tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

原油価格高騰と国内物価

2007年11月29日 11時05分47秒 | 経済
原油価格高騰と国内物価
 原油価格の高騰が国内物価に影響し始めているようです。ガソリンの値段は随分上がりましたが、燃料を多用する食品の一部や、タクシーなどの交通運輸関連の価格に影響が広がる気配です。

 原油価格は世界中同じように上がるわけですから、世界中で同じように物価への影響があるわけで、日本だけが影響を受けるわけではないので、国際競争力などには特に影響はありませんが、国内物価が上がるのは国民とっては困ります。しかしこれは避けようがありません。我慢するよりないようです。

 日本は年間11兆円(CIF価格)ぐらいの原油を買っていますが、単純化していいますと、もしこれが2倍に上がれば、同じ量の原油を買って22兆円払わなければならないことになります。日本の500兆円のGDPの中身は変わらずにコストが11兆円増えて、それが価格に転嫁されるとGDPは511兆円になって、11兆円分、2.2パーセント平均で物価(総合物価)が上がることになります。2.2ーセントの輸入インフレです。

 値段が上がって、日本の消費者や企業が損した分、日本経済の実質価値が産油国に移転したわけです。原油値上げというのは、石油消費国から、生産国へGDPの一部を献上するということです(間で投機資金が儲けているようだという話もあります)。ですから、これは日本国内では取り返せません。物価上昇による実質生活の低下を受け入れるしかありません。例えその分賃上げをしても、実質GDPが増えるわけではありません。賃金インフレでさらに物価が上がるだけです。

 日本は、かつての2度の石油ショックで、痛いほどこうした経験をしましたが、当時のことをご存じない方も多いと思い、こんなことを書いてみました。

パートの賃金水準

2007年11月21日 10時59分03秒 | 労働
パートの賃金水準
 パートの賃金水準を引き上げて、正社員に近づけようという動きが政府や労働側にあります。政府は最低賃金を引き上げて、パートの賃金を底上げしようと考えているようですし、連合も、このところ毎年パート賃金の上昇の要求をしています。

 今の正社員とパートの賃金水準のバランスが適切なものとは思いませんが、正社員の賃金とパートの賃金は「決まり方」が全く違うので、そのあたりを良く弁えていないと上手く行かないような気がします。

 パートの賃金は会社が決めているのではありません。基本的には地域地域のマーケットで決まっていて、経営者に出来ることは、せいぜいそれに多少の味付けをする程度です。

 パートなどの非正規従業員の多用が始まったのは、バブル崩壊以降の「失われた10年」といわれる長期不況の中です。当然求人は少ないので、パートの賃金は安く決まりました。正規従業員の賃金は企業内の賃金制度で決まっていて、法律に守られてなかなか下がりません。

 こうして発生した格差は、その後日本経済が立ち直り、雇用環境が変化して次第に変わってきています。パートの賃金は求人が多くなってじりじり上がっていますが、正社員の賃金は、傾向的にはまだ下がり続けているようです。多分こうした傾向は、今後も続いて、パートと正社員の賃金格差は次第に縮小していくのでしょう。
 そしてこれは、今の日本経済の実力(賃金を支払える経済力)から言えば、パートの賃金を上げるためには、正社員の賃金をもう少し下げなければならないという関係を示しているのでしょう。

 ようやく、低いながらも、成長路線を取り戻しつつある日本経済ですが、「地道に健全に格差の縮小に向かって活動している」ということが出来るようです。政府や労使に出来ることは、こうした動きを加速するような環境を作り出すことでしょう。

正社員の賃金

2007年11月13日 13時11分18秒 | 労働
正社員の賃金
 正規社員の賃金と非正規社員の賃金の格差が問題になっています。厚生労働省や多くの学者、評論家などもこの格差の是正を言っています。以前このブログでも取り上げましたが、政府や厚労省などは最低賃金を引き上げることで格差を縮小しようというという考えを持っているようです。まさに力ずくでといった感じですが、社会全体を観る感覚に優れた日本人ですから、もう少しましなことを考えるべきではないでしょうか。

 必要なのは正規社員も非正規社員も「確かにそうだ」と納得して格差を是正するといったアプローチでしょう。そういうことは日本では可能なのです。たとえば、第1次オイルショックで原油の値段が4倍に上がって、消費者物価がピークで年率26パーセントも上がったとき、最初(昭和49年)の春闘では33パーセントもの賃上げをしてしまいましたが、翌年には日本の労使は「こんなインフレをやっていては日本経済は国際競争力を失って破綻する」という危機感を共有し、物価が上がっても賃金は抑制するという大変賢い行動を選択し、政府もそれを応援して、インフレ抑制に主要国の中でもいち早く成功し、さらに第2次オイルショックの時は、最初から失敗なく切り抜けて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで言われています。

 今、日本の企業は、トップ企業でさえも、「正社員だけではコストが高すぎてやれない」といっています。ということは、非正規社員の賃金を正社員の賃金に近づけたら、「殆どの日本企業はコスト高でやれなくなると」いうことです。

 格差の視点から見ても、国際競争力の観点から見ても、日本の正社員の賃金については、よくよく検討してみる必要があるようです。そろそろ連合も来年の春討についての見解を出すでしょう。日本経団連も準備をしているはずです。「何が日本経済の健全化のためになるのか」をよく考えれば、労使も共有できる認識は多いはずです。

 日本の労使の知恵、さらには政府や関係する官僚の考え方も直面する現実の中で改めて問われているのではないでしょうか。

経済価値の基準

2007年11月09日 12時09分16秒 | 経済
経済価値の基準
 アメリカで金の価格が上昇しているようです。理由は、サブプライム問題で証券の価値についての信用が失われ、従来なら適切な証券に向かったおカネが金に向かったという解説です。

 経済価値の基準は伝統的に金でした。たいていの国で、紙幣は昔は兌換券で金に結びついていました。今では紙幣はそれ自体の信用(発行する国への信頼)で流通していますが、インフレが起こると紙幣の価値は目減りします。では何に投資すれば経済的価値が維持できるかということで、かつてはヨーロッパなどでは金重視、日本では土地重視、アメリカでは証券重視だなどといわれました。

 日本では土地バブルの崩壊で、経済価値の基準としての土地の地位は多少低下しましたが、まだ土地重視の傾向は消えていません。アメリカで証券が価値基準として通用したのは、証券を発行している企業や金融機関などへの信用が厚かったこと、それに格付け機関などが確りしていて、証券が信用できたからということでしょう。

 今回のサブプライム問題で、アメリカでは、証券を発行する企業や金融機関、さらには格付け機関まで一挙に信用を失いました。これでアメリカの経済価値基準が金に戻るとは考えられませんが、傷のついた証券に対する信用を立て直すのはなかなか難しいことでしょう。