透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「スモールトーク」

2008-02-27 | A 読書日記



■ 登場人物には作家の性格や趣味が投影される。『スモールトーク』角川文庫の主人公ゆうこは無類の車好きだが、これは作者絲山秋子の車好きの投影。ゆうこの元彼の本条は最初にオレンジ色のTVRタスカンに乗って彼女の前に現れる。会いたくなんかない元彼だが車好きのゆうこは「ドライブ行かねえか?」との誘いに応じる。

ふたりが車の中で交わす会話「見直したな」「惚れ直さないでね」などは『沖で待つ』の登場人物(会社の同僚)が交わす会話と同じ雰囲気。

元彼の本条は今や売れっ子相手の音楽プロデューサー、ゆうこの前に現れる度に車が違う。車好きの作者が描いたこの『スモールトーク』の主人公は実はゆうこではなくて車だ。

ゆうこはいつも本条に替わって車を運転する。そして車の評価をする、こんな具合に。**音はすばらしい。でも作った音だ。本当の音じゃない。6Lのスポーツカーなのに抑えてあって、野暮さは微塵もない。エンジン音がぎっしり詰まったきれいな和音になっている。不協和音ではない。調和している。回転を上げるとその低音が盛り上って、ちゃんとコーラスもついてくる。**

この作家は本当に車好きなんだろう。こんなふうにエンジン音について詳細に描くのだから・・・。

この小説に登場する6台の車に作者は試乗したそうだがそれぞれ外観、内装、乗り心地、エンジンの調子などをゆうこに評価させている。

巻末に収められているエッセイをこの作家は**「馬には乗ってみよ」というのは本当だ。クルマにも乗ってみないとわからない、というのを今回の小説の試乗で思った。「人には・・・・・」の方はまだまだこれからの課題である。**と結んでいる。

からっとしたこのユーモアが好きだ。