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回転寿司屋のおばちゃんの涙

2011-11-25 | └キャリア教育
「第2回自治体教育政策シンポジウム」(政策研究大学院大学・読売新聞社主催、2009年7月開催)の報告書に掲載されている事例発表「仙台市における学校と地域の連携」に、読むたびにじわじわ涙が出てくる一文があります。発表者は、仙台市教育委員会学校教育部確かな学力育成室長、庄子修氏。

仙台市教育委員会は、「自分づくり教育」と称して、キャリア教育を積極的に推進しています。キャリア教育は「自分づくり」なんだというコンセプト、方向性、そしてそれに基づく具体的な取組、参考になることがたくさんあります。

中学校の職場体験活動については、平成17年度から始めています。しかも5日間。

「5日間」の職場体験というのは、もともと、阪神・淡路大震災後に兵庫県で「心の教育」として実施された「トライやるウィーク」がルーツです。ただ、現実、中学校で5日間も学校を離れて職場体験活動をやるというのは、カリキュラムの編成上、非常に厳しい。なので、多くの学校は、3日間とかで終わらせているし、中には1日しか時間が取れないという学校もあります。しかも、職場体験は、学校だけではなく、事業所の受け入れという条件もあります。1日とか2日ならともかく、1週間まるまる中学生を受け入れるのは難しいという企業が多いのではないでしょうか。

でも、実際に5日間の職場体験活動の取組に関わった人たちの声を聞くと、圧倒的に「5日間で良かった」というものが多い。庄子さんのお話にも、そういう声がたくさん紹介されています。

ある中学校の校長先生から聞いた話です。始める前、5日間も学校に行かなくて大丈夫?という声が保護者から出た。もちろん、授業時間は確保されていて、数学や英語を削ってやっているわけではありません。にもかかわらず、お母さん方から、特に教育の熱心なお母さん方から、「大丈夫なんですか?」。ところが、体験を終えて帰ってきた子どもの姿を見たときに、もう手のひらを返すように「良かった」というんですね。子どもが変わった。父親と話をしたことのなかったうちの娘が、話をするようになった、という。

(自動車会社の社長の話として)いやあ、何回言ってもわからなかった、私が社員に言っていたことを、うちの社員が中学生に言ってた。笑いが止まらなかった。その社員も変わっていった。あれほど自分が言っても変わらなかったのに、おかげさまでした。中学生って、もっと怖いと思っていました。いい子たちですね。


保護者も、受け入れてくれた会社も、始まる前はクエスチョンマークいっぱいだったのに、終わってみたら、良かったと言う。特に、「社員が変わった」という点に注目したいと思う。キャリア教育とか職場体験とか、子どものためといいつつ、実は大人も変わることができるのです。

では、子どもたちの意識はどうなのか。

体験を終えて戻ってきた子どもたちに、アンケートでこれからどんな力を身に付けたいと聞いた。私は、礼儀とかマナーとか対人関係とかが一番になると思っていました。ところが、なんとトップは「勉強」なのです。教科の学力をつけたいと思っているのです。びっくりしました。いやあ、あれほど親や先生に勉強しろと言われても勉強しなかった子どもたちが、体験後の一瞬とはいえ、勉強しようと思っている。

これもすごい話ですよね。5日間も「学校での勉強」を離れて、仕事の体験をしてきたら、逆に学習意欲が増すなんて。試験があるからとか、親や先生に言われたからという受動的な動機ではなく、「勉強の先にあるもの」を目指すという動機で勉強しようと思うなんて、ほかに例があるでしょうか。それだけ、「職場で体験」したことというのは、子どもたちにとってインパクトがあったということなのでしょうね。

子どもたちというのは、大人の働く姿をいったいどれくらい見てきているでしょう。学校の先生と自分の親ぐらいしか見ていない。その親も、家に帰ったらぐったりしている。 そうした中で、お客さんの後ろ姿に頭を下げて、見えなくなるまで頭を下げているお店の人の姿や、せっかく作ったのだけれど、これでは売り物にならないと言って捨ててしまう職人の姿。その大人の本気さに、おそらく子どもたちは心が震えたのではないか。

大人の本気に子どもたちの心が震える。そういう体験を、私たちは職場体験活動の期間だけでなく、もっといろいろな場面でつくっていかなければなりません。

私がいつもじーんとしてしまうのは、次の話です。

学校では、終了後、受け入れ先に感謝状を差し上げると同時に、感想の発表会をします。回転寿司屋のおばちゃんは、自分はうんと厳しくしたので、この子には嫌われているなと思っていたと言うのですね。ところが、感想文には、厳しくしていただいたことに対して「ありがとう」という感謝の言葉がある。それを聞いて、そのおばちゃんはもう涙が止まらなかったそうです。

このおばちゃんの気持ちを思うと、ほんと、泣けてきませんか。決して作りものでない感動。子どもを地域みんなで育てるってそういうことだと思う。

 

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