田園酔狂曲

二人三脚の想い出と共に!!

幻の対局~⑤

2019-03-11 19:45:03 | ヒゲの盤上の世界
昼食後、対局が再開された。
お互いに腰掛銀に進み、最新型と思われた。

昼の休憩中に、ヒゲ冗段から昔の話しを取材できた。
今でこそ、藤井フィーバーや女流棋士活躍で将棋は人気だが、
50年前はそうでもなかったらしい。
特に熊本では、将棋は反社会的勢力の道楽と捉えられていたようだ。
紫煙満ちる道場で、酒を据えての賭け将棋のイメージ。
盤上を札束が交錯する、まるで賭場の雰囲気。
だからヒゲ冗段も、決して人前で将棋の話しは出来なかった。
もちろん、自分の親たちにも隠し通した。
現在の将棋ブームを思うと、隔世の感がすると。

盤上はこう着状態になり、森崎鳳王が手待ちの2六飛車から局面が動き出した。
ヒゲ冗段は角交換の後、金を動かしてきた。
難解な局面、誰もが5五銀と形良く指すと予想していた。
ところが、ヒゲ冗段はなんと5五金と大方の予想の真逆な手を指したのです。
予想外の異形な手に、観戦者やメディアからどよめきが起きた。

しばらく、この局面を眺めていた年配の観戦記者が叫んだのです。
  「 こ、こ、コレは駅馬車定跡だ! 」
“ 駅馬車 ” とは、ジョンウェンの出世作となった西部劇です。
         
                  

昭和23年の京都・南禅寺。 塚田正夫名人 VS  升田幸三八段戦。
この戦いで、新構想を升田八段が披露。
そのイメージが、映画の駅馬車みたいだと云う事で、命名されたのでした。
          

局面が、いよいよ佳境に入った時でした。
読みふけっていた森崎鳳王に異変が。
急いで看護婦さんが駆け寄り、酸素マスクを装着して、バルブをひねりました。
その直後、ヒゲ冗段の様子にも何か起きたような?
顔色が青白く変わっていき、血の気が引いているのです。
気付いた奥様が、準備されていたかのような動きで椅子を運び、
ヒゲ冗段の靴を脱がせ、両足をその椅子に乗せました。
ネクタイを緩め、エコノミー症候群(?)に対処します。

ヒゲ冗段は、「 クスリ、クスリ 」 と言いながらポケットをまさぐります。
昔の白金カイロみたいな、シルバーメタリックな容器を取り出しました。
急いで蓋を外して、飲み始めました。
                    
その瞬間、真っ白だった顔に赤みが差します。
すると、何故か会場にも、シングル・モルトのかぐわしい香りが漂います。
先ほどの白金カイロに見えたのは、ウイスキー携帯用のスキットルだったのです。
                     
来場者から失笑がもれた後でした。
どこからともなく、手を叩く音が ・・・  
次々と、会場から手を叩く音が沸き起こっていきます!
そう、拍手ではなく、手を打っているのです。
会場の空気は、「 手打ちしろ! もう、十分だろう 」 の提案でしょう。
手打ち即ち、“ 指し掛け ” にしましょうとの観戦者たちの気持ちが、
わたくし(記者:玉木宏)の目頭を熱くしたのでした。    
                      
                            ~~~ 終 ~~~  

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