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ビル・チャーラップ・プレイズ・G.ガーシュウィン

2009年11月30日 00時31分00秒 | JAZZ-Piano Trio
 こちらはブルーノートでビル・チャーラップ名義、つまれピターワシントンとケニー・ワシントンと組んだレギュラー・トリオによる作品である。先日、書いた「チャーラップの盤歴」のとこからも分かるとおり、時期的にはニューヨーク・トリオ名義の「ビギン・ザ・ビギン」「星のきざはし」と同じ頃の製作ということになるし、母親であるサンディ・スチュアートと組んだアルバムもこの年だから、チャーラップにとって2005年はかなり多作だったということになる。このアルバムだが、内容的にはタイトルからも分かるとおり、ガーシュウィン集である。前作がバーンスタイン、その前がカーマイケルだから、こちらのレーベルでの作曲家シリーズは既に三作目ということになるが、今回はカーマイケル集の時の同じように何人かのゲストを迎えて、フォーマット的にはピアノ・トリオに限定しない、ヴァラエティに富んだ内容になっている。

レギュラーのピアノ・トリオだけの演奏は、1曲目「フー・ケアズ」、3曲目「ライザ」、7曲目「アイ・ワズ・ソー・ヤング....」、そしてラスト「スーン」の4曲のみ(しかもどれも3分程度と短い)。残り6曲はフィル・ウッズ(as)、フランク・ウェス(ts)、スライド・ハンプトン(tb)、ニコラス・ペイトン(tp)を加えた、オーソドックスなコンボスタイルの演奏だから、本作のメインはどう考えてもこっちの演奏である。
 2曲目の「サムバディ・ラヴズ・ミー」は、いきなり四管でテーマが演奏されるから、一瞬ぎょっとするが、四管でやるのはほぼテーマの部分だけ、あとはピアノ・トリオ+ソロのスタイル演奏されていくから、それほどゴテゴテ、ギラギラしている訳ではない。基本、非常に趣味のいいスタティックで洒落たジャズである。さすがチャーラップのセンスを感じさせる。「ハウ・ロング・ハズ・ジス・ビーン・ゴーイング・オン」はニューヨーク・トリオの方でもやっている曲で、ここではフランク・ウェスの渋いテナーをフィーチャーしているが、スロー・バラード風な解釈は基本同じような感じだが、さすがにテナー・サックスでこうじっくりと歌われると、そのムーディーさも格別という感じだ。

 6曲目の「霧の日」は9分の長尺演奏で、やはり四管でテーマが奏でられる。本作の中では次の「スワンダフル」と並ぶ有名曲だが、チャーラップらしい「遅い曲はより遅く」の傾向がよく出たアレンジだ。ソロはチャーラップを長いソロを筆頭に、ゲスト陣も順繰りにとっていくが、この遅いテンポとブルージーなムードがなんともいえない上質なムードを醸し出している。7曲目の「スワンダフル」はピアノでヴァースを演奏した後、いきなりアドリブに突入する意外なパターンで進行、この曲はこのトリオで同名アルバム(ヴィーナス)があるくらいだから、やや絡め手で再演したというところだろうか。アルバム中もっともインプロヴァイズした演奏だ。
 8曲目の「ベス,ユー・イズ・マイ・ウーマン・ナウ」はフィル・ウッズをフィーチャーしたワンホーン・カルテット・スタイル。これもかなり遅いムーディーな演奏で、フィル・ウッズは後半などさすがの貫禄をみせる。9曲目の「ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット」は、2曲目の「サムバディ・ラヴズ・ミー」と同様、スウィンギーで軽快な演奏で、ジャム風にソロを回していくのが楽しい。

 という訳で、チャーラップのピアノについては、ニューヨーク・トリオでもたっぷり聴けるし、こういうバックに回ったスタイルでの演奏も悪くない。ただ、まぁ、いかにも日本人向けに製作されたニューヨーク・トリオでの演奏に比べると、選曲にせよ、演奏にせよ、格段にハイブロウというか、渋い内容であるのは確かだ。なにしろ、ガーシュウィンといっても、例えば「サマー・タイム」、「アイ・ラブズ・ユー・ポーギー」といった有名どころは出てこないし、酸いも甘いもかみ分けた....みたいな、全く声を荒立てない落ち着き払った演奏は、じっくりと聴けばその良さはひとしおだが、さらっと聴いたのでは凡庸でありきたりなジャズに聴こえかねない....まぁ、そういうかなり通向きな音楽になっている。同じビル・チャーラップでも、彼に何を求めるかでここまで音楽が違ってしまうのは、音楽の妙というべきだろう。アメリカ人と日本人の考えるジャズというものが、微妙に違うことも改めて認識させられる。

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