tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

北海道のIR誘致断念に賛意

2019年11月29日 22時58分46秒 | 文化社会
北海道のIR誘致断念に賛意
 現政権がアメリカに背中を押されたのか、 日本にもカジノを作りたいと言い出し。統合型リゾート(IR)という呼び名で、まずは国内に3か所と決めました。

 それに対して8つの地方自治体が候補地に名乗りを上げて来ましたが、今日北海道が候補地から降りることを表明しました。
 このブログとしてはその決断を高く評価し、最大の賛意を送りたいと思います。

 先に、オリンピックのマラソンなどの協議を札幌で、といいうIOCの決定については、突然の決定で大変としながらも、受け入れを表明しているのが北海道の首都である札幌市ですから、北海道が物事に引っ込み思案な地域ではないと思います。

 基本的な理解としては、「オリンピック」と「カジノ」の違いを北海道の道民諸氏が適切に判断した結果という形で理解すべきだと思っています。

 オリンピックは、「 競いの文化」の象徴で、古代ギリシャの「古代オリンピック」以来、オリンピック期間中は戦争はお休みというほどに重視・尊重すべき文化として認識されてきたものです。

 一方、カジノはというと、人間の最も低級な欲望の象徴である金銭的射幸心を利用して「金を儲けよう」という邪心の表れで、本来犯罪であるものを、国家が金のために合法化したものにほかなりません。

 今回の北海道の断念の理由としては、希少な動植物の生息する自然環境の破壊、急なことで、時間と費用の見通しが立たないなどと同時に、道の行った調査で、66%の道民が誘致に不安を持っているという点が挙げられています。

 この断念の理由は大変多様な配慮を含む、行きとどいたものですが、やはり最も大事なのは道民の3分の2が、カジノに「疑念」を持っているという点でしょう。

 人間誰でも、心から「賭博」が良いこととは思っていないでしょう。しかし時に金に目がくらんで、手を出すという弱さも持っています。
 特に一国のリーダーや、地方自治体の首長であってみれば、通常、歳入の不足に悩み、もっと歳入があればもっと良い行政ができるという意識に駆られて、その資金をIR誘致で得られるのであれば・・・、などと考えるのでしょう。

 首長ご自身も、1人の人間としては「カジノが良いもの」とは思っておられないのではないでしょうか。

 賭博は本来胴元が儲けるのもです。IRのカジノは地方自治体が胴元ではないでしょう。集客の落とす金のおこぼれにあずかろうという事なのでしょうが、カジノに吸い上げられた金は地元に落ちません。

 最後に、ひとつ付け加えれば、賭博は殆ど何らかの犯罪を伴います。これは賭博の本来の性格に根差すものでしょう。
 派生する病「ギャンブル依存症」も不可避です。誘致賛成の首長は、一度、個人としての自分自身に立ち帰っていただきたいと思うのですが、それでもカジノに賛成でしょうか。

 もう一つ、付け加えれば、民主主義の原則です、民意の調査をしていますか。

毎月勤労統計:その後の賃金総額の動きを見る

2019年11月28日 23時37分26秒 | 労働
毎月勤労統計:その後の賃金総額の動きを見る
 伝統ある日本の官庁統計の信頼を揺るがせた毎月勤労統計の集計ミスからそれなりの月日がたち、去る10月に、その後あった大阪府での不適切な処理の修正も終わったという事で(厚労省報告)、このあたりで賃金の動きを一度確認し置こうと、久しぶりに毎月勤労統計を見てみました。

 この3、4年、日本経済はいわば高原状態で、ここにきて、国際情勢の混乱から多少の後退の様相を見せていますが、賃金給与の動きの方も、何か殆ど目立つ動きがないようです。
 昨年春、このブログで賃金動向の 変調に気づいたのですが 、それは集計ミスとその修正によるものと分かり、国会でも思惑を交えた騒動になりましたが、一応修正ができてからの動きで見れば、この所の日本の賃金動向は異常といえるぐらいの定常状態のようです。

毎月勤労統計で、時系列の賃金の動きを見るのに使われる賃金指数、ここでは、賃金総額(ボーナス、残業代含む)と所定内の実質値の賃金指数を見ていますが、2015年を100として、
2016年108
2017年106
2018年108
という状態で、最近の月別の動きを見ますと下図のような動きです。

最近の賃金の推移(厚労省:毎月勤労統計、実質賃金指数)

 賃金総額(青色)はボーナス月は多くなりますが、所定内(茶色)はほとんど安定状態、昨年9月が84.0、今年の9月が84.2です。
 賃金総額はボーナス月が多くなりますからその分が高くなっているという事です。

 所で、この間の実質経済成長率は平均1%程度ありますから、実質賃金ももう少し上がってもいいかなという感じはしますが、増加が目立つのは企業の内部留保というのが現状のようです。

 その増加の行き先は、海外企業のM&A が多いようで、国内ではJDIの資金調達もままならないようです。何かちぐはぐな様子に見えてしまうのですが、企業にしてみれば、「いつ何が起きるか解らない」という恐怖感があるのでしょうか。

 日本の賃金制度は「定期昇給」を内蔵していますので、定常状態の中でも若い人たち(正社員)の賃金は、定期昇給分だけは毎年上がっていくのです。
 春闘の賃上げ集計にはこの分も「賃上げ」として入ってくるので、若い人たちの賃金は定常状態の中でも毎年上がるということが、こうした状態と関係あるのかもしれません。

 かつてのように、春闘で労使が、ぎりぎりの所まで経済論議、賃金論議を戦わすといった雰囲気は、このところ余り見られませんが、来春闘あたりでは、もう少し、本格的論争があってもいいような気もするところです。

金融政策、財政政策で経済は立ち直るか?

2019年11月27日 23時22分47秒 | 国際経済
金融政策、財政政策で経済は立ち直るか?
 アメリカ経済は、トランプさんに言わせれば史上最高だという事のようです。確かに株価(NYダウ)は史上最高ですが、経常赤字は容易に減りそうにもなく、借金しながらの、借金による繁栄という状態は全く変わっていません。
 
 ヨーロッパも大変なようです。米中貿易摩擦の影響とブレクジットのダブルパンチでECBはさらなる金融緩和という事になるようです。量的緩和(国債購入など)とマイナス金利の更なる引き下げ(-0.4%→-0.5)という事のようですが、同時に、加盟各国の財政出動も必要という見方を示しているようです。 
 
 日本も、景気の減速はかなりはっきりしてきている状態で、オリンピックを控え下支え要因はあるものの、対中貿易の減速が長引けば、日本産業自体の技術革新力にも一部翳りが見え始めていいるといった様相もあるようです。
金余りとは言いながら、JDIも海外資金頼みのようですし、有機ELなどの巨大投資も資金不足で進められないといった状況が報道されています。

 もともとは、アメリカが何とか中国を抑え込もうとしていることが原因なのでしょうが中国の場合は日本と違って、簡単には抑え込めないのが実情でしょう。
 日本はプラザ合意以降30年ほど結果的には経済成長せず、アメリカに大きく水を空けられましたが、中国は成長減速といってもアメリカの2倍ほどの実質成長率を維持しています。

 このままいけばGDPでアメリカを追い越すのはまさに時間の問題(あと10年ほどか)でしょう。
 アメリカの焦りは解りますが、今のような方法で中国を抑え込もうとすれば、世界中が迷惑をこうむるという結果がひどくなるだけでしょう。
 
 例えば、中国の拡大する消費市場と製造工場としての役割を活用しながら、アメリカ経済を健全なものに立て直すといったウルトラC的な方法でも編み出さない限り、結果は見えているように思います。

 トランプさんは国内的には金融緩和(ドル安誘導)で、対中国は関税障壁でと考えたのでしょうが、株価は上げられるかもしれませんが、実体経済の健全化はそんなことでは、とても期待できないでしょう。

 アメリカが覇権国としての地位を維持するためには、経済規模ではなく、国家の「質」での勝負でなければならないという時代になっているのではないでしょうか。
 来年の選挙もあり、アメリカの行方は我々には見当もつきませんが、アメリカが賢明な政策を取ってくれれば、世界中が「金融政策」と「財政政策」で、経済をなんとしようなどといった、無理な努力をしなくてもよくなるのではないかと思うところです。

 今のグローバル化した経済は、一国の経済政策より、世界経済社会を、旧態依然の地政学的分析などを超えた、世界人類の平和と安定を軸にしたものに変えてくことが最も有効な経済政策であるという事になると、多くの人たちがは理解しているのだと思いますが、そういうリーダーを選ぶことに失敗しているもが現実のようです。
 民主主義がポピュリズム化した事が原因という説もあるようですが ・・・。

無菌培養と無葛藤育成の結果でしょうか?

2019年11月25日 21時41分51秒 | 文化社会
無菌培養と無葛藤育成の結果でしょうか?
 H.G.ウェルズの「宇宙戦争」は、映画にもなって有名ですが、結構何かを示唆しているように思います。
 火星人が攻めてきて、地球人は為す術もなく、教会で祈りをささげているのですが、外へ出てみると、宇宙船は墜落、火星人は死んでいるという結末です。

 無菌状態の火星で生活していた火星人は、細菌やウィルスで汚染された地球の空気を吸ってはとても生きていられなかったというわけです。
 今日の地球上でも、カラスは生ごみをあさって生きていますが、人間が食べたらすぐ中毒でしょう。
 抗菌や殺菌は大事ですが、人間の抵抗力を弱くするという面もあることも事実でしょう。

 これは人間の肉体的な面ですが、人間の精神的な面においても、同じようなことがあるのではないかと考え込んでしまうようなことが、最近、よくあるように思われます。

 人間の精神面でいえば、細菌やウィルスに当たるものは、「葛藤(conflict)」ではないでしょうか。
「葛藤」とは人間関係の不具合から来る精神的な衝突、それによる精神的な負担という事になると思うのですが、最近の種々の事件の中には、葛藤を自己の抑制力で、自分の心/気持ちの中で処理できない人が多くなっているように感じられます。

 葛藤を自分の中で消化する(昇華させる?)ことが出來れば、他者に対しての物理的な行動に発展させないことが可能になるはずです。
 何か事件を起こすという事は、いわば、「葛藤」を自分で消化する能力が落ちているのではないかと思われるようなことが多いからです。

 昔から「艱難汝を玉にす」とか「若い時の苦労は買ってでもしろ」といった諺があります。もっと一般的なのは「失敗は成功のもと(母)」などでしょう。
 失敗、挫折、苦労、失恋、人生には様々な失意があるわけですが、それは人間の生涯生活には「つきもの」で、そんなことにいちいちくよくよせずに、「その経験を糧に頑張れ」という「叱咤」「激励」でもあり、また考えようによっては、人生を楽観する(捨てる神あれば、助ける神あり)、あるいは達観するといった生き方を教えているのでしょう。

 ところが、最近、こうした目で見れば、「何でそこまで思い詰めるの?」、「そんなのよくある事じゃない?」といったようなことで「人生の破滅に関わるような事件が起きているのではないでしょうか。なぜそこまで行ってしまうのか?という疑問です。

 具体的に言えば、葛藤、コンフリクトの深刻さが、客観的にはそこまでのものではないように思われても、簡単に人の命にかかわるような事件に発展する事が多いように感じられるのです。失意の経験が少ない(精神的無菌状態にある)とこうなるのでしょうか?という疑問です。
 
 私のか感じ方が、「そりゃ深刻すぎるよ」なのかもしれませんが、私と同じようにお感じの方が多いのであれば、その原因は何なのか、国レベルで本格的にに検討す必要がるように思うのですが、どうなのでしょうか。

損益計算書と付加価値分析はどう違う

2019年11月23日 21時58分09秒 | 経営
損益計算書と付加価値分析はどう違う
 このところ経済もあまり芳しい動きはなく、すべてはアメリカ頼み、注目するような成長政策もなく、「まず改憲」(目的不明)だそうで、 喫緊の外交課題の日韓関係は、ただ突っ張っていれば、アメリカが何とかしてくれるだろうといった感じです。
また、国内社会に目を転じれば、何とも理解できないような嫌な事件が多発しています。
日本はこんなに問題解決能力のない国に、また日本人になってしまったのかとモノを書く気も失せるような日々です。

 そんな事で、今日は、全く実務的なことを取り上げてみました。
 この具ログは「付加価値」を中心にして回っていますが、付加価値の説明をしてよく質問を受けるものの中に、損益計算書のコスト利益分析とどう違うのですか」というのがあります。

 「付加価値は粗利益だと思えばいいです」などと答える方もおられるようですが、損益計算書と付加価値分析は、もともとそれを利用して達成しようとする目的が違うもので共通点を探していもあまり意味がありません。

 ただ、企業経営分析の場合にも、分析には貸借対照表と損益計算書、利益処分計算書(昔の名前)の資産・負債と損益計算の勘定科目が必要ですので、材料は同じです。

 経済分析の場合には、もともと経済分析は、利益分析ではなく、GDPなどの付加価値分析ですので、問題意識はほとんど付加価値分析としてのものです。

 簡単に言ってしまえば、損益計算書の場合は、「売上高」からいかにして当期純利益が生まれるかを、すべての収入項目を足し、すべての支出項目(コスト)を差し引いて、そのプロセスを分解し、分析検討するのが目的です。

 実績を分析し、直接部門(工場など)、間接部門(本社などの事務管理部門)営業以外の周囲者、金融関係の収支、その他特別な収支、更に税金関係など、何が原因で当期純利益が増えたか(減ったか)を詳細に分析して、「売上高に対する利益の比率を高めるため」に何ができるか(すべきか)を知ることが目的でしょう。

 さらにこれを、貸借対照表の勘定科目との関連で分析することによって、多様な「資本利益率(総資本営業利益率から資本金純利益率まで)で、利益額だけでなく資本効率などの利益率の把握も出来ます。

 いわば、利益を中心に、実績を分析して(時系列などにならべ)今後の指針を見つけるという作業が可能になるわけです。

 では付加価値分析の方はといいますとまず、利益の代わりに付加価値を増やすことを目的にする分析です。
 付加価値はその計測期間に付加された(創出した)経済価値ですから「人件費と資本費の合計」です。それだけ企業や経済が成長してことを示します。

 純利益は資本費の一部ですが、付加価値は資本費と人件費の合計で、つまり、計測期間に作り出され、新たに国や企業で利用可能になった経済価値のすべてを把握し、その増減がいかなる原因で起きたかを分析するための手法といえるでしょう。

 つまり、国民経済の場合にはGDPが付加価値そのものですから、経済成長の分析などには最適でしょう。
 企業の場合には、純利益の様に解りやすくなく、まず、コストである人件費が入ってきたリ、自分の所では使えない金融費用、賃借料、租税公課なども入ってきて、内容そのものが捕まえにくいので、利益中心の分析になるのでしょう。

 ただ、企業の将来も国の将来と同じように、府付加価値の配分のあり方如何で大きく影響を受けますので、経済や企業の成長分析や成長計画には、付加価値分析の方が適しているということが言えそうです。

所得格差の発生とキャピタルゲイン

2019年11月21日 23時50分26秒 | 経済
所得格差の発生とキャピタルゲイン
今回また、申し上げたいと思っているのは、政府が旗を振って進めている「貯蓄から投資へ」といった方向にお金の流れを進めていくと、今最も問題となっている経済的な格差社会化がますます進むのではないかという事です。

 そして、経済的な格差化が進むと、文科相の「身の丈」発言ではありませんが、格差社会が世代を超えて進む事になることは十分考えられます。
 今の政権が、誰に教わって「貯蓄から投資へ」といっているのか知りませんが、もしアメリカの真似をしようというのであれば、日本のように社会文化的に格差を好まない国民に、アメリカのような格差社会にしましょうと言っているということになります。

 世界どこでもそうですが、国民が良しとしないほどに格差化を進めると、社会が不安定になり、経済成長は望めなくなり、貧しさの中で格差だけ拡大するという最悪の状態になることが十分予想されます。

 現政権はそれを望んでいるのでしょうか。国民の不安と不満は往々にして 独裁者を生みます。まさかそんなことを考えていることはないと思いますが、どうも「由らしむべし、知らしむべからず」の様なことが多くなって (データや記録は国民に知らせる前に破棄するのが当然のようですね) 心配です。

 余計なことを書きましたが、本論に戻れば、日本のシステムでは貯蓄はインカムゲインを生む方向に動き、投資はキャピタルゲインを生む方向に動くといった形になっています。
 ここでインカムゲインというのはDGPを増加させる所得、キャピタルゲインというのは、ゼロサムの中でマネーがAさんからBさんに振り替わるだけというものです。
 この点は銀行と証券会社の仕事の違いに象徴的にみられるようです。

 お金がGDPを増やすように動けばそれには大勢の人が参加し(雇用の発生)当然賃金も発生します。
 しかしNISAで買った株が暴騰して大儲けしてもGDPには関係なくて、例えて言えば、儲けた人の口座に損した人の金が振り替えられるだけです。
 
 インカムゲインの場合は、増えたGDP(付加価値)賃金として、多くの人に広く分配されますが、キャピタルゲインの場合は、単にお金の持ち主が変わるだけで、損する人と得する人を生むのです。そしてお金が集まるのは大抵お金持ちの所という事が多いようです。

 かつて金融工学が流行ったころ「理工系の製造業離れ」などといわれましたが、優秀な学生がキャピタルゲインを追いかけるのは、せっかく教育投資をした人材がGDP作りから離れてしまう事でしょう。
 あの頃から日本経済はおかしくなったのでしょうか。

トマ・ピケティさんは、キャピタルゲインを勘定に入れなくても資本主義は格差拡大の方向に動くのがその帰結といっているようですが、「貯蓄から投資へ」のスローガンはその加速役のようです。

付加価値(生産された富)は、みんなで協力して生産するもので、今ある富をキャピタルゲインの形でAさんからBさんに振り替えることを奨励しても、日本経済も、日本社会もよくはならないように思うのですが、・・・

原発問題論議、恐ろしいデータの欠如

2019年11月20日 22時35分17秒 | 科学技術
原発問題論議、恐ろしいデータの欠如
 日本列島もいよいよ冬景色で西高東低の気圧配置、日本海側は雪も、という気象状況に続く説明で、フィリピン沖で台風27号が発生、沖縄に接近、本州も要注意(?)などと来て、一体どうなってるのと思うと同時に、また海面温度の上昇の問題が気になりました。

 ところで、原発の問題では、使用済み核燃料の始末、汚染水の廃棄、などが問題になっていますが、冷却水を排出、つまり温排水が火力などに比べてどうなのか、聞いた事がありません。
 ただ、火力は止まっている時は温排水は出ませんが、原発は、燃料棒がある限り、休止していいも冷やし続けなければならないはずです。このあたりのデータは現実にあるのでしょうか。
 
 という事で、原発が多くなったことが、海水の表面温度にどの程度の影響を与えているか、客観的なデータが必要になって来ているような気がしています。

 勿論、さらに重要な問題は使用済み核燃料の保管や、原発から出る汚染水の処理でしょう。
 安倍さんはオリンピック招致の時、有名な「アンダーコントロール」という発言をしました。当時から「嘘はよくないよ」といっていた人も大勢いましたが。今、汚染水は日本列島から溢れ出しそうで、いよいよ海洋投棄問題になっているようです。

 ここでまた正確なデータが必要です。福島の汚染水など、フランスの再処理工場の排水の濃度に比べれば、ずっと綺麗だという説もあります。フランスと組んでいるロシアのシベリアの工場はさらに問題が多いという報道もあります。

 こうしたものについても、客観的な数字があって初めて議論が人類に役立つものになるのですが、具体的なデータ比較は簡単には手に入りません。

 さらに自然放射能との関連で、人体にどの程度の影響があるかについても信頼できるデータには巡り合っていません。
フランスの再処理工場(アレバ)の排出が、許容限度内なのか、そうでないのか、日本の汚染水海洋投棄の判断も当然影響を受けるはずですが、今、問題になっているのは風評被害の方が中心のようです。これではまともな議論にはなりません。

 かつて、原発建設の増加で アメリカ中の河川が干上がる可能性があるという論文のあった事に触れましたが、最近の異常気象を見るにつけ、原発には放射能汚染をどうするかという、いわゆる「トイレの無いマンション」論議とともに、冷却水と海水の表面温度の上昇との関係についても、客観的な調査とデータの公表が必須だと思われます。

 福島の原発事故の時には、心配する国民にすべて ガイガー計を持たせたらと書きましたが、誰もが、望めば容易に最先端のデータを入手でき、データによって判断できるという事が、内では健全な民主主義を育て、外では世界人々の納得を得るための王道ではないでしょうか。

財政再建はギブアップ体制に入ったのか

2019年11月19日 00時01分24秒 | 経済
財政再建はギブアップ体制に入ったのか
 モリカケに続いて、またお花見疑惑で国会は揉め、マスコミは賑わっています。
 安倍総理は真面目なお顔で、悪びれもせずに、「法に触れるようなことはしていない」と繰り返していますが、総理大臣というものは、法に触れない限り何をしてもいいという事なのでしょうか。

 我々庶民は、法に触れないのは当然で、法律の問題になるよりずっと手前で、道徳や倫理、人の道に叶った生活をしようと務めているのです。

 ここで取り上げるのは「財政再建」の問題です。安倍さんは、総理として「財政再建の旗は降ろしません」といっています。そんなことは総理として当たり前で、総理たるもの国民のために財政再建をします。具体的にはこうやります、といってくれないことには納得がいきません。

 確かに、財政再建ができなくても、あるいはやらなくても、法律に触れることでは多分ないのでしょう。
 しかし世界一といわれる国債発行残高を抱えて、国民が勤勉で、堅実で、その上温和しいのをいいことに殆ど金利もつけずに国民から借金し(国債発行)し、時には帳簿もつけずに、自分たちの思い通りに使っているといった状態は、法に触れないから許されるという言い訳でいいのでしょうか。
 
 現状では、トラブルを好まない国民が、一応政府を信用し、国債は貯金だと思っていますからいいのですが、いよいよ危ないと思って繰り上げ償還してくれと言い出したら、あるいはもう少し金利をつけろと言い出したら、忽ち財政は破綻でしょう。

 安倍さんは2016年の消費増税をこの10月まで延ばし、「財政再建には影響あありません」という趣旨の発言をしています(そんなことは計算上あり得ません)。
 さらに今回の増税に際しては支持率の低下を嫌ってか、公明党の主張を入れ軽減税率を導入、更にキャッシュレスポインと還元などと言い出し、増税が財政再建にどうつながるのかはっきりしなくなているようです。

 直接影響を受けるのは公的年金でしょうか。100年安心どころではなく支給年齢の後退、年金天引き保険料の増加など、すでに着々と現実になりつつあります。
 政府の計算によっても、元々2%のインフレがなければ財政再建は出来ないことになっていますが、物価上昇率はとても2%に届いていませんので、そのうちにまとめて大インフレになるのでしょうか。

 その時は金利も上がり、国債は暴落・・・、戦後と同じで国債は紙屑、預貯金は封鎖といったことになるのでしょうか。

 経済原則は冷徹で、ツケの支払いは必ず回ってきます。回ってきたとき安倍さんはもう総理ではないでしょう。
 そういえば、安倍さんは今後10年消費税の増税はいらないとか言っていました。10年後まで責任の持てるはずがありません。
  
 安倍さん腹心といわれる文科相も英語の試験の実施を、5年先延ばしをすると言っています。そこまで現内閣が責任を持てるのでしょうか。

 このところ安倍内閣からは責任のとれない「先延ばし」発言が多くなりそうです。
 折しもアメリカから借金財政に都合のいいMMTなる経済理論が発信されています。いくら赤字財政をやってもいいんですよという理論だそうです。
 あと2年、安倍さんもアベノミクスをMMTに乗り換えて赤字を続けようというのでしょうか。あとの内閣は苦労するでしょうし、本当に苦労するのは国民という事になるのでしょう。
 

成長と分配の関係を理解しよう:3

2019年11月17日 23時24分40秒 | 経済
成長と分配の関係を理解しよう:3
 前回は「労働分配率」を中心に「成長と分配」の問題を見て来ました。
 今回は「格差化の問題」を中心に成長と分配の問題を考えてみたいと思います。

 勿論ここでの格差は経済的な格差ですが、人間社会には格差は常に存在します。しかしそれが人々の認識として納得性がある程度のものであれば、それは人々への刺激や動機づけになって、社会は健全に機能します。
しかし限度を超えれば、社会が不安定になり、正常な経済活動は阻害され、経済成長はなくなります。(格差の許容範囲はそれぞれの国、社会、時代によって違うようです)

 ところで、格差の問題は、国レベル、企業レベル、社会階層レベル、個人レベルなどと多様ですが、格差と成長の関係は基本的には同じです。

 前回の労働分配率の問題は、資本家階級と労働者階級の所得格差の問題で、経済学的には、労働者がお金を持たなければ、ものを作っても売れませんから経済成長につながりません。
 結局資本主義の方が柔軟に変化し、ヘンリー・フォードのように、量産するT型フォーを、労働者が買えることが必要と気づき、労働者への分配を増やして、T型フォードは飛ぶように売れ、自動車産業の高成長を実現したわけです。

 国レベルではソビエト連邦の失敗例があります。資本家の搾取を廃して平等を実現しようと社会主義革命を起こしたわけですが、結局は共産主義の一党独裁ですから、巨大な富と権力を握る支配者と平等に貧しい国民を生んだようです。
 あまつさえ、連邦内の衛星国の富がロシアに集まるような為替レートを設定(ツーブル高)衛星国の富を吸い上げて、ソ連邦内の国レベルの格差(ロシアと衛星国)を大きくしました。結果は革命後70年でソ連は崩壊しました。ルーブルの価値は大きく下がりました。

 覇権国という立場でも似たようなことが起きます。イギリスは植民地の富を集めて覇権を維持しましたが、アメリカ産の紅茶を安く買いたたいたことから、ボストン湾がアメリカ向けの紅茶の投棄て紅茶の海になる「ボストン・ティーパーティ」などが起きています。
 今は、アメリカが覇権国ですが、アメリカの行動は如何でしょうか。

 ピケティーは新しい資本論を書いて、資本主義は1960年代を例外に、常に格差を作り出すシステムと断じています。
 これは言い換えれば、世界が1960年代のような状態、行動パターン、国際関係になれば、格差はっ縮小する可能性もあるということを示唆しています。

 日本について考えますと、日本は戦後従業員の身分制を廃止し、全員「社員」という人事制度が一般的でした。賃金は世界に稀な年功賃金ですが、私の記憶によれば、高度成長期に当時の日経連が「新入社員と社長の平均賃金の格差は、税込みで20倍、税引き後では7~8倍」という数字を発表しています。

 マネー資本主義は日本にも入り、一部の経営者が巨大な所得を獲得、国際化の影響もあってでしょうか年収1億円以上のお経営者も年々増え、他方では非正規従業員が著増、社会の格差化が深刻に意識されるようになり、国民生活は過度に防衛的になり、為替レートの正常化にもかかわらず、経済は先の見えない停滞を続けています。

 この問題は個別的には従来も頻繁に取り上げています。あまりしつこくなるので今回はここまでにしたいと思います。

成長と分配の関係を理解しよう:2

2019年11月16日 22時14分12秒 | 経済
成長と分配の関係を理解しよう:2
 前回、付加価値は生産に参加した労働と資本に分配され、付加価値の中の労働への分配つまり人件費の割合が「労働分配率」であるという所まで来ました。
 
 「現在の分配が将来の成長を決める」というのがこの分析のテーマですから、まず問題は「労働分配率と経済成長(企業成長)との関係」という事になります。
 この問題は概念的には比較的簡単で「労働分配率と経済成長率は反比例関係にある」というものです。

 例えば、労働分配率100%と仮定すれば、資本は増えません。ところが、経済成長というのは、第1次産業革命から最近の第4次産業革命へという形で連続して起こる技術革新によって可能になります。
 ですから資本(蓄積)が増えなければ、企業も経済も成長しません。今も運搬手段は馬車で、着るものは紡績業発達以前のホームメイドの布製という事になります。

 一方、労働分配率が低ければその分、資本蓄積が進みますから、技術革新も起きや少なり、経済成長率は加速されるという理屈です。
 現実問題でも、中世でも労働分配率ゼロはありませんから(農奴や作男などは「現物支給(食事・衣服)」が労働分配率に当たるでしょう。

 現に資本主義の初期には「賃金基金説」などというのがあって、賃金は一定のファンドを決めておいて、あとは全部資本家や事業主の儲け(資本費)などという考え方もかなり一般的だったようです。マルクス主義が生まれたのも当然かもしれません。

 しかし、資本主義は十分柔軟性を持っていたようで、社会主義の良い所を取り入れ、労働組合運動も認め、福祉社会の概念も取り入れるようになっています。

 所で、技術革新も、資本がやるのではありません、「人間」がやるのです。人間が考えて初めてできます。人間への投資は決定的に重要で、これは人件費に分類されるのです。そのほかに研究者や生産者が使う設備投資が必要です

 こうして、労働分配率をどう決めるかというのは、労働経済学の最大の課題という事になっているようです。
 「適正」労働分配率を検討するには、環境条件についての労使の一致した理解が必須で、その上に、企業成長についての目標も共有される必要があります。将来の成長目標に違いがあれば、より多くの設備などが必要になり、それは現状の労働分配率の数字に影響を与えるはずです。

 つまり、原則はこうなのです。技術革新を速め、より高い成長を求めるのであれば、より大きな資本が必要になりますから、労働分配率は低めでなければならないでしょう。あえて高成長を求めないのであれば、労働分配率は高めでも許容されるでしょう。

 労働分配率と成長関係は、基本的には以上のようなものです。しかしこれは理論であって、現実は多様です。たとえばJDIは自分では資本蓄積の能力はありませんが、海外の資本を入れて成長を達成しようとしているのでしょう。
 しかし、そうした外部資本は、その後の成長でうまく付加価値が増えて、元利返済か株主配当の増額などの方策でお返しができなければなりまあせん。 経済には只の昼飯はないのです。

 労働分配率の問題は、付加価値総額を労使でどう分けるかという分配問題ですが、もう一つ問題になる分配問題があります。これは人件費とか資本費の、それぞれの分配問題です。資本費ですと、配当と内部留保にどう分けるか、モノ言う株主は通常強い主張を持っています。
 人件費、賃金の分配は社長の給料から新入社員の初任給、非正規労働者の時給まで、分配の中身が問題です。
 そしてこれは国の税制とも関係ありますが、「格差社会」という問題と直接につながり、社会システムとか経営スタイル、能力評価の問題などとも絡んで、人間心理、社会心理の側面から経済や企業の成長、ひいては国際関係までに大きく影響します。

 次回、格差という視点から分配と成長の関係を見てみましょう。

成長と分配の関係を理解しよう:1

2019年11月15日 23時09分52秒 | 経済
成長と分配の関係を理解しよう:1
 このブログの最も基本的なテーマは、経済活動における成長と分配の関係です。
 これは、このブログのタイトルにも書いていますが、「付加価値をどう作り、どう使うか」ということです。

 付加価値をどう作るかは経済成長の問題です。どう使うかは付加価値の分配の問題です。そして、大事なことは、付加価値の使い方、つまり分配の問題が決定的に成長に影響を与える、もっとはっきり言えば、分配が将来の成長を決めるということです。

 もともとは、「企業経営」における成長と分配の問題を検討してきたのですが、この問題は、企業経営だけでなく、一国経済においても、家計においても基本的には共通な問題であることが解ってきています。

 そんなわけで、このブログでは何を書くときでも、その背後に「成長と分配」の関係についての意識をどこかで考えています。

 ところで、このところ、日本経済も、世界経済も、思うように成長しない状態になってしまっています。
 ということは「成長と分配」の関係で見ますと、このところずっと「分配の在り方」がうまくいっていないので、そのために成長が阻害されているということになります。

 「ではどんな具合に分配の在り方が歪んでいるのか」を考えておきたいと思います。

 そこでまず、付加価値とその分配についての基本的な定義などを見ておかなければなりません。具体的に考えてみるとこうなります。
国のレベルでいう付加価値は、例えば、生産面ではGDP、分配面では(分配)国民所得とかいうものになります。

 経済学では付加価値を生産するのは、いわゆる生産の三要素、「土地、労働、資本」で、付加価値はこの3要素に「要素費用」として「地代」「労賃」「利益」として分配されるとなっていました。
今では、土地は資本の一部になっていますから、「付加価値は労働と資本が生産する」ということになっています。このブログでは、正式には「人間が資本を使って生産する」といっています。

 という訳で、付加価値を生産したのは「労働と資本」ですから、生産された付加価値は、「労働と資本」が分け合うことになります。

 もちろん資本には意思がありませんから、資本家や経営者という人間が資本の取り分(資本費)を、労働者という人間が労働の取り分(人件費)それぞれを要求して、労使(資)の話し合いで配分が決まる(付加価値=人件費+資本費)というのが労働経済学の理論になっています。人件費と資本費が要素費用(生産要素への配分)です。
(今の経済学・経営学では、経営者も労働者の一員で、経営者の賃金も人件費の中に入ります)

 労働経済学では付加価値の中の労働の取り分(人件費/付加価値)を労働分配率といい、これが低いか高いか、言い換えれば資本と労働の取り分の割合の指標として労働分配率を使うわけです。

 ということで、分配の問題はまず、まず労働分配率という形で、決まってきます。
 成長と分配の問題の第一は、労働分配率の高さと、企業や経済の成長の関係という問題になります。
 前置きが長くなって、本論は次回からということになってしました。

経済政策が重要な時期に政治は何を・・・

2019年11月14日 23時15分46秒 | 政治
経済政策が重要な時期に政治は何を・・・
 世の中巧くいかないものですね。米中貿易摩擦は、アジアを中心に世界経済に影を落とし、日本経済も、深刻な影響を受けそうです。
 主要企業の決算は減益に転じ、今日発表の2019年7-9月期のGDP速報も、その辺りを反映したものになっているようです。

 昨年の10-12月期からこの7-9月期までの対前期の名目GDPの伸び率は、0.4%、0.5%、0.5%、0.1%で,7-9月期は、やっと微かにプラスです。  
 内訳は内需が+0.2%、外需が-0.2%で、四捨五入の関係でGDP合計は0.1%のプラスです。内需の内訳は民需が0.1%の増、官公需が0.6%の増で、政府支出に支えられた経済になっています(災害がひどかったからでしょうか)。

 安倍さんは「国民総活躍社会」などといっていますが、国民の方は白けていて、「別に活躍なんてしたくないよ」という意見の方が多いようです。
 スローガンや掛け声ではなく、国民が国づくりに頑張りたくなるような日本社会にすることが重要なはずですが、国民は将来不安から防衛的になるばかりです。

 今国会も、「お花見」の話で、前向きな国づくりのための議論などはとても出て来そうにもありません。
 「お花見」の話の問題点は、誰が見ても、筋の通らないおかしなことでしょうが、政府は一丸となって「無理が通れば、道理がひっ込む」を絶対多数を武器にやり通そうという雰囲気です。
 与党の中にも、普通の人の感覚を持った人がいてもいいと思うのですが、そういうまともな常識人は全くいないみたいです。

 海の向こうではトランプさんも大変のようです。テレビで見ると「嘘だ、嘘だ、でっち上げだ、魔女狩りだ」と絶叫していますが、品性や知性や理性のかけらも感じられない風情というのが実感です。
 
 アメリカの最大の問題は、自国の労働力を活用して、世界に通用する商品を作って貿易収支を改善するしかないのでしょうが(第一次所得収支やサービス収支は黒字ですから)、トランプさんの考えているのは「ドル安にして」それを達成という事なのでしょうか。

 こうした世の中になってしまったのも、社会学、政治学的には、ポピュリズムの流行、といった所に原因があるようです。
 外見をうまく飾って人気が出て票が集まれば、後は多数を盾にすればなんでも通るというのなら、それは民主主義の死でしょう。

 加えて、経済学的には、マネー資本主義の流行が、真面目にコツコツよりも、あぶく銭でも一攫千金の方がかっこいいというギャンブル資本主義を生み、せっかく作り上げた人間と資本が表裏一体の人間中心の資本主義(渋沢栄一流)が古臭くなったという事もあるのではないでしょうか。日本でもいよいよ公認の賭場を作ろうという事になるようです。

 なんでもアメリカについていこうという日本ですが、今、アメリカと日本で、政治が大揉めになっているという事もその辺りと何か繋がりがあるように見えて来ませんか。

2019年9月分の平均消費性向発表:駆け込み需要は健在

2019年11月13日 16時34分32秒 | 経済
2019年9月分の平均消費性向発表:駆け込み需要は健在
 毎月、家計調査報告が出ると、勤労者所帯の「平均消費性向」を定点観測していますが、去る11月8日、総務省から、それが発表になりましたので、少し遅くなりましたが、取り上げました。

 本来この数字に注目しているのは、草の根の家計レベルで消費と貯蓄のどちらに力を入れているかが感じ取れるのではないかという意識からです。

 多くの国民が将来不安から、消費を抑え、将来のために(多くは老後のために)貯蓄に励んでいるのが今の日本の姿のようですが、マクロ経済から見ますと、そのために消費不振型の経済になり、経済の活性化が思うように進まないというのも現実です。

 賃金が上がらないという事もありますが、今の状態ですと、賃金が上がっても消費より貯金に回っているという傾向が強くなっています。
 
 その中でも、そろそろ節約疲れではありませんが、もう少し現在の生活に支出を振り向けようといった雰囲気が出てくれば、経済活性化につながるという視点から毎月数字を見ているわけです。

 ところが、今回発表の9月分は、その視点からは役に立たないことは解っています。
 10月から消費税が8%から10%に引き上げられれば、軽減税率やキャッシュレス・ポイント還元などがあるとはいえ「駆け込み需要」での消費増が避けられないからです。

 ただ、政府は、軽減税率などが丁寧にやられたから、駆け込み需要はあまりなかったと言いたかったようでもあり、その辺りがどうだったのかは、この調査で具体的な数字で見られますから、それなりの役には立つはずです。

 前置きが長くなりましたが、数字は以下の通りです。
<2人以上の勤労者所帯>
 可処分所得(手取り収入)  370189円 前年同月比マイナス1.1%
 消費支出  329655円 前年同月比プラス8.0%       
 平均消費性向 89.1% 前年同月比プラス7.5%ポイント
という事で、平均消費性向は大幅アップという結果です。

 これでも小幅だったという意見もあるようですが、いずれにしても「駆け込み需要」はやっぱり健在だったという事です。
 その反動で、10月、11月あたりの消費支出が少なくなる可能性は当然あるわけで、その辺りを均してみて、消費性向の傾向的な動きが推定できるという事だと思われます。
 やはり、今後の動きも確り見ていかないといけないようです。

第一次所得収支の著増と内需停滞の悪循環

2019年11月12日 16時59分56秒 | 経済
第一次所得収支の著増と内需停滞の悪循環
前回、経常収支黒字の太宗は第一次所得収支の増加が原因と指摘しましたが、まずその辺りをグラフにしてみました。

     経常収支と第一次所得収支の推移 (単位千億円)

           財務省「国際収支統計」

 経常収支の黒字は2002年からの「好況感なき上昇」いわゆる「いざなぎ超え」の期間に急増し、リーマンショックで急減、黒田日銀の異次元金融緩和・円安政策でまた急増というパターンです。

 一方、第一次所得収支(海外からの利子・配当収入など)は、「いざなぎ超え」期も増加しましたが、今回の景気回復期に至って著増という形です。

 背後にあるのは貿易収支で、「いざなぎ超え」期には貿易黒字は増加しましたが、最近はほぼ均衡で、黒字になったり赤字になったりといった状態です。
 という事は、経常黒字の原因は、貿易収支から第一次所得収支、つまり海外の企業(進出企業や買収企業など)からの利益配分に切り替わってきているのです。

 そしてその背後には、日本がGDPという形で稼いで、その結果国民所得として使える分、家計でいえば可処分所得に当たるものを 使い残して海外に貯金しているという日本人(法人も含む)の行動パターンがあるのです。

 つまり、厳しく長い不況を経験し、高齢化もあって将来に不安を持つ日本人が、その「アリ型」(キリギリス型の逆・勤倹貯蓄型)の性格を発揮してゼロ金利でも銀行に預金をします。異次元金融緩和で国内はお金が余っています。企業は安い金利で資金調達し、国内では需要が少ないので、賃金水準の低い海外に工場を作ったり、収益性の見込める海外企業を買収します。

 国民は貯蓄に励み、政府は異次元金融緩和で国内はカネ余りです。しかし企業の生産活動は、そうした金を利用して、どんどん海外に移転していきます。
 重要な生産活動は海外で行われ、企業の収入としては海外からの利子・配当が増えることになります。

 国内に投資すれば、そこでの生産はGDPを増やし、雇用を増やし、付加価値を生み、その付加価値は、国内の労使の間で分配され、賃金と利益になるのですが、そのプロセスは海外で行われ、日本の企業には、海外の投資先企業の利益の配分である利子・配当だけが入ることになります。

 国内で増える雇用は、介護、配送、警備、などの単純業務が多くなってしまうのもその結果でしょう。

 こうしたプロセスをたどった先輩はやはりアメリカでしょう。アメリカの第一次所得収支は黒字です。しかし、 GMの車もiPhoneも中国で作られていると過日書きましたように、貿易収支の赤字が第一次資本収支の黒字よりどんどん大きくなり、鉄鋼でも自動車でも、製造を担当する中堅労働者の雇用は消滅、今の姿になっているのでしょう。

 アメリカはまさに「前車の轍」を見せてくれているのでしょうか。日本人は根が真面目だから、そうはならないと私は思いたいのですが、「政策よろしきを得なければ」、そうなる可能性も無きにしも非ずです。

 株が上がっても庶民には関係ありません。上場企業は多少の減益ですが、まだ一般的には高水準です好業績に企業は沢山あります。
一方、大企業での人減らし、地方中小企業の倒産や廃業も少なくありません。

文科相から、ついつい身の丈発言も出てしまうように、和を尊ぶ日本社会でも、格差化が確実に進展しているのが現状ではないでしょうか。

1980年前後ですが、アメリカで、若者が、「我々は、親の代のような豊かな暮らしは出来ない」といっていた時期がありました。
私も、最近それを思い出して、今の日本はどうだろうかなどと考えてしまいます。

 企業が、真面目で勤勉な日本人を積極的に活用して、より生産性の高い優れた企業活動、・生産活動を目指すような産業社会にならなければ、日本も決して安心ではないのではないでしょうか。

国際収支から見た日本経済の歪み

2019年11月11日 21時46分59秒 | 経済
国際収支から見た日本経済の歪み
 今日、財務省から国際収支の速報で2019年9月分の国際収支の内容が発表になりました。
 マスコミの見出しは、経常収支の黒字が1兆6千億円、前年同月比2300億円の縮小などとなっているようです。

そこで、内訳を見ますと、貿易収支は11億円の黒字ですが、米中摩擦の影響で(同)3200億円の減少。サービス収支はラグビーワールドカップもあり旅行収支が改善して700億円の黒字。 最大の稼ぎ頭は第1次所得収支(海外からの利子・配当などの収入)の1兆8000億円(9500億円増)、で第2次所得収支(途上国援助など)は2300億円の赤字(これは当然)といったものです。

表題で「歪み」と書いたのは、これは、このところ全く変わらずですが、経常収支の黒字が大きすぎるということです。
具体的に言いますと、日本人の総所得はGNI(国民総所得)でそのうち「可処分所得」に相当するものが国民所得です。最近年(2017年度)国民所得は445兆円です。

これを、日本人(法人を含む)が全て使えば正常収支は±ゼロです。という事は、経常収支がプラスという事は、日本人は稼いだものを使い切っていない、経常収支分だけ使い残しているという事です。言い換えれば、現状推定4%程の使い残しだという事です。

使い残した分は何処へ行っているのかと言いますと、家計なら銀行の預貯金ですが、国の場合は、海外の債権や証券を買っている、つまり日本国として外国に貯金をしているということになります。

「貯金をきちんとして、健全財政で結構ですね」といいたいところですが、実はなかなかそうはいきません。
例えば、大きな問題だけでも3つほどあります。

まず第一は、常に円高を招く可能性があるという事です。典型的なのは「プラザ合意」ですが、そんなに黒字が出るなら「円高に出来るでしょう」と経常収支の赤字国は考えます。「プラザ合意」では直接言われましたが、G7やG20でも、黒字国があるから赤字国があるので、バランスが大事だ、といった見解は常に表明されます。
 国際投機資本などが、「何かあれば円買い(円高)」という行動をとるのも、日本が万年黒字だからです。

 第二は、経常黒字で、外国の債券・証券を買っても、貯蓄の保全にならないということです。最も信用があるはずのアメリカ国債や証券を持っていても、円高になればその分だけ目減りしますし、リーマン・ショックのようなことがいつ起きるか解りません。
 海外の債券・証券に投資しても、結局損するというのが日本では常識でしょう。

 第3は、経常黒字分は日本国内で使われないわけですから、日本経済の活性化に役立たないという事です。
 家計でも、貯蓄を沢山すれば、その分、日々の生活は厳しくなります。もちろん将来の安心のためにですが、経常黒字→円高の日本の「円」で計れば海外貯蓄は目減りしますから将来の役には立ってくれないのです。

 そして、日本経済のこの傾向は、深刻化しこそすれ、改善の方向に向かう気配がない、具体的には経常黒字幅が縮小傾向にならないという事が、一番の問題なのではないでしょうか。アベノミクスも黒田バズーカも、結局は弥縫策でしかなかったようです。
 長くなるので、次回にします。