tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

東京電力の経営数字  付加価値率

2011年04月23日 12時30分50秒 | 経営
東京電力の経営数字 - 3
 東京電力について、自己資本比率と総資本回転率を見てきました。垣間見えたのは、国策に沿って活動する特異な会社という側面でした。
 今回はもう1つ、企業の大変重要な数字である「付加価値率 (付加価値/売上高)」を見てみましょう。

 平成21年度決算による東京電力の付加価値率は39.4パーセントです。リーマンショック以前、東京電力の付加価値率は45~50パーセントでした。
 これは、一般的に見れば大変高い数字で、原材料などの必要ないサービス業(ソフトハウスや教育産業)などではありえますが、原材料(電力では化石燃料)を使って製品を作り販売する企業では、あまりない高さです。因みに製造業の平均は20パーセント程度です。

 理由ははっきりしていて、一般の業種の場合は、国際競争、国内競争の中で「価格」が決まってきて、その中でコストを抑えて利益を出す、もし出なければ倒産、という順序ですが、電力の場合は、原則として「コスト+適切な利益」という形で価格を決められるからです。

 もちろんこれは、電力料金の場合国際競争がないからで、国策企業であっても航空業界や通信業界、海運業会のように国際競争があれば、国際競争を強いられます。
 日本の電力料金は国際的に見てかなり高いといわれるのも、こうした事情によるものと考えてよいでしょう。

 ここにも、電力業界というのは、国策に沿って、国内の産業や家庭に品質の良い電力を安定的に供給するという使命を帯びつつ、形態は民間企業として仕事をするという特殊な事情が見えてきます。

 平成21年度の東京電力の付加価値(粗付加価値)の中身を見ますと、
  人件費        24.2%
  課税前利益      8.8%
  金融費用        6.9%
  賃借料         7.4%
  租税公課       15.1%
  減価償却費    37.5%
合計  100.0%で、人件費はわずか4分の1、資本費が圧倒的に大きいことがよく解ります。

 巨大な設備投資を抱える会社ですから減価償却費が大きいのは当然です。しかも、この設備の多くは長期借入金(電力債など)ですから、本来は、金利が膨大なはずですが、この所のゼロ金利政策、わずか6.9%ですんでいます(平均金利水準は1.8%)。かつて、自己資本比率が今より低く、電力債の金利が5パーセントを越えていたような時期には、金利負担は、総額人件費より多いのが常態でした。

 こうして見てきますと、東京電力(電力会社の代表)は、純粋の民間企業としては「 ゴーイング コンサーン」としての存在を危ぶまれるような経営数字の企業であることがわかります。これは経済社会の物理的血流としての電力を、如何に効率的にしかも安定的に供給するかという国策に従った結果という事でしょう。
 
 今回のような巨大災害がなければ、このシステムは、まだ安定的に存続しえたでしょう。日本にとってはまさに不運という事かもしれません。しかし日本は地震国であることも確かな事実です。
 1000年に一度の大震災といわれます。しかし1000年後とは言いません。50年後100年後に、「あの災害をキッカケに、日本の電力供給システムは一段と良いものに進化した」といわれるような対応をしていきたいものです。


東京電力の経営数字  総資本回転率

2011年04月20日 18時10分49秒 | 経営
東京電力の経営数字 -2 
 前回は東京電力の自己資本比率についてみました。超優良企業としては大変低い数字でしたが、その低さの原因はどこにあるのでしょうか。それは総資本回転率 を見れば解ります。

 総資本回転率(売上高/総資本)は資本が効率的に活用されているかを示す数字で、東京電力の平成21年度の決算では、0.38回です。
 これは用地や発送電設備など巨大な設備をしながら、売上高は少ないことを示しているわけで、製造業の主要企業の1.0回前後、巨大な設備をしている鉄鋼や化学の0.7回強(財務省「法人企業統計」21年度)に比べても異常に低い回転率です。

 関連する指標で、設備生産性があります。100円の固定資産が年間いくらの付加価値を生むかという数字ですが。東京電力の場合は16パーセント、つまり16円です。
 製造業は平均的に70~80パーセント、70~80円の付加価値を生みますから、電力の場合高額な設備投資の割に付加価値生産の効率も低いことになります。

 つまり、発電・送電という仕事は、巨大な資本をつぎ込みながら、他産業に比べて大変効率が悪い仕事だということになりますが、これがなければ、経済も社会も進歩できず、誰かがやらなければならないとなれば、電力会社が国策に沿ってやるしかないということになるのでしょう。
 儲からないから自己資本は溜まりません。しかしやらなければならない、結局国の信用に頼って借金でやることになります。自己資本比率は高くなりません。

 皆様ご承知のように、こうした中でも「原子力発電」の電気は「安い」のです。つまり原子力発電は火力や水力より資本効率が良い、もちろん太陽光や風力などより(現状では)格段にコストが安いからこその原発志向でしょう。

 経営数字から見れば、原発の比率を高めるほど、資本の効率は高まり、電気のコストは下がり会社の収益性も健全性も高まります。しかしこれは、原発が安全であってのことのようです。
 ところが現に事故が起こってしまいました。東京電力の準備金も引当金も全く足りません。

 原発の設計段階で、何処までの安全を見るかの論議があり、外部電源、バックアップの電源や配線など、何処までも安全にやろうとしたらコストがいくらかかるかわからないということで今回の仕様の建設が進められたという解説報道もありました。

 今回の事故から学び、原発の安全性を高められる可能性はかなり高くなったと思います。しかし、設備の安全性を高めれば高めるほど、総資本回転率も、設備生産性も低くなり、原子力発電のコストは上がるでしょう。
 
 とはいえ、一旦事故が起きれば、民間の一企業が負担できるようなコストではありません。「転ばぬ先の杖」で事故が防げるのか、杖の値段が高価すぎて、原発の優位性がなくなるのか、感情論でない、冷静な論議が必要なようです。


東京電力の経営数字 自己資本比率

2011年04月19日 16時04分13秒 | 経営
東京電力の経営数字-1
 昔から、電力債や電力会社の株は堅実な資産作りのための安定した手段として人気でした。就職先としても、お役所と並んで、安定志向の人たちの目標でした。しかも、役所と違って、民間会社ですから親しみもありました。

 そうした超優良会社の代表格の東京電力が、今回の大震災による原発事故で、まさに大揺れに揺れています。
 これは一体どういう事なのでしょうか。その辺りを、経営指標の面から見てみましょう。(平成21年度、単独、従業員数36328人)

 先ず、経営の健全性、財務の安定性を見るための代表的に指標である「自己資本比率 」を見てみますと、平成12年度の13.5パーセントから改善して、漸く17.1パーセント(総資産12.6兆円、自己資本2.16兆円)。優良会社としては異常に低い数字です。
 有名企業では、ファナックの90パーセント前後、トヨタやホンダの60~80パーセント、財務の世界では50パーセントが標準といわれます。

 債務の多くは社債(東電債)で調達したもので、東京電力の経営は絶対に安定したものという認識の下で、東電債は最も安定した投資資産と見られてきていたからこそ、低い自己資本比率でも安心して買う人が多かったということでしょう。

 高度成長期、大蔵省の「法人企業統計」よれば、中小企業も含めた日本の法人企業の自己資本比率の平均は13~17パーセントでした。
 そんな低い自己資本比率でよく経営ができるな(銀行からカネを借りられるな)などと(特に外国から)言われていましたが、その頃の日本企業には、地価上昇による多額の含み益があり、銀行がそれを担保に融資する、メインバンク制度があってこその成立でした。

 客観的に見て、低い自己資本比率で経営出来る背後には、何かそれを担保するものがあるという事でしょう。勿論それは、電力会社の経営は、原子力もふくめて、政府のエネルギー政策に支えられているという「信用」によるものといえると思います。

 自己資本比率だけから見ても、東京電力の姿は、純粋の民間企業としては、極めて不安定なはずの企業が、政府の政策に支えられて、安定を維持しているというものに見えます。
 多分、東京電力は、法的には民間企業であっても、その存在を支えているのは「国策企業」という広い「国民の認識」だといえましょう。

 だからこそ、日本社会は、安心して、電力多消費社会へ驀進できたのです。東京電力とその経営体質はそのためのツールとして大変大きな役割を果たしてきたといえましょう。


おカネと付加価値の関係

2011年04月14日 12時13分37秒 | 経済
おカネと付加価値の関係
 日本には昔から、もがり(殯り)という習慣がありました。言葉から言うと「喪が上がる」までが「もがり」なのでしょうか。今、日本は東日本大震災の「もがり」を終えて、復興の時期に入りました。

 「頑張ろう、日本」を合言葉に、すべての日本人が立ち上がろうとしています。緊急に必要なのはそのための資金です。日銀は資金供給に万全を期しているようですし、政府も被災地への財政資金の投入を急いでいるようです。日本中から、世界中からの巨額の義援金も、早く被災者に手渡されて、喜んで貰える時を、銀行の金庫の中で待ちわびているはずです。

 こうした時に付きまとうのは「出来るだけ早く」という問題と「出来るだけ公平に」という問題の相克でしょう。あまりに公平や公正を考えると、何時までたっても配分が決まらず、せっかくの資金が復興に役に立たず寝かされてしまうことになります。

 こうした時に、基本的に重要なことは、経済活動(復興活動)におけるお金の働きの本当の意味を考えることでしょう。

 先ず、お金は動かなければ意味を持たないという事です。お金が動くから経済活動が進むのです。貯めてあっても、確り保管してあっても、経済活動の役には立ちません。
 もう1つは、こうしたときのおカネは、将来利益を生むとか、ペイするとかいった採算ベースで動かすよりも、そのカネが、「 付加価値」を生むことこそが、本来求められている効果だと考えることでしょう。

 そうした意味で、被災地、被災者のための支出は出来るだけ早くすべきでしょうし、緊急の際には、区分など大まかでも良いでしょうし、多分に「定額」でも「一律」でも、できるだけまとまったおカネを思い切って支払うことでしょう。

 被災地に渡ったお金は、再び銀行の中で眠ることはないでしょう。被災地での需要は、当初の水や燃料、毛布などから、次第に、そしていまや急速に家電製品、中古車、住宅関連などに変化してきています。

 こうした実需のあるところに資金が投入されれば、日本経済としては、それは着実に付加価値(GDP)を生み、被災地の生活の耐乏生活からの脱出、より快適な日々の生活の実現に、ダイレクトにつながるはずです。

 すでに述べましたように、日本経済にはその原資は十分 にあり、さらに巨額な義援金がまだまだ続くでしょう。思い切った早期の投入を期待したいものです。


節電と蓄電技術

2011年04月08日 12時25分17秒 | 科学技術
節電と蓄電技術
 この夏の電力不足は避けられないようですから、昨年のような酷暑でないことを願うのみです。
 産業界も家庭もいろいろなことを考えて、ピーク電力のカットを心掛けなければならないと思いますが、それにしても、こうした問題の一番基本は、電力が貯蔵不可能という事でしょう。

 貯蔵不可能ですから、当然ピーク時対応の発電能力を持たねばならないわけで、ピーク時以外は設備の稼働率は低くならざるを得ません。平均稼働率が低くなる分、コストは嵩むわけですが、貯蔵できないのだから仕方ありません。

 せめて、夜間電力利用の揚水発電といった、エネルギー的には無駄でも経済的にはペイするといったことがやられてきた程度でしょうか。
 しかし近年、地球環境問題対応策としての自動車駆動動力の電気化の動きとともに、蓄電という問題が本格的に動き出して来ていました。

 鉛蓄電池から、今はリチウムイオン蓄電池が、ますます高性能になっているようですが、そのほか多様な蓄電素材、蓄電技術の研究が進んでいるようです。
 水素にして貯蔵し燃料電池を利用する方法や、今はまだ夢のような話ですが、究極の貯蔵方法としての超伝導の利用など、可能性はまさに多様でしょう。

 当面する今夏の電力不足対応の問題でも、様々な蓄電池の高効率化の研究が急ピッチで進められているようです。太陽光発電などの新しい多様な発電技術の開発とともに、蓄電技術の開発が進めば、電力供給の世界は次第に変 わっていくのではないでしょうか。

 問題は技術開発によって、何処までコストを下げられるかでしょうが、コストの低減にはマーケット(需要)のサイズも大いに関係してきます。多くの人が利用すればコストは下がります。

 原発問題が世界的に議論を呼んでいる現在、日本が、蓄電技術で、何らかの突破口を開き、「電力の貯蔵」という技術的課題に、新たな一歩を踏み出すことができるでしょうか。

 今回の問題がきっかけになり、日本が蓄電技術で世界をリードするようになれれば、まさに災いを転じて福と為すですが、最近報じられる日本企業の真剣な取り組みの様子などを拝見していますと、何かその可能性を感じられるような気がしてきたりします。

 日本の技術者頑張れ!!


自粛ムードと経済の関係

2011年04月05日 11時56分46秒 | 経済
自粛ムードと経済の関係
 石原都知事が、花見を自粛しようといったようです。震災直後、多くの人も、被災者のことを考えれば、花見などで浮かれていられるものではないとお感じだったと思います。
 選抜高校野球は、被災地の人々を元気付けようということで、思い切って開催され、純粋で真剣なプレーが「元気を出そう日本」の気持ちを強くしました。

 昨日ですか、岩手県の酒造会社が「花見をやってください、そこで岩手産のお酒を飲んで下さい、自粛は我々にとって二次災害です」と発信しているというニュースを見ました。
 経済という面から見れば、自粛ムードは不可避的に再建を遅らせる効果を持ちます。

 先日、近所の方から、「南相馬市のコメ作り農家で、風評被害もあり昨年収穫のコメが売れず困っている、無農薬米なので少し高いが、是非ネットの輪を広げて買ってあげたい」という話しがありました。

 ビジネスにとっては、自粛ムードも風評被害も与える影響は同じです。生産したものが売れないとビジネスは継続していきません。「生産→販売→代金回収→仕入れ→生産」というサイクルが回るからこそ、ビジネスは回転していくのです。 一度この連鎖が切れると、回復は容易ではありません。東日本大震災では、いたるところでこの連鎖が断ち切られ、多くの企業、事業者がダメージ受け、それが雇用に、家計の所得維持に、日々の生活に甚大な被害を及ぼしているのが現状です。

 亡くなられた方々に弔意を表し、被害を受けた方々お見舞いの心、救援物資、義援金は人間の良心の発現そのものです。
 しかし、同時にビジネスにとっては、客が来て呉れること、製品やサービスが売れることがより大きな支援になるのです。もちろん買い溜め云々は、別次元の話しですが、心の整理がついてくる段階から、(ピーク電力の抑制だけは別ですが)出来るだけ早く、通常の日常生活を回復することも大変大事ではないでしょうか。

 今日の経済社会は、企業によって支えられています。大企業から個人企業まで、企業の元気が出るかどうかは売上次第です。そして、企業に元気が出れば、それは雇用を通じて、広く社会に均霑していきます。被災地の中小企業での、従業員も社長も一丸となった積極的な再建への取り組みの様子なども、連日報道されています。

 被災者の方々への義援金については、心を動かされるような報道が毎日入ってきます。 
 もうひとつの被災地支援、日本経済復旧支援として、被災地の企業を始め広く企業の売上に貢献するような元気な消費活動を、我々の日常生活の中で考えてみることも大事ではないでしょうか。


日本経済の底力を確認しよう

2011年04月01日 11時04分45秒 | 経済
日本経済の底力を確認しよう
 製造業、漁業、交通、運輸、流通、通信・・・・・、被災した各地から活動再開への動きが伝えられています。放射線で問題になっている農業についても、風評被害地区などでは、消費者サイドからの購入支援も聞かれます。我々高齢者は、多少放射線量があっても、もうそれほど「長く摂り続ける」事はないので、安心して食べてもいいのかもしれません(マジで)。

 政府の積極的な被災者への支援策の検討を始めています。普段ならバラマキと批判されるようなことも、この際大いに結構ではないでしょうか。
 確かに政府は大赤字です。当然増税の話が出てきます。これは、前回も書きましたGDPを使い残さずに、災害復興のために「使い切る」にはどういう「おカネの回し方」をしたらいいか、という問題の一環です。

 方法としては、大別して
・ 財政支援としての政府からの支出: 主として社会資本の復興
・ 金融支援としての銀行等の長期貸し出しの積極化: 主として民間部門の復興
があるでしょう。
 前者は増税か国債発行です。この際、災害復旧債、災害復旧増税の選択も当然ありえます。
 後者は金融機関の仕事ですが、既存の金融機関でダメなら、時限で長期融資の特別な機関設立が必要かも知れません。時限の利子補給も有効でしょう。
 
 そのための財源が、万年経常黒字国日本の「経常黒字」です。今年度のような非常事態では経常赤字も辞せずでしょう。災害復旧には日銀引き受けもアリでしょう。兵力の一挙大量投入が大事です。

 経済力が回復すれば、返済、正常化は可能です。これは日本人が真面目に努力し、頑張る国民だからこそ可能になることです。

 多分、多くの国ではそんなことをしたら、通貨価値が暴落して(空売りの絶好の対象となり)大変でしょうが、日本は円安になってくれたら、大喜びできる国 なのです。しかも、世界に類のない労使の信頼関係のおかげで、円安になっても自家製インフレの回避 は十分可能です。

 非常時こそ日本経済の底力が生きるのです。経常黒字を米国債など海外に投資するのではなく、日本人の頑張りを信じて国内に投資しましょう。必ず大きなリターンとなって返ってきます。それは日本人が頑張るからです。

 序でに言えば、これで日本の万年経常黒字が解消すれば、 G20でも日本は胸を張れるでしょう。