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ハービー・ハンコック・トリオ `77

2007年09月19日 21時32分31秒 | JAZZ-Piano Trio
 ハービー・ハンコックはそのヴァーサタイルな活躍振りからすると、ことピアノ・トリオに関してはほとんど拘りがないのか、数えるほどしか作品を残していないが、このアルバムは多分彼が残した最初のピアノ・トリオ・アルバムだ。1977年、VSOPの勢いを借りて日本CBSソニーからの要請で制作されたと思われるため、メンツは当然のことながらトニー・ウィリアムス、ロン・カーターという「いつもメンツ」とも「鉄壁の布陣」ともいえる組み合わせになっている。ただし、音楽的にはグレート・ジャズ・トリオのハンク・ジョーンズがハンコックに替わったようなオーソドックスな4ビート・ジャズではなくて、4ビートと8ビートが交錯し、インプロとスコアリングされたパートの境界が曖昧な....つまり、60年代後半以降の新主流派の流儀で作られたアルバムになっている。

 1曲目の「ウォッチ・イット」は13分に及ぶ作品で、典型的な新主流派の音楽。込み入ったリズムを伴ったややシリアスなムードを持つ作品で、ハンコックのピアノもかなりアブストラクトなソロを展開しているし、ドラムもベースもある意味でラディカルなプレイである。2曲目の「スピーク・ライク・ア・チャイルド」はブルー・ノートに残した同名アルバムのタイトル・トラックの再演だが、茫洋とした印象派風なムードといった点では原曲に劣るが、この曲の思索的な面をストレートかつシンプル、そしてクリアな雰囲気で演奏していして、これはこれでなかなか気持ち良い。3曲目「ウォッチング・ウェイティング・フォー」は1曲目と同様なコンセプトで作られたに違いない後期新主流派の音楽。4曲目の「ルック」はアルバム中で一番リラックスして、奇をてらわない4ビート風の音楽。私の好みからすると1曲目や3曲目のようなギクシャクした作品よりこちらの方が数段楽しめる。5曲目はお馴染み「マイルストーン」で、こちらは期待通り、マイルス~VSOPの線でパワフルに演奏している。

 という訳で、ピアノ・トリオ・アルバムとしては今一歩という感じ。新主流派の音楽というのはモードとフュージョンの狭間にあって、フリー以外の方向性を模索した動きだったように思うけれど、ジャズ自体が袋小路に入ってしまっていたあの時代、破壊でも回帰でもない新しい音楽を作ろうとして、これ自体、絵でいったら新印象派みたいなもので、よりテクニカルで複雑、高度でプロフェッショナルな音楽ではあったけれど、一種のマニエリスム的なものだったと思う。このアルバムもそういうところが色濃く感じられ、私には少々「考えすぎ」のように感じられるのだ。
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