
『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ、昨年12月に3冊目が出ました。法政大学教授の坂本光司さんが、日本中の「大切にしたい会社」を実際に取材して、その中から今回紹介されているのは7社。
東日本大震災後に刊行されたこの本には、「被災者を支援する被災企業」として仙台市の葬儀社、株式会社清月記も紹介されています。
「葬儀社は究極のサービス業」として、「絶対にノーと言わないサービス」を長年心がけてきた清月記は、震災が起こったその日のうちに、四国の棺メーカーに1,000本の棺を発注、多くの遺体をとりあえず仮埋葬したのだそうです。さらに、5月以降は棺を再び掘り起こして火葬にするという過酷な業務が始まった。
棺を掘り起こし、重機で引き上げ、新しい棺に納め直し、そのまま火葬場に輸送します。遺族が立ち会うことは断らざるを得ませんでした。
作業現場は、とても遺族が耐えられる光景ではなかったからです。
においがものすごく、また、遺体の損傷もひどく、慣れていない人は倒れてしまう状況でした。
埋葬してあった棺の中には、水や血液、脂がたまっています。それらを抜き取り、新しい棺に納め直し、火葬場の横のプレハブに一晩安置し、翌日火葬にするという流れでした。
こういう仕事を、清月記の社員たちは、朝から深夜まで黙々とこなしたのだそうです。
人が死ぬというのは大変なことです。人間の死が一度に何百何千と押し寄せるというのは、私たちには想像もつかない事態です。しかし、清月記の社員たちは、どんなに遺体が多くても、一人一人にきちんと礼を尽くしています。一人たりともおろそかにしていないところに、私は心が震えます。「おくりびと」のように、丁寧に送ってあげることはできなかったかもしれない。でも、きっと、清月記の社員によって送り出された人たちは、きっと感謝しているに違いない、と思う。
清月記では、大震災の時、ほかにも、被災者に「ミニ仏壇」1,500基を無償で配布したという。これも、被災者の「手を合わせて祈りたい」という悲痛な声に応えたものでした。仏壇を納品した京都のメーカーでは、そういう清月記の活動に共感して、代金を一銭も受け取らなかったのだそうです。会社の思いが、ほかの会社も動かす。いい話ですねー。
非常時にこれだけのことができるのは、社長を中心とした社員の皆さんが、ふだんから「葬儀の仕事」に誇りを持ち、「決してノーと言わないサービス」に努めてきたからに違いありません。たとえば、とかくうやむやになりがちな葬儀の金額にしても、清月記は料金体系を明確にして、客の不信感や不安感を取り除くようにしています。また、インターネットに訃報を掲載するという新しいサービスを始めたのも、遺族の希望によるものだとか。
「そんなご注文やご依頼は受け入れることはできません」と言うのは、この仕事に自分絵線引きをし、これ以上の会社はつくらないと意思表示をしたにも等しいことです。私どもが、絶対に「ノー」と言わないというの、自分たちが成長するためでもあるのです。
なるほどねー。
ただ、こういう、それまでの「業界」の常識を覆すやり方は、当然のごとく同業者に突き上げを食らう。でも結局、長い目で見れば、お客さんは清月記のほうにつく。何はなくとも常にお客様本位、という姿勢が、着実に営業面での成果を挙げ続け、更には、「いざという時」に本領を発揮したということなのでしょうね。
目先のことだけでなく、いつも「長い目で見る」ことは経営者にとってもちろん必要なことです。そして、そういう長い目で見る力があればこそ、大震災の時に、「今」何が一番必要なのかということをとっさに判断できたのだと思います。
あるいは、逆のことも言える。長い目で見るためには、まず足元を見ることも大事だろうということです。足元をしっかり固めないと、遠くを見渡すこともできない。清月記の物語を読んで、そんなことを感じました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます