tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

民主党?共和党?:重病のアメリカ

2012年10月28日 13時38分49秒 | 経済
民主党?共和党?:重病のアメリカ
 アメリカの大統領選挙も旬日の後に迫りました。アメリカの国内は当然ですが、日本でも、オバマさんかロムニーさんかといった論議が盛んです。

 勿論他国のことですから、単純な興味本位のものも多いようですが、日本にとって、どちらが当選した方がいいかといったところまで立ち入るものもあって、あと数日は賑やかだろうと思いますが、正直言って、日本にとっては、どちらになっても、本質的な変化はないような気がしますが如何でしょうか。
 
 ロムニーさんが選挙期間中に日本ついて発言したのは「アメリカは10年以上も不況を続ける日本とは違う」と言ったことだけ、などいう解説も聞きましたが、日本にとっての認識はその程度が普通なのでしょう。そして日本の不況の原因の大半がアメリカいあるなどということは考えたこともないでしょう。

 オバマさんの「チェンジ!」の時も書かせていただきましたが、交代と言っても、野球のチェンジとさして変わらず、やっていることは同じ野球のようです。
 もともと、ギリシャやスペイン、イタリアも同じで、現状に不満だから、政権を変えれば何とかしてくれるだろうという、国民の叶わぬ期待の結果で政権が変わるので、政権が、本気で病気を治そうとすれば、良薬口に苦しで、国民はもっと不満を持つ、というのが客観的な事実でしょう。

 大国アメリカも病気です、しかもかなりの重病で、このままいけば、どんどん病状は悪化し、ますます治療が困難になるというのが現状と思います。
 病気というのは、繰り返して書いて来ましたように、不況、失業です。その原因は、言わずと知れた万年赤字です。またその原因は・・・・? 、繰り返し述べてきました

 日本として理解しておかなければならないことは、アメリカは重病を押して、世界でパックス・アメリカーナを維持しなければという目標を維持すべく懸命な努力をしているということでしょう。中国の台頭はその目標にとっては大きな問題です。
 しかも中国は現状、経済的には大幅黒字国です。アメリカは赤字で、まずは、金を集めなければならないという事情を抱えています。

 一方、中国も痼疾を持っています。共産党一党支配体制でなければ、国の統一が難しいという問題です。さらに、経済成長は急速ですが、、貿易依存度の異常な高さに見られるように、国内経済の跛行性は極端です。加工貿易中心の地域・産業は急成長ですが、それは一部で、超巨大な国内生産・消費の部分は取り残されたままです。

 こうした状況の中で、日本は何を考え、何をすべきでしょうか。日本の目指すところは、世界の安定、平和共存と経済的繁栄でしょう。
日本はアメリカ、中国を始め世界に向かって、思うところをもっともっと発言し、カネ・技術だけでなく、その「想い」・「心」で協力・貢献すべきではないのでしょうか。弱小国化という評価に甘んじ、サボっていてはいけないように思います。


日本経済、最悪の事態とは

2012年10月26日 11時53分31秒 | 経済
日本経済、最悪の事態とは
 では、逆に、日本にとっての最悪の事態とは何でしょうか。
 これも、このブログで、繰り返し述べてきましたように、このまま今までの延長線で行ってしまう事です。

 一言でいえば、今まで通り「円高とデフレのスパイラル」を続けることです。例えば、ある日本企業が素晴らしい蓄電池を開発したとします。通常ならば、その素晴らしい技術開発を生かして世界にその蓄電池を供給し、大きく業績を伸ばし、大きな収益を上げて、雇用を増やし、従業員にはより高い給料を支払い、なおかつ大きな利益を活用して更なる技術開発を進め、その地位を確固たるものにしていくでしょう。

 ところが国際金融市場でトラブルが発生したり、国際投機資本の思惑などで、それをきっかけに、これまでのように10円、20円の円高が進んだとします。
 $1=¥80が、70円になり、60円になると、その電池を日本で作ってもコスト高でペイしません。製造工程は結局海外ということになり、日本の雇用は増えません。円建てでは賃金は全く上がっていませんが、ドル建てでは(国際的には)1割、2割以上の賃上げになっているからです。

 結局、製品化工程のノーハウは海外で育ち、付加価値も海外で発生し、日本に残るのは失業と技術の空洞化です。当然雇用も賃金所得も利益も海外で発生し、日本はデフレ不況、ゼロ・マイナス成長で苦しみます。
 こうして日本の社会は低迷・混乱し企業は疲弊し、教育訓練費も削られ、R&D資金も枯渇、最終的には技術開発力も次第に失われ、失われた10年が20年になり30年になり、日本経済は再起不能の状態になります。
 日本が経験してきたのは正にこれです。

 つまり、円高をどこかで止めなければならないということですが、政府は財政再建を言い、日銀はインフレ警戒が中心で、自ら円高を招くようなことばかりしていたのではないでしょうか。
 世界経済がまともならば、日本の行動は、まさに健全で、誇るに足るものですが・・・。

 日本の状況はいつも例える、ゴルフのハンディでいえば、「あいつには勝たせたくない」という意地悪な幹事がいて、実力12の時はハンディは10、ハンディ10を目指して練習し腕を上げたらハンディは8、もうひと頑張りと練習を始めたらハンディは6といった具合で、常に実力より先にハンディの方が上がってしまうので、いくら練習しても勝てないゴルファーの悲劇というところでしょうか。


当面の目標、GDPを使い切ること

2012年10月24日 13時05分06秒 | 経済
当面の目標、GDPを使い切ること
 すでに何度となく書いてきていますように、今の世界経済の不安定は、GDP以上に金を使う経済と、GDPを使い残す経済とが併存しており、それはそれでいいのですが、問題の第一は、そうした経済が固定化してしまっていることなのでしょう。

 自由主義経済がまともに機能していれば、使いすぎている国は、借金で埋めなければならなくなり、それが続いては不健全だという事になり、引き締めをして黒字化を目指し、逆に、使い残して黒字の国は、内需拡大をして、GDPを使い切って、経済を活発にする努力をするという事で、黒字の国と赤字の国が、交互に入れ替わリ立ち替わったりすることになるのでしょう。

 財政金融の引き締めと緩和は、本来そうした「調整」をするための手段(counter-cyclical compensatory fiscal policy)だったはずです。
  ところが、実力以上の生活、つまり、GFPの範囲をはみ出した生活をエンジョイした国では、引き締めをしようとすると、国民が不満を言い、政権を維持したい与党は、人気取りのポピュリストになって、赤字を放置することになります。

 そして残念ながら、基軸通貨国である、アメリカがそうなってしまい、金とドルの兌換を停止(ニクソンショック)ドルの価値を切り下げて、遣り繰りする政策に転換したのです。
 狙いは、ドルの価値を切り下げることで、経常赤字国からの脱出だったのでしょう。しかし一旦稼ぎ以上の生活に慣れたアメリカ人は、その程度の努力も嫌がり、「政権を変えれば、新政権が何とかしてくれるのではないか」といった選択をしたようです。

 政権を変えても、足りないものは足りません、結果は万年赤字国(双子の赤字)への転落です。
結局ドルは円との比較で、$1=¥360から$1=¥80まで切り下げても、アメリカは赤字国か脱出できません。

 そこで考え付いたのが、赤字国があれば黒字国があるのだから、「黒字国のカネが赤字国に流れてくる方法」を考えればいい、という事で、これが「金融工学」です。
そしてその結果が、サブプライムローンの証券化でありリーマン・ショックです。

 ユーロ圏でも、ユーロ切り替えの中で、こうした赤字国の固定化が進みました。しかし、こうした為替操作や金融工学という弥縫策で、問題が根本的に解決するわけではありません。

 そうした意味で、いま日本やドイツに出来る方策は、黒字国でなくなることです。黒字国がなくなれば、赤字国がなくなるからです。国債発行でも、消費拡大でも何でもして、GDPを全部使い切ってしまう 。多少の赤字も厭わないぐらいの気持ちで。
 どうでしょう、どこか変でしょうか・・・・・。


もう一つの大きな違い:円安大歓迎の日本

2012年10月23日 09時48分54秒 | 経済
もう一つの大きな違い:円安大歓迎の日本
 もう1つ、決定的な大きな違いを挙げておきましょう。
 「国債、金融、インフレ、円」などはすべて巡りめぐって関連していることなのですが、日本が景気が悪い原因は、アメリカやヨーロッパのように、賃金を上げ過ぎて、コスト高になり、その分価格を上げようとしても、国際競争で価格が上げられないから不況になり、財政支出で双子の赤字、金融緩和も低金利も効かないという事ではないのです。

 もともと、コストは低く国際競争力は十分あったのですが、円高を強いられたことで、物価高になり、国際競争力をなくして不況になっているという事なのです。
 ですから世界中、どこの国でも基本的にはインフレですが、日本だけはまさに例外的に、10年以上のデフレを続けているのです。

 インフレで(厳密には賃金インフレで)不況になっている国は、当然経常赤字経済の国ですから財政政策・金融政策でやり繰りをしようと思うと、自国通貨の価値が下がり、赤字経済体質が一層ひどくなって、二進も三進もいかなくなるのです。

 一方、日本の場合は、財政、金融政策を多少やり過ぎて、たとえ一時的に赤字体質になっても、それで円安になれば、国内産業が大喜びで活性化し、正常な経済活動が可能な状態に戻るという事になるわけで、円安大歓迎という「全く反対の」不況の発生プロセスを持っている国だという事です。

 繰り返して言えば、欧米の多くの国の不況は、もともと「インフレ・赤字体質」が原因ですから、インフレ体質を直すことが正常化ですが、日本の場合は、デフレを強いられて不況になっているのですから、欧米のように、インフレ・赤字体質にしようと思えば、一度、円高の是正、デフレの終了、国際競争力の回復という「経済の正常化」のプロセスを経ないとそうはなりません。

 国債を暴落させたり、結果的に高金利をもたらしたり、通貨価値を引き下げたりすると、結果的に日本経済は一度正常な状態に戻ることになり、それを通り越してはじめて、欧米のような状態になるのですが、多分その「正常状態」に戻ったところで、「ああ、このあたりが一番いい」という経済状態になる可能性が大きいのです。

 こうした「日本の不況の特殊性」を考えた時、単純に、欧米のように、財政破綻、国債暴落、金利急上昇、円の急落、ハイパーインフレ、といったことを唱えてみても、なかなかそう簡単にそうはならないことが解るのではないかと思います。

 欧米諸国もIMFも、政府・日銀も、多くの学者なども、この基本的違いが良く解っていないので、財政健全化が必要とか、これ以上の量的緩和は危険といった論評を平気でやってしまうことになるのでしょう。それらは円高が終わった時に、初めて正しい意見という事になるのです。


カネを増やせばインフレになるか

2012年10月18日 22時27分27秒 | 経済
カネを増やせばインフレになるか
 日本国債を買い叩いて紙くずにするのは容易ではないようです。それなら日銀にうんとお金を刷らせて(金融を緩めさせて)インフレを起こすことが可能かどうかも考えてみましょう。

 ヘリコプターマネーという言葉があります。ヘリコプターからおカネをばらまけば、みんなお金を持って争って物を買うからインフレになる。お金の量が2倍になれば、物価も2倍になるといった意見です。ま、単純な貨幣数量説ですね。

 学者でも平気でそういったことを言う人もいますが、日銀がいかにお金を沢山発行しても、それがすぐに個人のお財布に入る事はありません。銀行がそれを借り、企業に貸して、企業がそれで商売をし、利益を上げて、初めて給料が上がり、消費が増えるのです。

 今、日銀が如何に金融を緩めても、銀行はただでも資金の運用に困って、国債を買っているのですから、企業が借りに来る状況ではありません。
 プラザ合意の後のように、土地バブルでもあれば、「金を貸すから土地を買いなさい」と言えますが、土地バブルはそう簡単には起きないでしょう。せいぜい、国際投機資本を心理的に刺激し、一時的な円安効果を持つぐらいでしょう。

 今、日銀に金融緩和を要求するのは、通貨を増やして物価を上げるのではなく、心理的効果で円安に誘導し、円安の効果で企業活動を活発にしようという事なのです。

 しかも、日本では労働組合も、円高でデフレが不可避という事を知っていますし、生産性と関係なく、賃上げを取れるだけ取ろうなどとは決して考えません。経験から学んで、生産性が上がらずに(ゼロ成長)賃上げだけすれば、結果はインフレで、名目賃金は上がっても、結局はインフレで目減りするだけという事も良く知っているからです。
 ですからバブルの時も、地価は上がりましたが、物価は安定していました。

 日本では、カネが入るなら先ずは使わなければ損だと考えるのは、政治家と役人ぐらいでしょう。庶民は一旦貯金しておいて、その上で、必要に応じて何に使うか考えます(山中教授も、「ノーベル賞の賞金は、当面貯金しておいて、何に使うか後から考えます」と言っておられました)。
 これが、金融を緩めてもインフレにならない理由と、それでも日銀に金融緩和を要求する理由です。


日本国債が暴落するための条件

2012年10月17日 10時59分24秒 | 経済
日本国債が暴落するための条件
 国債残高が巨額になってきているという事で、近い将来、日本は財政が破綻し、国際暴落、超高金利、ハイパーインフレで、円は紙屑といった危険性があるといった観測がしばしば出てくる今日この頃です。

 前回取り上げた、IMFの対日報告も、そうした危険性を指摘し、財政と金融が共倒れになる危険性を指摘しています。そうした警告がこれだけ多くなり、格付け会社も、その権威にかけて、一生懸命日本国債の格付けを下げようとしているように見えますが、市場の反応は相変わらずの円高基調で、産業界が待ち望む「円安」の気配は全くありません。

 という事で、それなら逆に、どういう条件が揃えば、日本国債が売られ、暴落し、日本国債を沢山持っている日本の金融機関のバランスシートの大穴があき、金利暴騰、ハイパーインフレといった状況になるのか、今後2,3回で考えてみるのはどうでしょうか。

 ヨーロッパで危険視されている国々についてのニュースでいわれるのは、先ず国債入札で、買い手がない(札割れ)という事です。
 日本の場合、国債はすぐ売れます。復興債も個人向け国債も売れます。個人も買いますし、個人からの預金を預かっている銀行も買います。特に銀行は、預かった預金の運用先がなくて困っているのです。国債が最も安全な運用先です。

 IMFはもっと外国の国債などを買ったらどうかと言います。しかし、外国債を買えば円高で損をするばかりですから、危なくて買えません。
国債が売れるという事は、それだけ国民がそれを支える貯蓄をしているという事です。 そうです、日本はずっと経常収支の黒字(カネ余り)国なのです。

 では外国の誰かが日本国債を売ろうとしたとします。買い手がなければ、国際価格は下がり、その分金利が上がります。現実には、少しでもそんな気配があれば、0.0何パーセントでも高い金利で運用したい金融機関などは、すぐそれを買いますから、国債価格はなかなか下がりません。売って買い戻して利益を上げようとしても、そうはいきません。
 しかも、外国は合計でも日本国債の5パーセントほどしか持っていません。
 
 国際的な金融不安の中で、日本国債より安全な金融資産はなかなか見つかりません。それを支えるのは日本人の貯蓄です。そしてこれが最も特徴的なのですが、日本人は、収入が減れば、消費を減らして、矢張り貯蓄をするのです。
 収入が減っても消費を減らさず、貯蓄を取り崩したり、借金をしたりという事が嫌いなのです。

 ですからここ十何年、GDPが減り続けても貯蓄は減らないのです。これは経常収支の黒字が減らないのと表裏の関係です。あれだけの大災害が来て、財産が失われ、復興に金がかかっても、黒字が多少減る程度で、日本は赤字国になっていません。

 ガイトナーは「日本人は金持ちだから大災害が起きてもアメリカの国債は売らない」と言いましたが、金持ちだからというよりは、そうした生活態度の違いが大きいのです。
国民が真面目な 日本の国債を売り叩くのは容易ではない理由はこの辺にあります。


日本を知らないIMFの対日報告

2012年10月12日 10時51分28秒 | 経済
日本を知らないIMFの対日報告
 大分前にも、IMFは日本の事を解っているのだろうかと疑問を述べた記憶がありますが、今回発表された報告書の日本の部分も、記者会見におけるビニャルス局長の発言でも日本についての理解の浅さを実感させられた思いです。

 基本的には、日本の市中銀行の国債保有(日本国債の保有)が多過ぎることが懸念材料だという事で、「今は良いにしても、いったん日本国債が売られたら財政も金融システムも共倒れになる危険性が大きい」といったことを言いたいように感じられました。

 そんな事は、日本の政治家も金融システムも、十分承知の上で、他により良い手段がないからやむを得ず、という日本の事情には全く考えが及んでいないようです。

 ビニャルス氏の発言にしても、今はユーロの混乱で、資金がドルと円に逃避し、「恩恵を受けているが」と言っています。とんでもない無理解で、アメリカはいざ知らず、日本は恩恵どころか「円高という大打撃」を受けているのです。

 こうした言葉のはしはしにも知識の無さが明らかですが、日本の金融機関は、他に手段がないから、ろくに金利も付かない日本の国債を買っているのです。
 もしアメリカを始め外国の国債を買えば、日本の国債が値下がりする以前に円高で巨大な損失を抱えることになる恐れ大ですから。

 円債が最もいいのです。利率は低くてもマイナスにはなりません。何しろ95パーセントほどは日本人の貯蓄で支えられているのですから、外国の投機資本の影響は最小限ですし、いざとなれば、自分たちの手でその価値を守ることが可能です。

 如何にだらしのない日本政府でも、国民の資産を守るとなれば、空売り禁止ぐらいはやるでしょう。
 まじめに働いて、経常黒字を出し、世界経済の安定に貢献し続けている日本の国債をネタにして、投機で儲けようなどという輩の不真面目な動機に乗せられては絶対にいけないと思います。彼らこそが世界経済を不安定にしている元凶なのですから。

 IMFは日本に警告する前に、過度な円高を演出し、いつか円暴落で荒稼ぎをしようという国際投機資金の闊歩をきちんと制限すべきでしょう。
 日本の金融機関が、国債保有に走るにも、もとはと言えば、円高続きで、日本企業が投資しても採算の見込みが立たないという現状の然らしめるところで、その先鞭をつけたのが、アメリカの「ドル安・円高」政策です。
 その上で、(日本を巨大災害が襲った際も)アメリカ国債を売らないように圧力を掛け続けます。
 アメリカの本拠を置く国際機関IMFは一体日本に何をさせようというのでしょうか。


デフレ容認の無思慮

2012年10月09日 10時40分18秒 | 経済
デフレ容認の無思慮
 前回、デフレの進行を放任することは、座して日本経済の自然死を待つことでしかないという趣旨のことを指摘させて頂きましたが、そのことをもう少し敷衍しておきたいと思います。
 
 ここで問題にしているのは「円高とデフレのスパイラル」です。デフレは日本の物価が下がって、海外物価と近い水準になれば、自然に止まります。しかしその途中で、さらなる円高になれば、円高がデフレを呼び、デフレが円高をもたらすというスパイラル現象が発生します。
 プラザ合意以降、日本経済を衰退させてきたのはまさにこの現象です。

  プラザ合意で大幅円高になり、世界で一番パーフォーマンスの良かった日本経済が突如世界で最も高コスト・高物価の国になった時、ほとんど人たちは、これが長期の日本経済の停滞につながることを予見出来ませんでした。

 それまでの日本経済に自信を持っていたこと、初めての経験で、当時の経済の知見では分析が出来なかったこと、加えて、アメリカのアドバイスで、超金融緩和をやり、バブル経済でジャパン・マネーが世界を闊歩し、バブル経済に酔っていたからでしょう。
 バブルが破裂して不況が始まっても、ほとんどの人は、不況は、バブル破綻の結果だと考えていました。

 長年賃金と物価の関係を見てきたわたくしは、バブルの処理は終わっても、円高対応には長い時間がかかるなと直感しました。2年で2倍の円高($1=¥240→120)は2年で2倍の賃上げと同じ効果を持つと理解したからです。

 日本の物価は下がり続け、国際価格に近くなった2002年から漸く「いざなぎ越え」の微弱な回復の時期が来ました。
 円高対応の苦労もそろそろ終わるかと思っていた矢先、リーマンショックで円は$1=¥90に。3割の円高は、3割の賃上げと同じ効果を持ちます。しかも、今度はプラザ合意のように「挨拶」はなく、国際投機資本が勝手にやったという形です。 

 ここまで来てやっと、これ以上の円高は大変だという理解が生まれました。そして、その後ユーロ問題もあり70円台後半になり、多くの企業、一部の政治家、経済学者の中にも、「円高を止めなければ」という意見が出、徐々に増えてきました。
 白川総裁の1パーセントインフレ目標もその一端です。

 しかし今度の政策決定会合で、日銀はこの目標の挫折を認めました。当面デフレのインフレ転換が出来なくてもアメリカや欧州のように、野放図な金融緩和はしない、最低の節度は守る、というところでしょうか。前回も書きましたように、世界の経済・金融が正常であれば、この対応は正しいでしょう。

 とはいえ、デフレ国の通貨とインフレ国の通貨を比べれば、デフレ国の通貨の方が当然価値は高まっているという事で、買われ易くなります。さらなる円高の可能性は大です。

 今は世の中の方が狂っているのです、音程の狂ったピアノで正確に曲を弾くには鍵盤の叩き方を変えねばなりません。どのキーでどの音が出るか手探りです。
 どうすれば、国際投機資本が円を買わなくなるか、手探りでそれを探るのが政府・日銀が協力すべき目標でしょう。
 以上、前回の「1%インフレ目標挫折」の趣旨を敷衍させて頂きました。


1%インフレ目標挫折:日銀

2012年10月06日 17時51分13秒 | 経済
1%インフレ目標挫折:日銀
 前原経済財政相が日銀政策決定会合に出席されました。なかなか思うように動いてくれない円レートを何とか政府と日銀の協力で、少しでも円安にという思いの表れだと思いますが、日銀には日銀の歴史や立場があり、なかなか、打ち解けて協力し合って、日本経済を救おうという段階にはいかないようです。

 日銀としては、これ以上野放図な金融緩和には、本能的な抵抗があるでしょうし、平常時にはそれこそが大事なことだと私も思います。
 外債の購入についても、基本的には為替介入と同じですから、日銀法に抵触する可能性もあるわけで、「日銀法が大事か、日本経済が大事か」といった論議はあるでしょうが、よほど確りした現状認識と目的意識の共有がなければ、難しいと思います。

 そうした状況の中で、日銀白川総裁は、1パーセントのインフレの達成は当面無理という見解を発表しました。インフレというのは、それなりの経済的な状況の結果として起きるもので、単に期待しただけでは起こりませんし、逆に止めることもできません。

 今の状況ではデフレにはなっても、決してインフレにはならないでしょう。何故でしょうか。

 理由は、経済のグローバル化の中で、日本の物価が国際的に見て高いからです。規制緩和、国際化が進めば進むほど、国内物価は国際物価に鞘寄せせざるを得ません。
 ではなぜ日本の物価が高いかというと、これも再三述べてきておりますように、インフレになって高くなったのではなく、円高で高くされてしまったのです。アメリカやヨーロッパ諸国のように、生産性上昇を超える賃上げで、コスト高になり、物価高になったのではありません。

 つまり「デフレの原因は円高」なのです。だから、円高を直せば、日本経済の問題は殆ど治るのです。ですから、政府・日銀は「円高是正」に全力を挙げ、手段を尽くすべきなのです。円高の原因が、アメリカの金融政策のせいか、国際投機資本の思惑か、両者の相乗効果か、など原因を徹底究明し、円高をストップするところからすべての経済政策は始まるのです。

 そのために何をどうすべきか、政府・日銀は、一致協力し、脳味噌を徹底的に絞って、この問題を解決することこそが最重要課題です。王道もありましょう、奇策もあるかもしれません。ただ、デフレの進行を放任するという事は、更なる円高に口実を与え、まさに無策による日本経済自然死への道でしょう。

 こんなことを考えていたのですが、今回の結果は全く期待に反するものでした。残念でなりません。