tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

格差問題と最低賃金

2015年07月31日 10時32分30秒 | 政治
格差問題と最低賃金
 7月末は例年最低賃金の季節ですが、中央最低賃金審議会は小委員会で、29日、今年度の引き上げ額の目安を16~19円とすることを決めたようです。
 全国平均は18円で、昨年14円で大幅引き上げといわれたのを上回り、時給表示になった2002年度以降、最大の上げ幅ということだそうです。

 都道府県別の具体的な金額は、各県の最賃審議会で秋にかけて決まるのでしょうが、このところ行政主導の引上げのようですから、公労使の3者のうち、公と労が賛成すれば、低い県でも16円、東京などは19円引き上げ、あるいはプラスアルファでそれ以上の額になるのでしょう。

 確かに、格差問題が深刻になりつつある日本の現状を考えれば、法的拘束力のある最低賃金の引き上げは、社会的にも支持されるという見方もありうるでしょう。
 しかし、格差かを小さくするということであれば、下を上げ、上を抑えるのでなければなりません。アメリカ並みに上が上がるのを放置では格差社会化は進むでしょう。

 黒田日銀の異次元金融緩和による円安以来、日本の主要企業の業績は大幅に改善、春闘も再開されていますが、増えているのは大企業中心の企業収益、トップ経営者の年俸などといわれ、年収1億円以上の経営者(上場企業)が443人などと報道されています。
 日本もだんだんアメリカ型の経済社会になって来るように感じられます。

 政府が最低賃金引上げを政策にするならば、円安で輸入原材料価格上昇に悩む中小企業の上昇分の価格転嫁の一般化、その政府による奨励・指導なども合わせ行うべきでしょう。電力やガスでは、輸入原材料価格の転嫁は制度化されています。

 更に、雇用構造の積極的な見直し(非正規の正規化を含め)の促進による安定雇用、最賃適用者の削減政策(非正規労働の一般化はまさに反対の政策、格差の固定化、一般化)、ひいては中間層の拡大による社会の安定化策を取るべきでしょう。

 さらに進んでは、松下幸之助さんの時代までとは言わないまでも、累進課税方式へのある程度の回帰、などなどの格差是正のための総合政策を策定し、国民に、安倍総理の口癖のように「解り易く」説明すべきでしょう。

 最低賃金はなるべく高く引き上げる(安倍総理の経済財政諮問会議での発言です)、しかし、その後始末はすべて企業に丸投げ、企業は、困ればなんとか自分で考えるでしょうというのでは、格差問題は解決しそうにありません。
 最低賃金の引き上げは、格差是正という大義名分があるのだから、政府の方針は正しいのだといった政策の繰り返しで良いのでしょうか、官主導の最低賃金引き上げなどという意見を聞くと、先ごろの中国の最低賃金大幅引き上げ政策を思い出したりしてしまいます。

 日本も、アメリカのようになったり、中国のようになったり、いろいろと大変です。

企業の構成者は、株主か? 従業員か?

2015年07月29日 10時19分14秒 | 経営
企業の構成者は、株主か? 従業員か?
 「企業は人間と資本の有機的結合体」、「企業は人間が考え出したもので、人間が資本を使って、社会をより豊かで快適なものにするための装置」、こんな風に私は考えています。

 企業は法人ですが、自然人と同じように、時には悪いこともやります。企業を動かすのは自然人ですからそれは当然です。企業に関係する(構成する)人間は主に、株主と従業者(経営者も含む)です。企業が社会の要請に応える良い企業になるか、悪い・駄目な企業になるかは、企業を構成する人間次第です。

 先ず株主ですが、法律上企業は株主のもの、株主は経営者より上位です。しかし、ここで株主というのは、その企業を応援し、資本を提供する株主のことでしょう。
 私の友人に、シャープを応援している人がいます。シャープの開発力は本物だと言い、液晶の過剰投資で蹉跌、株価が暴落しても株主を続け、テレビもスマホもアクオス、NISAで暴落したシャープの株を買い増し、5年後には復活だ、と応援しています。

 マネー資本主義の今日、こんな株主は減ってしまっているでしょう。内容を知らない企業の株でも儲かりそうなら買い、値上がりしたら売却、売買益しか眼中にない株主が普通でしょう。そして、これが企業経営者に短期利益重視の経営を強いるようです。

 もう一方の企業に関連する人間は、その企業で働く人たち、トップから新入社員、パート、アルバイトまでです。そしてこの人たちは、社会のため、顧客のために働いています。
 株主や銀行(資金提供者)のために働いているという意識はほとんどないでしょう。

 J.バーナムが「経営者革命」を書き、ドラッカーが経営の本質を説き、日本企業の多くが「社会に役立つ」ことを社訓に掲げるように、資本家は後退し、企業は社会のためのゴーイング・コンサーンとなったのです。

 このゴーイング・コンサーンを動かすのは、企業で働く人間集団です。そしてこの人間集団は「経営管理者」と「一般従業員」から成り立っています。
 
 ところで、このブログの主要テーマの1つでもある「労使関係」は、(特に日本的経営においては)企業という人間集団の中の、この2つのグループによるチェック&バランスのシステムとしても発展してきています。2つのグループは、立場は違っても、社会(顧客)貢献という目的は共通です。

 強欲なマネー資本主義の資本提供者より、企業目的を共有する企業内の人間を尊重し、労使関係の切磋琢磨で企業の健全な発展を図ることが益々重要になっているように思われるのですが、近年この切磋琢磨が希薄になっているのが残念です。

コーポレートガバナンスと労働組合・労使協議制

2015年07月27日 09時27分27秒 | 経営
コーポレートガバナンスと労働組合・労使協議制
 テレビのニュースやその解説で東芝の不正経理の問題を取り上げているのを見るたびに、心が痛みます。当期利益のために、経費の先送り、利益の先食い、そして、経営トップが「こういう指示をした」などなど・・・。

 日本のトップ企業の中でも、ここまで短期的視点の経営が浸透してしまったのか、本来の日本的経営の真髄である「長期的視点の経営」は何処に行ってしまったのか。かつて東芝は「中期経営計画」で名を馳せたことがあったと記憶します。

 こうした際に、マスコミではコーポレート・ガバナンスといった外来語しか使いません。解説者ににも「長期的視点の経営を忘れたのか」などという人はいません。
 そして、対策としても、「社外重役をきちんと活用せよ」とか、株主に対する責任を果たすシステムとかが強調されています。

 このブログで繰り返しています「長期的視点に立った経営」「人間中心の経営」といった本来の日本的経営の立場から見れば、もう少し多様な視点があってしかるべきだと感じます、マスコミや、解説者も、日本的経営を忘れていまっているのでしょうか。

 日本的経営の視点では、企業は人間集団です。そして企業の将来はその集団を構成する人間の意識次第です。カネは企業における人間の活動をしやすくさせる「肥料」や「潤滑油」のようなもので、主役ではありません。主役は人間です。

 こうした企業の本来の意義を忘れて、カネを出してくれる株主の事ばかり考えているのが、最近の近視眼的経営でしょう。
 そして、株主自体が、企業の成長発展を応援するために株を持つのではなく、「値上がりしたら売る」ために株を持っているというのがマネー資本主義の世界です。(アメリカの東芝株主の訴訟行動をみて下さい)

 法律的には企業は株主のものかもしれませんが社会(学)的には企業を構成する「人間と資本の有機的結合」が企業でしょう。これを動かすのはすべて構成する人間の知恵なのです。その力で企業は社会を「より豊かで快適なもの」にしているのです。

 しかも、日本の多くの企業には、企業別労働組合があります。組合が無くても、かつては世界に誇った「労使協議制」がありました。
 社外重役も良い制度でしょう。しかし、自分の職場を知り尽くした従業員との『話し合いのシステム』としての、経営者と労組あるいは従業員代表との労使交渉、労使協議制の活用によるチェック&バランスのシステムの構築といった、本来の日本的経営の知恵を日本の企業が忘れてしまったとすれば、余りに勿体ないのではなしでしょうか。

 労働組合にも、経営者と相対し、より良い産業・企業活動の片翼を担うものといった従来の役割、それを果す気概を改めて期待したいと思います。

改めて国民の意思を問うべきでしょう

2015年07月25日 09時24分25秒 | 政治
改めて国民の意思を問うべきでしょう
 最近の安倍政権の行動はどうも私の目にも余ります。国民の意思に反すると思われる行動が多いからです。
昨年、安倍総理は、自ら「アベノミクス解散」と称して、総選挙をやりました。その時はこんな発言でした。

 「アベノミクスを前に進めるのか、止めてしまうのか、それを問う選挙だ。私たちの経済政策が間違っているのか、正しいのか、ほかに選択肢があるのか国民にうかがいたい」

 民主主義の王道である選挙による国民の意思の確認ということだと思います。

 これに倣えば、今回も「集団的自衛権解散」をやって民意を問うべきでしょう。国民がアベノミクスに賛成していたのだから、集団的自衛権にも賛成だ、ということには、必ずしもならないでしょう。

 国民の意に叶うことで多数を取れば、あとは、数を頼んで何でもできるというのは民主主義、選挙制度の悪用ということではないでしょうか。

 安倍さんは、安保法制についても「国民の付託を得たと考えている」と答弁していますが、心なしか自信がなさそうでした。政治でも経済でも「無理」は禁物です。国民の意思を大事にしたほうが、後々名宰相といわれるようになるのではないでしょうか。
 

「双子の赤字」は金融政策で救えるか

2015年07月23日 09時18分20秒 | 経済
「双子の赤字」は金融政策で救えるか
 双子の赤字というのはご存じのように財政赤字(政府が赤字)と経常収支赤字(国民経済が赤字)が重なっていることです。

 これが発生する原因は、通常、こんなことでしょう。経済が停滞して国民が政府に景気対策を要求、政府はこれに答えてケインズ政策(財政支出による景気の下支え)をやります。
 もともと景気が悪いので税収も上がりません。それでの財政支出の資金調達のために政府は国債を発行して借金で賄います。財政赤字の発生です。

 国債はその国の銀行や国民が買いますが、外国人も買います。国債を沢山発行して国内で消化しきれなくなって、外国人に買ってもらうようになると経常赤字が発生します。つまり政府の借金が国内の貯蓄で賄えなくなって、外国からから借金をするという状態です。
 これで、財政赤字と経常赤字の双子の赤字になります。

 こうした状態が「金融の緩和」で救えるかどうかが、ここでの問題です。
 国でも会社でも家計でも基本は同じですが、赤字になると支払いに支障が出、経済活動がその分ストップします。しかしカネを貸してもらえれば、経済活動は続けられます。
 その意味では、確かに金融の緩和で赤字問題は救えるでしょう。

 しかしそれは当面の話です。そのまま行けば、どうなるかは誰の目にも明らかです。赤字が増えて、借金が大きくなるだけです。
 問題の発生の原因は赤字体質ですら、赤字を直さなければ、問題は解決しません。ですからドイツやEUがギリシャに「緊縮」(節約)を要求し、ギリシャも渋々納得したのです。

 ところでアメリカの場合を考えてみましょう。1960年代末から、50年近く経常赤字国で、双子の赤字で苦しんでいます。しかし、世界一の経済大国で、基軸通貨国ですから、それなりの信用はあります。そこで世界中からカネを借りてやりくりしていきました。
 しかしリーマンショックで信用がなくなり、外国から借金できなくなって、金融緩和(ドルの供給増加)で凌ぎました。

 金融緩和のお蔭で、アメリカ経済は元気になりました。シェールオイルも出て、赤字もかなり減りました。しかし、まだ毎年GDPの2~3パーセントの経常赤字です。
 金融を緩めれば、経済が元気になって、生産性が上がり、黒字国になると考えていたのでしょうが、そう簡単ではありません。

 ならば、もう1つの金融政策、「ドル切り下げ」という意見が出てきます。ドルを切り下げれば、アメリカの国際競争力は相対的に強くなり黒字化の「可能性」が出てきます。
 先日朝日新聞の「クルーグマンのコラム」でクルーグマン(ノーベル経済学賞受賞者)は、強いドルの必要はない、ドルの価値を下げればいいのだ、と言っていました。
 でも、国際経済関係というのは、それでいいのでしょうか? 次回はその点を考えてみましょう。

ギリシャ問題の現実とアメリカ

2015年07月21日 11時24分36秒 | 経済
ギリシャ問題の現実とアメリカ
 ギリシャ問題も、当面落ち着いたようです。本当に落ち着くかどうかは、ギリシャが緊縮政策をきちんと取れることが分かった時でしょう。

 チプラス首相のやったことはよく言う「マッチ・ポンプ」で、緊縮を強いるECBやユーロ圏財務相会合に反対し、緊縮政策反対の国民投票をやって圧勝しました。国民は当然緊縮などはやらなくて済むようにと「反対」の投票をしたわけですが、「圧勝」を掲げて交渉にかかったチプラス氏は、結局「緊縮」を飲まされ、国民に「ヤッパリ緊縮は必要」と説得しているわけです。

 ユーロ圏サイドも一枚岩ではない様で、厳格な対応のドイツ、そんなにきつくしなくてもというフランス、それに大西洋の向こうから、アメリカが、「あんまり厳しくしない方がいいですよ」と口出しといった状況です。

 先に「経済にタダの昼飯はない」と書きましたが、このプロセスの中で感じたのは黒字国ドイツは厳格、対応の甘いフランス、アメリカは経常収支赤字国という色分けです。
 つまり稼ぎ以上の生活をして、その分「ツケ」がたまってしまって返済できないギリシャに対し、ギリシャほど膨大ではないが、それぞれつけをためているフランスやアメリカは「同情的」という傾向です。

 そしてこの問題に関しては、2つの問題認識の分野があるようです。
 1つは、あまり厳しくして、ギリシャをロシヤや中国サイドに追いやるのは得策ではないという、最近見えてきた新しい東西対立の構図の中での戦略的な政策です。
 そしてもう1つは、純粋に経済的なもので、こうした赤字国の救済や改善は「金融政策で可能」なので、そちらの方法を考えるべきだ、というものです。

 ロシアが石油のパイプラインを材料にギリシャに接近するという見方はよく言われますし、中国が一帯一路政策の中でアテネを目指すなどという意見も聞かれます。
 チプラス氏は「ギリシャはヨーロッパから離れない」と言っていましたが、これは、政治・経済の意味なのか、地理的な位置の意味なのか解りません。

 かつて問題にされたユーロ圏の赤字国、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアは経常黒字を取り戻し、経済成長もプラスに転じつつあるのですから、もうひと頑張りなのでしょうが、矢張り、分不相応な支出による借金の「ツケ」は何とか自力で返す努力をするという意思があって、はじめて援助も期待できるというのが常識でしょう。
 ということで、次回は「金融政策で解決できる」という見方を検討したいと思います。

経営の長期視点と短期視点 2

2015年07月19日 11時03分00秒 | 経営
経営の長期視点と短期視点 2
 前回は日本的 経営の基本になっている考え方について、旧日経連が出した「これからの経営と労働を考える」をベースに見て来ました。

 経営における「長期視点」と「人間中心」の理念は、日本的経営の基本理念と認識されていますが、考えてみれば、これはエクセレント・カンパニーに共通した理念なのでしょう。アメリカでもヨーロッパでも、優れた企業は人を育て、長期に存続発展して来ています。

 しかし残念なことに、アメリカが経常収支赤字国に転落を明確に(1970年)して以来、先ず当期利益、そして資金繰りが目先の重大事になり、その手段として発達したマネー資本主義、金融工学によるキャピタルゲイン指向が、時価会計やキャッシュフロー重視の会計原則を生み、短期視点の経営が増えてきたことは否定できないようです。

 賃金・報酬の支払いなどでも「成果主義」が言われますが、成果主義は、通常前期の成果を対象としたもので、3年後、5年後を見通し将来の成果を高めていくような視点のものではありません。

 現実問題として、長期的な経営視点をないがしろにして、当期利益の極大化を図ろうとすれば、それは不可能なことではありません。今までの会社の積み上げた成果を当期利益に集中して実現し、さらには将来への投資を怠り、将来にコストを負担させて今期の利益を極大にすること(利益の先食い)は、やりようによっては十分可能です。

 悪く言えば、「あとは野となれ山となれ」方式の経営ということになります。世界のGMを巨大な債務超過企業にしたり、リーマンブラザーズ破綻で世界中に迷惑を掛けたりといったことはそうした経営の典型でしょう。

 環境問題では「サステイナブル=持続可能」ということが至上命題となっています。であってみれば、経済・経営問題における「サステイナビリティー」も、その経済の中に住む人びと、その企業で働く人びとにとっては至上命題でしょう。

 世界経済は1960年代の高度成長期から、1970年代以降のインフレ、スタグフレーション、さらに低成長・デフレ模様といった停滞期に入り、一国経済も、企業経営も短期的視点になり、マネー中心、人間は手段化といった誤った方向に進みつつあるように感じる人も少なくないのではないでしょうか。

 そうした中でも、日本経済、日本企業はそうした動きに流されず、「長期的視点に立ち」人間中心」の理念で着実な成長発展に進んでほしいものです。
 それがひいては、世界に役立つことになるのではないでしょうか。

経営の長期視点と短期視点 1

2015年07月16日 13時56分35秒 | 経営
経営の長期視点と短期視点 1
 前回、日本的経営の基本は「長期的視点の経営」と「人間重視の経営」と書きました。かつては、日本的経営というと「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」といわれていましたが、これは戦後アベグレンが言い、OECDの対日調査報告書が取り上げたものです。

 その後多くの論議があり、今では、冒頭の2つが日本的経営の基本理念になっています。
 文献を辿っていって解るのは、これを最初に掲げたのは、平成4年(1892年)8月に日本経営者団体連盟(通称「日経連」)が発表した『これからの経営と労働を考える』(「これからの経営と労働のあり方を考える特別委員会」編)です。

 この報告書によれば、この委員会は、当時王子製紙会長だった河毛二郎氏が委員長を務め、主要企業の首脳役員28名を集めた特別委員会(通称「河毛委員会」)でした。

 序言にあたる「発表に当たって」には、「就任されたばかりの日経連の永野新会長の発想によるもの」と書いてあり、「期せずしてこの1年間は、日本的経営についての多くの見解が出され、見解が述べられましたことは、ことの重要性と必要性を物語っております。」と書いてあります。

 この委員会が始まった1991年は土地バブル崩壊の年です。株価は1989年がピークでしたが、地価崩落は融資の「総量規制」(1990年)の導入がきっかけで、株価に2年遅れています。
 今にしてみれば、いわゆる「失われた20年」の入り口のとして、日本経済の変調が現実問題として意識され、その中で、経営者や経営学者にとっては「日本的経営」をどう見るかが問題になったのでしょう。

 『これからの経営と労働を考える』ではバブル経済とその中での経営の在り方を反省、今後の経営の方向を検討、「変えてはいけないもの」として冒頭の2つ(原文では「人間中心」)を挙げ、それをベースに経営、労使関係、新しい経営者像に言及しています。

 「長期的視点の経営」と「人間中心の経営」は、相互に関連していると考えられます。本来、日本企業は企業を育てるために人を育てることを重視してきました。
 人を育てるには時間がかかります。企業は長期雇用を重視して人を育て、優れた人材を擁してはじめて長期的な安定発展を実現できると考えていたからです。
 
 ドラッカーが驚嘆したように、日本は諸外国に比して寿命の長い会社が極端に多いという特徴を持っています。それが当たり前と考えられているのです。

日本にいる我々は気が付かないかもしれませんが、そこに日本的経営の本質があると見るべきなのでしょう。
 次回、この問題をもう少し具体的に見てみましょう。

人材育成と人事異動

2015年07月13日 09時58分55秒 | 経営
人材育成と人事異動
 東芝の不適切会計の問題で、カンパニー制に問題があるのではないかと意見が出ています。
 御存じのように、カンパニー制というのは企業内の仕事別の組織を、あたかも1つ1つの会社のように区分して「カンパニー」とし、それぞれのカンパニーが、それぞれに頑張って収益を高めようというものです。

 確かに儲からない部署が、儲かる部署に依存して、全体で収益が上がっていればいいといった安易な意識はなくなるでしょう。しかし一方で、縦割りが強化され、カンパニーの独立性が強まり、カンパニー間のコミュニケーションが悪くなり、全社的な協力体制が失われるなどの欠点も指摘されています。

 組織の在り方などは、どんな形を取っても、長所と欠点があるのは当然で、それを巧く調整し、部分と全体が整合的に全体目標に向かって一体化するようなリーダーシップ発揮するのがトップ経営者(経営陣)の役割でしょう。

 しかし、今期とか来季の利益向上といった短期的な目標に縛られると、往々誤りを犯すことにもなります。日本の経営は、本来「長期的視点に立った経営」、「人間重視の経営」の2本柱が根幹といわれますが、このところ欧米方式の短期的利益が重視され過ぎるケースがあることは残念です。

 いつも書いていますが、企業はゴーイングコンサーンとして長期に安定して発展していくことを求められています。そしてそのために最も必要とされるのが人材の育成です。
 技能のレベルも、技術開発も、組織や経理・財務の管理も、人事管理や労使関係も、そして、それらをトータルに統括する経営者も、全てそこで仕事をする「人間」の心構えやあり方が成否を決めるのです。

 「企業は人なり」と言い、日本企業は長期雇用を前提に人材育成を企業発展の根幹と考えてきました。そして、その中で編み出されて来た重要な政策に1つが、日本的な人事異動のシステムではなかったでしょうか。
 
 総務や経理がうるさ過ぎると文句を言っていた人間が総務や経理に異動になったり、労組の執行委員が人事課長になったり、日本企業は結構融通無碍でした。そして、こうした経験が全体のバランスを理解するうえで大きな役割を果していたのでしょう。

 当面の利益も大事でしょう、しかし、企業というのは、現場からトップまで、人間が動かしているのだという企業活動の原点を考えれば、企業の将来の成長発展のために、どのような人材を育成するかが企業の最も重要な仕事なのだという観点を見誤らないようにしたいものです。

機械受注の安定的な増加

2015年07月10日 11時39分42秒 | 経済
機械受注の安定的な増加
 ギリシャ問題はそろそろ大詰めのようですが、中国では株価急落問題が起こり、日経平均も乱高下の連続です。
 話題としてはマネー問題は派手ですが、実体経済は地味です。その実体経済は比較的安定で、日本の場合は特に、安定した成長路線を辿りつつあるようです。
 
 昨日、5月の機械受注統計が発表になりました。機械受注統計は景気の先行指標の1つですが、5月は前月より0.6パーセント伸びて(船舶電力を除く民需)、リーマンショック前以来の最高を記録したとマスコミは報じています。

 前年同月比でみるともっとはっきりしますが、昨年5月比で19.3パーセントの伸びです。先日(7月1日)の日銀短観について見たこのブログでも、企業の投資意欲の強さを指摘しましたが、日本の企業もいよいよ積極経営に進み始めたようです。

 もちろん海外投資も今日では当然視野の内ということではあるでしょうが、国内投資はお休みしてでもというのは、円高に苦しんだ2012年ぐらいまでのことで、状況は次第に変わって来ています。

 かつて製造業の国内回帰の例として挙げさせていただいたダイキンの空調機器についても、製造時間半減で国内体制確立といった報道も最近ありましたし、日産自動車が国内生産を大幅に増やすという報道も、今日の新聞でした。

 こうした国内投資は$1=¥120といった状況、円レートの正常化の下で可能になるというのは当然ですが、同時に、単なる拡張投資ではなく、多様な技術革新を組み込み、織り込んだ、新しいモノづくりの在り方、新しい機能を持った製品の生産と常に同時進行で進んでいるのです。それが強さの源泉でしょう。

 マスコミは、鬼面人を驚かすようなマネーの話が多くなるのは致し方ないとしても、こうした実体経済の動向に常に注目しておくことが本当は大事のような気がします。

 同時に、以前から書いていることですが、実体経済の発展に役立つための金融・マネー経済が、投機的な動きに走る結果、実体経済を毀損するような行き過ぎた状態に陥る(典型はリーマンショック)ことに対する厳しい判断を、国際金融機関、各国政府はじめ関係業界、そして広く一般国民も堅持したいものです。

平和な地球のためのエネルギー問題

2015年07月08日 14時56分13秒 | 科学技術
平和な地球のためのエネルギー問題
 九州電力の川内原発の燃料棒の装填が始まりました。化石燃料や原発は人類のエネルギー確保の過渡的な手段と考え、最終的には自然エネルギー(再生可能エネルギ―)で人類社会が回るように技術開発を急ぐというのが基本的なエネルギー政策の方向でしょう。

 必要なのは、客観的、合理的な判断に立って、出来るだけ早く自然エネルギーを効率的に活用する技術を開発することではないでしょうか。
 幸いなことに、日本は世界でもその先端に立っている国の一つです。そして現状は長期の不況を脱し、技術開発にも多くの原資を振り向けられる状況になって来ています。

 紛争の絶えない地球上の人類社会ですが、大多数の人間は、紛争の無い平和な社会を望んでいます。しかし、これまでのエネルギー政策が続く限り、エネルギー確保が紛争の種になる事は目に見えています。

 地球上、我々の活用できるエネルギーはすべて、太陽から無償で与えられているもので、今の人類は、そのごく一部を利用しているにすぎません。人類がその能力を適切に発揮して、太陽が与えてくれるエネルギーを、現実に活用可能なエネルギーに効率よく変換することが出来れば、エネルギー争奪に関わる紛争は雲散霧消でしょう。

 かつて人類は、版図拡大が豊かになるための必須条件と考え、国土の拡張、植民地獲得に走りました。しかし第二次大戦後、敗戦で狭い国土に押し込められたはずの日本やドイツ(西ドイツ)などが、国土や資源に関わらず、驚異的な経済発展を遂げたことが、人類の意識を変えたようです。

 多様な技術開発によって生産性を上げ、多くの付加価値を創り出せば、人類は豊かで快適な社会を実現できることが実証されたのです。

 こうして、国土(領土)面積は大きな関心ではなくなりましたが、残念ながら、資源問題、特にエネルギー問題については旧態依然の意識が残っているようです。エネルギー獲得競争に関わると思われる紛争が後を絶ちません。

 戦後、狭隘な国土で世界の経済大国にまで駆け上がる実績を上げた日本です、ここで、エネルギーについても、優れた技術革新で太陽エネルギー活用における生産性向上に先駆け、エネルギー確保が、国際紛争の種にならないような新しい視点での「平和追求国家」になれないものでしょうか。
時間も金もかかるでしょうが、トライする価値はありそうです。

残念だったギリシャ国民の選択

2015年07月06日 10時19分20秒 | 政治
残念だったギリシャ国民の選択
 ギリシャの国民投票の結果は残念なことになりました。
 緊縮やむを得ないという常識を持つ人が多いという観測の時期から、賛否拮抗という投票直前の状態、そして結果は61対39で緊縮受入れ拒否でした。ムードが高潮する中で、良識や理性の後退が見られたようです。

 国民の選択は何を齎したかというと、結局何も齎さなかったのです。すべて「ふりだし」に戻ったのです。新規蒔き直しで「現状」から再出発ということでしょう。

 経済の面から言えば、「それだけのこと」ですが、政治とか国際戦略という立場からすれば、何かが変わるという期待もあるのでしょうか。

 EUが支援しないのなら、こちらでやりましょうかという筋もあるなどという見方もありますが、矢張り「経済にタダの昼飯はない」のでして、善意だけで無償でギリシャを援助しましょうなどということはあり得ないでしょう。

 単に問題を先延ばしするだけのことに終わった国民投票、本当に残念な結果でした。

難しくなるか、中国経済

2015年07月06日 08時19分14秒 | 経済
難しくなるか、中国経済
 中国の株価が下落を続けています。すでに上海市場は3割の下げ、ストップ安、取引停止企業続出など混乱が続いているようです。

 中国では5年ほど前から信用取引が導入されたそうですが、信用取引が急激に膨らんだのはこの1年ほどで、取引額は、この1年で5倍に増えたと言われています。
 しかも、取引主体は圧倒的に個人投資家が多いということで、当然風評などに左右される不安定性が大きくなる可能性があります。

 中国の経済政策の流れを見ますと、低賃金を活用した世界の工場の時代から、不動産市場の拡大が経済を支える形の沿岸地区の主要都市の再開発、内陸部の住宅・都市開発などで10パーセント近い経済成長を維持してきました。
 東京オリンピックの前の日本の東京再開発を髣髴させるような光景を中国でご覧になった方も多いと思います。

 こうした経済開発は当然不動価格の高騰を齎します。日本もそうでしたが、中国も明らかに不動産バブルによる経済成長に突き進んだようです。
 その中でインフレも実質的にかなり進んだようです。かつて流通していた1元の硬貨は立派でした。こんなものが1元以下で出来るのかと思いましたが、何年か前から入手が難しくなり、流通するのは紙幣になりました。

 そして中国は世界の工場から、より付加価値の高い経済を目指して構造改革に舵を切ったのでしょう。しかし、共産党一党支配のもとで出来上がった既得権の構造は容易に改革できないようです。

 一方中国の富裕層は、欧米に似て、日本人などよりマネーゲームにより親しみ易いようで、不動産投資に走り、不動産バブルに翳りが出た今、政府が経済成長維持のためにとった金融緩和策に乗って、今度は株式投資に走ったようです。
 そして行き過ぎた株価が、最近の暴落状態を齎したというのが真実に近いのではないでしょうか。

 経済の本来から言えば、高付加価値経済への構造改革が進んで企業の業績が上がる展望が開け、株価に反映するという順序でしょうが、実体経済より金融が先走りますと、経済は必ずギクシャクします。
 巨大な国だけに、また、政治、さらに地政学的な問題も孕むだけに、益々慎重な観察が必要になるような気がします。

ギリシャの国民投票:問われる国民の資質

2015年07月04日 10時22分57秒 | 政治
ギリシャの国民投票:問われる国民の資質
 ギリシャの国民投票が明日に迫りました。
 ユーロ圏が要請する緊縮政策に反対して、他国からの支援を頼りに国の実力以上の生活を続けたいというチプラス政権の主張を、ギリシャの国民が支持して、緊縮は「ノー」というか、「分」を知って、緊縮を受け入れるかが決まります。

 チプラス政権が誕生した時に、口に苦い「良薬」などは飲まないと言って当選したチプラス氏が、かつてのフランスのミッテランのように、最後は国の将来を真面目に考えるリーダーになれるかどうかと書きましたが、現状は無理のようです。

 アメリカのような大国でも、ギリシャのような小国でもNGRは確り考えるべきというのがこのブログの主張ですが、ギリシャ国民がチプラス首相の扇動に乗って「ノー」というか、冷静に客観的に合理性のある「イエス」(ユーロの言う緊縮策の受け入れ)というか、まさに、ギリシャ国民の意識、その根底になる資質が問われているということでしょう。

 結果が解るのは日本では明後日でしょうか。ギリシャ国民の良識を信頼しつつ(結果的には信頼できると思っていますが)、EUのためにも、ギリシャのためにも、プラすとなるような結果が出るよう、確り見守りたいと思います。

日銀短観:安定成長を示唆

2015年07月01日 23時22分59秒 | 経営
日銀短観:安定成長を示唆
 7月1日、日銀は、今年度(2015年度)、4~6月の全国企業短期経済観測調査(短観)の結果を発表しました。
 マスコミでは製造業大企業の業況判断のDIが3期ぶりに好転し、これまでの12から15になり、先行きの予想は16と業況改善の状況を短く報じましたが、短観はいろいろな内容の調査がありますので、もう少しこのところの日本経済の実態、企業経営の状況を見ておいてもいいと思います。

 非製造業の大企業の業況は更によく、DIは前期の19から23に改善、先行きも21で、当面堅調の様相です。中堅、中小は比較的弱気(控えめ?)の判断が多い傾向がありますが、全産業、全規模の数字を見ても、前期7、今期も7、先行きも7と安定状態です。

 業況判断のベースになると思われる「売上高経常利益率」の計画値を見ますと、今年度上期下期とも、製造業大企業は7パーセント台、非製造業は5パーセント台後半でほぼ安定、全産業全規模でも4.5パーセント前後の安定した計画値になっています。

 企業の成長意欲を示すとみられる「設備投資計画」について見ますと、「ソフトウエアを含む設備投資額」の伸びが大きく、2015年度は対前年同期比で、製造業大企業17.3パーセント、中堅企業14.1パーセント、中小は今年度はマイナスとしていますが、全産業全規模で5.6パーセントの増で、2014年度の4.6パーセントを上回っています。

 金融面では、資金繰り判断も、金融機関の貸出態度についても厳しさ感はなく、全産業全規模のDIも12で安定です。
 一方、雇用についての判断は、全産業全規模で、今期がマイナス15、先行きがマイナス18で不足感が圧倒的に強くなっています。

 この状況判断を反映して、新卒採用計画について見ますと、全産業全規模、前年度比で、今年度は12.9パーセント増、来年度も5.2パーセント増となっています。

 企業の先行き判断として、いろいろな指標はありますが、矢張り求人意欲が強いということは、企業が先行きを期待しているということの証左ではないでしょうか。

 政府も「骨太の成長政策」などを打ち出し、安定した経済成長の継続を狙って(願って)いることは明らかです。
 海外はいろいろですが、真面目に頑張る日本人、日本産業です。日銀短観による企業の状況も、安定した成長の実現の可能性を示唆しているように思われます。