さてさて、刺身物を一点豪華主義で盛り返すチャンスをうかがうヒゲ。
そうは言っても、6人分の運営を、ひとりで賄うのは大変だろう?
いやいや、そうでもないのです。 😅
なにしろ、客が無いので、仕事はボチボチでよいのです。 (苦笑)
そんな或る日の夕方、ひとりの客がカウンターに現れました。
大した注文もせずに、時々首を大きくひねって周りを見渡しています。
その東京商工リサーチ調査員ふうな男は、なにやら書類に書き込んでいる。
次の倒産リストの最上位店にでも、栄通り田園がノミネートされているのか?
そんなシイラ客も帰ると、店内には沈黙が広がります。
レジ係がガラス製ドア越しに、外をジーッと眺めています。
栄通りには、大勢の酔客が流れているのに、店には誰も入っていない!
床板に体育座りしているヒゲは、汗ばんでいます。
普通なら汗とは温かいハズ。
しかし、ヒゲの背中に流れる汗は、何故か氷みたいに冷たい。
このままでは、ヒゲの代でひと月も持たず、つぶれて閉店するしかない。
そんな思いがジクジクと浮かぶと、文字通り、冷や汗が滲み出るのです。
その冷や汗が背中から腰に垂れると、腹の辺りが鳥肌に!
こんな震える様な経験は一度でたくさんなハズ。
しかし ・・・・
ずっと後の99年、大動脈乖離を発症したヒゲ。
トイレから出る時は四つん這いでベッドに向かいました。
やっと這い上がり、カァちゃんにSOSを伝えた後、ジッーとしていると
あの汗が腰に現れた。
そう! あの時の冷や汗に、ヒゲは再び遭遇したのです。

栄通りの店、随分長く感じる時間が過ぎた頃、自動ドアが開きました。
◯木さん達二人の客は、席に座るや直ぐに大声で話します。
「 此処は、いつ来ても暇(ヒマ)ネ!
そうバッテン、何か突き出しが変わッとる 」
多少の悪態を発せられても、坊主(0客)を免れただけでも良しと。
それが本音のヒゲでした。
すると、あの冷たい汗が、少し温かくなるのでした。
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