tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「適正賃金」(第5回)、賃金インフレ・賃金デフレを避ける

2024年03月30日 14時48分04秒 | 経済

「適正賃金」を考える場合、伝統的に重視されているのは「賃金インフレ」を避けることです。今回の欧米の8~10%を上回るインフレを金利に引き上げで抑えようというのも、「金利引き上げ→経済活動の抑制→雇用逼迫の緩和→賃金上昇の抑制→インフレの抑制」を狙ったものです。

インフレについての経験的常識というのは、「原油など輸入価格の高騰→国内物価上昇→物価上昇を超える賃上げ→賃金インフレ発生」というプロセスです。

「賃金インフレ」は、正式にはWage-cost-push inflation で、海外物価の上昇で輸入インフレが起き、それが大幅賃上げの原因となって賃金インフレが起きるというパターンです。

日本でも1973年の石油ショックで消費者物価が20%上がり74年春闘で33%の賃上げが行われています。

その結果、消費者物価の上昇は26%ぐらいまで行きましたが、日本の労使はこんな事をやっていたら日本は国際競争力がなくなって、日本経済は立ち行かないと危機感を強め、数年かけて賃上げ率を正常に戻しました。

それまでの日本は「賃上げ圧力の強い社会」でしたが、石油ショックへの対応を労使で模索する中で、その後は大きく変わりました。

その結果日本が経験したのは、賃上げ圧力の低い社会は、消費不足の「低賃金デフレ」社会になり、経済成長が損なわれるという近代社会ではほとんど例を見ない経済でした。これがアベノミクス以降の11年ですが、余り例がないせいか「賃金インフレ」の反対の「低賃金デフレ」といった概念も言葉も近代経済学ではあまり一般的ではないようです。

この経緯は「賃上げ圧力の強い社会、賃上げ圧力の弱い社会」で詳述したところです。

今年の春闘は、日本人の経済認識を変えるための試金石という事なのかもしれません。

ところで、経済理論では、一国の労働生産性の上昇率以上に賃金水準が上昇すれば、その差(賃金上昇率-生産性上昇率)がインフレ率になるという事になっています。

日本では、労働力人口は年々そんなに変わらないので、実質経済成長率が生産性上昇率と考えてもいいようです。

そうしますと、日本の平均賃金の上昇率が経済成長率を超えるとその分が賃金インフレになるという事です。

ところで、政府・日銀はインフレ目標2%と言っています。という事は政府・日銀は実質経済成長率よりも平均賃金の上昇率の方が2%高くなって、賃金インフレが2%ぐらいが、国民が暮らしやすい経済状態だと考えているという事です。言い換えれば、実質経済成長率プラス2%が適正賃金上昇率の上限という事です。     

いま日本の消費者物価は年率3%近く上がっていますが、これはコロナ禍の時期を含む消費不況の時期に輸入原材料などのコストを価格転嫁出来なかった分を取り返すという生活必需品部門の3年遅れの価格転嫁といった感じが強く、そろそろ終了の気配です。

日銀の植田総裁はその辺を読んで、そうした過去の積み残しの値上げが終わる時期だから、賃金上昇と物価上層の関係が「2%インフレターゲット」に収斂すると予測し、金融の正常化の準備を始めたという事なのでしょう。

今春闘が契機になり、新たに「適正賃金」を労使が模索する様になれば、日本経済のデフレは消え、消費、投資の両輪が回り、日本経済は漸次成長路線に戻るでしょう。

最後に1つ残った問題は、「為替レートと適正賃金」という問題です。

日本政府は、対外経済対策、経済外交が、どうも上手でないような気がしていて心配ですが、次回為替レートと適正賃金の問題を考えてみたいと思います。

 

 

 


「適正賃金」(第4回)、GDPの2大要素「消費支出」と「企業設備」

2024年03月29日 15時45分42秒 | 経済

経済成長の予測や計画には本格的に言えば、日本経済のマクロモデルが必要なのでしょう。しかし現実の世界ではGDPの大部分を占める「民間最終消費費支出」と「民間企業設備」を見ていけば、経済成長の予想や計画はおおむね見当がつくという事のようです。

その他民間需要では民間住宅があり、高度成長の頃はこれが経済成長の指標のようだったこともありますが、今は湾岸にマンションが沢山出来てもそれほどの影響はないようです。

民間以外は「政府支出」(政府がどのくらい金を使ってくれるか)と「純輸出」(輸出-輸入)ですが、政府の支出は財源が限られていますし、輸出入は外国の事情で動きますから日本だけで計画するわけにはいきません。

結局、日本経済の計画を立てるとすれば、民間の消費支出と企業設備をどうするかという事が決定的な要素になってくるという事でしょう。

<民間消費支出>

これは決定的に賃金決定の影響を受けるものです。年金や生活補助、地代・家賃・利息・配当などのいわゆる不労所得は日本では少額ですし、GDPに影響するような変化はありません。

最近は株価上昇でキャピタルゲインが増えていますが、株式は売らなければカネは使えないし、売り時を間違えれば株価は下がります。

つまり、年々の賃金上昇がどのくらいあるかで、民間消費支出は枠が決まります。しかし賃金上昇はそのまま消費支出にはつながりません。これは日本特有なのかもしれませんが、「平均消費性向」が曲者なのです。

平均消費性向は長期には低下傾向ですが、コロナ禍で大きく下げ、2022年度の実質経済成長率マイナス3.9%の元凶になっています。その後回復上昇中ですので、その勢いを利用すれば、賃金上昇がより効果的に経済成長を支えるでしょう。

平均消費性向が趨勢的に下がって来ているのは、年金財政問題からの老後不安、賃金が上がらない事から若年層にまで波及した将来不安に備える貯蓄指向の高まりでしょう。今後は年々賃金が上がるという情況が生れれば低下は止まり上昇の可能性も出て来るのではないかというのが過去のトレンドから推定されます。

<民間企業設備>

紙数が限られるので民間企業設備については、これから日本は本格的に頑張るだろうという所にとどめますが、企業の投資資金は賃金上昇との裏腹の関係です。幸い今年の場合は賃上げで投資資金に支障がないから「満額回答」が続出したのでしょう。今後は適正な賃金上昇と企業の設備投資資金の充実の関係は、労使間の最大の問題になるでしょう。

これからの賃金決定の規範は、労使が共に望む経済成長率(数値目標)の実現に最適な労使の分配関係、望ましい経済成長率(目標)実現を可能にする労使のwin=winの関係に立つ春闘の「適正賃金」決定でしょう。

政府は必要に応じて補完の役割を果すことが重要です。そのための国家予算を、不要不急なものに無駄遣いしない事を願うところです。

今回では終わりになりませんでしたので、賃金決定とインフレの関係、さらに為替レートの変化と賃金決定の関係を整理して終わりたいと思っています。


「適正賃金」(第3回)、目標達成計画が無ければ

2024年03月28日 15時52分05秒 | 経済

企業の場合ですと3年計画とか5年計画で、成長目標が決まれば、その達成に必要な経営数値の計画を立てます。売上高から始まって、計画各年次のBS、PL、利益処分などの計画値を積み上げ、その中で総額人件費の枠が計画され、計画従業員数で割ったものが平均賃金になります。

企業でも付加価値分析の手法で総額人件費の策定が出来ますが、国民経済計算の場合は、付加価値であるGDPが基本の計画値ですから、付加価値の構成要素を積み上げることで、例えば「政府経済見通し」は出来ています。

ですから、政府が「日本株式会社」の経営者としますと、経営計画の数値は政府が毎年発表している「政府経済見通し」のような形になるわけです。

ただ、これは単なる「見通し」で、多くの経済研究機関が出す「来年度経済見通し」の1つという事になっています。

しかし時に、2020年度の「政府経済見通し」のように、経済成長率が民間より1段高く、希望する「目標数値」のような場合もあったりします。

今年度の「政府経済見通し」実質成長率1.3%についてはどうでしょうか。昨年度の成長率実績見込みは1.6%(同)でした。今年度は落ち込むというのは、目標とか計画ではなく単なる予測のようですね。

こうした一貫性のない事を政府自体がやっているのでは、前回書きましたように、目標が決まらなければ適正賃金などは決めようがないのです。

現実の社会では日本株式会社の経営者の意識がその程度なので、民間がそれぞれに考えてやるしかないのでしょう。今年は労使が春闘で少し余計に賃金を上げようと協力していますが、これはGDPの最大の構成要素である消費支出を増やし、GDPの底上げをしようという民間にも出来る目的意識を持った行動でしょう。

勿論、個々の企業がGDPの目標値を決めることはできませんが、企業がそろって高めの目標に向かって努力すれば、企業の創出する付加価値の総合計であるGDPは増加、つまり経済成長達成となるわけです。個別企業では数値目標があっても国全体としては「今年より高い成長率」というアナログ目標です。したがって、経団連、連合もアナログです。

ところで、今年度の「政府経済見通し」では、民間消費支出が名目3.5%実質1.2%増え、民間企業設備が名目4.7%実質3.3%増えGDP実質成長1.3%の大部分を支えるという「投資に支えられた経済成長ですが、多分現実には賃上げの積極化で民間消費支出が成長を引っ張って、もう少し高い成長率を達成しようというのが民間労使の春闘の目標でしょう。

国民もそうした日本経済の新しい成長路線を期待しているのでしょうが、日本株式会社の経営者(政府)は「去年より成長率は落ちるが仕方ない」という見方です。

政府見通しの中の「雇用者報酬」は、名目で前年度は3.1%伸びましたが今年度は2.7%にとどまるという見通しです。これでは消費の伸びは期待できません。

国民の望む目標も計画もなく、責任のない見通しの数字が並んでいる様では、国民は元気が出ないでしょう。社員に元気のない会社は、業績にも元気がないでしょう。

企業では経営目標があり、経営計画があって初めて適正賃金が算出されます。今の日本政府には、国民に訴える目標もなく計画もありません。従がって、国としての適正賃金は算定不能という事になるようです。

次回は、若し、国としての目標が明確になれば、どんなふうに計画が作られるだろうか、そして、そこから適正賃金の決定が可能になるという考え方の道筋だけでも整理しておきたいと思っています。


「適正賃金」(第2回)、「適正」の判断基準は?

2024年03月27日 21時02分41秒 | 経済

賃金は企業や国民経済が生み出した付加価値、の中から支払われます。経済学でいえば付加価値の生産要素は人間と資本ですから、付加価値は人件費と資本費に分配されます。ここで賃金と言っているのは厳密には社会保険料や教育訓練費なども含めた人件費で、資本費は利益(営業余剰)です。

付加価値の中の何%を人件費支払うかは「労働分配率」ですから、適正賃金の判断は「適正労働分配率」の判断と同じことです。そして残りは資本費(利益)ですから資本分配率も同時に適正でなければならないのです。

労働分配率が低いという事は人材の確保が困難になることを意味します。資本分配率が低いという事は、設備の高度化や技術開発力の低下を意味します。

与えられた付加価値の中で人材の確保と企業設備の高度化にどう配分するかというのが企業や国の成長、発展のための基本的課題なのです。

ここまで考えてきますとお解りのように、適正賃金と適正利益は両立しなければならないもので、何のために両立させるのかと言えば、それは企業や国を成長発展させようとするからだという事になります。

企業や国がどうなってもいいという事であれば「適正賃金」も「適正利益」も存在しないのです。

という事で「適正賃金」かどうかを判断する基準は企業や経済の発展に最適な形の分配という事になるのです。

ここで考えなければならないのは、企業も国も、人間と資本の組み合わせで経済成長していくのですが、ここで議論している適正賃金や適正利益は「必要条件」ではありますが、決して十分条件ではないという事です。

ですから日本の経済を成長させえるには、適正賃金、適正利益といった基礎条件、いわば舞台装置をきちんとする事が必要で、その上に、その舞台装置を上手に使うという人間の能力や意欲の向上(いわゆる熟練や動機づけなど)の役割も極めて重要という事も付け加えておきたいと思います。

これは人員や設備は同じでも、生産性は同じではないという職場の現実でもあります。通常、生産性は人数や資本装備率(金額)で測定しますが全要素生産性は人間の態度や意思に大きく影響されます。そこではリーダーの能力が大きな役割を果たします。

経済成長というのは国民一人ひとりの生産性が高まり、その結果、国民一人あたりのGDPが増え生活が豊かで快適なるという事ですが日本の場合を考えてみますと、ジャパンアズナンバーワンと言われた頃の1人当たりGDPは世界ランキングで5位前後だったと記憶しますが、2022年は32位だそいうです(IMF統計)。

まあよく落ちたものだと思いますが、この原因というのは、バブル期、バブル崩壊期、円高進行期、円安進行期のそれぞれで、成長目標の誤算、資本と労働の分配の歪み、加えてリーダ采配の不適切が重なった結果という事が出来るでしょう。


「適正賃金」とは何かを考えてみましょう 1

2024年03月26日 22時02分53秒 | 経済

過日「適正賃金決定の重要性」を書きました。ならば「適正賃金とは何か」というテーマが当然生まれてきます。

あの日の指摘は、これまでの賃金決定が低過ぎたのではないかということになっていますが、その場合も「何が適正か?」という疑問があるわけでその種の示唆も頂きました。

これは正に大事なことなので、この際、少しきちんと検討しておくべきではないかと思っています。

適正賃金には企業内の賃金の体系・制度、あるいは、個人別賃金が適正かどうかといった場合もありますが、ここでは賃金総額あるいは平均賃金が適正かという、厳密に言えば「人件費決定」の意味である事を先ずお断りしておきたいと思います。

民主主義の国では、労働組合が認められており、賃金決定は労使の交渉に任せられているというのが基本でしょう。労働組合の組織は産業ベルや職種別、日本では企業別など国によって違いますが、高い賃金を望む労働組合と利益を増やしたい経営者/経営者団体が創出した付加価値を賃金と利益に分けるのが賃金決定(労働分配率の決定)という事になります。

一般的に考えますと、賃金を上げたい労働組合と賃金を抑えて利益を増やしたい経営側との主張の「真理は中間にあり」でその真理(適正賃金)は、労使が合意した(妥協した)ところだろうという理屈です。

此処では解り易く日本の場合で考えますが、こうした付加価値をめぐる分配論争、労使交渉は、身近な企業レベルの論争と、大きく国全体の在り方の2つの段階で論じられることになるのが毎年の春闘です。

具体的に言えば、経団連の「経営労働委員会報告」と「連合白書」が代表する国レベルの論争、企業の経営資料を使った論争は企業別の賃金交渉という事ですが、このマクロとミクロの分配論争、労使交渉は密接に絡まり合っているというのが現実です。

実はこのブログではもうだいぶ以前2017年2月ですが、「企業における人件費支払能力測定の実務シリーズ」という事で数回にわたって、企業別の労使交渉の参考資料として、労使が共に納得できる個別企業の「人件費支払い能力の限度」についての検討をやっています

此処ではそれを、「日本株式会社」に応用するような形で、日本株式会社(GDP)がどのくらいの賃金(雇用者報酬)を払うのが良いかという形で「適正賃金」の在り方を考えるというのはどうかなと思っています。

但し、企業レベルの場合は、付加価値の源になる売上高は顧客が決めてくれるのですが、GDPの場合は、その大きさは殆ど日本の企業と家計が使う金によって決まるわけで(輸出やインバウンドの購入もありますが)、企業と家計が懐に入った金をどうするかという自己循環が極めて重要になります。この点も確り考えないといけないように思うところです。

さてどんなことになるか、順次検討していってみたいと思っています。


株価は好調、実体経済は消費支出の積極化で

2024年03月25日 16時36分17秒 | 経済

日銀植田総裁の発言が優しかったせいか、投機資本は余り慌てることなくその後も日

経平均は上がり続けましたが、今日は神田財務官の発言で下げています。円高の動きは小さいので、解説では利食い先行とかダウ平均が下げたからといっているようです。

この分ではダウ平均が上れば日系平均も追随といった今迄とあまり変わらないのかといった感じがもどってきているようです。

政府は株価下落は心配でしょうし、投機筋も、実体経済が追い付いて来てくれることを望みながら、順調な推移を望んでいるのはないでしょうか。

しかし多くの庶民は実体経済で生きていますから、実体経済の順調な回復が問題です。経済成長率が1%から2%、3%、4%と上がり賃金もそれに従って上って行くようになってほしいと考えているわけです。

1990年代までは、日本経済は高度成長から安定成長に変わっても経済は成長し賃金は上がって当たり前の日本でした。しかしバブル破裂以降は「大幅円高」に苦しんでコストカットばかり、企業もコストカット、家計も生活費も小遣いもカットカットでした。

その習慣が身について黒田日銀による円レートの正常化(円安の実現)後も緊縮が企業や家計の習慣になってしまったようでした。

企業は円安で利益が回復したから元気になりましたが、家計は賃金が上がらない上に政府の少子高齢化で年金が危ないというアナウンスもあり、1億皆将来不安、老後不安で貯蓄に励み、10年程も消費が増えない経済が続きました。

このブログの「平均消費性向の長期推移を見る」でも明らかですし、4半期GDP統計を追いかける度に「企業設備中心の片肺飛行」という説明を繰り返しましたが、アベノミクスの失敗の原因の最大のものは「国民に消費を増やせる環境を作れなかった」という事でしょう。

政府はその中で国民の貯蓄を国債発行で借り、借りたお金で国民に補助金など出し、選挙で票を稼いでいたのかもしれませんが、補助金はいつの世でも貧窮援助だけで、経済成長には繋がらないのです。

こうした政策の失敗がやっと解って来た今年の春闘ですが、今度はこれを生かして、国民が自力で消費を積極化し日本経済を「投資と消費のバランスの取れた形」に持っていくような政策が今の政府に取れるでしょうか心配です。

春闘の賃上げ率が5%台になったから多分大丈夫などと考えていたら多分危ういでしょう。

政府は「NISA」で株を買いましょうではなくて、「皆様の積極的な消費が日本経済の立て直しに必要です」といった「メッセージ」でしょう。

野党や国民は「消費税や所得税の減税」をと言うでしょう。出来れば結構、出来ないのであれば、後は、時限的に生前贈与の大幅緩和なども検討の要ありで、企業には時限的な償却率の大幅引き上げで賃上げ原資を支援するぐらいの配慮、証券バブルでの税収増の還元で身銭を切る覚悟など、政府の消費増の徹底支援が必要ではないでしょうか。


次第に落ち着く消費者物価、日銀を支援

2024年03月22日 12時19分01秒 | 経済

今月は、先に東京都区部の消費者物価の速報を、全国の動きの先行指標という意味で取り上げました。今日発表になった全国の消費者物価の動きもやはり同様な動きです。

一昨日、日本銀行が金融政策の変更を発表しましたが、その背景には、マスコミが報じていますように今春闘の賃上げが高めになることがはっきりしたことと同時に、昨年秋からの消費者物価の上昇がゆっくりながら沈静傾向を示している事があることも明らかです。

いつもどおり消費者物価指数の主要3指標のグラフで大きな動きを見ますと下のようです。

   消費者物価すよう3指数の推移(原数値)                   資料:総務省「消費者物価指数」

昨年6月以降は3指数ともほとんど横這いで、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」だけが前月より0.1ポイントの上昇で、このままいけば、来年の今頃はせいぜい1%の上昇ぐらいに収まるという事になります。

春闘の賃上げ率が高めで、多少の賃金インフレがあっても、日銀のインフレターゲット2%より大きく上ズレすることはないというのが日銀の判断でしょう。

という事で、これも例月通りの「対前年同月上昇率」を見てみますと。下のグラフです。

     消費者物価3指標の対前年上昇率(%)      資料:上に同じ

前年同月比の数字は、東京都区部の時に触れましたように、1年前に電気・ガスの補助金が始まり、0.6か0.8程度消費者物価の上昇率が下がっていたのですが、2月になそのギャップが消えたせいです。グラフで昨年2月に下がった分が消えたことで対前年同月上昇率が補助金の無い通常の上昇率に戻ったという事です。グラフで見ればこの分が凹んでいるのが解ります。

補助金に関係ない緑の「生鮮とエネを除く総合(いわゆるココア指数)は、はっきりと下っています。3本の線が2%前後に集まって来ましたが、これが実勢という事です。

消費者物価の内訳の10大費目では、加工食品や家具家事品などコアコア指数の中にまだ年5%を超えるものが多く、特に教養娯楽の中では宿泊料が33%の上昇です。

加工食品や家事用品などの生活費需品はコロナ禍の中での消費停滞による値下げ一方の反動で、一昨年から昨年にかけて、波状的に一斉値上げされた分がありますが、今後は沈静化するでしょう。一方、宿泊料は、インバウンドの盛況を考えれば、下がりにくいでしょう。何せ、円安で日本の宿泊料の安さが目立つようですから難しいところです。

大勢としては物価は安定傾向、経済も金融政策も、何とか正常な状態の戻っていくように思われます。

電気・ガスの補助金が終わる時は多少の上昇があるでしょうが、当該企業の適切な対応を期待するところです。


適正賃金決定の重要性を考える

2024年03月21日 20時23分20秒 | 経済

一昨日、植田さんの日銀が、黒田さんが11年前に打ち出した異次元金融緩和との決別を表明し、日本の金融政策は経済成長に即応した正常な政策に戻りました。

この政策転換の契機になったのは、植田さんが繰り返し発言していますように、今春闘での賃上げの結果でした。

今回は多少繰り言の様になりますが、何故黒田さんの時代には出来なくて、漸く今になって可能になったかという問題です。

植田さんも、黒田日銀の異次元金融緩和政策からの脱出という重責を担って日銀総裁に就任しながら、昨年の春闘の際には、行方を注視するだけで、政策変更への行動もなく、巷では「なんだ、これでは今迄と同じじゃないか」などと言う声も聞かれたところですが、今年は全く違って、極めて明確に積極的に異次元金融緩和からの脱出を宣言しました。

問題は、この違いは何処から来たかという事で、植田さんの言葉を借りれば「賃金上昇を伴う物価上昇2%の実現の可能性」ということになります。

そして今年は、春闘の集中回答を受けての連合の賃上げ集計の第一報が5.28%と昨年を大幅に超えるものとなり、更に、地方中小での賃上げの状況が、日銀の支店長会議などからも広く収集された結果もあっての事でしょう。

昨年の場合は、最終集計が3.26%でしたが、毎月勤労統計の平均賃金は1~2%台の上昇で、家計調査の勤労者世帯の実収入は名目で前年比マイナスの月の方が多いといった状況でした。結果的に毎月勤労統計の実質賃金は22カ月連続マイナスという惨状で、これで金融緩和を終了するとはとても言えないといった状況でした。

振り返れば黒田日銀の出発は、円高からの脱出に始まりました、1ドル80円の円レートが120円にまで円安になり、円高不況は終了と思われたのです。黒田さんも、政府と共に掲げた2%インフレターゲットは2年程度で達成と楽観的でした。

これは、企業労使が、円高のために大幅に下げてきた賃金(非正規多用も含め)を円安になったから今度は大幅に上げるだろうと考えていたからでしょう。

もしあの時、企業が非正規の正規化と賃上げの加速をしていれば、賃金水準は上昇し、2%のインフレターゲットは賃金インフレという形ですぐに実現し(多くの国で見られる形)、今植田さんの開始した金融政策の見直しは当然実施せざるをえなくなっていたでしょう。

何故それが出来なかったのかという事ですが、「出来なかった」というより「やらなかった」という事なのかもしれません。

多分最大の理由は、企業労使の頭に、それ以前の20年以上にわたる、「コストカットだけが生き残る道」といった強迫観念が染みついていたことのように思われます。(労使関係にも「慣性の法則」があるようですね)

その後11年の経験を経て、円安になったら賃上げをしたほうが経済合理性にかなっているということに気付いた日本の労使です。

前回最後に「適正賃金の決定」を指摘しましたが、賃金は日本経済の最大のコストであると同時に、国内需要というGDPの最大要素の源泉で、経済の安定した発展のための最重要の研究テーマなのです。にも拘らず、気付くまでにずいぶん時間がかかった事は誠に残念だったと思っています。


金融政策変更、日銀の示唆するものは?

2024年03月20日 16時09分54秒 | 経済

日銀の新しい金融政策の方向が示されました。感想を言えば、適切な配慮をしつつ、解り易い表現で、的確にこれからの金融政策の方向を示したという点で、先ずは満点の内容という所ではないかと思っています。

先ず第一に挙げなければならないのは、マスコミの見出しのように、11年来のアベノミクス、異次元金融緩和からの明確な決別を明示した点です。政府は勿論、市中の金融機関も、企業経営者も、生活者としての一般家計も、みんな、これからの金融の在り方はこれまでと違うという意識変革の必要を感じたでしょう。

その上で、特筆すべきは、こんな金政策の大転換を発表したに関わらず、金融マーケットは全く平穏に推移しているという事です。

一部には、日銀が異次元金融緩和脱出の方向を明示し、一方でアメリカのFRBが金利引き下げの具体化を示唆するとなれば、為替レートは大幅円高、ダウ平均は上がるかもしれないが、日経平均は暴落というシナリオの現実化を予想した筋も多かったでしょう。

その危惧は既に3月7日の日経平均「寄り200円高、引け500円安」といった水鳥の羽音に驚いたミニ・ショックにも見られるところですが、それが現実となった昨日は、逆に円安、日経平均は2日連続大幅上昇という平穏を通り越し、マネーマーケットは絶好調といった状態です。

関連業界では、今回の日銀の発表はすでに「織り込み済み」という説明が用意されていたようですが、マスコミが巨大活字で扱う大変革と、それを全く気にしないようなマネーマーケットの活況はまだに対照の妙でしょう。

日銀発表の中身を見れば、日銀預金のマイナス金利は消えますが、0.1%の金利は変えず、市中銀行の金利は自主決定、ETFなどの購入は元々付加的な緩和政策ですから1年かけてやめますが「国債の買い入れ」は従来通り、しかし、基本方針は「BSの圧縮」という表現で示すといったものです。

政府は当面安心できると思うでしょうが、日銀は、決して無理はしないが、しかしやるべきこと確りやりますと内外に意思表示したものと理解すべきでしょう。

政府は当面安心しながらも、今迄のような国債を印刷すればバラマキが出来るという具合には行かなくなるだろうと自覚するでしょうし(少し甘いかな)、マネーマーケットもバブルの進展には気を付けるでしょう(これも甘いかな)。

今日のアメリカのFOMC の発表がどうなるかは微妙ですが、今年中に3回の金利引き下げの可能性がどの程度かも次第に明らかになるでしょう。

そうした、予測の難しい国際情勢の中で、日銀は、今のマネー経済面での活況を「→バブル→崩壊」ではなく、正常な範囲の活況で実体経済活動への潤滑剤にするような舵取りを目指すのではないでしょうか。植田総裁の腕に期待が懸るところです。

もう一つ付け加えれば、植田総裁が「金融改革は賃上げを見て」と繰り返されたことの意味を、日本の経営者も労働組合も(経団連も連合も)「日本経済における賃金決定の在り方の重要性」を労使に理解してもらうための発言と受け取り、「担当責任者」として、年々、誤りない「適正賃金の決定」に本気で取り組むという意識を確りと持って欲しいと思うところです。


日本は民主主義の国だと思うのですが

2024年03月19日 15時14分30秒 | 政治

ロシアの大統領選挙ではプーチンさんが圧倒的な勝利で、通算5期目の大統領で決まりということになったそうです。やっぱり形だけでも選挙しなければ、恰好がつかないという事でしょう。投票率も高く得票率の高くしようと、締め付けを徹底して独裁色は強まり、国民の6割以上の支持ということになっているようです。

これは余談ですが、このブログでは、「民主主義のトリセツ」と題して、選挙の際の留意点を挙げていてその中に「最長任期を延長するようなリーダーは選ぶな」という一項もありますが、プーチンは2000年に憲法改正して2036年までやれるようにしています。(中国では習近平さん、日本では安倍さんがやっていますね)

プーチンさんは6割以上の支持がないと格好がつかないと考えたのでしょう。日本のマスコミも、投票率(77%)、得票率(87%)で有権者の6割以上の支持と説明しています。77%と87%を掛けてみましたら67%でした。

プーチンさんはそれで満足でしょうが、67%という数字を見て「アレ」と思ったのは岸田内閣の「不支持率が67%になった」という今日の朝日新聞朝刊の見出しです。

日本はロシアと違って「自由で民主的」な国ですから、こんな世論調査が発表されるので、大変結構なことですが、現実の政治では、不支持67%の政権が大手を振って政治を行い、閣議決定で何でも決めてしまうのです。

こんなに支持率が落ちたのは、この所の「政治倫理審査会」で、政権の幹部が、いわゆる裏金を活用して政治活動(?)を行っているのではないかと弁明を求められたのですが、出席した総理大臣以下、国民の知りたいことには殆ど答えず、「自分は何も知らない、おカネの事は(腹心?の)部下に任せているので責任は自分にはない」というのが共通の発言(弁明?)だった事が大きく影響しているのでしょう。

発言の場は「倫理審査会」ですから、組織のリーダーとしての「倫理」について審査する場所です。部下に任せていたから起きた問題は、部下の誤った所業は当然リーダーの管理不行き届きの結果という「倫理感」は人間として当然持つべきでしょう。

こんな倫理観の抜け落ちた政権幹部が集まって閣議決定をして、それで日本という国を動かしているというですから、どんな失敗があっても、やったのは担当者、そんな結果になるとは思わなかったとか、相手を信用していたからで自分に責任はない、などという事になる可能性は十分ありそうです。

67%の国民がそう思うから世論調査の結果がそうなるので、プーチンの6割支持を上回る67%の不支持を背負いって、政権を担当出来るという事実が起きるのはやっぱり民主主義を実行するシステムの失敗(欠陥)ですから、これは政権に責任があるという事でしょう。

日本国民は真面目ですから、こういう場合にも「その責任は、そうした人たちを選んだ国民にある」などと反省するのですが、同時に「選ばれたからには、それに相応しい信念、正義感、倫理観を持った人間になろう」という選良としての「覚悟」あるべしという指摘があって然るべきという考え方も必要なのではないでしょいうか。

民主主義というのは壊れやすい物のようです。選ぶ人、選ばれる人のそれぞれが、民主主義の正しい「トリセツ」を常に学び直さないと、マンネリズムという民主主義の破壊者が容易に侵入してくるという事ではないでしょうか。


日米のインフレ目標2%と政策金利

2024年03月18日 16時45分27秒 | 経済

今春闘の妥結結果が、昨年より一段と高くなることがほぼ確実にな状況です。「今春闘の結果を見てゼロ金利脱出を検討する」というのは植田日銀総裁ですが、その日銀の政策決定会合が今日と明日です。

明日の午後には、日銀の意向は明らかになるでしょう。さて、10年来のゼロ・マイナス金利という異常状態がどうなるかいよいよ大詰めです。

このブログでは、その予想をする意図は全くありません。考えてみたいと思っていますのは、明日・明後日とアメリカのFRBの同様の会合FOMCが行われ、アメリカでは5.25%~5.50%とインフレ対策で引き上げた金利を下げるかどうかが議論になっているという日米逆の状況がどんな風に進展すれば、お互いに上手く行くのか、日本が下から狙い、アメリカが上から狙うインフレ目標の「2%」というのが適切なのか、といった問題です。

日米が同じインフレ目標というのには当初から違和感を持っていましたが、先ず、両国の実態をベースに考えてみたいと思います。

日米のインフレの実態を少し長期に見たのが下のグラフです。 

    日米インフレ率の長期推移        資料:各国統計                       

1980年、共に石油危機後の安定経済の模索の時期ですが、アメリカは深刻なスタグフレーションからの脱出、日本は第二次石油危機克服の最中でしょうか、日本のインフレはアメリカのほぼ半分、その後も上がり・下がりの動きは似ていますが、日本のインフレ率は圧倒的に低いです。特に、1986年以降は「プラザ合意」による円高で、物価が上げられるはずもなく、僅かにバブルのときの3%程度の上昇だけです(アメリカは5~6%)。

欧米主要国がスタグフレーションを克服し、労働組合は力を失い、世界中が「インフレのない時代に入った」と言われた1990年台後半から2020年までに、日本ではインフレがゼロ・マイナスの年が10回以上ありましたが、アメリカではリーマンショックの翌年1回だけです。2021年原油価格が上がると忽ち6~8%のインフレ(ヨーロッパは10%越え)です。

こうした日米のインフレの歴史を見れば、日米の差は歴然です。

この2国が同じインフレ目標2%を掲げるというのは矢張り無理があるようです。この違いを生む最大の原因は企業経営というものについての考え方、そこから生まれる労使関係の違いでしょう。

問題はその違いを無視して同じ目標を掲げるとどんなことが起こるかです。アメリカが2%に抑え込むと景気の失速が起きる可能性が出て来るのではないでしょか。日本は2%以下のインフレで、健全な安定成長は可能でしょうが、余りそれにこだわると、また「円高にして頂かないと」と言われる恐れが増してくるのではないでしょうか。

金利差の変化は、当然に為替レート調整に繋がり、為替レートの変化は、マネー経済だけでなく実体経済にも大きな影響がありますから、特に日銀にとっては八方に目配りをしなければならない難しい仕事だと思っています。


2024春闘、大企業の部は超順調の様相

2024年03月16日 16時32分36秒 | 労働問題

今春闘も集中回答日が過ぎて、連合から回答速報も発表になり、春闘歴史上稀有な様相が現実になるプロセスが見えてきたようです。

もともと経営側が賃上げの必要に気付き、経団連が、連合の意識を上回るような賃上げへの意欲を示していたわけで、労使の賃金交渉の一般的な形としてはあり得ないような雰囲気の中で始まった異常な春闘です。

歴史を辿れば、資本主義経済の中で、その社会的な発展とともに労働組合が生まれ、労使交渉が制度化され、賃金や雇用をめぐる労使交渉が一般的になったのは、利益を上げ、より多くの資本蓄積をしようとする経営側と、より高い賃金水準を実現しようという労働側との対立を「交渉」、Collective Bargainingという形で止揚しようという発想から生まれたものでしょう。

例えば、アメリカでは(今でもあるかどうか知りませんが)「労使関係は敵対的でなければならない」という法律があったはずです。

ですから、諸外国から見れば、あり得ないような賃金交渉が、日本では、今年、ごく自然に行われているという事なのです。

連合の回答速報№8の主要企業の交渉結果は殆どが満額回答(要求以上もちらほら)で、初回集計結果は5.28%です。

経営側は、支払えるのだから当然の回答、という姿勢のようですし、連合も「もっと要求すればよかった」ではなく、素直に交渉の結果に満足を感じているようです。

日本の場合諸外国と違って、賃金交渉は基本的に企業単位で行われます。諸外国の多くのように、産業別とか職種別の組合組織と産業別経営者団体あるいは代表企業が交渉するのではありません。

日本では、企業別に組織された労働組合が、その企業の経営者と交渉するのですから。「他者の従業員の分まで責任を持って」という意識は必要ありません。

企業労使は、自分の企業、「わが社」の経営状態については労使共に理解しています。その意味では満額回答は、労使の理解の一致という事でしょう。連合としてはそれはそのまま肯定できるのです。

こうした労使関係は、昔は「近代的労使関係ではない」などと、海外や日本でも学者などから「遅れている」と見られていましたが、石油危機への対応の鮮やかさなどから「日本的経営」、「日本的労使関係〕として世界から注目されたものです。

この対応の鮮やかさに恐れをなした主要国が、この日本の労使関係を逆手にとって、日本に円高を要請し、日本の労使が、真面目にその大幅の円高の克服に真面目に協力したのが日本の長期不況だったのでしょう。

この長期不況の呪縛が漸く解けた日本が、改めて新しい成長経済の道に復帰しようという最初の労使交渉が2024春闘という事ではないでしょうか。

今年は連合にとっては上手く行き過ぎかもしれませんが、来年以降も、本来の「日本的労使関係」を生かし、新しい成長路線に向けて誤りない賃金決定を労使で賢明に選択していく事を願うところです。


輸入物価、企業物価、消費者物価の動向(終回)

2024年03月15日 13時56分07秒 | 経済

一昨年来、原油をはじめ資源価格が高騰、世界がインフレで苦労しています。日本でも、まず輸入物価が上がり、それが企業物価に波及、そして消費者物価も上がりました。アメリカやヨ―ロッパはまだインフレ退治の途上です。

日本も多少ゴタゴタしましたが、何とか物価問題は落ち着いて来ています。1970年代の石油危機の時は、日本は主要国に先駆けインフレを収めて『ジャパンアスナンバーワン』と言われましたが、今回は、日本はデフレ脱出という逆方向です。長いデフレでしたが、漸く日銀がゼロ金利脱出に動けるまでになりそうです。

いつも通り2枚のグラフで状況を確認していきます。

    主要3物価指数の推移                                         資料:日本銀行、総務省

指数の動きを見ますと輸入物価は、OPECの減産の延長、その他国際情勢の不安定はありますが何とか落ち着くといった動きで、国内企業物価に大きな影響がある状態ではなくなり、企業物価の動きは殆ど水平状態で、輸入インフレの心配は、ほぼ消えています。

消費者物価の動きは、国内政策の問題で、主なインフレ要因は賃金ですが、緑の線は緩い下降で推移です。企業も日銀も、春闘賃上げで賃金インフレとは考えないでしょう。

3物価指数の動きは、下の対前年費上昇率で見ても、青、赤、緑の線は急速に収斂して、今後も何か特別なことが気ない限り、正常な推移をたどりそうです。

     3物価指数の対前年同月の変化率(%)

                資料:上に同じ

輸入物価は国際価格の変化によるものですから、日本の力ではどうにもならないのですが、国際価格が安定すれば当然企業物価は安定します。後はそれぞれの国の賃金と物価の関係で消費者物価が決まるのですから、日本は、日本の実質経済成長率(≒生産性上昇率)と賃金上昇率の関係を日銀の言う2%インフレ以内に収めて行けば、問題は起きないはずです。

それでも問題が起きるとすれば、主要国(特にアメリカ)の経済政策の影響で、円高や円安が起きる場合ということでしょう。

当面,そうした面で大きな迷惑がかかることも起きないだろうと考えれば、一昨年から追いかけてきた、物価問題も当面終息と考え、このシリーズも今回で終わる事にしたいと思っています。(国内物価、特に消費者物価の問題はまだ続ける必要がありそうです)


平均消費性向の長期推移を見る

2024年03月14日 15時17分36秒 | 経済

今春闘の集中回答日が過ぎました。大手企業の殆どが満額回答、満額以上という所まであって、日本の経営者は、可能でさえあれば、出来るだけ従業員の働きに報いたいと考えると言われたかつての日本的経営、日本的労使関係の片鱗が垣間見えたような気がしました。

恐らく今年の最終結果は、これまでの予想をかなり上回ると思いますが、日銀の植田総裁が、「春闘の結果によって(ゼロ金利脱出の金融政策を)判断する」という場合の判断基準である、賃金上昇を伴う2%インフレが見えてくるのではないでしょうか。

主要企業の結果を追いかける中小企業も、公取の「賃上げの価格転嫁の指針」もあり、また労働組合の存在価値の証明を賭けて、久方ぶりに賃上げストの声も聞こえてきます。

分配で対立、生産性向上で協力というあるべき労使関係が健全な形で働き始めることを期待するところです。

ここで考えておかなければならないのが、賃上げの結果を日本経済の健全な成長に確り生かすという問題でしょう。

賃上げで消費が増える、消費が増えれば投資・消費のバランスの取れた経済活動が復活すると考えますが、一つ問題があります。それは「消費性向」という問題です。

このブログでは、総務省の家計調査で毎月調べられている「二人以上勤労者世帯」の「平均消費性向」を追いかけています。

ご承知のように「消費性向」とは可処分所得(手取り収入)の何%を消費支出しているかという数字で、残りは貯蓄ですから、「消費性向+貯蓄性向=100%」となります。

日本の大部分の家庭は二人以上勤労者世帯で、生活の安定を重視しているこの世帯の消費性向の平均が総務省の「家計調査」で調べられているのです。

そして、何故この数字をこのブログがしつこく追っているかの理由は、長期不況の中で、政府の年金不安、老後不安、将来不安などの宣伝が重なって、日本の勤労者家計の平均消費性向は傾向的に落ちて来ているのです。

  二人以上勤労者世帯の平均消費性向の長期推移

        資料:総務省「家計調査」

石油ショック(1973年)前は高度成長時代で、賃金は毎年上る安心感からでしょうか、平均消費性向は80%前後ありました。その後も賃金はバブル崩壊まで上がりましたが、バブル後は殆ど賃上げのない時代になり、年金財政不安、老後不安、少子高齢化、人口減少など、将来不安が政府の政策にも色濃く反映する時代になり。最後の留めはコロナ禍で、この間を通じて「平均消費性向」は傾向的に下がり、家計は金を使わず将来のために貯蓄するという行動が一般化したようです

バブル明けで回復基調ではありますが、65%に達しません。

平均消費性向の2ポイントの上昇でGDPは1ポイント増えます。という事は、消費性向が上がれば賃上げにプラスした経済効果があるという事です。貯蓄に回ってしまえば、賃上げ効果はそれだけ減殺されるという事です。

問題は、消費性向を高めるためには何が必要かですが、過去の推移からみれば、日本の将来は明るいというイメージを国民が持たなければならないのでしょう。

春闘賃上げを如何に明るい日本の将来につなげていくか、労使の頑張りに政府が応えなければならないでしょう。

そこで必要なのは、嘘を言わない政府、信頼できる政府、「当面の自分の保身」ではなく「将来の国民の自信」を創出する清廉且つ毅然たる政治ではないでしょうか。

上のグラフを眺めながら、日本の政治や外交の失敗、倫理的堕落と同じように国民の不安と「消費性向の低下」進んでいるような気がしてなりません。


1月「平均消費性向」低下、回復のカギは春闘に?

2024年03月13日 13時49分47秒 | 経済

日本経済回復の年となるのではないかと期待される2024年スタートの1月ですが、頼みの消費需要は予想外の不振で、前途多難を象徴するような幕開けの数字になったようです。まず2024年1月分の2人以上世帯の消費支出ですが、対前年同月変化率で名目マイナス4.0%、消費者物価上昇率を差し引いた実質ではマイナス6.3%という大幅な落ち込みになりました。

先ず名目支出が前年1月に比べて4.0%も減少というのが異常で実質との差の消費者物価の上昇率は傾向的には下がってきていますが、統計の内訳で見てみますと、名目支出で、光熱・水道22%減、住居の18.2%減が特に目立ち、さらに交通・通信の10.5%減も異常です。

総務省の説明ではダイハツの出荷停止で乗用車の販売が30%減ったことなどがあったようですが、交通・通信は自動車関係費を含みますから、自動車の買い控えの影響はあったでしょう。

光熱・水道や住居については、考えてみれば、今年の1月は異常な暖冬でしたから、そうした異常気象の影響で、結果的に安くて済んで仕舞ったという事もあったのではないでしょうか。

家計の消費意欲というのは、先ずは名目支出に現れますが、今年の1月の社会情勢で「まずは支出を抑えなければ」といった特別の要因は無かったように思われます。

暖冬であれば、結果的に暖房費を使わずに済んだという事もあり得ましょう。

逆に支出の伸びているのは教育31.4%増、保健医療10.7%増で、インフルエンザは仕方ないとしても、補習教育などを含む教育費の増加は、支出意欲の表れ、教養娯楽は伸びてはいませんが(-2.8%)前年急上昇で高止まりの状態でしょう。

そんな状況の中で、2人以上勤労者世帯の平均消費性向は、昨年1月の81.8%が今年の1月は76.7%と大幅な低下ですが、日本の家計が今年に入って、更に倹約の度を強めるとは些か考えにくいので、来月以降、特に春闘の結果を見ながら検討を続けたいと思います。      

     勤労者世帯の平均消費性向の推移

        資料:総務省統計局「家計調査」

グラフは、今月から2021年を省き、2024年を加える形にしました。2022年はコロナの終息を見込んでか、特に平均消費性向の予想外の上昇の年でしたので、22年の各月の数字を上回ることが消費需要回復の条件と言えるのかもしれません。