tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

企業・経済が成長できる形:その2

2012年05月30日 13時29分50秒 | 経済
企業・経済が成長できる形:その2
 前回、企業経営や一国経済が成長できる形の基本問題について見てきましたが、ギリシャやユーロ圏で問題になっている国、さらにはフランス、アメリカなども基本的には同列で、G8で論議されたような方針で、そうした国々が、成長体質の国に転換できるのかを考えてみましょう。

 これらの国々は、経済の原則から言えば、経常赤字を垂れ流す過剰消費を減らして、国民経済自体に緊縮体制を敷き、労働分配率を引き下げて、企業が利益が出る、言い換えれば、成長のための資本を自分で用意できるような形、つまり、企業も経済も、成長できる形に再構築し、国民も意識切り替えて、自力での稼ぎの範囲で生活するという意識改革をすることを「本来は」目指していたはずだったのです。

 ところが、ギリシャの選挙でもフランスの選挙でも、国民は緊縮を嫌い、「そんな事を言う政府は変えてしまえ」という意思表示をしたわけです。
 政権はどう変わろうと、経済体質を変える必要は変わらないのですが、政権をとるためには、国民に迎合しなければならいという事で、「成長すれば問題は解決するはずだ」と結果を先に持ってきて、「成長も」という言葉を合理化しようとしているわけです。

 国民は、「これで緊縮は一段落」と安心するでしょう。しかし、足りないお金は何処からか持ってくるしかありません。特に現在は、国際金融資本が、金融取引にレバレッジをかけていますから、金融システムの崩壊を防ぐために巨額な資金を積んで見せなければなりません。それはドイツや日本のような経常黒字国が負担します。

 しかし、利益の出ない赤字企業が成長できないのと同じように、経常赤字の国が成長することは容易ではありません。成長の源である投資をするカネがないからです。それを外国に頼むのですが、長岡藩の米100俵の例えのように、それを将来のために使うのは難しく、多くの場合は、日々の生活で食いつぶしてしまうのです。

 ですから、一応小康状態になったとしても、何が変わったというのでしょうか。金融支援は、いみじくも白川総裁が言う様に、「時間稼ぎ」でしかありません。浪費体質を健全体質に直さなければ、少たつと、また同じことが起こるのは当然です。

 サッチャー改革、レーガン改革、ミッテランの賃金凍結のような荒療治 は、今回は、今の所、見られません。ユーロ安で、その分、ユーロ圏の賃金コストも下がりましたが、緊縮意識が弱まればすぐに賃上げなどで食い潰されるでしょう。

 この面での最先進国、アメリカにしてからが、$1=¥360を、ニクソンショック、プラザ合意、サブプライム・リーマンショックで$1=¥80と4分の1以下に下げても、経常赤字は止まらないのです。

 ドイツでは、「何で勤勉なドイツ国民が、浪費家のギリシャ人のために金を出さなければならないのか」という声があるようですが、経常赤字国の浪費癖は直らず、黒字国はその援助で経済力を使い果たし、誰も成長できないというのが、世界不況の原因でしょう。

 今後中国(人民元切り上げ要求)も含め、アジア諸国も、次第にこの渦に巻き込まれていくのではないでしょうか。


企業・経済が成長できる形とは

2012年05月27日 22時16分43秒 | 経済
企業・経済が成長できる形とは
 前回のブログで、G8で「緊縮も成長も」という路線が選択されたが、虻蜂取らずになるだろうという懸念を書かせていただきました。
 理由は単純で、アメリカ、ヨーロッパ(除ドイツ)の今の経済構造を変えずに、経済を成長軌道に乗せることは、どう考えても不可能と思われるからです。

 そのなかで、「企業や経済を成長させるには、経営や経済を、成長をする形に作り替えることが必要」と述べてきました。今回は、この「成長する形とはどんな形か」という点について考えてみたいと思います。

 経営でも経済でも、やっていることは同じで、それは付加価値 の創造です。そして年々より大きな付加価値を創造することが成長です。
 そして付加価値を創造するのは人間です。人間が資本を活用して付加価値を創るのです。
作った付加価値は、人間と資本に分配されます。人間は分配された付加価値(雇用者報酬)で生活し、資本に分配されえた分を従来の投下資本に追加して活用し、翌年はより大きな付加価値を創造します。この繰り返しが経済成長です。これは経営でも経済でも同じです。

 ではこの単純なプロセスの中で、成長に影響するのは何でしょうか。それはすでに明らかで、創造された付加価値のうち、どれだけが「資本に分配されるか」です。
 極端な場合、資本分配がゼロならば、会社なら利益のない会社、経済なら、追加資本の無い経済で、技術革新も設備高度化も無く、基本的に生産性 は上がらず、したがって、経済成長もありません。

 サラリーマンの先輩がよく後輩にアドバイアスします、「給料もらったら、全部飲んでしまわずに、その中からきちんと自分に投資しなさい、その投資はきっと将来帰ってきます。」人間でも企業でも経済でも同じです。成長の源泉は投資 です。

 少ない投資より、より大きい投資の方が、より早い成長を可能にします。主要な投資の中身というのは、技術開発、設備投資、そして人材開発でしょう。

 そして、より大きな投資を可能にするのは、より大きな資本への分配です。もう1つの分配の対象は労働への分配です。ここで「労働分配率 」の問題が出てきます。「資本分配率+労働分配率=100パーセント」、これは定義です。
 労働分配率というのは、単なる労使関係上の問題ではないのです。経済・経営の基本の基本、「成長」に最も深く関わる問題なのです。

 今の世界経済の不振を解く鍵もここにあります。皆さんもぜひ推論を試みてください。


G8と日本の立場

2012年05月21日 13時57分23秒 | 経済
G8と日本の立場
 キャンプデービッドのG8が終わりました。結論は、みんなに優しいものでした。「緊縮も成長も」は、アメリカにも、フランスにも、ギリシャにも優しいですね。

 優しいのは、ポピュリスト政権の特徴ですが、日本には「虻も蜂も」という諺はありません。あるのは「虻蜂取らず」「二兎を追う者は一兎をもえず」という諺です。虻蜂取らずが懸念されます。

 緊縮なくして成長なし、経済にタダの昼飯はない 背伸びをしたままではジャンプは出来ない 、というのが現実世界でしょう。だとすれば、今回のG8は何だったのでしょうか。日本も600億ドル拠出した、IMFの基金積み増しで借金経済の国々が国民に優しい政策を維持できるのは何年でしょうか。

 企業でも一国経済でも同じですが、成長するためには、企業の財務構造、国の財政構造を「成長できる形」に作り替えることが必要なのです。緊縮はその形を作るために必須の条件です。

 同時に、実はこの方が重要なのですが、従業員や、国民が、今までの安逸な生活から、一転して、成長に向かって頑張るという「意識改革」を行う事が何にもまして重要です。
 緊縮で生活水準を落とすのは嫌だ、失業は困るが、頑張って働こうなんていうのは「アジアのどこかの国」ではよく聞くが、俺には似合わない。緊縮などという事を言うなら政権を変えればいい・・・、では済まないはずです。

 やっぱり家庭でも、企業でも、国でも同じですが、家族や従業員や国民が、確りした意識を持たない限り、経済的破綻は救えません。経済も社会も人間の営為の結果なのですから、基本は人間の心の持ち方が問題なのです。

 ただ、今日の世界経済の仕組みの中では、頑張らなくてもやり繰りのできる便法が発見されているのです。それは、為替レートを自由に変えることによって、頑張っている国の生産性向上分を帳消しにし、その他の国がその分、得をするという仕掛けです。かつての近隣窮乏化政策(為替ダンピング)を、国の政策としてではなく、為替市場にやらせる仕組みです。

 いま頑張って生産性を上げている国は、日本をはじめアジア諸国です。日本人がこんなに頑張るのに、なぜ日本経済は20年も停滞しているのかの原因もここにあります。
 日本からは、野田さんがG8に参加していますが、この辺の仕組みの歴史的な変化が良くお分かりなのでしょうか。


出生率回復に注目しよう

2012年05月14日 12時30分33秒 | 社会
出生率回復に注目しよう
 このブログでは、今日の日本のデフレの原因は、
「円高によって国際比較で高くなった日本の物価が、国際水準にさや寄せするプロセス」という極めて単純で分かりやすい説明をしてきましたが、もっと複雑で分かりにくい説明をする人も大勢います。

 そうした中には、少子化、人口減少で長期的に消費が減るといった要素を重視するものもありますし、それが日本経済の長期低迷の理由だといった説明もあります。
 イギリスから発したらしい「ジャパンシンドローム 」という日本経済の長期低迷状況を表現する言葉の説明の中にも、少子化、人口減少という要素が入っています。

  このように、デフレ、経済低迷の問題には論議の混乱が続いていますが、その中で、ご存知の方も多いと思いますが、合計特殊出生率(女性が生涯に産む子供の数)は、このところ、2005年の1.26を底にして2010年の1.39まで上がってきています。
 遡れば、1.39というのは、1997年の水準で、この5年間で、そこまで回復したという事です。

 厚労省は、いわゆる「いざなぎ越え」で、景気が幾らか回復を見たことによるのではないかといった見方も示し、今後を注目すべきだという慎重な見方のようです。
 その後のサブプライム・リーマンショックでの更なる円高の進行、景気の落ち込みがどう影響するか、確かに心配されるところですが、2011年の合計特殊出生率の発表(今年12月)が待たれます。

   ただ、低下の一方だった日本の合計特殊出生率に回復の動きが見えたという事については、日本中がもっと注目すべきではないでしょうか。
 低下の理由も良く解らなかったのですが、いずれにしても回復の動きが見えたという事で回復の可能性は「ある」という事が明らかになったのです。

 この回復の動きを、日本全体で大事にし、さらに育てることが出来れば、日本の社会の雰囲気も変わるのではないでしょうか。20年後には、その人たちが社会に出始めるのです、出生率の上昇という動きに、国民全体がもっと関心を持つことが、更なる出生率の回復にプラスの効果を持つこともないとは言えません。

 こうした明るい動きの情報を出来るだけ国民全体で分かち合い、混迷状態に日本社会に、少しでも明るい面を見出すこと自体が、社会を明るくする面もあるのではないでしょうか。


背伸びしたままではジャンプできない

2012年05月08日 15時44分46秒 | 経済
背伸びしたままではジャンプできない
 フランス、ギリシャの選挙の結果が出ました。それほど大きな差ではありませんが、矢張り、自分の身の丈の範囲で生活するように心がけよう、という現政権の政策は不評だったようです。

 一度生活のレベルを上げてしまうと、下げるのはなかなか難しく、そこに「私にやられてくれれば何とかしますよ」という無責任でも甘い言葉がかけられると、どうしてもそちらについていきたくなるというのは人情かもしれません。

 オランドさんは、ジスカールデスタンを破ったミッテランを気取ったようだという報道がありましたが、かつてヨーロッパの多くの国がスタグフレーションで、フランスもフランス病と言われた時、最低賃金の大幅引き上げなどを公約にして当選したミッテラン も、最終的には賃金凍結までやらなければならなかったという当時の経験を、フランス国民はもう忘れているのでしょう。

 身の丈以上に背伸びをしたまま『ジャンプして見せます』と公約しても、それは不可能です。経済成長でも人間の跳躍でも、そのための「姿勢」をとることが必要です。背伸びしたままジャンプはできません。オランドさんが公約するようなことは不可能です。

 この分ではギリシャもフランスも経済や財政の健全化は差当たって実現不可能でしょう。こうした傾向がヨーロッパのほかの国にも伝染すれば、ユーロの不安定は今後も長く続き、世界経済の安定化は遠のきそうです。

 EUやIMF、G20は、何か効果的な対策が取れるでしょうか。もともと、権利意識が強く常にコスト高に悩まされ続けて来ているヨーロッパの国々です。ゴタゴタすれば、ユーロ安になって、いくらかは助かるという最近の経験も手伝って、根本治療はますます難しくなるような気がしてなりません。

 そして今後もそのたびに、円高になって、真面目に頑張っている日本がその余波、皺寄せで苦労するようなことでは、日本はとても遣り切れないのではないでしょうか。
 ヨーロッパの問題国が、自主改善の様子を見せないのであれば、そして、EUもIMFもG20も有効な対策が取れないのであれば、日本は、日本自身で、真剣に自己防衛策を考える必要があります。

 今回のヨーロッパの選挙結果は、日本の政策当局に、今後の本格的な円高防止策を迫るものではないでしょうか。


国は人減らしが出来ない

2012年05月04日 12時35分27秒 | 経済
国は人減らしが出来ない
 最近でこそ日本企業も、比較的安易に人減らしを言ったりしたりするようになりましたが、つい最近まで日本企業は、雇用の安定に生真面目に取り組んでいました。
 日経連が独立していたころは「首を切る経営者は腹を切れ」とまで言い切っています。

 企業がこうした努力をしなくなることは、矢張り、残念ながら社会の劣化につながります。雇用の不安定は社会の不安定の大きな要因です。

 ところで、難民を出すような国は別として、国は「人減らし」は出来ません。経営の立て直しには、先ず人員削減が常識の欧米企業で「雇用削減はできません」と言われたら、とたんに困惑することになります。

 先進国では、通常、国民所得の7割程度を人件費が占めています。
 国が赤字ということは、経常国際収支が赤字で、「外国から金を借りなければ国民経済が遣り繰りできない」という事ですから、先ず国内で人件費を減らすことが必要ですが、人を減らせませんから、「失業者を増やす」か「人件費水準を下げる」かになります。

 通常は、企業が人を切りますから、先ず失業率が増えます。ギリシャやスペインのような状態(20%超)です。国民の不満や不安が大きくなり、政権批判やデモにつながる事態です。

 勿論税収も減って、国家財政は悪化しますから、公務員の給与削減とか、社会保障の見直しとか、が必要になりますが、デモは広がり、時に暴動に発展し、政権は大きく揺さぶられることになります。

 当面の財政を賄うためには、先ずは国債発行をしなければならない、という事になりますが、すでに、格付け会社は国債の格付けを下げ、国際投機資本は国債を売っていますから、国債価格は暴落、金利は上昇し、まさに「泣き面にハチ」で、混乱は為替レート(通貨価値の下落)を通じて国際的に広がることになります。

 もともとの原因ははっきりしていて、国民生活のレベルが、国民経済の実力以上になってしまっていることです。対策は、国民経済の生産性を上げる(経済成長促進)か、国民生活のレベルを下げるかしかないのですが、生産性向上には時間がかかり、生活水準の引き下げは嫌ですから、国民のやることは「現政権の批判」ということになります。

 勢いづくのは野党で、「我々に任せてもらえれば」とポピュリストぶりを発揮して、政権獲得を狙います。今起こっていることは、おおよそこんなことでしょうか。


金融政策過信という過ち

2012年05月03日 22時25分03秒 | 経済
金融政策過信という過ち
 前回も指摘したように、昨今の経済政策は、あまりにも金融重視に偏っているようです。  企業でも、一国経済でも、基本は同じですから、解りやすく企業の例で考えてみましょう。 企業が金融援助で救済可能というのはどういう場合でしょうか。

 良く言われるように、企業には黒字倒産というケースがあります。利益は順調に出ているのだが、たまたま資金繰りの計算をミスって、今月入ると思っていたカネが実は来月で、今月の決済資金が足りなくなり、銀行に短期融資を頼みに駆け込みます。

 銀行は、「本当に来月は入るんでしょうね。もしかしたら、先方さんは何か問題があって、払えないじゃありませんか。先方さんが倒産して、お宅も連鎖倒産などいう状態ではないでしょうね。」などという会話があるかもしれません。調査の結果、問題がなければ、短期融資に応じましょう、という様なことになるのでしょうか。

 単なる資金繰りの間違いだったとわかれば、もともと黒字の会社ですから、銀行も融資に応じるでしょう。しかし、黒字でも、銀行が融資を断れば、不渡り、倒産です。

 逆の場合で赤字不倒産というケースもあります。
 売り上げは先細り、人員削減は容易でなく、コストはなかなか減らず、赤字に転落、人件費を支払うと、原材料仕入れの資金が不足、銀行に融資を申し入れ、といった場合です。

 銀行が寛大で、それでも金を貸してくれれば、赤字でも倒産はしないで済みます。しかしそれで問題が解決することはありません。
 現実にはどんな銀行でも経営改善の計画を建てさせ、それが実行可能と判断しなければ、融資することはないでしょう。

 例外的には、「大きすぎて潰せない」とか、東京電力のように、社会での役割を考えれば、潰すことなど不可能といった場合もあります。
 しかし、国も大銀行も黙ってカネは出しません。経営は銀行や政府や社会の監視下に置かれ、再建策がたてられ、企業行動は厳しく制限されます。

 一番大事なのは、その時、その企業がいかに、経営を改革し、コストカットをして、黒字経営に転換できるかです。金融はあくまで、経営黒字化までの時間稼ぎです。

 企業ならすぐ解ることですが、一国経済になると、EUでもアメリカでも、なかなか簡単ではありません、なぜでしょうか。