伊勢神宮のお土産として有名な赤福が消費期限の偽装や商品の再利用などが常態化していたとして、食品衛生法違反で摘発され、3カ月の営業禁止処分を受けたのは2007年のことである。この事件の責任を取って、当時会長だった益嗣氏は辞任し、社長を務めていたが、実質No.2であった益嗣氏の息子、典保氏が本格的に経営再建に乗り出すことになった。典保氏はこれまでの赤福の家業的経営を改め、コンプライアンス(法令順守)を徹底し、社員提案なども導入して企業風土を改善し、作り置きできない生産ラインを導入するなど、「家業から企業へ」の理念で近代的な企業経営へと転換を進めた。その結果、業績は改善し、売上高も25年9月期には92億円まで増えたそうだ。ただ、業績があがったことで、益嗣氏の疎外感は強まり、面白くない気持ちは強まる。しいて理屈をこねれば、赤福の暖簾が壊れると目に映る。そして、4月、益嗣氏はクーデターを決行する。益嗣氏は典保氏を代表権のない会長に退け、妻の勝子氏を社長に就任させたのである。益嗣氏の狙いが家業風経営への回帰なのか、あるいは単なる意趣返しなのかは分からないが、これが順調に進んできた企業改革の腰を折ることは間違いない。従業員のやる気や規律にも影響しよう。何よりも、このようなケースでは益嗣氏にこびへつらう人間が登用されることになる。それが将来の赤福を決めかねないのである。