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カクレマショウ

やっぴBLOG

『半落ち』─「事件」に関わる人間たち

2006-10-01 | ■本
夕べ、NHKでドラマ「クライマーズ・ハイ」の前編やってました。原作を読んでいないせいなのか、ぐぐっとくる骨太のドラマだと感じました。横山秀夫氏の作品は、『動機』と『半落ち』しか読んでいないのですが、来週の後編を見た上で、『クライマーズ・ハイ』も読んでみたい。

横山氏の筆致は本当に硬質です。知らず知らずのうちに眉間に皺が寄ってしまう感じがします。設定上、小説に出てくる会話は男どうしの会話が圧倒的に多いのですが、それもまたリアリティにあふれています。『半落ち』の県警内部の会話、警察と新聞記者との会話、容疑者と取調官の会話…。

『半落ち』は、警察官による妻殺し事件に関係する6人の男たちの名前をそのまま章名とするという設定になっています。容疑者の同僚警察官、地検検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官。それぞれ、直接的あるいは間接的に容疑者である梶聡一郎の行動とその心中に迫っていきます。アルツハイマーを病んだ妻を殺害してからの梶の「空白の2日間」を追うことが柱に据えられてはいますが、それよりも彼ら自身の人生が語られることの方がよほど興味深いと思いました。「空白の2日間」は、梶の人間像の描き方から、どんな形であれ、およその筋は想像できますから。

裁判官、藤林圭吾の父もまたアルツハイマーを病んでいる。彼に言わせれば、「なぜ簡単に殺してしまったのか。/果たして介護の手を尽くしたと言えるのか」─。東京の自宅に父とその介護に明け暮れる妻を残している藤林にとっては、梶に対してそんな感情を抱くのも当然でした。しかし、彼は同じ裁判官だった父が貸金庫に保管していた「手紙」を見て「呆然と立ち竦」むのでした。

裁判官も人間。弁護士も検事も。人を裁くのは結局人間なんだということを改めて感じます。「クライマーズ・ハイ」もそうでしたが、「事件」や「事故」という非日常の中に身を置かれると、人間の本質が見えてくるんだなとつくづく思いました。

人間の襞の裏の裏まで描く、となれば、大御所・松本清張氏が頭に浮かびます。描き出す人間の「幅の広さ」という点ではもちろん彼には及ばないものの、同じ元新聞記者の横山氏は、「関係者」を緻密に描かせたら今の作家の中ではピカ一と言えるのではないでしょうか。

 

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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おせっかいおばさん (れごまま)
2006-10-03 19:19:57
こんにちは

横山秀夫は結構読んでいますが、ちょっと毛色の違う『出口のない海』もお勧めです。

(なんか、いらん世話なおばさんです・・・)



映画化されて公開されていますが、小説の世界観を破壊されたくないので、なかなか映画館に足が向かないです。

以前、「寝る本」なるものを教えていただきましたが、これは「泣き本」です。

静かに痛い本です。
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良いおせっかいです。 (やっぴ)
2006-10-04 23:22:24
そういうおせっかいな大歓迎!です。

「毛色が違う」と言われると余計読んでみたくなりますね。



映画化も善し悪しですね。私には映画化してほしい本はたくさんあるのですけど。
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