tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

コスパとタイパ

2023年01月31日 14時19分39秒 | 文化社会
コスパは「コスト・パフォーマンス」(コスト対効果)、タイパは「タイム・パフォーマンス」(時間対効果)という事のようです。

コスパはビジネス界では一般用語です。専門用語では「投入産出分析」で、れっきとした意味、方法論を持っています。
タイパは、最近コスパになぞらえて、「時間をかけただけの効果があったのか」を個人の感覚で評価する事のようです。

「タイム・イズ・マネー」と言いますが、ビジネスの世界では「時間が掛る事はコストが掛る事」ですからコスパの中には「時間を無駄にしない」ことは当然入っています。
例えば「5S」の整理整頓で「必ず決まった場所に置く」は、探す時間を省くためです。

タイパの説明には大抵、「最近は忙しい世の中になったから」などと書いて在りますが、生活時間の使い方を「ビジネス並みに」効率的にというと、生まれた言葉なのでしょう。

実は「タイム・イズ・マネー」というのも生活の一部の話で、本当は『タイム・イズ・命』でしょう。
人間は自分には解らない『与えられた命』の時間を生きているのです。出生から死亡までが「自分の時間」でそれこそが『生命』なのです。生命はカネでは買えません。

という意味からすれば、タイパは「自分の生涯設計の効率化」という事になってしまって、哲学や宗教の問題になってしまうのですが、今使われているタイパはもっと単純に、1日24時間をもっと効率的に使いたいという事で、「ビデオを倍速で見れば効率2倍」といったことになるわけです。

「あれも見た、これも見た」というためには倍速は効率的ですが、「あのシーンの心理的描写のあの3分間が素晴らしかった」というためには倍速は効果がないでしょう。

「最近は忙しい世の中になったから」という言葉の背景は、情報量が多くなって、いろいろ知っていないと困るから」という環境の中での焦り、「あ、それ見た。あ、それ読んだ。あ、それこういう事だよね。」と言えることが必要という事のようです。

こういうのは世界中共通のようで、ミヒャエル・エンデの『モモ』が世界中で読まれる所以でしょう。
ならば、エンデのいう時間泥棒に振り回されるのではなく、時間泥棒と戦うモモの方が正義の味方という事になるのです。

家事を始め、自分の時間のなかにもタイパを取り入れた方がいい事は沢山あるでしょう。しかし、「本当の自分の時間」を充実したものにするためには、自分の人生、自分の生き方を、自分自身で決める必要があるように思われます。

タイパを上手く活用するのも、「本当の自分の時間」を増やすためにやっているので、「本当の自分の時間」を少しでも長くし、それを自分らしく過ごせるようにするのが、本当の目標でしょうか。

消費者物価3指数:東京都区部2023年1月速報

2023年01月30日 10時58分04秒 | 経済
先週、標記、東京都区部の消費者物価指数の2023年1月速報が発表になりました。

消費者物価上昇もそろそろピークを打つのではないかと予想していたのですが、案に相違して、総合で4.4%、生鮮食品を除く総合で4.3%という対前年同月上昇率で、前月(12月)4%辺りが上限かなという感じとは違ったものになりました。

気になったので、2022年に入ってからの動きをチェックしてみようと思い、東京都区部と全国のグラフを並べてみました。

並べてみれば東京都区部の動きも全国の動きも、総合、生鮮食品を除く総合、生鮮食品とエネりぎーを除く総合の3指数いずれもほとんど差のない動きで、何時も書いていますように、「東京都区部の数字は全国の先行指標」といわれるのも当然という感じです。

   東京都区部消費者物価3指数:対前年上昇率の推移(%)
    =下は対比のための全国の同指数の推移(%)=

                    資料:総務省統計局

そういう視点で見ると、昨年11月以来の上昇率の鈍化は、これで値上げも一巡、そろそろ消費者物価も落ちついて来るのではないかとはいかないのかなと少し心配になります。

消費者物価は、昨年1月まで下がり気味だったのが、原油・ガソリンの値上げで火が付き2~4月と急騰、その間、今まで落ち着いていた日常的な消費物資の動きに急激な変化が生じたことから上昇率が高まることになりました。

物価のベースは、図の一番下の緑の線、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」です。これがずっと安定していたのですが、ガソリンやエネルギー価格(電気、ガス、灯油など)が急上昇したので、これまで値上げを我慢していた国内の日用品の一般消費物資のメーカーも、もう我慢できないと一斉に価格引き上げに動いたのです。

ですから4月以降で見ますと、エネルギー価格が含まれている青や赤の線よりも、緑の線の方が余計上って、差を詰めている感じもあります。
そのうえ、円高になって、輸入品の価格は、みんな一律に上がることになりました。

エネルギーの国際価格は秋以降、反落もしていますので、今後の消費者物価の上昇は、国内の一般消費物資の、値上げがどれ程になるか、もう一つ、国の補助金などで値上げを防いだ電力などの4月から大幅値上げなどという政治要因でしょう。

その意味で今後の物価上昇は緑の線が上げ続けるか(これまで値上げせずに我慢してきた分がまだ残っているか)、そろそろ値上げ一巡で落ちつくかにかかっているという事でしょう(緑の線が横這い以なれば青も赤も横這いになる)。

その点から見ますと、東京都区部の1月速報の緑の線が上昇を強めているのが些か気になるのですが、これは殆どが、都市ガスの値上がりという東京の事情が大きいようなので、全国では、11月、12月に見られたような一般消費物資の価格が安定すれば、物価も上昇から横ばいになる可能性もあるがと思っているところですがどうでしょうか。

SDGsと戦争

2023年01月28日 16時19分42秒 | 政治
終末時計が、あと90秒で0時という事になったとマスコミが報じました。

ご承知のように終末時計は人類の滅亡の時間を午前0時として、その15分前の11時45分から0時までを示した通常の時計の4分の1の部分だけの時計です。

この間まで、人類滅亡までの時間は100秒、つまり1分40秒となっていたのですが、このほどあと90秒ですと10秒進められたとのことです。

進められた主な理由はロシアのウクライナ侵攻だそうで、背景には、これがエスカレートして核戦争になれば人類滅亡の危機という危機感があるのでしょう。

他方、世界人類が、今最も重視している概念はSDGs「持続可能な開発目標」でょう。

これは世界中が「持続可能な開発」で人類社会の持続的な発展を可能にする努力をしようと、環境やエネルギー、日々の生活や教育問題、自然との共存そして平和の維持まで、17の政策目標を掲げ、それに向かって協力、努力しようという人類共通の目標です。

基本となる思想は「S=sustainable」=「持続可能な」です。人類の行う開発は総て持続可能でなくてはならない。それでこそ、人類社会の進歩はいつまでも続くことが出来るという視点が重要なのです。

そうした中で、ロシアのウクライナ侵攻は、決定的にそれを否定する行動だという事を、終末時計を管理する科学者たちは世界に知らせたわけです。

戦争は破壊そのものです。人類の開発した成果を破壊することによって、得られるものは終末への接近でしょう。
更に人類を、個人に分けて考えれば、多くの人の命が失われます。これは個人にとって終末そのものです。SDGsが17の目標の最後に平和を挙げている所以でしょう。

世界人類がこうした問題意識からSDGsという理念を掲げ「持続可能な開発」、それによる「持続可能な人類社会の発展」を目指しているのです。日本はこれをどう受け取るべきでしょうか。

縄文以来「自然との共存」を人間の在り方と考え、1945年以来戦争をしない事を憲法に謳った日本にとっては、最大限の期待を持って協力する目標が与えられたことになるのではないでしょうか

ところで、論戦の続く今国会の中身を見てみますと、どうでしょうか。
国民生活の安定のための政策も勿論議題で、目玉は異次元の少子化対策などと言われていますが、一方では防衛力強化という形で、戦争準備のための高額な予算を急速に積み上げようとしているのです。

いくら国民生活の安定向上などと言っても、いったん戦争に巻きこまれれば、そんなものは雲散霧消し、起きるのは破壊と殺戮、SDGsが最も嫌う、終末時計を進め、多くの人に人生の週末を齎す結果となることは明らかです。

国民の生活の安定向上を議論するのであれば、並行して「いかにして戦争に至ることがないようにするか」を、何にも増して徹底議論すべきではないのでしょうか。

平和憲法を掲げ、SDGsに積極的な日本政府にして、一体何をしているのかと問いたくなるのは、私だけではないと思います。

改めて、社会経済学のすすめ

2023年01月27日 15時38分23秒 | 経済
2009年、リーマンショックで円レートが$1=80円になり、日本経済が円高不況のどん底にあったころ、このブログで「社会経済学のすすめ」を書きました。

経済学という学問はもともと「どうすれば経済が成長するか」を考える学問という事でしょうが、そのための経済政策としては財政政策と金融政策しかなく、最近マネー経済学が入ってきましたが、これでは道具が不足で、景気が良くならないというのが視点でした。

経済を成長させるのは、もともと社会を良くするためなのだから、社会学も一緒にして、社会経済学に発展させ、少し広い視野から見た方がいいのではないかといった発想でした。

ネットで見れば、「社会経済学のすすめ」というタイトルの本も出ていますし、そうした視点は多くの人が持っていると思いますが、なかなか世のなか良くなりません。

そんなわけで改めて「社会経済学」に必要な要素を考えてみましょうというのが今回の意図です。

経済学の目的である経済成長は何のためかと言えば、それは皆が豊かになるためだという答えになり、財政政策と金融政策が生まれたのですが、どうも上手く行きません。

つまりお金を増やすだけでは駄目と解って来たのです。
例えば、アベノミクスと異次元金融緩和の組み合わせだけでは、やっぱり駄目だったと解って来たのが今の日本の状態です。

つまり経済はおカネだけで動くものではないという事が解って来たのですが、さて、それではあと何があるのですかという事になります。

経済は、人がカネを使って成り立っているのですから、カネで駄目なら、後は「人」しかありません。
つまり人の考え方や行動を、「カネの問題と一緒にして」考えてみるというのが「社会経済学」なのでしょう。

という事で、人がどういう考え方をするときに、働く気になるか。人が働く気になった時に、どんな社会システムが用意されていたら、この意欲を効率的に生かすことが出来るかといった事が「社会経済学」の課題になってくるのでしょう。

こうした学問的な研究は、学者にお願いするとして、過去の歴史の中から、どんな社会状態が経済を成長させるかを考えてみるのもいいのではないかと思うところです。

例えば、日本が戦後1980年代の半ばまで急成長し、中国が、鄧小平の改革開放以来急速な発展を遂げてきました。戦後停滞していた東南アジアの国々も、1960年代以降、高成長を維持しています。

これらの背後にある社会事情は、自由経済社会、規制の少ない流動的な社会、情報知識のレベルが年々高まる社会、そして、戦争のない社会、といった環境ではないでしょうか。

そして、往々見られるのは、こうした成長発展が次第に速度を落とし低成長になるケースです。
これは一般に成熟段階などと言われますが、それは経済社会の発展を動物に譬えたもので、経済社会は、多様なイノベーションによって、成長発展を続けることが可能なようです。

ただ、社会に、上記のような諸条件がなくなりますと成長発展は停滞したり退化したりします。最も多い理由は、社会の柔軟性、流動性がなくなり、硬直化する事のようです。

アメリカが高度な経済社会を作りながら停滞しないのは、社会がつねに柔軟で流動的だからでしょう。

こうした社会の在り方を組み合わせて上手く数値化することが出来れば、「社会経済学」の重要な理論が生まれるのではないでしょうか。

いま思いつくことを挙げれば、格差社会化、社会制度や思考の硬直化、戦争の発生とその影響などがあるように思います。

これでは戦争犠牲者が現実になりそうですが

2023年01月25日 13時26分02秒 | 政治
今日、参議院の本会議で、立憲民主党の水岡氏の行った代表質問の中で、耳に止まった一言がありました。
「戦争は絶対しないとはっきり言ったらどうか」
という趣旨だったと思います。

これは大変大事なことなので、総理の答弁を聞いていました。聞こえたのは
「戦争がやむを得ないとは考えておりません」
というものでした。

はっきりしたのは「戦争は絶対やらない」とは言わなかったという事です。
それに代わって使った「やむを得ないとは考えていない」という日本語は一体どういう意味なのでしょうか。

これは総理にきいてみないと解らない事ですが、一般的な日本語の解釈としては、
「事情によって必然的に戦争になるとは思っていない」という事でしょう。

では「絶対に戦争はしない」という表現との違いは何でしょうか。
「絶対に戦争はしない」というのは自分の意思決定についての発言です。

「やむを得ないとは考えていない」というのは。自分の意思決定を述べているのではなく他者の事情によって、戦争になることについて「仕方ない」と考えているわけではない、という事でしょうか。

つまり、「戦争はしない」と言い切れない。かといって「戦争します」とはとても言えない。という事で他者を主体にして自分の意思を表明しないという用語法でしょう。

こうした、正面から答えない答弁は、安倍元総理も得意で、すれ違い、はぐらかし答弁は「ごはん論法」などと揶揄されていましたが、総理の知恵か作文する官僚の繰り返された経験の成果か解りませんが、国会論戦を中身のないものにする原因の1つしょう。

総理は、後から、国際法に認められた範囲で、攻撃を受けた場合、最小限の反撃をするなどと補足をしていましたが、憲法に書いているように「戦争はしない」と明言しても、国際法上「正当防衛」は本来認められているわけです。

勘繰れば、先日アメリカに行って、バイデン大統領と話してきたことが気になり、こうした表現になるのでしょう。

確かに、客観的に見ても、主導権は他者にあります。
想定しているのは、多分、台湾有事でしょう。これは習近平さんの「心」(ユネスコ憲章前文参照)の中で決まることですし、それに対して、アメリカがいかなる対応をするかはアメリカが決めることです。

しかし日本は今、「正当防衛」を思い描いて、大量の武器をアメリカら調達しようとしていますし、アメリカはそれを熱望しています。
その結果が防衛費の大幅増額、それを賄う増税や国債発行論議になり「新しい戦前」などという言葉を生んでいるのです。

日本列島にミサイルが次々飛んでくる姿は、アメリカのシンクタンクのシミュレーションの中にも見られますし、ミサイルを全部撃ち落とすなどという事は不可能という事がウクライナの経験から明らかです。

米軍基地やその周辺では、ミサイルの直撃を受ける人も多いでしょう。
ミサイル戦争の恐ろしさは、ウクライナが、その現実を見せてくれているのです。

自分で意思決定できない結果がそんなことになる可能性がゼロとは言い切れないというのが今の日本国民の危惧する状態でしょう。

岸田総理の「やむを得ないとは考えているわけではない」という曖昧な発言の中の僅かに存在するかも知れない「平和維持への努力」に頼らなければならないというのが現状なのでしょうか。

「企業は多目的組織」経営者の自覚

2023年01月25日 13時26分02秒 | 経営
企業、今は典型的には株式会社ですが、これは,人間に役に立つようにと人間が考え出したものです。

では企業は何をしているのかと言いますと、人間が資本を使って「付加価値」を生み出しているのです。
付加価値というと解りにくいかもしれません。ご承知の方には不要な説明ですが、日本中の企業や個人が生み出した付加価値の合計がGDPだと言えば一番はっきりすると思います。

企業がそれぞれに付加価値を増やせばそれだけ経済成長するのですから、企業は国のため社会のために付加価値を作って貢献しているのです。
そのために必要な人と資本は、広く社会全体から集めることが出来るのです。

広く社会から生産要素(=生産手段=人間・資本)を調達して社会のために付加価値を創る企業は、前回指摘しましたように「公器」と考えられ、欧米ではCSR(企業の社会的責任)という概念が生まれています。

こうして、企業は付加価値の生産だけでなく付加価値の分配についても広く社会全体に対して責任を負うという考え方が、今日の企業についての基本的な見方になっているのです。

これは単に労使間の賃金・利益の分配だけではなく、製品価格を引き下げれば、それは企業の生産した付加価値の一部を消費者さに配分したことになります。

こうして企業の存在は社会で高く評価され、同時にその一方で広い範囲の責任を果たし配慮をしなければならない存在に成長してきたのです。

そこで、企業というものの関係する分野や役割を一覧表にと思って以前作ったトータル・マネジメント・システムの図を下に載せます。



左の箱は生産要素である人間と資本で、これとの協力(配慮)の内容が人事管理以下の項目です。
真ん中の縦長の箱は企業で、経営者と従業員が協力してVA(付加価値=富)を生産するシステムです。
右の箱は外部の関係者(ステイクホルダーズ)と。それらにたいする企業の行うべき配慮・対応・責任などです。

「公器」である企業は、生産要素と外部のステイクホルダーに、適切に対応しつつ永続的に、より大きな付加価値を生産し続ける社会的な役割(責任)を持っているという図です。

その活動を支えるのが経営計画で、それぞれの4つの角にあるPLANーDOーCHECKーACTIONのサイクルという事になっています。

単純な図ですが、これだけ見ても、企業は内部、外部の関係者、更に社会全体に対して果たすべき多くの役割を持つ「多目的」は組織である事がはっきりします。

経営者は、それらを統括し総合的配慮のもとに、企業というシステムが最も効率的に社会全体に役立つように運営(経営)するのが役割だという事になるのです。

何に重点を置くかは環境変化の中で多様に変化するでしょう。例えば。今年の春闘では特に「賃上げ」という期待が企業にかけられているようです。これをどう判断するかはそれぞれの経営者の当面する重要課題でしょう。

「多目的の存在」である企業を預かる経営者としての行動の選択は容易ではありません。前回も触れましたように、松下幸之助や桜田武をはじめとした日本の経営者は、企業を預かって果たすべき役割の重要性を「公器」という言葉に込めたのではないでしょうか。

「企業は公器」日本的経営の思想

2023年01月24日 15時55分16秒 | 経営
最近改めて「企業は公器」といった経営についての高次元の発言か聞かれます。おそらく、最近の企業経営についての反省の気持ちが、日本社会の中に出てきたからではないかと思われます。

戦後の日本の経営者の日本経済の再建、より良い日本社会の建設に努力した姿への想いがこうした言葉になっているのではないかなどと感じているところです。

「公器」というのは「社会の役に立つためのシステム(組織)」という意味でしょう。昔から日本の企業の社是社訓には「社会の役に立つ」という一行が必ずと言っていいほど入っています。

「企業は公器」という言葉と共に紹介されるのは松下幸之助の言行録や、桜田武の「桜田武論集」などです。

松下幸之助は「誰でも公園の水道の水を飲める」ように、良いものを安く十分供給するのが企業の役割と言っています。
桜田武は、経営者というものは社会に役立つ企業という組織を「預かる」のが経営者の役割だと言っています。まさに私心のなさが滲んでいます。

その背景には、企業というのもは、だからみんなで力を合わせてやっていかなければならないと考え「全員経営」、みんなが参加して経営をやっていくという日本的経営の在り方の原点を示していると言われます。

このブログでは、企業の役割は、「人間が資本を使ってより豊かで快適な社会を創るためのシステム(組織)と定義しています。
経営者はその任を果たすために経営資源(人、モノ、カネ、技術、等々)を最も効率的に活用してより大きな付加価値を創りだし、それを適切に社会や労使等に分配するという高度なアーツで社会に貢献する人間という事になるのでしょう。

アメリカでは、1941年にJ.バーナムがその著『経営者革命』でこうした経営者の役割を明確にしています。

このすべては人間によってなされますから、企業は人間集団であり、経営は人間中心であり、望ましいのは全員経営というのが、日本的経営の原点でしょう。

この日本的経営は、プラザ合意、バブル経済の時期から財政・金融政策といった国家の行動によって(アメリカの対日政策の影響も大きく)政府主導の動きとともに次第に自主性を失い、更に、長期不況という、いわば経営のサバイバルゲームのような環境の中で苦しみ、更に、今世紀に入っての、マネー資本主義の世界的流行の洗礼を受け、経営本来の自主性を守れないままに、日本的経営から逸脱していく道を辿ることになったようです。

長期不況が長すぎたため、日銀の政策転換の異次元金融緩和で、円レートが正常に復し、日本的経営の理念を取り戻すチャンスはありましたが、その時はすでに日本的経営の下での企業経営の経験を持つ経営者、経営候補者は、殆どが退場していたようです。

全員経営は、雇用削減、非正規雇用の中で消滅、付加価値の分配は利益重視のサバイバル重視の偏重となり、マネー資本主義の盛行は「時価総額経営」の目標化といった状況になって来たようです。

今、気が付いた経営者の中には大幅な賃金の引き上げを率先する企業も出始めました。経営の、経営者の本来の在り方への回帰でしょう。
非正規従業員の正規化による教育訓練の徹底、全員経営への回帰も早晩、あちこちの企業で見られるのではないかと思われます。

全ては、わが国の経営者の、本来の経営者の在り方への回帰がカギになるのでしょう。
今春闘を取り巻く世論や労使の論争を契機に、より多くの経営者が、経営者の本来の機能に覚醒することを願うところです。

「異次元の少子化対策」は何のため

2023年01月23日 14時53分47秒 | 政治
岸田総理は、今度は「異次元の少子化対策」というスローガンを発表しました。

異次元などという表現も、何か問題を茶化したような感じを与えますが、就任してからの「次々繰り出される」岸田流のスローガンは中身の説明がないものが多く、その数の多さと意味不明の両方から、次々出るけど、失礼ながら「何がしたいの」という感じです。

思い出して挙げれば「成長と分配の好循環」から始まり「新しい資本主義」「科学技術推進」「安全保障」「子育て支援」「クリーンエネルギー戦略(原発新・増設)」「日米同盟強化」「防衛力強化に増税・国債」「敵基地攻撃能力」「新総合経済対策」「消費者物価を上回る賃上げ」そして「異次元少子化対策」、まだまだありそうですが、差し当たって(コロナ関係は別)。

総理や政府の掲げるスローガンが、『単なる言葉の世界』の事では、国民は困るわけで、中身があって、その説明があって、現実の政策がなければ国民は納得しないでしょう。

相次ぐ閣僚のスキャンダルなどで、支持率低下もあり、何かしなければと焦っているという人もいますが、諺にも「急いては事をし損じる」と言います。中身の解らないまま「置いてけ堀」のものもある中で、現実にどんどん進んでいるものもあるようです。

例えば、原発再稼働や日米連携、有事の敵基地攻撃能力などは、国民が納得しているかどうかに関わりなく、急速に進むようです。

特に日米同盟強化などは、相手がある事なのですが、国民の意見より、バイデン大統領の嬉しそうな笑顔の方が日本政府の意思決定に大きな影響があるのではないかと思ってしまうような雰囲気です。

国民が最も心配しているのは、多分、アメリカとの同盟、連携の進化が、急速に進んでいて、中国との対話は遅々として進まないといった様子が感じられることです。

バイデンさんのあの嬉しそうな顔を見ると、岸田総理はよほどバイデンさんが喜ぶような事を伝えているのではないかといった感じがしますが、その中身は国民は全く知りません。

しかもアメリカのシンクタンクが、台湾有事の際の日本の役割についての事細かなシミュレーションをしているのです。在日米軍基地の活用や自衛隊の果たす役割などを何通りものシミュレーションで検討し、その中には日本の防衛力の物的・「人的」損害まで克明に計算されているという問題のさ中ですから、その記事を読めば心穏やかではありません。

ネットでは、アメリカとの密約があるのではないかと推測する意見も出ています。
過去の日米外交密約が、米国の公文書の公開期限が来てマスコミに出て、日本政府は否定するといったことも国民衆知ですから、国民の間には疑心暗鬼もあるでしょう。

そういえば、太平洋戦争の時も政府が国民に「生めよ増やせよ」と言った事がありましたが、「異次元の少子化対策」も「何か似てきたな」などと、過剰反応する人もいるかもしれません。

そういえば、有名なタレントが、最近の世相を「新しい戦前」と言って、それが注目されて流行の言葉になっているようですが、こちらの方は『単なる言葉の世界』の事であってほしいと思うところです。

2022年12月の消費者物価、上昇は続くが・・・

2023年01月21日 16時09分52秒 | 経済
昨日、総務省統計局より2022年12月の消費者物価指数が発表になりました。
マスコミでは、この1年間に消費者物価は4%上がり、この上昇幅は41年ぶりの大幅という事です。

日本の消費者物価は1974年の第一次石油危機で前年比22%(年平均)、ピークで26%上昇した後、労使の賢明な対応により年々下がり、1981年(41年前)4,94%、1982年2.75%で、その後第2次石油危機でも3.3%、バブル経済の時も1.7%がピークでした。

その後は長期デフレですから4%は41年ぶりです。この4%は、格別の理由があってのことで、恐らくこの何カ月かがピークで、次第に落ち着くと思っています。

これまでも毎月下のような図を見てきましたが、この3本の線の中で、日本の物価の基調をなしているのが一番低い緑色の線です。

消費者物価原指数の推移


  消費者物価対前年同期比の推移(%)

                  資料:総務省「消費者物価指数」

これに対して輸入物価、特に動きの大きいエネルギー価格が影響し、更に天候によって上下する生鮮食料品の動きが影響して「総合」の青い線になるわけです。

それでは基調である緑色の線は、何によって上下するのでしょうか。
原油でも、キュウリでもサンマでも同じですが、物価は「需給関係」で決まるのが経済理論です。しかし経済が安定していれば、通常は、メーカーが増産しますからあまり物価は上がりません。

ところで、この所の日本の場合は、賃金がほとんど上がりませんから、需要が増えません。老後不安で貯蓄が増えると賃金が上がらないのに貯蓄が増えて、需要は減り気味です。生産者(企業など)は需要が増えないので値上げできません。

しかし諸外国は殆どインフレですから輸入する穀物や原材料はじりじり上がります。
コストが上がっても値上げできない、合理化し節約して、それでも利益が減ってくるので賃上げもできず、生活は苦しく需要は増えない。当然物価は上がりませんでした。

ところが昨年来、パンやケーキをはじめ種々の加工食品、調味料、日用品などなどが一斉値上げです。これは積年の値上げ我慢が限界に達し爆発したという事でしょう。

これが緑色の線、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」の世界です。
原指数よりも、下の対前年同期比のグラフで見るとはっきりしますが、最近上昇の角度が上がり青・赤の線との差を詰めています。これは積年の我慢の裏返しでしょう。まだ少し続くでしょう。電力などの公共料金は、これから値上です。

しかし、日本の場合、節度を守る意識がありますので、欧米のように10%などという混乱にはならず、この所ぐらいでピークを打つのでしょう。

そのあと、今春闘の賃上げが、コストアップになって「賃金コストプッシュインフレ」が起きるかですが、例え連合の5%要求(ベア3%プラス定昇2%)が満額獲得できたとしても、物価への跳ね返り(生産性向上を超える分)は、多分政府見通しを上回る経済成長の実現もありそうなので、物価上昇が加速するようなことはありえないと予測して誤りないいと思うところです。

日本経済のバランス回復に必要な賃上げとは?

2023年01月20日 12時15分23秒 | 労働問題
前回は今春闘では積極的な賃上げが必要と書きました。これは多分ある程度実現するでしょう。最近のアンケート結果の3%未満の予想を超えるのではないかと思っています。

マスコミでは、ユニクロが最大4割の賃上げをして、国内従業員賃金水準を海外並みに引上げるとか。サントリーは6%アップを目指す、キヤノンは一律7000円のベースアップなど、大手企業の積極的賃上げの姿勢が見え始めています。

これらは、いずれも結構なことだと思います。
しかし、本当に日本経済の安定成長路線のへの復帰という問題を考えれば、少し構造的な問題を指摘しておかなければならないように思います。

実は、過去の賃金水準の引き下げの動きの中身を見ますと、それは、正規従業員の賃金の引き下げによるよりも、圧倒的に大きいのは、正規従業員を定年や早期退職で減らし、低賃金の非正規従業員を増やすことによって行われているという問題です。

十分に訓練された正規従業員を減らし、訓練されていない非正規従業員を増やすことで、人件費の削減は出来ても現場力、現場の生産性や能率は大きく落ちます。
これが日本企業の技術レベルアップを遅らせ、韓国や中国に追い越された大きな原因の1つであることは広く指摘され始めているところです。

つまり、正規従業員を削減し、非正規従業員で補充し賃金コストを切り下げた事は、一方では企業の賃金コストを切り下げ長期不況に対応する効果はありましたが、企業全体の熟練度を引き下げ、世界的技術革新競争の中で日本企業の競争力を大きく遅らせることになったのです。

この長期不況の中での習慣が、円レート120円になったアベノミクス以降も続き、韓国・中国はじめ多くの国々に後れを取り、1人当たりGDPが世界のベスト5入りといった地位から28位(2020年)にまで転落したことの大きな原因にもなったのです。

こう見てきますと今春闘をスタートとして今後の日本経済をかつての健全、強力なものに持ち上げていくためには、単なる賃上げではなく、非正規従業員の正規化と本格的な技術・技能形成を進め、非正規労働力を中心に、日本の労動力総体のレベルアップと賃金の上昇を改めて本格的にやることが必須なのです。

残念ながら、今春闘に向けての議論の中で、「賃上げが必要」という声は広く一般化して来た感じは受けますが、雇用者の15%ほどから40%にまで増えた非正規労働力の正規化という声は、あまり多くは聞かれません。

しかし改めて、長期不況の中で日本企業がやって来た事を確り振り返れば、最大の問題は教育訓練の行き届いた正規従業員を減らし、賃金の大幅に安い非正規従業員で当面間に合わせて賃金コストを下げ、その是正をしてこなかったという現実に気づきます。

しかもそれが、円レート正常化後も10年近く放置されたことが日本経済の正常化を大きく遅らせたことを、今日本は漸く気付き始めたという事ではないでしょうか。

賃上げ促進は必要です、しかしその人件費増の最大の部分は非正規労働力を正規化することによる賃金の上昇、さらに、徹底した教育訓練をするために充てるという視点も確り入れておいて頂きたいと思うところです。

賃上げは日本経済のバランス回復に必要

2023年01月19日 14時17分59秒 | 労働問題
これから日本経済は春闘の期間に入るわけですが、前回指摘しましたように、今年はまさに異例の年で、労使が共に賃上げの必要を力説しているのです。

マスコミを見ても、労使だけでなく政府も学界も評論家もみんなが、賃上げが必要と言っているのですから、必要なことは間違いないでしょう。
今回は、何故そんなことになったかを確り見ておきたいと思います。

話は1985年のプラザ合意、1991年のバブル崩壊にさかのぼりますが、プラザ合意による円高とバブル崩壊でその後30年ほどに亘って日本企業は賃金コストの引き下げに必死でした。賃金水準を下げなければ企業が死ぬ事(破綻・倒産)になるからです。

それからリーマンショックによる円高もあり、日本企業は2012年まで、賃金コストの引き下げと生産性向上に懸命の努力をしましたが、円高分の賃金コスト引き下げには至りませんでした。

それを救ったのは日銀の異次元金融緩和政策で、円レートは1ドル80円から120円の円安に戻り、対外的には日本経済はバランスを回復しました。
対外的なバランス回復は、国内の経済バランス回復のチャンスでしたが、日本はここで対応を誤ったのです。

円安で日本の産業は国際競争力を回復し、企業収益は順調に増大しました。しかし企業は、これまでの賃金コスト引き下げ必要という意識から抜けられず、国際競争力回復の恩恵(円建ての付加価値増加)を賃金上昇に配分する必要に気付かなかったのです。

端的に言えば、円高になった時の賃金引き下げた分は、円安になったら賃金引き上げで元の戻さなければ、国内経済のバランス(賃金と利益のバランス、投資と消費のバランス)は回復しないという事に気付かなかったのです。

これはアベノミクスの初期にキッチリ労使がやらなければならなかったのですが、企業は円安にホッとしただけで、増収増益に浮かれそこまで気が回りませんでした。

連合(労働サイド)は、これまでの賃金引き下げ要請がなくなり、定昇主体の賃上げが可能になったところで安心し、下がった賃金水準の復元の要求をしなければならない事に気付かなかったようです。

こうした、現状認識の遅れによる国内経済バランスの悪化は、長期に亘る消費不足経済、貧困家庭の増加、将来不安・老後不安の増幅もあって、健全な日本経済社会の回復に大きな障害となってしまったのです。

偶々昨年来の急激な輸入インフレに直面し、賃金への配分の不足が顕在化し、今迄の対応では日本経済の回復は不可能と気づくことになって、その修復を今春闘から始めようという事になったことは、些か遅かったとはいえ、本当に良かったと感じるところです。

今春闘に関しては、それが単に輸入インフレで消費者物価の上昇が4%に達したからといった短期的なものではないという事を認識すべきでしょう。

これまでの長期不況を下敷きにした、日本経済の配分構造の是正という大きな課題解決の第一歩という本質的、構造的な視点を見落とさない事が重要と考えるところです。

さらに、問題はもう一つあります。それは、より詳細な雇用・賃金こうぞうの検討を必要としますが、「非正規労働者の増加」という問題です。これは次回確り見ていきたいと思います。

日本経済の今後を決める2023春闘

2023年01月18日 11時48分14秒 | 労働問題
昨日、日本経団連が今春闘に向けた「経労委報告」を発表しました。この報告書の第1号は1975年の春闘に向けて当時の日経連が発表した「大幅賃上げの行方研究委員会報告」です。

この報告書は1973年の第1次石油危機後の1974年春闘で33%の賃上げが行われ消費者物価の上昇はピークで26%の上昇を記録、こんな状況を続けると日本経済は破綻するという危機感から、「無理は賃上げはやめよう」と提唱したものです。

その結果は、労働側の理解・協力もあり数年を経ずして賃上げ率は正常に復し、日本経済は安定成長に戻り、スタグフレーションに苦しむ欧米所要国をしり目に、ジャパンアズナンバーワンへのスタートになっています。

今回はどうでしょうか、昨年12月に連合は賃上げ目標を5%に引き上げ、昨日、経団連は、日本経済の健全な成長のためには「賃上げに積極的に対応することが『企業の社会的責務』である」とこれに応じました。

この労使の判断の一致は極めて重要な意味・意義を持つと考えなければならないでしょう。
端的に言えば、2014年、為替レ―トが$1=120円になって、これで日本経済も復活と思いきや、その後もゼロ近傍の成長から抜けられなかった日本経済をどうするかです。

その原因、最大の問題点に、労使が共に気づいたのですから、今春闘以降の労使の対応、「成長する日本経済に向けての誤りない選択」という労使共通の目的に向けての論議、交渉、合意形成、協調行動が、具体的に期待できる段階に入ってきたという事でしょう。

これから、3月第3週(多分)の集中回答日に向けて、国レベル、産業レベル、地域レベル、企業レベルそれぞれに、労使の真剣な話し合いが続くでしょう。マスコミもいろいろな情報を提供してくれるでしょう。

そして、集中回答日の結果は、その後に決まる中小を含む全国の企業の交渉にも大きな影響力を持つことになるでしょう。

かつて春闘は「年1回の日本経済の在り方についての労使を中心にした学習集会」など言われましたが、シンクタンクや学者、評論家の参加も得て、充実した、そして成果のある春闘になることを期待したいと思います。

このブログも「枯れ木も山の賑わい」と思いながらも、次回以降、折に触れて、論議の渦に入ってみたいと思っています。何分宜しくお願いします。

円レート、金融政策、実体経済

2023年01月17日 15時11分01秒 | 経済
今日・明日と日本銀行の金融政策決定会合が行われます。
国内の経済界の目も、世界の機関投資家の目も、日銀の異次元金融緩和政策が続くのか変更があるのか注目でしょう。

日銀はアベノミクスの中で、低金利で円安を維持し、日本経済をインフレ基調にすることを目指してきました。
これだけ金融を緩和すれば、円安は維持でき、物価は上がって、すぐに2%ほどのインフレになって金利引き上げも必要になり、経済は正常化すると読んでいたと思います。
政府も日銀と共に揃って「2%インフレ目標」を掲げました。

日銀が読み違ったのは「金融緩和→インフレ」という金融論では当然の因果関係が、日本では成立しなかったことです。

上の因果関係は、日本の現実では「金融緩和→利益増加→賃金上昇→インフレ」という厳密なプロセスに従わないと起きないのですが、間に挟まっている2つの条件「利益増加→賃金上昇」という因果関係が働かなかった事が「日銀の読み違い」の原因でした。

この2つの条件は「労働経済」の分野の問題で、「金融論」ではあまり出てこないからでしょうか。

いくら待ってもインフレが起きないので日銀も焦ったと思います。しかし理論的には正しいと信じて10年近く続けているうちに、全く違う原因でインフレが起きてしまいました。

それは「輸入インフレ」です。エネルギーから木材、農産品まで輸入依存度の高い日本はガソリンから燃料、動力、飼料、肥料、加工食品、日用品まで軒並み値上がりです。

政府・日銀の示していた「2%インフレ目標」は賃金も上がって賃金インフレ分が2%という想定だったのですが、輸入インフレは原因が違います。国民は「賃金は上がらないのに物価だけ騰がる」「日銀どうする」という事になってしまいました。

これは日銀のせいではないのですが、上記の「2%インフレ目標」も輸入インフレによる「4%物価上昇」もインフレには違いなにので、議論は混乱することになりました。

それに拍車をかけたのが、欧米諸国のインフレの急伸、金融引締め金利上昇による急激な円安でした。


欧米諸国は普段から2-3%の賃金インフレが普通で、輸入インフレもすぐに賃上げに転嫁し10%近いインフレになります。

変動相場制ですから、国際投機資本を刺激し、急激な円安が起き、円安は輸入物価の急激な上昇を齎します。すると「日銀が金利を上げないからだ!」という人も出るのです。
欧米のインフレが収まれば元に戻るのですが、時間がかかります。金利差は続きます。

こうした場合、日銀は金利を上げるべきでしょうか。問題は簡単には解けません。

実体経済の面からいえば、エネルギーや資源、穀物などの国際価格は安定させるべきで、多少変動しても、国内物価への影響を増幅するような賃金インフレへの転嫁は抑制し、金利の急上昇を起こさず、為替レートの急激な変動は避けるべきだという事でしょうが、そんなお行儀の良い国は日本ぐらいでしょう。

原因が外国発ですから、日銀に出来る事は限られているというのが現実ですが、この問題の底流には日本自体の政策の誤りもあります。

それは、日銀が金融緩和で円レートを正常に戻した時(2013・4年の大幅円安)と同時に必要だった賃金水準の回復がなされてこなかった事、それによる消費不振から、正常な物価水準の上昇が阻害され、長期不況が継続したという問題です。
それが、今回の輸入物価上昇と異常な円安の発生の中で一挙に顕在化し、「物価上昇は認めよう、それをカバーする賃上げが必要」という意見が一般化しているのです。

日銀だけでなく、政府が総合的な責任を持ちそれに労使(経済活動を現実に行う主体)も交えて、本格的に全国民の協力を得て初めて解決出来る問題だと思いますが、こうした主体間のコミュニケーションが十分でない事にも問題があるようです。

輸入物価は頭打ちですが・・・

2023年01月16日 16時44分31秒 | 経済
この所もうアメリカの消費者物価は追いかけていませんが、8月の統計が出たところで、強力な金融政策と相まってアメリカの消費者物価は沈静に向かうと見当がついたからです。

ところが日本の物価はどうもまだ見当が付きません。その理由はアメリカの場合輸入物価の国内価格への転嫁(便乗も含め)が直ちに行われますが、日本の場合は転嫁までに時間が掛るからかなという気がします。

 下の輸入物価、企業物価、消費者物価の3指数のグラフを見てみますと輸入物価の国内の企業物価への反映に数カ月かかり、消費者物価への反映には何か月どころか1年2年かかるという感じさえします。この所の消費者物価の上昇にしてもアベノミクス以来我慢していたコスト高を今になって価格に転嫁しているようなケースもあるように感じます(たとえば鶏卵)。

主要3物価の推移(原指数)

             資料:日銀、総務省(消費者物価12月は東京都区部速報)

鶏卵は極端な例かもしれませんが、比較的早くなって来ているはずの企業物価への反映も、秋に入っての輸入物価の下落と企業物価の相変わらずの上昇基調とは全く無関係のように見えます。   

これはさらに下のグラフの様に対前年同月比で見ても、9月以降の輸入物価の動きは企業物価には殆ど関係ないようです。

商習慣とか在庫の厚さによっても状況は変わると考えられますが、マスコミが書いていますように企業物価は過去最高、ピーク時といった状態です。
      主要3指数の対前年比(%)

                 資料:上に同じ

日本の3価がこうした関係という背景には恐らく最終需要である少消費需要が異常なほど長期に不振であるところから価格の設定は、コストよりも需要面の状況が気になり、価格転嫁を抑えてしまう事があるのかもしれません。

こうした動きは、サプライチェーン全体への均等な付加価値の分配が阻害される結果になり、経済全体が上手く回らなくなる恐れが出て来るわけで、やはり価格転嫁し、最終消費者がそれを支払い、それを賃上げで取り返す循環にすべきというのが今春闘についての主要な見方という事になるようです。

それも経済の一つの在り方という事ですが、「その方がいい事なのだ」と一概には言えない事を承知で「今の日本では」という条件を付けて理解すべきでしょう。

輸入物価上昇の国内価格転嫁化か、便乗値上げかは、区別のつきにくい問題で、その辺は、この夏までのアメリカや、まだやっているヨーロッパの状態でしょう。結果は物価と賃金のスパイラルでインフレ激化、そして引締め、経済悪化の懸念という事になります。

そこまでいかないように、適切な国内価格への転嫁を考えることが重要で、日本では、そこまでも行かないので、もう少し積極的に価格転嫁し、賃上げもした方がいいでしょうという事なのです。

輸入物価が下がっても、国内物価が下がらないというのも良くないですから、その辺は出来るだけスムーズに輸入価格を国内価格に反映させるように心掛けるのが良い経済行動という事になるのでしょうか。

その意味でも、これからの国際情勢の中で、日本の3物価がどんな動きをするかよく見ていきたいと思います。

王様、皇帝の支配と民主主義

2023年01月15日 11時48分57秒 | 文化社会

前回は、EUと日本の縄文時代は共通点がある、それは多様性の平和共存だ、という事を指摘してきました。

そして提起した問題は、多様性の平和共存が可能になる社会の枠組みというのは何でしょうかという事でした。それがはっきりすれば、人類社会、国際関係は今よりずっと良いものになるという視点です。

ヨーロッパは王国が乱立していた時代は、戦争が当たり前だったようです。我々が知っている範囲でも、ナポレオンは戦争をしました。そして最後の戦争は、ドイツのヒットラーと、イタリアのムッソリーニという、形は民主主義の中から生まれた独裁者と日本の軍部の独裁も絡んだものでした。

今のヨーロッパは民主主義が行き渡り、独裁者は生まれてこない状態がEUを可能にしているのでしょう。

翻って日本の縄文時代はどうだったのでしょうか。これはよく解りません。しかし考古学者の研究によれば、戦争はなく(殺戮の跡がない)征服、被征服もなく奴隷制もないと見られている背後にはそれなりの社会体制があったはずだと思われます。

古代日本の研究からは呪術、巫女の役割といったものの尊重もあるようですが、その背後にあったのはそれぞれの集落の意思決定がメンバーの総意を反映するようなシステムだったことの様です

日本にはずっと最近まで「衆に諮り」とか「一揆に諮り」といった言葉が使われいました、
聖徳太子の17条の憲法でも、第一条は「和をもって貴しとなす」で最後の17条には「夫れ事は独りにて断(さだ)むべからず、必ず衆と共に論ずべし」」と書いてあります。

恐らく集落の人が集まってその総意に従って物事を決める風習が一般的だったのではないかと想像されます。
つまりは、原始的な直接民主主義のような風習が、戦争などは考えず多様性の共存を可能にしていたのではないでしょうか。

この社会は、弥生時代には外来の文物とともに王制、そして戦争という文化も入って結果は魏志倭人伝の「倭国大乱」に至るのでしょう。


こう見てきますと、戦争は、王、皇帝という政治体制と共にあるように思われます。
王、皇帝という存在は、必然的に「イエスマン」に囲まれた独裁者を作り上げることに繋がり、その独裁者の個人的な征服意欲や、被害者意識がその国の行動を決める可能性を高め、戦争という最悪の社会現象を引き起こすのではないでしょうか。

そう考えれば、民主主義が健全な形で働く社会は、恐らく多様性が平和共存する社会を創っていくという事になるような気がします。

人類は、本来、そうした社会を望んでいると思うのですが、それが上手くいかないで、戦争が起きてしまうのが残念ながら今の現実という事なのでしょう。