様々な動物や模様が描かれ、ストレートに何かを訴えるものあり、象徴的に示されるものあり、じっくり見れば見るほどいろいろな物語が見えてくる。手の指の中に潜む動物、木の中にある目玉、顔が人間の手の形をした動物、マグマの中で踏ん張る人、腕に踏みつけられている動物、ひそかに列を作って歩いている蟻、足の裏に咲いている花、そんな一つ一つの物語から、イマジネーションがどんどん膨らんでいく。「八百万の物語」というタイトルも納得できる。

 

こりゃ、まるで岡本太郎だなと思う。帰ってきて淺井裕介のことを調べていたら、昨年、東京都現代美術館で、「TARO LOVE〜岡本太郎と14人の遺伝子〜」という企画展に参加していたことが分かって、なるほどと思いました。彼は、確実に岡本太郎の「遺伝子」を継いでいる。岡本太郎がこんなところにも生きていたーと何だかうれしくなりました。

この「泥絵」は、展覧会最終日にはみんなで消すのだそうです。インドで描いた絵も、最後は消してきたそうで、もったいない…とつい思ってしまうのですが、「消すことでしか描けない絵があり、描くこと見ることと同様に消すことも大事」という淺井さんの言葉は深い。描いたものを消す、という行為は、「土に帰る」ことなんですね、きっと。そうやって、長いこと人間や動物は生死を繰り返してきた。けれど、決して、土に帰るために生きるわけではなく、生きているときは「強く生きる」。そしてそれを「繰り返す」わけですね。個々の一生にも「八百万の物語」がある。人間だけでなく、動物も植物も、生きているものすべてがつながっている。「八百万の物語」もたぶん、すべてがつながっているのです。

あなたの「物語」を自由に書いてください、というコーナーがありました。各自がそれぞれの感性で書いた物語も、個々ばらばらのように見えて、実は、みんなつながっているのでしょう。

  

淺井裕介は、「泥絵」だけでなく、テープとペンで描く植物画「マスキングプラント」とか、横断歩道に使われる白線素材を用いる「植物になった白線」とか、小麦粉を水で溶いた塗料を使って描く「粉絵」とか、え?と思うような新しい素材を使った作品に挑戦し続けています。白線素材を使った作品は、バーナーで塗料を焼き付けるらしく、木の板を貼り合わせたキャンバスが黒く焼け焦げていました。今回、白線素材を使って道に木を描く試みもあるようです。通常、横断歩道や駐車場の区画線を描くことにしか使われない白線素材。もし白線素材に心があったなら、自分が「木」になれるなんて、すごくうれしいことでしょうね。

  

彼は、若い作家らしく、子どもも大人も作品づくりに参加できるというスタンスも忘れない。彼は今回も、参加者と一緒に作り上げるワークショップを何度も行っています。ともすれば才能に溺れ、独りよがりになりがちなアーティストにとって、自分以外の感性を作品に取り入れようとする感覚って、とても大切なことだと思います。

自らを「絵描き」と呼び、あふれる才気と柔軟性を持つ淺井裕介の今後に注目したいと思います。

ああ、それにしても、消してしまう前にもう一度見たい!
  
 


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1 コメント

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泥絵、消してきました (柿の種)
2012-06-25 18:19:35
こんにちは。最終日に展覧会へ行って、「消す」クロージングセレモニーに参加してきました。圧倒されながらものどかで楽しい、不思議な空間でした。

自分で決めたモチーフをスケッチした後、水を含んだスポンジでクルクルとこすると、様々な泥の質感が伝わり、改めて泥という事を実感。一つのモチーフずつ消すのですが、水と土は昔から仲良しなので、おもしろいように消えていきました。

浅井さんの「消す=持ち帰る」の言葉が優しくて心地良かったです。土に触れたり泥水に手をつっこむって何歳になっても楽しい!

帰り道、木々の間から青空がのぞいてて、初夏の清々しい午後のひととき、しあわせな気分で家路につきました。

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