tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「持続的賃上げ」実現への必要条件の整備:試論

2023年09月30日 14時51分42秒 | 政治
「持続的賃上げ」実現への必要条件の整備:試論
10月に入れば補正予算の議論が本格化するでしょう。噂では20兆円ほど国債発行が増えそうです。また今迄と同じことの繰り返しになりそうです。赤字国債でカネをばら撒き消費需要を支えるようなことを続けても日本経済は元気にはなりません。

そうした後追いの弥縫策ではなくて、事の原因に手を打つ根本解決を目指してこそ先手必勝の王道なのです。

そのためには「持続的賃上げ」実現のための必要条件の検討・整備がまず必要です。
主なものを上げます
1、長年の輸入物価上昇の国内価格への転嫁は出来たか
2、為替レートの正常化を実現する準備はよいか
3、国家財政の節度を弁える意識はあるか
4、異次元金融緩和の出口政策のシナリオの策定は出来たか
といった所でしょうか。

1については消費者物価のコアコア指数が十分に「リベンジ値上げ」を終えているかでしょう。消費者物価の統計で見ますと、2021年夏から22年春にかけて、コアコア指数の上昇が大きく遅れています。輸入原材料値上がりの影響が遅れたこと、コロナ禍で消費が落ちたことなどが原因でしょう。

グラフで見ますと、その分遅れての上昇ですが、そろそろ取り返したかな、という所です
但し、品目別、業界別では差がある様なので、そのあたりの配慮は必要でしょう。

2の、為替レートの正常化については、目標は110円から120円でしょうか、これは主に日銀の仕事でしょう。はっきり言ってアメリカ次第ですから、まず、為替レート変動と賃金水準の関係を、確り理論化して、国民に周知する必要があります。動向を「注視する」だけでは国民はイライラするだけです。

3の、財政の節度の問題では、取るべき経済政策を取らずに、補助金のバラマキで、その方が票につながるといった思考は厳禁でしょう。
政府の使う金は、経済成長の中から調達するという原則に立ち返り、カネより頭脳を使う政治、国民が経済活動、消費、投資、研究開発を活発にする気になるような政策を与野党が競うべきでしょう。特に現下の課題は消費需要のの安定した拡大でしょう。

4の、異次元金融緩和の出口政策のシナリオの策定については、金利の正常化で、借金まみれの財政の問題を、政府・日銀が国民の納得する筋道を早急に国民に示すべきです。
今のように、添えもこれも「将来の国民負担」という解説で済ますようなことでは「持続可能な賃上げ」も、SDGsも保障されません。

正常な経済とは、正常な金利が、経済活動の潤滑油として機能する経済です。
貯蓄しても利息が付かない、インカムゲインがないから、キャピタルゲイン獲得を優先するというのは、正常な経済活動ではありません。

「持続的賃上げ」は正常な経済社会、安定して成長する経済の中で初めて成立するのです。
今回の補正予算の議論の中で、上記の諸点が確り検討されれば、来春闘の労使共通の目的を目指す議論が可能になり、日本経済は正常化路線に乗るきっかけをつかめるのではないでしょうか。

蛇足ですが、選挙の時期についての憶測がマスコミを賑わせています。
日本経済社会の正常化が、当面する最も重要な目標であり、そのために真剣な努力をするものが政権に就くというのが正常な民主主義国の姿でしょう。
政権維持の「ハウツー」が通用するような社会に堕すかどうかは、国民の意識にかかっている事も忘れてはならないと思っています。

消費者物価3.2%上昇は「2%インフレ目標」を超えていますが

2023年09月29日 12時10分28秒 | 経済
この所政府の言う「持続的賃上げ」に絡んで、政府、日銀、それに労使の政策や行動に、現実の経済情勢との不適合があるのではないかという点について見てきました。

その中でも大変わかりにくい点は、日銀が「2%インフレ目標」を達成すれば、ゼロ金利政策を見直すと言いながら消費者物価上昇は疾うに3%を超えて未だ上り続けそうだというのに、日銀は「静観」で、特段の動きはないという事でしょう。

つまり政府・日銀の言う「2%」と現実の「3%以上」の物価の上昇は違うという事ですが、ではどうなればいいのか、どうするのかの説明はありません。

ここで物価上昇以上の賃上げをすれば、物価は更に上がる可能性もありますが、何%まで上がればいいのか解らないというのは、国民・生活者にとっては困った事です。
そして、政府からは、持続的賃上げの「具体的な姿」は、全く示されていないのです。

日銀は、「賃上げを伴うインフレが2%」という言い方もしていますが、確かに今のインフレは、賃金が上がらない中で始まりました。そして今、政府は物価上昇を上回る賃上げをと言っています。何か順序が逆です。

では、今のインフレが日銀の考えているインフレとどう違うのか考えてみましょう。
日銀の考えている「2%インフレは」正常な経済状態の中で、実質経済成長が2%ぐらいあり、賃上げが4%あれば、経済成長は賃上げに2%足りませんから、その分はインフレになるという事で、多分、その程度のインフレで経済は巧く回るというのでしょう。

これはその通りで、経済成長しても高い所と低い所があって、そのあたりの調整が必要ですが、ゼロサムの中での調整は困難で、インフレでみんなが増えれば、その中で増え方の大小があっても、「増えている」ので調整がしやすいという事でしょう。

所で、アベノミクス以来10年程の日本は、殆どゼロサムでした「あちらを増やすには、こちらを減らす」というのは大変なことです。

ではどうしたかと言いますと、政府が借金して、「損している」と主張するところに補助金を出し、減らされたという意識を抑え込んでいたのです。
これがいわゆるバラマキの実態ですが、不満を抑え込んだ結果は財政赤字の拡大で、今のインフレは、「財政デマンド・プル・インフレ」の色彩の強いものです。

具体的な現象としては、平常時でも世界は年に2~3のインフレで、食料自給率の低い日本にとって、穀物や飼料、肥料などはじり高ですが、賃金が上がらず、将来不安から消費の伸びない中で、食料品などの値上げは殆ど不可能な状態、つまり賃金も物価も上がらなかったのです。

そうした中でコロナの終息もあり、10万円の一律給付、貧困家庭への援助、節約疲れもあって、2022年あたりから家計の消費意欲が上向き、長年の値上げ我慢への消費者の理解もあったのでしょう、この2年ほど、食料中心に生活必需品値上げの波が起き、一部には行き過ぎも見られる状態というのが、今のインフレでしょう。

つまり、長期の政策上の誤算の集積が今になってその清算を求め噴出という現象、それに加えてこの所のアメリカの金融政策のトバッチリで、予想外に長引きそうな大幅な円安といった複雑な事情の中で起きているのが現状です。

この中で日銀も絡むのが、アメリカの金利引き上げに対して日本銀行が何か取りうる手段はないかという問題です。
しかしこれには経済学者の思考パターンではない、政治的は駆け引きや、投機筋の勘や思考方法が必要でしょう。日銀の政策決定会合とは少し違う回路での思考が必要なようです。

こんな状態の中で、単純な「2%インフレ目標」や一般論で「持続的賃上げ」と言っても、一体如何なるシナリオ、如何なるプロセスで、政策展開ををするべきか、簡単に答えは出そうにもありません。
ならば、混乱した状況が収まるまで、様子を見るかという事で、「注視する」という事になるのでしょう。

しかし、労使はすでに来春闘の準備の時期ですし、国民は、何とか早く(政権維持ばかりでなく)本気で実効ある日本経済の安定、正常化を実現してほしいと思っているのです。
政府・日銀に加えてアカデミア、労使の共通な目的を持った協力が必要のような気がします。

「持続的賃上げ」:企業は利益追求だけでいいのか

2023年09月28日 14時19分32秒 | 経営
前回は連合への期待でしたが、今回は企業のサイドの意識について考えてみましょう。ここでの分析は統計的に日本企業がとってきた行動という状況証拠が中心ですので、個々の企業では、行動は多様でしょう。

プラザ合意による円高は、$1=240円が120円になるという大幅でした。もしこれが日本以外の国で起きたら、経済は大混乱に陥り破綻するのではないかと思うような円高です。

日本の企業はこれを徹底したコスト切り下げで乗り切り、2002年には、当時の言葉で「好況感なき上昇」という段階に入りました。2007-8年の就活は売り手市場になるまでに良くなっています。

しかしこの努力の成果は「リーマンショック」の際のバーナンキFRBのゼロ金利政策による$1=75~80円という円高によって壊滅、新たなコストカットに呻吟します。
日本は政府も企業も「研究開発から人材育成まで」あらゆるコストカットをしましたが、それでは却ってジリ貧で結果は出ません。

結局この窮地を脱出したのは2発の黒田バズーカです。バーナンキ理論を借用した「異次元金融緩和」という円安政策による$1=120円という円安の実現です。

これで日本経済は完全復活可能という事で、「アベノミクス」は船出しました。政府・日銀は「2%インフレ目標」達成は2~3年の内と考え、企業は、円安のお蔭で、これまでのコストカットの成果を満喫、忽ち「収益性の高い日本企業」に変身しました。

そしてここから新しい問題が発生したのです。
円高に耐えた日本企業ですが、円安にどう対処するかの知恵を発揮する前に、チャンスとばかり収益性を高め、資本蓄積に専念したようです。

その典型的な行動は、円高対応の時に使った禁じ手「賃金の安い非正規社員の活用」です。
円高不況の下では、雇用第一で、非正規雇用で失業抑制も合理性を持ったでしょう。
しかし、円安になってからも、非正規社員の比率は減らず、逆に増えているのです。

当時、非正規の正規化の動きもありました、しかし、残念ながら、それは統計に影響が出るほどのものではありませんでした。

企業にとっては、それまでの長期不況、特にリーマンショック後の企業の惨状からの復活志向、更にはアメリカ流の、企業の目的は「利益」、「時価総額の極大化」といった経営理念の変化もあったのでしょう。

こうした中で忘れ去られたのが、円高の時のコストカット策で大幅に減らした人件費回復への配慮だったようです。賃下げの難しい正規従業員を削減、補充は非正規従業員、それによって総額人件費をおおはばに下げたという事実です。

円安による利益増には人件費の削減が最も大きく効いているのです。円安になった時、企業は、先ず非正規の「正規化」で日本の雇用構造を安定したものに復元する形で、日本の労働市場にカットした人件費のお返しをするべきだったのです。

つまり、円安の利得は、労働市場にも適切に配分されなければならないのではないです。なのに円安になってからも非正規を増やすといったことは、従業員の技能と努力が企業を支えているという、人間中心の日本的経営からは考えられないことでしょう。

この労働市場への分配、日本経済の総額人件費の見直しは、具体的には、先ず非正規の正規化という雇用構造の見直し、従業員全体への賃金水準の回復という形で行われるべきでした。
この、円安の利得の人件費への配分が「忘れられていた」ことが、家計の衰弱、消費不振による日本経済の低成長の最大の原因だったのでしょう。

政府は「持続的賃上げ」ですが、その中身は、雇用構造の復元(教育訓練費注入が必要)、賃上げによる円安利得の賃上げによる家計への還元、そしてそれによる消費需要の活性化が当面の必須事項です。
そして、それによる消費活性化で、日本経済が正常に回り始め、経済成長が始まって、初めて「持続的賃金上げ」が可能になるという順序でしょう。

単に「持続的賃上げ」では、賃上げの中身も幅も解りません。持続的賃上げには、持続的成長が必要です。企業は実践部隊ですからその中身を分析し、それぞれに的確に対応する必要があるのでしょう。

経済団体もいろいろありますが、足並みを揃えて、日本経済の再建に協力してほしいものです。

「持続的賃上げ」のリーダーは連合のはずですが

2023年09月27日 15時02分16秒 | 労働問題
「持続的賃上げ」について前回は政府・日銀の「2%インフレ目標」と絡めて書きましたが、「続き希望」のクリックもあり、やっぱり賃上げの実行部隊である労使についても見てみたいと思います。先ずは労働サイドです。

昔、日本の春闘は「スプリング・オフェンシブ」などと英訳されていましたが、「オフェンス」は攻撃という事ですから主役は労働組合、日本ではその代表である連合でしょう。

今年の春闘での連合の要求基準は「定昇2%程度を含む5%」で、その内の3%は日本経済の成長に見合った分という事でした。
昨年までは2+2の4%で、今年は日本経済が活況を取り戻すからと1%プラスだったのでしょう。

この考え方は、政府・日銀の「2%インフレ目標」基づいている一見極めて妥当なものです。理由は、どちらも「名目賃金上昇率-実質国民経済生産性上昇率=物価上昇率」の公式を前提に「4-2=2」、「5-3=2」と置いたものでしょう。

今年の連合は、日本経済が元気になって実質経済成長率が実質3%(注)になるだろうから5%要求にしても物価上昇は「5-3=2%」、だから「+1%」は許されるとの考えでしょう。

こんな真面目な労働組合は多分世界中で連合だけでしょう。日本経済との整合性をきちんと考えて、賃上げ要求をしているのです。

何処の国でも「物価が上がった、それ賃上げ」というのが普通です。当然物価上昇以上の賃上げ要求で、その賃上げが賃金インフレを起こして、忽ち今の欧米の様に10%レベルのインフレになるのです。

連合が上述のような真面目な考え方を持ったのは、多分、第一次石油危機がきっかけです。原油輸入が止まりトイレットペーパー・洗剤パニック、急激なインフレが起き、物価上昇をカバーしようとして33%の賃上げを獲得しましたが、経済はゼロ成長で、賃金インフレを引き起こした経験です。日本は高インフレの国になり、忽ち国際競争力を失って破綻すると言われました。

アカデミアは「いくら賃上げを取っても経済成長がなければ生活は良くならない」と明言し、当時労働運動のリーダーだった鉄鋼労連中心に「経済整合性理論」が生まれ、日本経済の実態に整合した賃上げが望ましいという理論が労組の中でも支配的になったことが理由でしょう。

政府も頑張りました。原油供給国の「アラブ寄り」の政策を急に重視し、市井では「アラブ寄り」ではなく「アブラ(油)よりだ」などと言われました。

その意味では連合の考え方は極めて真面ですが、そのあと日本を襲った為替レートの大変動、「プラザ合意」、「リーマンショック」による大幅円高、そしてその揺り戻しである黒田バズーカによる大幅円安への対応について、政府・日銀の対応失敗の中で、連合も同じ固定相場制前提の「経済整合性理論」を墨守したことは残念というべきでしょう。(そして今の円安の中でも・・・)

一口で言いますと、「円高は賃上げと同じ効果を持ち、円安は賃下げと同じ効果を持つ」という「ドル建ての経済との整合性」を考慮しなければならないという点に尽きるでしょう。

これは今の国際化し、マネー経済化した世界経済の中では当然のことですが、その理論的構成がまだ十分できていない中で、現実の方がどんどん進んでいる事の結果でしょう。

このブログで指摘しているのは、円高の時は日本経済は「試行錯誤」を繰り返しながら必死で対応し切りましたが、円安の中ではアベノミクス、今日の「持続的賃上げ論」など、未だに試行錯誤の真っ只中でしかないう現状です。

連合が「円安は賃金引き下げと同じ効果を持つ」という変動相場制の中での現実をベースにし、来春闘に向けて如何なる賃金理論の下に如何なる賃金要求を打ち出すか、「持続的賃上げ」を超える賃金理論の下にいかなる「賃上げ要求」を打ち出すか、連合の「オフェンス」が日本経済の活性化を生み出す効果を見たいと思っています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)就業人口は短期的には余り変わりませんから、実質国民経済生産性上昇率と、実質経済成長率はほぼ等しいとしています。

持続的賃上げ実現の方策は?

2023年09月26日 13時36分01秒 | 政治
岸田総理は日本経済を冷(低)温経済から適温経済へと目標を掲げ、些か総花的な政策提示をしていますが、マスコミはその中でも、持続的賃上げの実現が主眼といった報道です。

補正予算の季節に合わせての政策展開なので、中でもパートの就労時間自粛の原因と言われる130万円の壁、106万円の壁、の緩和についての報道が賑やかで、50万円の助成も議論の的ですが、これらは、持続的「賃上げ」の外の問題でしょう。

岸田総理は、言葉の発明はお上手で、「適温経済」というのもその一つかと思いますが、残念ながら、いつも内容の説明がありません。

今回は「持続的賃上げ」が主要な問題ですから、これに絡めて解釈すれば、
・輸入価格上昇でコストが上がっても、インフレを嫌い、出来るだけ製品値上げはしない、というのが低温経済。
・輸入価格が上昇すれば、それに輪をかけて賃上げし、値上し、忽ちインフレを起こす、というのが高温経済。
という事ではないでしょうか。

前者が一昨年までの日本、後者は今のアメリカです。
日本はアベノミクス第1弾で円レートが80円から120円と50%の円安になっても、輸入穀物が値上がりしても、賃金も物価も上がらず、ずっと消費不振の低成長経済でした。

アメリカは(ヨーロッパも)、原油や穀物の輸入価格が上がれば、忽ち輸入インフレは賃上げを触発し、原材料と賃金のコストアップで今回も10%レベルのインフレ景気になり、中央銀行が金利引き上げで景気の過熱を抑えるのに大童です。

日本も、第一次石油危機の時は、今の欧米と同様でしたが、その行き過ぎた反省から、インフレ嫌いの冷温経済になったようです。

「冷温」も良くない、「高温」も良くない、ならば「適温」と岸田流の造語は巧みですが、ではいかにして「適温」に導くか、これが問題です。

岸田さんはその答えの中心に「持続的賃上げ」を置いています。これも「言葉」としては正解です。しかし、どうやって、持続的賃上げを可能にするかの説明はありません。

現実に賃上げをするのは、企業労使です。特に、賃上げを仕掛けるのは労働組合です。

殆どの(今の日本の)経営者は、昔の「労使一体」の「企業は人間集団」という意識はお忘れのようですから、業績好調は「ボーナスの多少の調整」で十分とお考えでしょう。

労働組合も昔の様に大幅賃上げとは言いません。組合の一部には毎年10%の賃上げを掲げるグループもあります。しかし社会的支持は得られないようです。

こうした中で、日銀と共に掲げる「2%インフレターゲット」という安定した「適温経済」に、如何なるシナリオで持って行くのか、それが問われているのです。

今、日本のインフレは疾うに2%を超えています。明らかにインフレですが、その原因には目に見えるものが2つ、潜在的なものが1つあるようです。

目に見えるものは、1つに国際的なエネルギー、穀物その他資源価格の値上がり、2つに異常な円安です。
潜在的なものは、こうした中で、賃金と物価の関係を如何に理解すべきか政府、日銀、アカデミアの解説がなく、国民の意識は混乱し困惑、結果は不安感、不満足感になって、生活必需品などの出来るところが値上げに動いているという現実ではないでしょうか。

という事で、国民は、「政府どうする」、「日銀どうする」と、具体的な、腑に落ちる説明を聞き、対応の仕方を考えようと思っているのではいでしょうか。

そうした十分な説明・情報を得て、労使の国民も、みんな「いかにして持続的賃上げを実現するか」を議論するようになれば、その中から「適温経済」への道が見つかるでしょう。

日本はもともと『コンセンサス社会』です。「持続的賃上げ」は政府から与えられるものではなく、政府が提供する正しい情報をもとに、国民が(労使が)考え出すものでしょう。

当初予算(本予算)とは一体何なのでしょう

2023年09月25日 16時28分43秒 | 政治
当初予算(本予算)とは一体何なのでしょう
当初予算の審議で、新年度も最大の規模などと報道されますが、通常伸びたのは1兆円か2兆円です。
しかし今年もそうですが、もう補正予算を組むことに政府の意向はどんどん進んでいきます。

補正予算を組んでいろいろなことを付け足しているのが政府の仕事のようですが、補正予算を組むといっても、税収が増える見通しだから、新しい仕事が出来るというのではなくて、財源はほとんど公債金収入をあてにしてという事のようです。

つまり赤字の政府がさらに国民から借金をして、経済社会情勢が大変だから新たな政策を打ち出そうというのです。
大事なことはすでに当初予算つまり「本予算」で組んであるはずですが、やらなければならない事がいっぱい出て来るのです。

本予算の時は、無駄を省き少しでも節約して公債依存度減らすなどといった論議もあるようですが補正予算になると何をやるか、やってくれるかの方が、重要で、財源の方は、予備費がありますとか国債発行も結構みたいな雰囲気になるようです。

予備費も元は国債ですし、補正予算の財源は10兆円単位で国債発行がまかり通るようです。選挙などという事になれば、何をサービスするかに話は集中してきます。
この辺の様子をグラフにしました。

    令和以降の当初予算(本予算)と決算の推移(単位:兆円)

            資料:財務省「毎年度の国の予・決算」

2019年(令和元年)までは真面だったようですが、2020年から大変化で、本予算(青の柱)にもたっぷり国債収入が入っていますが、決算(赤の柱)との差額は殆ど国債発行で、この年の国債発行総額は100兆円を超えています。

それで結果は40兆円近い使い残し、繰越金は予備費という事でしょうか。
その後も巨大な補正予算は続き、予備費の残額は使い込みで減っています。

今年も岸田総理は補正予算に勢い込んでいますから、結果がどうなるかは解りませんが、国債発行残高はまた増えるのでしょう。

予備費で遊ばせておいても利息はつくはずですが、今はゼロ金利だから気にしないのでしょうか。利息の付く民間企業でしたら、借金は少しでも返済しておくのですが。

MMTではいくら政府が借金しても問題はないとい理論だそうですが、MMTが正しいかどうかはまだ証明されていません。

日銀が金利を上げると、借金づけの政府は大変だと言われますが、国債は半分以上日銀が持っていて、日銀に利息が入ればそれは直ちに【国庫納付金】になるので政府の負担は半分以下です。そのあたりは日銀と話が付いているのでしょうか。

お上の事は解りませんが、財政の話は予算よりも「決算」の方が大事のように思われます。

財政学の大御所伊藤半弥先生は「財政学の基本は『入るを計って出づるを制す』にありと言われましたが、今は『出づるを謀って、入るを合わせる』で良いのでしょうか。

日銀:賃金上昇を伴う2%インフレ実現まで、粘り強く金融緩和

2023年09月23日 14時00分05秒 | 経済
昨日の日銀の発表には落胆を禁じ得ませんでした。今迄と同じことを全会一致で決めたという事だけでした。

黒田総裁の時は、未だ解り易かったと思います。物価上昇は一過性だから、異次元緩和を続けて賃金上昇を待てば、2%インフレ目標の達成に向かっていく、それまで金融緩和を続けると理解できました。

植田総裁も最初はそう言っていました。黒田路線の継続なんだな、やっぱりそれしかないのか、と思っていました。

今春闘では、労使も少し高めの賃上げをしました。しかしほとんど効果的ではなかったようです。賃金統計でも賃金レベルは「いくらか」上がった程度のようです。

一方、新しい事情が次々追加されました、一つは、輸入価格が上ったら、国内価格に転嫁してもいいという政府の姿勢です。これまで値上げを我慢していた部分で物価上昇が始まりました。

もう一つは、アメリカのインフレ抑制のためのFRBの相次ぐ金利引き上げで、日米金利差が急拡大、猛烈な円安が起きました。そして、今、これが長引くのではないかと懸念されています。

長らく消費不況で値上げを我慢していた消費関連部門の、たまりかねた値上げに加えて、また上り始めた原油価格、それに大幅円安による輸入原材料のコストアップ、この3者が入り混じって、消費者物価の上昇が止まりません。

電力、ガス、石油元売りには政府が補助金を出して上昇を抑えていますが、それが外れたら消費者物価な1%以上上がるでしょう。

こんな状況を背景に、特に生活必需品関係などでは波状値上げが続き、一部には便乗値上げの気配も感じられ、年率10%前後の上昇が見られる品目も多くなりました。

これに対して春闘賃上げも結果的には些少だった家計部門では、既に買い控え傾向が出始めており、アベノミクス時代の消費不振による経済成長不振が心配される様相です。

今の日銀は、こうした状況を、如何なるシナリオ、如何なるプロセスで、「2%インフレ目標」、標準的には、賃金水準上昇4%、国民経済生産性上昇2%、インフレ率2%という目標でしょう。勿論、円レートが安定しなければ、計算通りにはなりません。

いかにして、こうした状態に持っていくのか、それが示されなければ、国民は安心して「日銀に政策をお任せする」ことは出来ないでしょう。

政府と緊密に連絡を取っているとのことですが、借金だらけの政府に金利を上げないように頼まれているのではないかなどと勘繰る筋もあるようです。

プラザ合意リーマンショックの後始末など、政府、日銀の対応の誤算を見ている国民です。もう少し政策の筋道の納得できる説明がないと、正直、安心できない気がします。

2023年8月、消費者物価上昇基調変わらず

2023年09月22日 13時44分02秒 | 経済
今朝、総務省統計局から2003年8月分の消費者物価指数が発表になりました。
大方の予想通り、消費者物価の動きに特段変化がなかったところから、マスコミの報道では小さく「3.1%の上昇」と例月通りの生鮮食品を除く総合の数字が見出しでした。

特段変化がなかったという事の中身は、しかし複雑で、8月は生鮮食品の伸び率が低かった事もありますが、大きいのは、政府の補助金の継続で電気代が2割、都市ガス代が1割ほど前年より下がっている(2月以降)ことなどが含まれています。

10月以降、これらの補助金がどうなるかで、消費者物価が大きく動く可能性もあるわけで、政府は補助金で人気を維持する様子ですが、本来の経済現象を歪めてその皺が財政赤字によっている事を見ないと本当の動きは解りません。

それはともかく、毎月注目している主要3指数の動きをグラフで見ますと、総合、生鮮を除く総合、エネルギと生鮮を除く総合の青、赤、緑の3本の線は従来通りの角度で上がっていて、生鮮の上昇鈍化の影響が総合にかすかに出ている程度です。

   消費者物価指数主要3指数の動き

             資料:総務省統計局「消費者物価指数」

下のグラフの対前年同月比の数字を見ますと、総合と生鮮を除く総合は政府の補助金政策で、次第に横ばいの動きになっていますが、緑の線の生鮮とエネルギーを除く総合は相変わらずの上昇基調です。

      消費者物価指数主要3素数の対前年同月上昇率(%)

                     資料:上に同じ

この緑の線は、加工食品、菓子、飲料、調味料などの食料、それに毎日使う日用品などいわば生活必需品が多いのですが、このグループの上昇率は相変わらず高く、からあげ、ハンバーガー、アイスクリーム、炭酸飲料やトイレットペーパーなど年率1割ないしそれ以上の上昇率をづけているものも多い状態です。

円安も続く気配、エネルギーの国際価格の上昇で、政府の補助金も何時までも続けられるものでもないと思われますので、物価問題はなかなか安心とは言えないようです。

このブログでは、世界中インフレなので、日本だけインフレを抑えるのは無理だから、思い切って賃上げをする方が適切な政策ではないかと指摘していますが、それには連合が動かなければだめでしょう。

1980年代までは、日本の労働組合もそういう元気を持っていたのですが、今の連合は大人しくなり過ぎではないでしょうか。
現状では、補助金より賃上げの方が健全だと思っている人も多いのではないでしょうか。

余計なことも書きましたが、岸田政権が今の世界と日本の経済情勢を的確に判断できるかどうかが鍵でしょうから、些か難しいとは思いますが、秋以降の経済政策に期待したいと思うところです。

敬老の日が過ぎて

2023年09月21日 15時04分36秒 | 文化社会
先日は「敬老の日」でした。
先日はと書いたのは、かつて敬老の日は9月15日でしたが、今は、9月の第3月曜日になっていて、暦にも今年は9月18日と書いてあります。

変わったのは2002年で、それまでは9月15日は95歳に通じるので、そこまで長生きできればという意味もあるのかな、などと思っていました。

働き者で休まない日本人を連続休暇に馴染ませるためでしょうか、それとも連続休暇を増やして消費需要の活発化を意図したのでしょうか、国民の祝祭日も一部は連休優先方式(成人の日、海の日、敬老の日、スポーツの日の4日)になって「この祝日は何月何日」と言えなくなりました。

動かせるものは連休にした方が休みやすいという事でしょうか。働き者の日本人にしてみれば、安心して休める国民の祝日を増やして、出来るものは連休方式にするというのも結構なアイデアかもしれません。

話が横道にそれましたが、敬老の日は、国民として何をすればいいのでしょうか。
祝日の趣旨は「社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」という事だそうで、私も老人の仲間なので「社会に尽くしてきた老人」の資格ありやと反省するころです。

老人にとっては反省の日かもしれませんが、もう一つの「長寿を祝う」というのはどうでしょうか。

政府は平均寿命の長さについては世界に自慢するでしょうが、年金の遣り繰りについては四苦八苦、高齢者の負担は増え、給付は実質減少というのがこれまでの実績です。

本音ではお前たち高齢者の働きが悪かったからだ、と言いたいのかもしれませんが、これまでの経緯で見れば、日本経済低迷の原因は、プラザ合意以来の円高容認政策が根本原因で「あの頃の政治や外交担当者の失政が原因だったのではないですか」でしょう。

繰り言を言っても生姜ないので、大事なことは、失敗の経験を将来に生かすことで、このブログも、それに協力しているつもりです。

それは兎も角、「長寿を祝う」というのは、人間始め生きとし生ける物は無条件で納得するのではないでしょうか。

自分の意思で生まれたのではないのですが、生まれて来てよかった、生きることは自分にとって意味ある事というのは、人間以外の生物は本能で認めているのでしょうし、ホモサピエンスに進化すれば、脳の機能でそう感じ、考え、認める所でしょう。

生きることを良い事と感じ、長い人生を生きて、それぞれに多様な活動で社会に役立ってきた老人の人生に敬意を表し、長寿を祝う、という人間の自然の気持ちを素直に感じることが出来れば、それは「敬老の日」に相応しい心ではないでしょうか。

国連の改革で人類社会の平和の実現を

2023年09月20日 16時47分19秒 | 国際政治
終末時計は、人類終末まであと1分30秒を残すのみになってしまいました。ロシアのウクライナ侵攻、核の脅しなどの世界情勢から昨年より10秒進みました。

そうした中の国連総会です。岸田総理は、G7議長国として、国連改革を訴えると報じられています。

国連中心主義を掲げる日本としては、国連が人類社会の役に立つ組織であることが最も重要です。そして、世界の大多数の国も同じ思いでしょう。

報道されている岸田総理の一般討論演説は、現状の問題点を的確に指摘する適切で説得力のあるもののようです。

国連の中枢機関である「安全保障理事会(安保理)」の常任理事国5か国の中の1国であるロシアがウクライナ侵攻を進めるという異常事態を前提に、国際法を蹂躙するロシアの行動を強く非難したうえで、国連の安保理常任理事国が国連憲章に違反し、人権蹂躙を行い、核の脅威を利用するような状態は即刻是正すべきと主張するようです。

更に、国連安全保障理事会が、ロシアの拒否権発動でほとんど機能しない現実を指摘、拒否権の行使抑制に言及して安保理の信頼回復を図るべきと述べ、更にそのためには安保理の理事国、非常任理事国の増加が必要と訴えるとのことです。

こうした国連改革の理念は、「人間の尊厳」「人間中心の国際協力にある」との趣旨に立ち、人類社会の平和と安定・発展こそが国連の目指すものとの視点を明確にしています。

このままでは終末時計は、人類の残り時間1分半からさらに短くなる可能性を示唆しているわけで、いざとなったら核の利用も辞さずといった、人類のために何にもならない事を言って国連を機能不全にするロシアのリーダー、それに同調する少数の国のリーダーたちの覚醒を改めて促すという日本の意思は、広い賛同を得るでしょう。

各種の情報によれば、ロシアの国民の多くも、プーチンの政策に賛同しているわけではないでしょう。ロシアから出国する若者は多く、国内にいても出来れば反政府運動をという人も、今のロシアは良くないと思っている人も大勢いるのでしょう。

「人間中心の国際協力」を如何に力のあるものにするかも大きな課題でしょうし、人類全体の民主主義の在り方を考えれば、世界人類全員投票は無理でも、国連総会の意思決定を安全保障理事会の上に置くことが必要という事になるでしょう。

国連中心主義を標榜する日本としては、現存する地球人類の危機を如何に国連改革で辞湧現するか、その実現まで、取り組みを緩めない事が最も重要ではないでしょうか。

日本経済の現状と賃金決定:「連合の出番」では !

2023年09月19日 14時11分05秒 | 労働問題
最近の生活必需品の価格上昇が著しい事は、統計で見ても、買い物に行っても多くの方がお気付きです。

10月からはまた数千種類の生活必需品の値上げが予定されていることはNHKの報道で拝見しましたが、そうした商品のメーカーも値上げしにくくなっているのではないでしょうか。既に総務省の「家計調査」などでは、家計の買い控えの様子が見えています。

政府もエネルギー関係の商品・サービスについては、補助金を出して値上げを抑えようとしていますが、短期的な円安対策ならいざ知らず、輸入価格の上昇が長引けば続けられない事は明白です。

国際的にインフレの中で、日本だけ物価安定というのがこれ迄でしたが、最近は財政赤字の拡大、円安の放置が顕著で、物価はじりじり上がり、実質消費の減退から低成長経済の常態化というアベノミクスの延長線上に戻りそうな気配です。

何処で間違ったかですが、間違ったなら、今までと違った事をやらなければなりません。それなら何をやるかです。

という事で、主要国がみんなインフレだったら、日本も思い切ってインフレにしてみたらどうでしょう。生活必需品の値上げが続いて、生活が苦しくなったら、消費支出を削るのではなくて、十分な賃上げをして消費を活発にするのです。

そんなことをしたら企業が潰れる、企業にそんな賃金支払能力はない、と言う前に、企業も値上げして利益を確保するのです。現にいま多くの企業がそれをやっています。

十分な賃上げがあれば、家計は節約せずに買い物を楽しみます。多少の値上げでも消費意欲は衰えず、「消費不振」解消は賃上げで可能です。

ある程度の物価上昇は続くでしょう。それはOKです。いま日本の物価は、円安のせいで、国際的にみて異常に低いのです。円安が収まり円レートが110円~120円になっても、「日本製」は国際競争力があり、インバウンドは盛況を続けるでしょう。

注意すべきは、欧米主要国以上のインフレにはしない事だけです。これは日本の労使は、十分に理解していると思っています。

50年前第一次石油危機の際33%の賃上げの結果の22%のインフレを反省した当時の経営者団体(日経連)は「翌年の賃上げは15%以下」と提言し、日本の労使は協調して13%という結果を出し、日本経済をインフレ→スタグフレーション転落から救いました。

来年の春闘では連合が「賃上げ15%以上(注)」を提言し、日本を消費不振の低成長経済から救うというのはどうでしょうか。

こうした提言が出来るのは連合だけですし、消費不振の解消には賃上げ以外の方法はないというのが現状です。つまり連合にしか出来ない事です。(野党結集のバックアップが 得られればベスト)
今回は、まさに「連合の出番」ではないかと思っています。
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(注)15%は50年前の日経連との語呂合わせです。「10%以上」でもいいでしょう。これは賃上げ(純粋ベースアップ)の平均値で、構造的な視点では、家計に責任を持つ非正規従業員の正規化(教育訓練を含む)を強力に要求する必要があるでしょう。

日米「賃上げ要求」を比較してみました

2023年09月18日 14時26分02秒 | 労働問題
UAW(全米自動車労組)の協約改定交渉は賃上げ率で応酬が続いているようです。

前回も触れましたが、UAWと「ビッグ3」の労働協約は4年ごとで、9月14日に協定期間が切れ、話し合いは折り合わずにストに入ったという事です。

主要課題の賃上げ要求は、今年20%、来年以降5%で協定期間は4年で累計39%です。
日本では複数年協定は基幹労連の2年以外にはないようですから、単純に比較はできませんが、経済情勢や物価に応じた賃上げという狙いは共通でしょう。

先ずアメリカ(UAW)ですが、正常な経済状態であれば5%賃上げというのがUAWの基本的な考え方でしょう。
我々が驚くのは初年度の20%ですが、これは昨年からの10%近いインフレによる生活費上昇をカバーする2年分の要求という事でしょう。

報道の中ではUAWの中にも初年度18%という妥協案もあったようで、この場合は4年間で36%と言っているようです。(アメリカのインフレはピークで8%台でした)

「ビッグ3」の側ではクライスラーの親会社のステランティスの提示した21%(おそらく初年度8%、あと3年は4%)についてUAWは問題にしていないようです。

UAWの要求の目玉は、初年度の大幅(2年分)部分ですが、今年にないってFRBの努力でインフレ率は日本並みですから些か無理筋でしょうか。

ところで日本の場合ですが、連合の今春闘の要求は「5%程度」でした。物価上昇傾向はありましたが、何とも控えめです。

恐らく来春闘ではかなり高くなると思いますが、実は問題があります。
日本の賃上げ要求はかつての労働4団体のころから「定昇+ベア」です。アメリカの賃上げは「賃金表の書き換え」ですからもともとベアそのものです。

定昇(2%程度)というのは賃金協定で決まっているのですから上がって当たり前で、本当の賃上げはベア部分だけなのです。

特に定年再雇用の場合などは、賃金は7割とか5割に下がります。高齢化でそういう方も増えていますが、これは春闘賃上げの計算には入らないようです。
しかし、賃金統計(毎月勤労統計)などで見れば、賃金水準の低下要因で、国民所得統計の雇用者報酬、個人消費支出にはマイナス要因です。

日本経済はこのところずっと個人消費の低迷で成長しないというのが実態ですが、連合が「春闘と、日本経済の活性化、成長経済への進展」との関係を考えるならば、春闘の賃上げについても、要求の幅は勿論、賃上げ率の提示の仕方も再検討の要があるのかもしれません。

所で経済実態と賃金の関係を考えれば、アメリカの「ビッグ3」が利益を稼いでいるのは、中国を始め途上国の工場でしょう。アメリカの賃金水準で、車を作って、どこまで競争力があるかです。しかもドルは今金利上昇で当分「ドル高」でしょう。

翻って日本を見れば、国内の工場生産が重要で、車だけでなく多くの製品で、生産設備の国内回帰が言われるだけの競争力を維持し、さらにこの所、大幅な円安で、コストも物価も極めて安い国になっています。

端的に言えば、アメリカの賃上げは、アメリカの赤字を増やす効果を持ち、日本の賃上げは、日本の黒字を減らす効果を持つという事でしょう。日本では大幅賃上げが国(日本経済)の為なのです。

この儘ではいずれまた円高要請を呼び、プラザ合意の二の舞になるかもしれません。
ならば、このチャンスに、国内の賃金コストと物価を『計画的に』引き上げて、円高要請に対する防波堤とすることが、日本の賃金政策の中にあってしかるべきでしょう。

日本は、真面目な努力を円高で苦しみに変えてきました。今後はその努力分を賃上げし、国民が日本経済の豊かさとして活用することを考えるのが大事ではないでしょうか。

アメリカではUAWが対「ビッグ3」で一斉ストライキ

2023年09月16日 21時46分40秒 | 労働問題
昨年の4月、原油価格の上昇をきっかけにして、アメリカの消費者物価が急上昇、FRBが金融引き締めに走る中で、アメリカのアマゾンの倉庫や物流拠点で労働組合結成の騒ぎが報道されました。

それから1年余り、今度はUAW(全米自動車労組)がスト突入のニュースです。

アメリカの労働組合運動と言えば、UAW(全米自動車労組)はいわば代表格で、相手はいわゆる「ビッグ3」、GM、フォード、クライスラーで、このうちの1社を相手に勝ち取った賃上げが、自動車産業全体の賃金を決め、全米労働者の労働条件に影響すると言われたところです。

しかし、1970年代からのスタグフレーションの中で、自動車産業の都、デトロイトは、ラストベルトの代表的存在となり、AFL-CIOの中でも、製造業中心の伝統的巨大産業の労働組合の動きがマスコミのることも少なくなっていました。

ところが、新しい産業の組合結成問題から1年以上遅れましたが、UAWが、GM、フォード、ステランティス(クライスラーの親会社)のビッグ3の3社を相手に一斉ストに入るという史上初の労使紛争に突入しました。

直接の原因は、なんといっても全米労働者の代表という意識のあるUAWでしょう。近年は4年協定で9月14日に協定の期限が来るという事で今後4年間の交渉に入っていました。

GMの経営者は、電気自動車増える中でも「GMは雇用拡大を目指す」と雇用面で組合を牽制したようですが、組合の賃金要求は今後4年間の賃上げは初年度(9月15日から)20%、24年度からは年5%というもので4年間では39%になります。

労使双方理屈はあるでしょうが、初年度20%で、4年で40%近いというのは 経営サイドにとっては受け入れ難かったのでしょう。
交渉は決裂、3社一斉にスト入りという事になったようです。

3者一斉という今までなかったことで、アメリカのマスコミでもキャスターの説明も力が入っているようです。

勿論マスコミの論調には政治の視点も入っていて、もともとUAWは民主党支持、大統領選ではバイデン支持という事ですから、事は微妙です。

マスコミによれば、バイデン大統領はUAWの要求について「労働者がが不満足なことは理解できる」と発言したとのことです。
かといって、FRBがインフレ抑制に眦を決しているのに、今年20%の賃上げではインフレ容認です。

UAWも、対3社一斉ストと言っても、スト入りの工場は各企業の一部で、「最終組み立て部門は殆ど動いている」といった報道もあり、全面対決ではないようです。

アメリカやイギリスの労使関係も、かつての「敵対的であることが正しいあり方」といった意識は薄らいでいるようです。

しかし、インフレと賃上げに関してバイデン政権とFRBの目指す方向が食い違う可能性も出て来るわけで、この収拾に、自動車産業労使、それに政権と中央銀行が、如何なる貢献をするのか注目してみたいと思っています。

国際競争力が維持できる範囲のインフレは健全

2023年09月15日 15時20分06秒 | 労働問題
先日、「賃上げか物価抑制か:当面する経済対策」というテーマで、日本の今の情勢では、物価上昇を何とかしようと努力するよりも、ある程度のインフレを許容する覚悟で思い切った賃上げを行い、インフレの中で、いろいろな矛盾を調整する方が推奨される政策ですという趣旨のことを書きました。

日本の政府・日銀も「2%インフレターゲット」という政策を共に掲げているのですから、経済運営の環境としては、多少のインフレがあった方が望ましいと考えているのでしょう。

2%インフレターゲットは、当時アメリカの2%に追随したものと感じて、アメリカが2%なら日本は1%ターゲットでもと書きましたが、経済状態というのはデフレよりインフレの方が良い事は明らかです。(「デフレ3悪」参照)

しかし多くの国の指導者がインフレを恐れるのは、過去の世界経済の歴史を見れば、インフレというのは進み始めると、とめどなく進む危険性が高く、結果は国際競争力を喪失し、経済破綻という例が数多いからでしょう。

今の世の中ですと、変動相場制ですから、輸入インフレが賃金インフレを呼び、結果は通貨価値の下落となって、インフレを昂進させ、更なる賃上げを呼ぶという、賃金上昇、通貨価値下落、インフレ昂進の三つ巴のスパイラルになるのです。

これを避けるためにFRBもECBも、金利を引き合上げ、インフレを止めることに腐心しているのです。

ところで日本ですが、輸入インフレを賃金インフレに繋げないという良識を労使が持っている稀有な国です。その国が、アメリカの金利引き上げのトバッチリで賃金上昇をしないのに大幅な通貨価値下落(円安)に直面しているのです。

当然一部に「円安による輸入インフレを国内インフレに転嫁」しようという動きが出て来ています。しかし最大のコスト、賃金は上がっていません。
ですから円安で、国際競争力は大幅強化。輸出企業は大幅増益、一方、輸入エネルギー価格上昇分は政府のバラマキ補助金で潤い、結果は日経平均の大幅上昇です。

ではその皺は何処に寄っているかと言えば、「実質賃金の低下・消費需要の低迷」と「財政赤字、国債増発=将来の国民負担」で、この2つは、国民の「今日の消費生活と将来負担」という事でしょう。

こうした日本経済の構造的歪みを正すとすれば、国民の暮らし「家計」への配分を円安による目減りに応じて増やす(賃上げか減税)しかないのです。

政府は「国民に寄り添う」と言いながら、本当は「国民に寄りかかって」政権維持に狂奔、国民経済の衰退は放置しているという事になります。

日銀は、FRBに対抗し、経済理論と金融政策を駆使して、こうならない様に早めの手を打つべきでしょうが、答えは生成AI の様に早く出て来ないのが現実です。

嘗ての若い日本だったら、労働組合が大幅賃上げの旗を掲げ、野党は結集、こぞってバックアップという構図が見られたのかもしれません。

頑張って10%ぐらいの賃上げを勝ち取っても、日本の国際競争力はびくともしないでしょうし、経済の活況で生産性も上がってお釣りがくるでしょう。

日本人が皆大人しくなって、世の中も安定しているように見えますが、何処かで「芯」が確りしていないと、行く先が心配です。

FRBと日本銀行:日米物価の見方と対策

2023年09月14日 17時30分12秒 | 経済
FRBと日本銀行:日米物価の見方と対策
円安がまた進んでいます。
嘗ては、プラザ合意、リーマンショックで、大変な円高に追い込まれ、30年近く円高不況に呻吟した日本経済です。

2013~14年の日銀の政策変更で円高が解消しましたが、それに対応する国内経済政策がとられなかったせいで、その後10年ゼロ近傍成長で、相変わらず冴えない日本経済です。

昨年辺りから、少し国民の意識にも変化し、円安に対応する国民の自然な経済行動が見られ、今年あたりから日本経済も正常化に向かうかと思われたのですが、アメリカの金利引き上げで、国内の自然の動きが混乱、また日本経済は混乱状態に入ったようです。

それに対して、今のところ、政府も日銀も、適切で効果的、具体的な対応に資する経済の理論も政策の説明もなく行動もはっきりしません。

今、アメリカは、金融引締めを再び強める姿勢で、それを反映して円安はじりじり進む気配です。FRBが気にしているのはCPI(消費者物価)の上昇が収まらないという事です。

アメリカの8月の消費者物価上昇率(総合)は対前月0.6%(対前年同月3.7%)で、エネルギー価格が対前月で10.5%(対前年同月では-4.2%)、これがFRBの懸念のようです。

それ以外は、運送サービスの0.3%(対前年同月10.3)ぐらいで、食品は0.2%、エネルギーと食品を除くいわゆるコアコアは0.3%(対前年同月4.3)で、アメリカの感覚では正常の範囲でしょう。

日本の場合はまだ7月分ですが、分類の違いはありますが、対前年同月で総合が3.3%、食料8.8%、家具家事用品8.4%、教養娯楽が4.8%、光熱水道は-9.6%、生鮮食品とエネルギーを除く総合(コアコア)の4.3%は偶然8月のアメリカと同じです。

これは日本の感覚としてはかなり高いインフレで、エネルギー価格が政府の補助金で下がっているのが(困った)特徴ですが、食料・日用品といった生活必需品価格の上昇が異常です。
 
最近の日本の生活必需品の値上がりは$1=150円に近づいた円安が原因と言われ、補助金でエネルギー価格下げるという政策が終わったら大変でしょう。

エネルギー、食料の自給率が大変低い日本、それに対して殆ど自給のアメリカの経済構造の違いと、他国の都合は関係なく、インフレに異常にの敏感になって、金利引き上げで実体経済を無視した為替レートの変動を起こして意に介さないアメリカ、そして、まともにその影響を受ける日本です。

日本経済の実体経済に適切な110円程度の円レートであれば、日銀は余り困ることもないかと思うのですが、変動相場制の今日、こうした問題に日本の中央銀行は、もちろん政府も含めて、新しい対応策を考えなければならないのです。

勿論常識的には、政府・日銀に頼るのが当たり前でしょう。しかし、それで上手く行かないときはどうするかです。

振り返ってみれば、1973年第一次石油危機がありました。あの時は、政府も日銀も大変な努力をしました。しかし。世界も驚くような大きな役割を果たしたのは、日本の労使だったと考えて多分誤りはないでしょう。

今、政府、日銀にも適切な具体策を考えて欲しいと思いますが、同時に、長期不況の中での苦難の経験を生かし、新手の日本経済起死回生の策を、日本の労使にも積極検討してほしいと思うところです。