tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

現場に見るグラミン銀行

2010年09月30日 12時49分33秒 | 経済
現場に見るグラミン銀行
 ユヌス総裁のノーベル平和賞受賞(2006)でグラミン銀行は世界的に有名になり、こうしたマイクロファイナンスは、バングラデシュを始発点に世界に広がっているようです。
 今回、ダッカ郊外のグラミン銀行の支店を訪問することが出来、グラミン銀行の現場での活動を見る機会を得るという幸運に恵まれました。

 グラミンの融資を受けられる条件は3つ、「農村地域」 「地主でない」 「女性(1家族1人)」で、加入者(メンバー)は全国800万人だそうです。
 こうした女性が近所で5~7人(メンバー=借り手)のグループを作り、これを「ベースグループ」として活動の原点にします。10ほどのグループが集まったものを「センター」、70~80のセンターを統括して、貸出・預金業務を行うのが「支店」です。

 訪問した支店は、農村の一軒家。日本の一般の住宅程度のモルタル二階建ての家で、支店長1、副支店長1、それに7人のセンターマネジャーが、668のベースグループの面倒を見るという仕組みです。地域の対象女性の7割がメンバーとのことでした

 近くのセンターの集会を見ました。総数85人のメンバーのグループ代表を中心に30人余が出席して、週1回の定期集会。借金の返済が週1回なので、グループ代表に通帳と返済金を預け記帳してもらうと共に、四方山話、情報交換の場です。

 意見を聞いてみると。
・最初2000タカ(1タカ1.3円)借りて牛1頭を買った。今は55,000タカ借りて、夫が野菜をダッカに売りにいく仕事をしている。
・住んでいる土地を買うことが出来、今は大きな資産になった。
・以前は藁の家に住んでいたが、今はレンガの家に住んでいる。
・子供を大学まで行かせることができた。

 集まった女性たちは大変元気で、発言も活発、グラミン銀行の仕事はまさに農村に根付いているようです。ちょっと気になったのは、以前は金を借りて牛を育てていたが、今は、借りたカネで夫や息子が土地の売買をやっているという答が2人あったことでした。

 日本にもあった無尽や信用組合の原型のような地域金融組織を全国ネットにしたところが、大きな影響力を持つ組織への進化の原点でしょうか。
 訪問した支店の場合、貸し出しの3倍の預金量があるとの事で(これは本店に預託)、前記集会の出席者の中でも、半数強の女性が「借り入れより預金のほうが多くなっている」と答えてくれました。

 貸し金の完済率は98パーセントだそうで、地域社会のグループをベースにしていることが、それを可能にしているのでしょう。真面目な国民性もあるように思えました。


バングラデシュも成長の途に

2010年09月29日 13時40分14秒 | 経済
バングラデシュも成長の途に

 たまたま、バングラデシュを訪問する機会を得て、ダッカを中心に、いろいろな所を訪問し、発展に燃える息吹を感じてきました。

 以前からアジア諸国からの研修生に接する中でバングラデシュからの研修生にも接してきましたが、素直な感じの良い人が多いように思っていました。今回直接訪問してみて、その感じが間違っていなかったことを実感しました。

 ダッカはまさに雑踏の街でした。北海道2つ分の国土に1億3000万人と、人口密度世界一を誇り、今やダッカに集中する人口です。どこにいっても沢山のヒト、ヒト、ヒト。
 しかし中に入ってみても、あまり圧迫感はありません。バングラデシュの人たちは、他人にぶつかるのを避けるようです。狭い路地でも必ずお互いによけて通ります。日本のかつての傘傾げを連想させるようなところがあります。

 そして街でも、郊外でも道路を埋め尽くす車。最も多いのは三輪車の後ろの座席に幌をつけたrikisha(人力車)、インド輸入のオート三輪タクシーがその10分の1ぐらい、インドのモータリゼーションの先鞭をつけた20年も前のマルチスズキの軽自動車のぼろぼろの中古車タクシーなど小型乗用車のタクシーが少数、周りの鉄板の塗料がはげ、ぼろぼろになっても元気で走っている大型路線バス、それに沢山の大型トラック、そしてその中を泳ぐ日本の小型乗用車、中にはピカピカの新車も少なからずあります。

 そうした車の洪水の道路を、悠々とあるいは、巧みに横断する人たち。多くのアジア諸国の経済成長開始の初期に見られた、おなじみの風景です。

 ホテルでも、レストランでも、人びとは愛想がよく、人懐こく笑いかけてきます。日本は、バングラデシュが独立した時、最初に承認した国だと聞きましたが、日本に好感を持っている人も多いようです。

 車の多いのは、北部でLNGが取れるからだそうで、ある程度の収入があれば、無理しても車を買ってしまえば、燃料代は何とか出せるというような状況なのだそうです。

 竹を1階分の長さに切って、それを林立する支柱にして2階の床になる型枠にセメントを流す、次は3階・・・・といったビル建築はいたるところで進行中。郊外にはレンガ工場の煙突が林立し、農村でもレンガの家(かつては藁の家)が増加していく。ノーベル賞を貰ったユヌス氏のグラミン銀行 がそれを支援する。

 経済成長は年率5~7パーセント、10年後には所得倍増でしょう。1億を超える人口の新興国が、またアジアで成長を開始するようです。


資源価格の高騰と円高

2010年09月15日 13時10分45秒 | 国際経済
資源価格の高騰と円高
 中国は、世界のレアアースの90パーセントを供給しているといわれます。その中国が、今年に入ってレアアースの大幅な輸出削減を打ち出しました。その結果、ネオジムをはじめ、レアアースの価格は軒並み高騰、関連業界は大変な状態と報道されています。

 折しも、一方では円高が進行、口先介入もたやすく見破られて、$1=¥82台まで来ました。今日は介入で少し戻しましたが、単独介入でどこまで出来るのか、予断を許しません。
 資源価格が上がったら、円高で多少対抗できるといった理屈も成り立ちますが、資源価格の高騰と円高と比べたら、円高の方が圧倒的に恐ろしいようです。

 資源価格の高騰は、世界の富(実質GDP)が、資源の消費国から資源の生産国へ移転するという効果を持つもので、これはかつてのオイルショックの結果、広く知られることになりました。

 ところで、ここではっきり認識しておくべきことは、原油が高騰しても、レアアースが高騰しても、こうした資源価格の上昇は世界の消費者・消費産業に共通だという事です。たとえ産出国の企業でも、使うときは通常、国際価格で買うことになります。
 
 さらに、過去の経験から見れば、日本の場合は資源高騰に対抗する2つの得意技を持っているようです。
1つは、海外インフレを国内インフレに転嫁しない ための労使をはじめとした社会的ノーハウ
2つは、価格の高騰した資源を節約するための技術開発力や社会的適応力です。

 1つ目は、第1次オイルショックの後の失敗に学んで第2次オイルショックを賢明な対応で乗り切ったことで実証されています。対応に失敗 してスタグフレーションに苦しむ欧米を尻目に「ジャパナズナンバーワン」と言われました。
2つ目は、オイルショック後の省エネの徹底のように、対応する技術を徹底的に追及する真面目さです。すでにネオジムの使用量を数分の1にする技術開発に向かっている企業もあります。
 資源価格の高騰は、世界共通の問題で、日本は、他国より優れた対応力を発揮して、ピンチをチャンスに変えてきた経験済みの問題です。

 一方、円高は、日本だけが差別的に不利になり、他国はその分有利になるもので、対応策は企業のコストダウンに任されてしまっているのが現状で、日本経済社会に大きなマイナスをもたらしている全く未解決の問題です。

 今、日本が真剣に、しかも早急に対応策を考えなければならない問題は、円高にいかに対応するかという「社会的」あるいは「経済政策的」な技術開発でしょう。政府か、学者か、官僚か、労使組織か、・・・・・、日本人の知恵が問われています。 


アオマツムシ(青マツムシ)

2010年09月13日 10時16分49秒 | 環境
青マツムシ(アオマツムシ、青松虫)
 昼間は真夏日でも、朝夕は、やっと涼風が感じられるような先週末、異常気象の今年でも、矢張り季節は争えないなどと思いながら、駅から家路を「一番好きな道は帰り道」などというコマーシャルを思い出しながら歩いてきました。

 気がつくと、「やっぱり、季節は正直」です。街路樹の上から「リー、リー、り-」と青マツムシの声が一斉に降り注いできます。

 この声を聞くと、若い頃、ジャカルタやクアラルンプールの空港に夕方着いて、さてホテルまで、送迎車があるか、タクシーか、などと考えながら空港の外に出ますと、生暖かい空気の中で、暗くなった木々の梢から、うるさ過ぎるほどに「リー、リー、リー」と降ってきた、あの熱帯特有だった青マツムシの鳴き声と猥雑な雰囲気が、一瞬よみがえってきます。

 いつごろからか、青マツムシが日本に入ってきました。輸入木材と一緒に、卵か幼虫か成虫か知りませんが入ってきて、ここ、国分寺の駅から我が家への「帰り道」沿いの街路樹の上からも、強烈な鳴き声を聞かせてくれるようになりました。

 青マツムシといっても、鳴き声はマツムシの「チンチロリン」ではなく、「リーン、リーン」となく鈴虫により近いもので、ただ、直線的に、強く鳴いては切れる音の繰り返しです。鈴虫の音(ね)のような「やさしさ」や「かよわさ」はありません。

 ところでこの青マツムシ、夕方は張り切って鳴きますが、9時過ぎぐらいになるとぴたっと止めてしまいます。日本の鈴虫やコオロギは明け方まで鳴いています。

 鳴きはじめると夜通し鳴いている日本の虫、宵のうちだけ鳴いて、後はぴたっと止める南洋の虫、日本は虫まで働きすぎなのでしょうか。

 かつては、虫の鳴き方も、そこに住んでいる人間と同じ なのかな、などと思いました。
そのアジアでも、今、日本人のように働き好きの人が増えています。日本の進出企業の影響も大きいようです。

 虫の方は、日本に来てさえもその習性を守っています。人間の方はどうなっていくのでしょうか。結局どちらが賢いのかな、などと考えていたら家に着きました。


トヨタと日産

2010年09月08日 11時28分13秒 | 経済
トヨタと日産
 日産が、世界戦略車マーチの生産を全面的にタイで行うようになったと報道されています。タイ産のマーチの売れ行きは予想を超える好調さで、日産では、海外生産でも、日本国内の生産と変わらないに品質のものが出来ると自信を持ったという事のようです。
 
 翻って、トヨタの場合は、経営トップが「苦しくても国内生産で何とかやって行きたい」という姿勢を強調しているようです。
 日本国内の雇用問題を考えれば、トヨタの姿勢は、大変ありがたい事で、このぎりぎりまで円高が進んでいく中で涙ぐましい努力、と同情と激励の念を強くします。しかし他方では、それで採算が取れるのですかという懸念の声もあるようです。

 国際投機資本にとってみれば、日本の企業がどこで生産しようが、日本の雇用がどうなろうが、そんなことは彼らにとってはどうでもよい事で、彼らが関心を持つのは、唯一、日本が、黒字国でいるか、赤字国に転落するかだけでしょう。

 赤字国に転落することが予想されるようになれば、彼らは直ちに円売りに走り、多分徹底して円を売り込む事で、さらなるキャピタルゲインを稼ごうとするに違いありません。

 円高が進んでいるといことは、国際投機資本が、まだまだ日本は経常黒字国を維持するだろうと読んでいることの証拠という事でしょう。そして、日本政府も日銀も、多分、当面日本が経常赤字に転落するなどという事態は、頭の中にないのではないでしょうか。

 しかし、日産とトヨタの例はまさに、こうした日本経済の先行きを暗示するもののような気がしてなりません。$1=¥80という段階は、日本企業に、おそらく新たな海外移転ラッシュを引き起こすのではないでしょうか。

 昨日も、アジア企業の中堅幹部の方々に、「プラザ合意の円高で日本企業が本格的に皆さんの国に出て行くことになった」という話をしたところ、「我々にとっては歓迎すべきことだった」という反応でした。これから、その第二段階が始まるのかもしれません。

 政府は党首選にかまけ、日銀は、「金融緩和の効果は出ている、長期的な目で判断すべきだ」といっていますが、では、長期的にどんな状況になるのかといった説明はありません。

 最近、「説明責任」とか「アカウンタビリティー」といった言葉がよく使われますが、誰か「日本はこうなるのですよ。だからこういう政策を取っているのです」という国民の誰にも解りやすい説明を、政策当局の、まさに責任において、国民にしてくれる人はいないのでしょうか。


アメリカの雇用問題

2010年09月04日 16時33分21秒 | 経済
アメリカの雇用問題
 アメリカの雇用統計が発表されて、雇用は減ったけれども予想より減り方が少なかったということで、株価(ニューヨークダウ)が反発したなどと報道されています。
 株式市場は、何か理屈 をつけては、市況を上げ下げすることが大事ですから、それはそれでいいのかもしれませんが、やはりアメリカの雇用は、先行き暗いのではないでしょうか。

 グリーンスパンマジックなどと言われ、アメリカが長期の好況を謳歌していた頃から、アメリカはずっと経常赤字国で、経常収支の赤字を資本収支で埋めて国としての経済バランスをとってきていました。それを支えていたのは、後からサブプライム問題として世界経済に大変なダメージを与えた米国の住宅バブルだったということでしょう。

 かつても触れましたが、ヨーロッパの経済価値の基準は「金」、アメリカのそれは「証券」、序でに日本もいえば「土地」というのが常識でしょうか。それだけにアメリカの証券は信用があったわけです。トリプルAがつけば、世界は安心してアメリカの証券・債券を買いました。サブプライムローン残高が組み込まれた証券でも売れたわけです。
 証券の信用力でアメリカは世界からカネを借り、資本収支で経常収支の赤字を埋め、それがアメリカの消費過剰の経済を支えたわけです。

 今やアメリカの証券は信用がありません 。TB(アメリカ国債)にしても、ドル安を予想すれば、誰も買いたくないでしょう。アメリカは自分の稼いだ分(GDP)の中で暮らしていかなければならなくなったのです。経常赤字の分だけ、アメリカ経済は小ぶりになり 、それに伴って雇用も縮小するのでしょう。

 これは、アメリカがかつて日本にドッジラインを敷いたのや、IMFが韓国に緊縮生活を強いたのと同じです。雇用を増やそうとしたら、一人当たりの賃金を減らして(平均賃金を下げ)支払いうる雇用者報酬をより多くの労働者で分けるしかないのです。賃下げか失業かの選択です。

 日本も、世界も、本当にアメリカや世界経済のことを考えるのなら、アメリカの経済の早期の回復などをあてにするのはやめたほうがいいようです。早期の回復は、相変わらずの過剰消費経済の継続、双子の赤字の積み上げ、そしてまたいつか来る破綻への道でしょうし、逆に二番底は、アメリカ経済の健全化へのプロセスでしょう。

 アメリカ経済は、基本的には、矢張り世界で一番底力のある経済の1つでしょう。 ここで一度、膝を屈して(経常赤字という背伸びをやめて)こそ、次のジャンプのエネルギーが生まれるのです。