tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

インフレ対策について:金融政策と所得政策(前回の補遺)

2022年08月29日 15時20分23秒 | 経済
先週金曜日には、ダウ平均が1008ドルの急落で、日経平均のCFDも500円下げていました。
インフレは止めてほしいがそのため金利以引き上げについてのパウエルさんの発言が小幅でよさそうだと感じられれば株価は上がり、やっぱり厳しいぞと受け取られれば、株価は大幅下げです。

土日と2日の休みののち月曜はどうるかと前々回書きましたが、半日早く開く東京市場で日経平均は800円弱の下げ、NYダウのCFDは250ドルほどの下げになっています。

という事は株式市場の現状判断は、インフレ退治は容易でない、金利引き上げで景気減速が強めになりそうだという理解という事でしょうか。
ついでに異次元金融緩和の日本円のレートは138円台の円安に振れています。

市場の反応は「やっぱりインフレ退治は容易でない、かなり景気は冷えるのでは」という危惧感に捉われているようです。

つまり金融政策でインフレを抑えるというのは、金利を引き上げ、流動性も絞って企業の活動をしにくくする、企業活動が消極的になる、コスト管理も厳しくなる、賃金上昇も抑制する、従業員も労組も納得して、賃金が上がらなくなる、賃金コストインフレがなくなるというプロセスが必要なのです。

端的に言えば、景気を悪くするという犠牲を払って賃金などのコスト上昇を止め、インフレを抑えるのです。ちょっと犠牲が大き過ぎると言えそうです。
株式市場はこの犠牲の大きさを先見して、大幅下げなどをやってみせるのでしょう

上の連鎖では、「従業員も労組も納得して」と書いてありますが、現実には納得しないで、賃金上昇を押し通すケースもあります。そうすると「不況とインフレの併存するスタグフレーション」になります。
今アメリカで一番心配されているのはスタグフレーションかでしょう。

ところで、こうした回り回った効果を期待する金融政策に対して、直接 賃金上昇の抑制に働きっ気用という政策もあります。
それが「所得政策」です。

所得政策は1990年代以降あまり聞かれなくなりましたが、1970~80年代、石油危機後、欧米先進国が軒並みスタグフレーションになった時期には経済論争の中心でもありました。

所得政策はIncomes Policyと言われて、所得はsの付く複数です。端的には「賃金と利益」です。
この2つの経済の主要な要素費用を合理的な関係にしようという政策が「所得政策」です。

考えてみれば、極めて合理的な着想ですが、歴史上成功した例はほとんどありません。理由は、欧米では、労使は対立関係にあるというのが通常の概念で、あり現実の意識でもありますから、そんな相談は成り立たないのです。

殆どないと書きましたが、私の知る範囲では、成功例が2つあります。
1つは前回書きました日本の第一次石油危機後の対応です。これは労使が主役です。
政府は脇役、公共料金抑制で協力しますといった程度でした。

2つ目はオランダの「ワッセナー合意」です。これは、オランダで、政府が仲に入り、賃金上昇抑制、労働時間の短縮からパートタイマーの雇用・待遇制度まで法律を改正して、政労使3者の合意として成立させたものです。

ワッセナー合意はネットで詳しく見ることが出来ます。日本の第一次石油危機への対応、就中、肝心の春闘賃上げ率の劇的な抑制についての記述は、殆どありません。多分、このブログの「経営者と政治家」などが最も核心を指摘したものではないかと思っています。