人件費支払能力の基準: 名目値? 実質値?(支払能力シリーズ3)
前回、日本経済の人件費支払能力の基本的な基準は日本経済(GDP)の成長率と書きました。
解り易く、「賃金を何%上げられるか」と言えば、日本経済が2%成長していれば、2%ぐらいは上げられるという事になります。ただし賃金は1人当たりですから、経済成長率も就業者一人当たりに直して「国民経済生産性」で、結局、賃上げの基準は「労働生産性」という事になるわけです。
実はここで2つほど問題が出てきます。
1つは、経済成長率は名目値なのか、実質値(名目値—物価上昇率)なのかという問題です。
もう1つは、現在の賃金への分配率が正しければ、賃金の伸びと生産性の伸びは同じだから正常な均衡成長ですが、今の賃金への分配が少なすぎる(多すぎる)ならば、生産性の伸び以上の(以下の)賃上げをして賃金への配分を正常に戻す必要があるという分配の正常化の問題です。
今回はまず、賃金上昇の基準となる生産性は「名目値」か「実質値」かという問題を見てみましょう。
今のように、物価がゼロ%付近で安定している場合は名目でも実質でも、ほとんど同じですからどっちでもいいという事になります。
しかし、今迄の春闘の中では、労働側は通常、「賃上げは物価上昇をカバーすべきだ」と主張して、名目生産性基準で考えるのが普通です。
これに対して経営側は、「賃上げの基準は、実質生産性でなければならない」と言ってきています。
さて、どちらが正しいのでしょうか。
この論争は、こんな形で説明できます。消費者の立場からすれば、物価が上がった分賃上げをしてくれなければ生活水準が落ちてしまう、それでは本当の生産性基準にはならない、という事ですが、経営側の主張は、もともと物価が上がったのは賃上げが高過ぎて、賃金コストアップになったことによるものだから、物価上昇を抑えるためには実質生産性以上の賃上げをしないことが大事、というものです。
この問題を解決するためには、丁度今日のように、物価が安定している時から「実質生産性基準」で賃上げをしていくことが一番いいようです。
そうすれば、 賃金コストプッシュインフレは起きません。インフレがなければ名目値か実質値かの論争は起きません。(日銀が2%インフレ目標を下してよかったですね)
ところで、インフレは賃金コストプッシュ以外にも起きます。海外資源等が上がって、輸入インフレが起きる場合です。
実はこの場合には、日本政府や日銀には対抗する能力はありません。甘んじて我慢するよりないのです。
(インフレが起きてしまった場合どうするかについては、日本には 素晴らしい実績があります。第一次オイルショック後の労使の賃金決定の経験です)
その代わり、原油価格が下がって、ガソリン価格が下がった時には、賃金が同じなら生活には実質プラスです。
もう1つ円高(輸入物価下落)、円安(輸入物価上昇)という問題があります。日本経済は円高のせいで20年以上も苦労(失われた20年)しましたが、この問題は、物価など問題にならないぐらい日本経済に影響しますから、これには 円レートの安定政策で対抗すべきでしょう。
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(注)人件費を論じながら、「賃金」と言い替えたりしていますが、ここで、解り易く「賃金」という場合は、正確には「1人当たり人件費」とご理解ください。人件費は、賃金や社会保障費の企業負担分など「企業が人を雇用する為に必要なコスト」という意味です。
前回、日本経済の人件費支払能力の基本的な基準は日本経済(GDP)の成長率と書きました。
解り易く、「賃金を何%上げられるか」と言えば、日本経済が2%成長していれば、2%ぐらいは上げられるという事になります。ただし賃金は1人当たりですから、経済成長率も就業者一人当たりに直して「国民経済生産性」で、結局、賃上げの基準は「労働生産性」という事になるわけです。
実はここで2つほど問題が出てきます。
1つは、経済成長率は名目値なのか、実質値(名目値—物価上昇率)なのかという問題です。
もう1つは、現在の賃金への分配率が正しければ、賃金の伸びと生産性の伸びは同じだから正常な均衡成長ですが、今の賃金への分配が少なすぎる(多すぎる)ならば、生産性の伸び以上の(以下の)賃上げをして賃金への配分を正常に戻す必要があるという分配の正常化の問題です。
今回はまず、賃金上昇の基準となる生産性は「名目値」か「実質値」かという問題を見てみましょう。
今のように、物価がゼロ%付近で安定している場合は名目でも実質でも、ほとんど同じですからどっちでもいいという事になります。
しかし、今迄の春闘の中では、労働側は通常、「賃上げは物価上昇をカバーすべきだ」と主張して、名目生産性基準で考えるのが普通です。
これに対して経営側は、「賃上げの基準は、実質生産性でなければならない」と言ってきています。
さて、どちらが正しいのでしょうか。
この論争は、こんな形で説明できます。消費者の立場からすれば、物価が上がった分賃上げをしてくれなければ生活水準が落ちてしまう、それでは本当の生産性基準にはならない、という事ですが、経営側の主張は、もともと物価が上がったのは賃上げが高過ぎて、賃金コストアップになったことによるものだから、物価上昇を抑えるためには実質生産性以上の賃上げをしないことが大事、というものです。
この問題を解決するためには、丁度今日のように、物価が安定している時から「実質生産性基準」で賃上げをしていくことが一番いいようです。
そうすれば、 賃金コストプッシュインフレは起きません。インフレがなければ名目値か実質値かの論争は起きません。(日銀が2%インフレ目標を下してよかったですね)
ところで、インフレは賃金コストプッシュ以外にも起きます。海外資源等が上がって、輸入インフレが起きる場合です。
実はこの場合には、日本政府や日銀には対抗する能力はありません。甘んじて我慢するよりないのです。
(インフレが起きてしまった場合どうするかについては、日本には 素晴らしい実績があります。第一次オイルショック後の労使の賃金決定の経験です)
その代わり、原油価格が下がって、ガソリン価格が下がった時には、賃金が同じなら生活には実質プラスです。
もう1つ円高(輸入物価下落)、円安(輸入物価上昇)という問題があります。日本経済は円高のせいで20年以上も苦労(失われた20年)しましたが、この問題は、物価など問題にならないぐらい日本経済に影響しますから、これには 円レートの安定政策で対抗すべきでしょう。
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(注)人件費を論じながら、「賃金」と言い替えたりしていますが、ここで、解り易く「賃金」という場合は、正確には「1人当たり人件費」とご理解ください。人件費は、賃金や社会保障費の企業負担分など「企業が人を雇用する為に必要なコスト」という意味です。