tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

最低賃金、今年も5%の引き上げに

2024年07月24日 13時59分34秒 | 労働問題

最低賃金に引き上げは毎年、7月の暑い時期に中央最低賃金審議会で引き上げの「目安」を決め、それを参考にして、各県の最低賃金審議会が県別の最低賃金をきめ、10月から実施という事になっています。

現在審議中の上記の「目安」は、現状の全国平均1004円を1054円に50円引き上げるという形で進められているようです。

中央、地方の最低賃金審議会ともメンバーは公労使の三者構成ですが、大体は事務局の厚労省(政府)の意向で決まるようです。

アベノミクス以来政府は最低賃金の大幅な引き上げにご執心で、このところは毎年5%を目標にしていて、2030年代半ばには時給1500円が目標と言っています。

日本の最低賃金は国際的に見ても大変低いといわれますが、かつてはアメリカよりも、かなり高い時期もありました。

なんでそんなことになるのかと言いますと円レートのせいで、アメリカの連邦最低賃金は現在7.25ドルですから、円レートが110円なら798円で日本の方が高いのです。アメリカで一番高いカリフォルニアやニューヨークは16ドルですから現状の154円を掛ければ2464円です。これは高いですね

円安だからと最低賃金を上げて、円高になったら下げるというわけにはいかないので、日本は日本経済の実力なりの最低賃金を決めるしかないわけです。

その意味で厚労省は10年後1500円という目標を置いているのでしょうが、毎年5%上げると10年後には1600円を越えます。それを1500円としても、政府の今後6年間実質成長率1%以上という経済成長目標では大分コスト高になるわけです。

政府はどう算段するのか解りませんが、国民所得が1%ほどしか増えないのに最低賃金を毎年5%も上げるという事は、そのために所得の高い部門から最低賃金に関わる部門に原資(富)を移転させなければならないのです。

今、政府はそれを賃金コストの価格転嫁で実現しようとしているのですが、今春闘の中の議論でも知られますように、なかなかうまくいきません。日銀「短観」で見ても大企業の大幅増益と、中小企業の収益改善の遅々という姿は歴然です。最低賃金は法律で強制されますが、価格転嫁は任意・交渉が現実です。

もともと最低賃金法というのは賃金格差の拡大を防ぐために生まれたものですから、その背後には格差拡大は社会正義に反するという倫理観がなければ成立しません。

戦後の日本企業では、収益や付加価値の増加は労使あるいは顧客も入れた三者で均等分配しようといった真面目な考えもありましたが、今、配当の高率化、高所得の経営者が急増する中で、倫理観を前提にした政策の枠組みは機能しません。

今の政権党である自民党にこんなことを言っても、政治家自身が、自分のところに税金かからない金を持ってくることに専念するばかりですから詮方ないといいうのが国民の気持ちでしょう。

ならば労使に、現実に社会経済活動を担当する当事者として、社会正義の意識、経済社会における倫理観を求めたいと思うのですが、残念ながら今の日本では難しいようです。

今はただ「神(紙)頼み」で、わたくしのお財布には、未だお見えになっていない「論語と算盤」の渋沢栄一先輩にお願いしようと思っていますが、どうでしょうか。


非正規労働者問題、雇用・生産性の視点から

2024年05月20日 15時50分58秒 | 労働問題

非正規労働者の問題は、格差が少ないといわれた日本の格差社会化の大きな要因として、所得の低さを中心に、無技能で雇用の不安定、更にはいわゆる80/50問題といった社会的な側面で論じられることが多いようです。

しかしこの問題は視点変えれば、日本経済、日本の産業の低生産性問題としての面でも影響は大きいはずです。

端的に言って、雇用者の4割近くが無技能あるいは低度の技能しか持っていないという雇用構造の産業社会が、高水準の生産性を上げる社会ではあり得ないという問題です。

こうした研究がないかとネットで探してみたのですが、見つかりません。

非正規の問題を社会問題として捉えれば、その対策は政府の仕事という事になるでしょう。しかし、生産性の問題として捉えれば、それは企業の問題にもなって来るのです。

勿論政府も、雇用保険2事業の中の能力開発事業など色々なことをやっています。これは結構なことですが、日本の場合伝統的に、従業員の能力開発は企業の仕事で、政府の仕事はせいぜいその補完程度なのです。

ですから、長期不況で、企業が非正規を増やし教育訓練の手を抜くと、現状の無技能、低技能の非正規問題が起きてしまうのです。

つまり、日本の産業社会では教育訓練の仕事は殆どが企業の手でやられていたのですから、それが30年不況で手抜きされた結果は、結局は企業の新たな努力で取り返さなければならないという事になるのでしょう。

企業レベルで考えてみれば解りやすいですが、100人の従業員がいて、業績悪化のためにその4割を非正規に置き換え、きちんと教育訓練をせずに何とか繰り回してきた企業と、頑張って教育訓練を続け全従業員を1人前に育ててきた企業とでは、企業としての生産性の格差は歴然でしょう。

有資格者が不足で無資格者がハンコを借りていてそれが発覚したり、ケアレスミスで事故が発生し一時休業といったことが起きれば生産性は更に大きく落ち込みます。

今の日本経済は客観的に見ればこうした状態にあるのではないでしょうか。加えて、優秀な人材が海外に脱出して競争相手国の技術水準を高めるようなことも起きたりします。

人を育てるのにはそれなりの時間がかかります。挽回には「時間とカネと努力」が必要です。しかし日本の復活のためには、まさに今から、それが必須なのです。

10年前、黒田日銀の政策で、1ドルが80円から120円になり、「円高不況」は無くなりました、このブログでは、日本企業、日本の経営者は、この機を生かして非正規従業員を正規化し、教育訓練の再開に踏み切ると予想していました。

しかし、それから今日まで、非正規比率が大きく減ったというニュースは聞かれません。長期不況に苦しんだ日本企業の多くは、当面の利益確保という短期視点の経営に走ったまま今日まで来てしまったようです。

4割近い非正規従業員が、それぞれの職場でベテラン社員になった時、日本産業の生産性は大幅に上がるでしょう。

これからの日本、人手不足を嘆く前に、やるべきことはいろいろあるようです。

頑張れ日本!


高度産業技術の細分化と総合化、そして人材育成

2024年05月17日 20時08分14秒 | 労働問題

九州工業大学飯塚キャンパスというのはユニークな教育環境を持っているようです。

今朝の朝日新聞にも紹介されていました。今後の産業発展の心臓部のように言われ、世界が高性能化の開発競争をしている半導体についてですが、その半導体の製造装置の全工程を、クリーンルームに入ることから始めて、実際の機械を見て、触って学べるという事で大人気とのことです。

今や半導体製造は、設計から最後の検査まで多くの工程に細分化され、それぞれの工程が超高度な技術によって支えられているとうのが実体でしょう。

飯塚キャンパスにいけば、その細分化された全工程を一貫して現物を見、手で触って研修を受けられる施設が用意されているというのです。

この部門は「マイクロ化総合技術センター」というのだそうで、センター長の中村和之氏が自らの経験から、技術が高度化し細分化されればされるほど、全体の見る目が大事になるという考え方に立つ施設だそうで、日本有数の半導体企業の新入社員研修から学び直しの場としての研修まで、参加者が増え続けているとのことです。

アダム・スミスが「国富論」で分業による生産性の向上を書いていますが、産業技術の発展は分業と総合の合理的で緻密な連携を必要としているようです。

部品の規格を統一化した製品を作り、部品を取り換えるだけで製品は新品同様に機能するという方式を最初に取り入れたのは「ウインチェスター銃」だという話を聞いて感心したことがありましたが、そこには製品と部品、つまり部分と全体の関係をしっかりと把握している人が居るのだろう、その人がウィンチェスターという人なのだろうと思いました。

今は自動車でも、コンピュータでも、飛行機でも精密な部品の集合体です。そして部品すべてが完成品の性能に最適な機能を果たすように設計され製造され、そして利用されています。

その上に、最終製品の性能は常に高度化し、部品はそれを支える最適なより高度な機能を持たなければなりません。この製造プロセスの細分化と完成品の総合能力の向上を実現するために必要なのが、部品の製造過程の中にも最終製品の姿(性能)がイメージされている事が大事だという見方があります。

生産工程が細分化されればされるほど、部品と完成品の関係、部分と総合のあるべき関係を、それぞれの部分の担当者が正確にイメージできるかどうかが大きく関わってくるのではないでしょうか。

分業は作業を単純にします。それが効率化、生産性の向上を可能にすると考えたのは産業化の初期の姿でしょう。しかし作業の単純化は同時に作業の非人間化にもつながります。人間関係論はそこから生まれました

実はこの辺りが、日本的経営の出番だったようで、QCという統計作業を「QCグループ活動」に発展させた日本人の知恵がかつて一世を風靡しました。

この日本人の考え方の特性は、今も生きていて、部分に携わるものも全体を理解し、全体に繋がろうという活動の重視になっているようです。出発点は部分でも、それは常に全体の理解の中での部分、といった意識や活動が注目されるのではないかと感じるところです。

冒頭の「マイクロ化総合技術センター」の発展を期待します。


2024春闘、大企業の部は超順調の様相

2024年03月16日 16時32分36秒 | 労働問題

今春闘も集中回答日が過ぎて、連合から回答速報も発表になり、春闘歴史上稀有な様相が現実になるプロセスが見えてきたようです。

もともと経営側が賃上げの必要に気付き、経団連が、連合の意識を上回るような賃上げへの意欲を示していたわけで、労使の賃金交渉の一般的な形としてはあり得ないような雰囲気の中で始まった異常な春闘です。

歴史を辿れば、資本主義経済の中で、その社会的な発展とともに労働組合が生まれ、労使交渉が制度化され、賃金や雇用をめぐる労使交渉が一般的になったのは、利益を上げ、より多くの資本蓄積をしようとする経営側と、より高い賃金水準を実現しようという労働側との対立を「交渉」、Collective Bargainingという形で止揚しようという発想から生まれたものでしょう。

例えば、アメリカでは(今でもあるかどうか知りませんが)「労使関係は敵対的でなければならない」という法律があったはずです。

ですから、諸外国から見れば、あり得ないような賃金交渉が、日本では、今年、ごく自然に行われているという事なのです。

連合の回答速報№8の主要企業の交渉結果は殆どが満額回答(要求以上もちらほら)で、初回集計結果は5.28%です。

経営側は、支払えるのだから当然の回答、という姿勢のようですし、連合も「もっと要求すればよかった」ではなく、素直に交渉の結果に満足を感じているようです。

日本の場合諸外国と違って、賃金交渉は基本的に企業単位で行われます。諸外国の多くのように、産業別とか職種別の組合組織と産業別経営者団体あるいは代表企業が交渉するのではありません。

日本では、企業別に組織された労働組合が、その企業の経営者と交渉するのですから。「他者の従業員の分まで責任を持って」という意識は必要ありません。

企業労使は、自分の企業、「わが社」の経営状態については労使共に理解しています。その意味では満額回答は、労使の理解の一致という事でしょう。連合としてはそれはそのまま肯定できるのです。

こうした労使関係は、昔は「近代的労使関係ではない」などと、海外や日本でも学者などから「遅れている」と見られていましたが、石油危機への対応の鮮やかさなどから「日本的経営」、「日本的労使関係〕として世界から注目されたものです。

この対応の鮮やかさに恐れをなした主要国が、この日本の労使関係を逆手にとって、日本に円高を要請し、日本の労使が、真面目にその大幅の円高の克服に真面目に協力したのが日本の長期不況だったのでしょう。

この長期不況の呪縛が漸く解けた日本が、改めて新しい成長経済の道に復帰しようという最初の労使交渉が2024春闘という事ではないでしょうか。

今年は連合にとっては上手く行き過ぎかもしれませんが、来年以降も、本来の「日本的労使関係」を生かし、新しい成長路線に向けて誤りない賃金決定を労使で賢明に選択していく事を願うところです。


2024春闘出足順調、ホンダ、マツダ満額回答

2024年02月22日 14時14分17秒 | 労働問題

昨日のニュースで、大手自動車メーカーのホンだとマツダで満額回答が出ました。

ホンダは組合の要求「月例給(定昇プラスベア)で2万円、一時金(ボ-ナス)年間7.1ヶ月という要求で、これはバブル期以来の高水準でしたが、一発回答で満額といった感じです。

マツダは基本給の引き上げを16,000円(定昇プラスベア)、一時金は5.6か月分で前年プラス0.3か月という事で、一発満額です。

原則論では、月例給や基本給の引き上げは、企業の安定した成長に支えられるもの、ボーナスは一時的な業績を反映するものという基本視点に立てば、企業は順調に成長し、その上に円安などで一時的な収益改善効果があった事の結果という事でしょう。

企業の立場から見れば、今年の基本給や月例給の上昇の中の「ベア」にはこの所の物価上昇による実質賃金の低下を補うという意味の部分も勘案されているはずで、更には部品産業などの賃上げの価格転嫁分原材料費が上がっても、着実に支払える賃金水準という視点も入っているという賃上げでしょう。

そういう意味では、今春闘の結果は、これまでの積み残し分を企業として清算するという役割も持っているはずなのです。

そうした視点から言えば、企業にとって満額回答出来る程度の要求というのは随分と控えめで、組合側からすれば、頑張って勝ち取ったつもりが、それほどでもなかったというこ事にもなるのでは、という見方も在り得ましょう。

一方ではまた、春闘の結果が出るのは6月頃でしょうし、今年乃至今年度中に円レートがどこまで円高になるかが春闘結果の判断を左右する可能性も大きいでしょう。円高が進めば、今春闘の結果が企業にとって重いものになります。

この辺りはアメリカ(特にFRB)次第です。日銀はある程度の円高を予測して、ゼロ金利脱出を考えようという姿勢ですが、円高が10%進めばその分だけ日本企業の賃金負担は重くなるという関係は消えません。

春闘を取り巻く条件は多様ですが、連合も経団連も「毎年継続した賃上げ」が必要と言っていますが、それに必要なのは毎年日本経済の生産性が安定して上昇する事てあるという事は誰にも解っている事でしょう。

今年の春闘は、不足していた消費を増やし、日本経済がバランスのとれた成長型経済に入ることを目指して労使の分配をある程度労働側に有利にしようという労使共通の発想が出発点でした。

それが出来て初めて来年から「毎年賃上げが出来る」条件が整うのです。ですから、今年は労働への分配を増やす春闘、来年からは、経済成長(生産性上昇)に見合う賃上げを目指す春闘ということになるという基本的な視点を、忘れない事が大事のように思います。


動き出す春闘「賃上げが日本経済を救う」特異な年

2024年02月20日 12時18分31秒 | 労働問題

今年の春闘は「経営側主導」と言ってもいいほど経営側が積極的です。経団連からは「賃上げは社会的責任」といった声まで聞こえてきます。

トヨタ自動車は、部品調達価格は来年にかけて上ってもOKというサインを出して、部品のサプライチェーン各段階の企業の賃金上昇での部品納入価格上昇を認めているという意向を公にしています。

これは、これまで納入価格引き下げが命だった下請け産業企業にはこの上ない朗報でしょう。そこで働く人たちの賃上げ期待は大きく膨らむでしょう。

組合側の自動車総連の部品・下請け企業は「(賃金上昇の)価格転嫁の波を業界全体に広げていくチャンス、その活動を活発にしているようです。

勿論こうした雰囲気は自動車産業だけでなく、日本中の産業企業に拡がって行く様相で、それには「公正取引委員会の賃金上昇の価格転嫁の指針」の発表も大きな支援になっているでしょう。

逆に従業員の方からは、「賃金が上がるのは嬉しいが、そんなに『上げる、上げる』で大丈夫ですか」といった意見があったりするようです。

こうした状況はまさに象徴的ですが、日本企業はこの所長い間コストカットが至上命題と考えていて、それが当たり前にようになっていたからでしょう。

こうした企業のコストカット意識と、政府の年金を含む将来不安発言が、日本の家計をして「消費を削って貯蓄が大事」という意識を一般化し長期にわたる消費不振によるデフレ経済を作って来ていたのです。

その結果がゼロ成長経済で「親の代より良い生活は出来ない」という意識の一般化という沈滞した日本社会でした。

一方、企業の方は、低コストによる国際競争力の強化や、増加した海外投資の収益で利益は比較的順調、それにこの所の円安が加わって、未曾有の高収益企業が続出という状態になり、物価の安い日本にインバウンド殺到といったオマケにもつながりました。

その結果、一部大企業にも「これは少しおかしい。賃上げの余力もあるし、従業員に元気を出してもらうためにも、少し賃上げをした方がいいのではないか」という意識が生まれたのが去年の春闘辺りからです。

そして、経団連からも「賃上げは社会的責任」という言葉が出ることになったのです。これは経営サイドとしても本来は当然で、生産活動の成果である付加価値(GDP/GNI)を将来の生産活動が安定した拡大再生産になるように労使で最適に分配するというのは「経営者の役割」というのが経営学の示す所なのです。

つまり、今年は経営側も気が付いて、日本経済が成長を取り戻すように「適切な労働分配に修正しよう」という特異な年ですから労使で大いに話し合って、積極的に賃上げをすることが、労使双方、日本経済にとって最も重要なことなのです。

以上が今春闘の課題、これからの健全な労使関係構築の試金石だとこのブログは考え、期待しています。


労使の望む「継続的賃上げ」の条件

2024年02月08日 15時24分13秒 | 労働問題

前回のこのブログで、「継続的賃上げ」が出来るような日本経済にしなければならないという点を指摘しました。

これは、これまで長期に賃金が上昇しなかった(物価上昇を差し引いた実質賃金が20カ月も前年同月より低かった)日本の家計からの本当に切実な要望でしょう。

幸いなことに、今年の春闘に向けては、労働組合サイドは勿論、経営サイドの代表である経団連も「継続的賃上げ」の必要を強調しています。

労・使・生活者が揃ってその必要性を指摘しているのですから、これからは多分それが実現されるだろうと思うのですが、今回はそのために何が必要かを考えてみましょう。

昔の日本の賃金制度では、この点は、年功賃金制度の中で「定期昇給」として考慮されていました。若い時の賃金は安くても、結婚し、子供が出来るころには、家族手当も含めて、それなりの賃金になるというシステムです。

今でも連合の賃上げ要求の中に定昇分2%という形で残っていますが、戦後の高度成長とインフレの中では定期昇求10%などという企業も沢山ありました。

世の中変わって、初任給が高くなり定昇は小さくなって、定昇は若い時代中心の習熟昇給の色彩が濃くなっています。ですから「継続的賃上げ」という事になりますと「定昇+ベア」という事になって、ベースアップの重要性が高まります。

勿論正社員でないと定昇はありませんから「賃上げ」は一般的な言葉で「賃金水準の引上げ」と言い替えた方がいいのかもしれません。

ということで、上の表題は、企業が毎年従業員の賃金水準(平均賃金水準)を引き上げていくための条件は何かという事になります。

最も基本的なことは、日本人は日本のGDPで生活しているという事です。GDPが増えれば生活は良くなります。GDPは企業の資本費(収益と支払金利など)と従業員の人件費(賃金と福利厚生費など)の合計ですから、標準型はGDPの伸びた分(経済成長)、経済成長率と同じ分だけ、企業利益も賃金も増えていくという事です。

この場合のGDPは実質値です。

ですから、毎年日本人の平均賃金水準が上がるという事は、毎年日本が経済成長するという事で可能になります(経済活動以外の必要条件は戦争に巻き込まれないこと)。

これから日本経済も多分成長経済になるでしょうから、その分毎年平均賃金は上がることになるでしょう。

今迄上手く行かなかったのは、成長が少ない中で、消費者(買い手)の賃金は増えずに生産者(売り手)の利益は増えるという形になっていて、生産者が作っても売れないので生産を減らし賃金も減らすという形で経済成長が低迷していたからです。

そこで生産者(売り手)の方も、消費者(買い手)の方にGDPを分配して売上をのばさなければ経済が成長しないという事が解って、賃上げをしようという事なったのです。

複雑が事情があってこうなってしまったので、誰が悪いというより「直す」ことが大事ですから、春闘で、みんなが本気になって確り賃上げをすれば、経済は生産と消費のバランスが回復して、成長を取り戻すでしょう。

分配を直せば成長が戻ってくるという事で、岸田さんの「成長と分配の好循環」になるわけですが大事なことは「分配と成長」で順序が逆だという事です。

単純化し過ぎていろいろ意見はあると思いますが、政府も学者も企業も労組もそうならないように日頃から気を付けることが大事なようです。


岸田総理、近く政労使会議開催の意向

2024年01月18日 14時29分20秒 | 労働問題

2024年春闘で、最も関心の高いのは、何と言っても賃上げについての労使双方の見解です。連合の定昇込み5%以上、経団連の昨年以上の賃上げが望ましい、といった基本路線はすでに取り上げていますが、組合サイドでは金属労協の1万円、基幹労連12000円など産別レベルではかなり高めの要求基準も出ています。春闘リーダー格の全トヨタ労連はこのところこうした平均数字の発表はしていないようです。

経団連は十倉会長が賃上げは持続的でなければならないという持論を披歴され、2024年については、昨春闘の経団連集計3.9%を意識しつつ4%以上といった発言もされている様です。

厚労省の昨春闘の集計は3.6%ですが、今春闘のエコノミストや経済研究機関の予想は3.8%から3.9%辺りに集中しているようで、マスコミもこれで長いデフレからの脱出が可能にといった論調のようです。

春闘キックオフ前の段階で、2024年春闘賃上げの見通しはかなり絞られてきているようですが、そうした中で岸田総理は、近く政労使会議を開催するという意向を示されたようです。

安倍政権以来、政府が春闘に介入するというのは日本の常識になっているようですが、これは極めて異常なことで、それを黙認している企業労使も、その代表組織も、領空侵犯に対して寛容過ぎるのではないでしょうか。

政労使会議を開くことはいいことですが、春闘の時期にだけやるというのは、賃上げに影響を与えたい、結果が政府の意に沿ったものであれば、自分の功名にして、票につなげたいという意識が見え見えです。

それも偶々賃上げをした方が良いという条件が揃っているからで、これが賃上げ抑制だったら多分介入はしないでしょう。

政労使会議といった大事なものは得点稼ぎにやるのではなく、嘗ての産労懇の様に、経済活動のプレイヤーである労使との十分なコミュニケーションのために必要と考えて定期的に行う真剣さが必要です。

些か八つ当たりのきらいもありますが、人気取りに走る政権に、「主役は我々だ、我々が決めるのだ」と毅然と言えるというのが権威ある労使の見識でしょう。

企業の労使なら労使で自分たちの企業をいかにより良い企業にするか、労使のナショナルセンターであれば、日本の経済社会をより豊かで快適なものにするかを常に真剣に考え、その考えを世に問い、その共通の目標の実現のために、徹底議論し意見の一致を実践するというのが戦後培ってきた日本的労使関係の極意だったのではないでしょうか。(そうした意識の経営者もマスコミ上で散見されることは喜ばしい事です)

繰り返して書いていますように、政府はプレイヤーではなくレフェリーなのです。近く行われる政労使会議でも、三者が、対等の立場で、日本経済活性化のために役立つ有用な知見の真剣な展開を行い、労使のより効果的な賃金決定活動に役立つようなコンセンサスに近づく成果を期待したいと思っています。


企業は本格的高齢化への対応整備へ

2024年01月13日 13時01分12秒 | 労働問題

人生50年でした、年功賃金、55歳定年制プラス退職一時金という従業員処遇制度は終身雇用制度として設計されたのです、などと外国人に説明ていた時代は歴史上の話となりました。

世界屈指の平均寿命を記録し続け、平和(戦没者無し)で安定した社会を築く努力を重ねている日本の企業では、戦後平均寿命の伸びとともに雇用制度の改革に種々の努力をしてきました。

もともと日本企業の考え方は、欧米流の「必要なときに雇い、要らなくなったら解雇する」という hire and fire の考え方とは違って、わが社という人間集団に入ったものは生涯面倒を見るという理念に立っていたのです。

変化は2つの要因から起きることになりました。1つは平均寿命の延伸、もう一つは社会保障制度の進展とその財政事情です。

定年制度は60歳に伸び、雇用努力義務は65歳という事になり、それでも間に合わない、というので、65歳雇用義務、雇用確保努力義務が70歳という事になっています。

こうした変更は、財源に不安のある公的年金制度との整合性を取るために決められているわけで、長期不況に悩まされて来た企業にとってみれば、雇用についての義務や確保努力を課せられるという負担の面を強く感じさせてきたようです。

ところがこのところ、企業サイドからの定年制、定年再雇用制度、それに伴う賃金制度の改革などの動きについての報道が多くなってきました。

目立つのは定年再雇用の際の賃金水準を、従来より高く設定するとか、job wage 対応にするといったものです。

こうした動きが出てきたという事は、企業が定年延長、再雇用などを行政から押し付けられてするのではなく、企業として、熟練労働力の有効活用、従業員に雇用安定意識を持ってもらい、高齢になっても安心して慣れ親しんだ職場で得意な職務に専念して貰えるというメリットに注目した結果であるように感じられます。

このブログでもすでに触れているところですが、定年再雇用などで、ベテラン従業員を閑職に異動し大幅に賃金水準を引き下げることがい一般化すような状態は、折角職場で鍛え上げた職務遂行能力の活用を年齢が来たからやめるという愚行だとみてきました。

これは勿論当該従業員にとっても極めて不本意なもので、そうしたモラール低下も考えれば、企業全体のパフォーマンスの低下でもあることは明らかでしょう。

そうした意味では、企業としても、長い年月をかけて育ててきたコストを十分回収しないで終わるという極めて勿体ない事をしていると言えるでしょう。

ところで、政府は「働き方改革」で、日本的経営を欧米流の職務中心方式に変えようと熱心ですが、企業の方は、新卒一括採用を辞めない様に、人間集団としての企業の在り方をやめませんから、企業として人を育て、育てた成果を確り回収するという人材の育成/活用計画のバランス管理は、高齢化時代を背景に、更に重要になるわけです。そしてこれは伝統的な人間中心日本艇経営の理念に通じるもののようです。

これは大きく見れば平均寿命の延伸、職業人生の長期化の中で、企業にも、従業員にも最適な雇用人事システムの模索の本格的な動きに通じるものでもあるわけです。

高齢社会のさなる進展は当分続きそうです。今後もこうした企業の動きに注目していきたいと思っています。


有史以来の変な春闘、現実に気付く事が大切

2024年01月02日 13時01分25秒 | 労働問題

能登半島地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。自然は時に苛酷です。でも、皆様の復興の努力には必ず答えてくれることを願っています。

 

新春早々、日本経済の行く先を左右すると言われている今年の春闘についての経営側からのメッセージが報道されています。

経団連の十倉会長は、賃上げへの熱量と意気込みは去年に負けない、結果も必ず昨年以上となってついてくると思うという趣旨の発言を新春インタビューで述べています。

経済同友会の新浪代表幹事は、昨年暮れの連合の2035年までに最低賃金1600円以上を目指すという方針を意識してでしょう、最低賃金が2000円を越えるような経済を目指すと新春インタビューで発言しています。

もともと春藤は、英語ではspring offensiveと言われていて、経営側にとってはspring deffesiveですねなどと言われていたものですが、今年は攻守所を変えて、経営側からの賃上げへの積極的な意見が聞かれます。

労働側の要求に対抗して、経営側は過剰な賃上げないならないために防御態勢というのが世界共通で、日本も以前はそうだったのですが、この所は、経営側が積極的に賃上げをすべきと発言しています。

昨年もそうでしたが、主要企業などで、組合の要求に対し、満額回答というケースが多くみられますが、これは、企業の財務・収益といった見地から満額回答をしても問題ないという経営側の判断を示していると言えます。

今年は労働側の慎ましい要求基準に対して、経営側が積極的に賃上げをしようという意思表示という様相で、元日早々経営側発言が、賃上げは必要、昨年より高い結果を期待する、といった国際的に見ればまさに異常な労使の賃上げに対する意識の状況という事になっています。

何故こんなことになっているのでしょうか。理由は、経営側が、日本経済、日本企業の立場として、多少とも積極的な賃金水準の是正をした方が、日本経済にとっても、自社の経営にとってもいいのではないかという意識を持っているからでしょう。

その意味では、日本経済にとっての賃金水準のあるべき姿に、今の賃金水準は達していないという、経済分析、経営分析について、経営側の方がより速く、より正確に現状を把握しているという事でしょう。

一方、労働側は、長期不況の中で経営側と一緒に苦労してきた中で、無理な要求なしないという意識が強く、その感覚に未だ支配されているというように感じられます。

欧米労組の様に、労働側の代表として出来るだけ高い賃金を実現する事が役割で、経営者はそれを払った上で利益を出すことが役割といった労使関係とは違うようです。これは欧米の労働組織が産業別、職種別なのに対し日本は企業別という要素が大きいのでしょう。

つまり、日本経済、企業経営の現状は賃金水準を引き上げ、日本中の世帯がより大きい購買力を持ち、消費需要の積極的な拡大を必要としているという事に経営者の多くが気づいて来たという事に他ならないのです。

経済学者をトップに据えた日銀も、より多くの経営者が、それに気づいてくれることを願っているのでしょう。

その実現のためには、経営側には、国内のサプライチェーン(下請け構造)における付加価値の配分に公正を期する事も要請されます。これは経営側の重要な課題で、得にd最低賃金の引き上げのためには必須の課題でしょう。


賃金雑感-労働とおカネの接点- 

2023年12月28日 17時41分50秒 | 労働問題

今年から来年にかけて、来春闘と中心に、賃金に関わる議論が活発になりそうです。

普通なら、金融政策で金利水準や金利や通貨の量的調節、それに絡んで国債発行の問題などが専門の日本銀行さえも、来年の賃上げがどうなるかに強い関心を持っているのです。

このブログは、実は賃金というのは大変大事で、経済社会の安定的な発展の基本的部分に深く関係していると考えています。

経済社会は基本的に、人間とカネの関係、そのバランスで動いているというのは、昔から経済学者の研究のベースになっていたようです。

経済原論では、生産の3要素として、土地、労働、資本と教えてくれましたが、今は土地は資本の中に含まれ、産業活動は「人間と資本」で成り立っていると言われます。

このブログでは企業というのは「人間が資本を使って付加価値の生産をするシステム」と定義しています。

そして企業などが作った付加価値の総合計がGDPで、国民経済はその付加価値を生産要素である人間(労働)と資本に分配し、翌年の生産の準備をするという事になっているのです。

付加価値が順調に増えれば労働に分配される分も順調に増えて行くわけです。

付加価値が労働に分配される具体的な形が「賃金」ですから、「賃金」は「おカネと労働の接点」なのです。

2つある生産要素の接点が賃金なのですから、こんな重要なポイントはありません。つまり賃金決定の在り方を見ていれば、生産活動、経済活動がどうなるかという事は一番よくわかるという事になります。

先ず、分配が賃金の方に寄りすぎると資本が不足して生産が増えない。資本により過ぎると生産は増えても需要が無いから生産物が売れない。インフレとデフレの原因です。

賃金の配分が不公平になりますと、格差社会になって社会に不満が生まれ、社会が混乱したり劣化したりします。

では、政府は何をするのかと言いますと、人間への分配と資本への分配の夫々から税金を取って、政府への分配とし、それを使って、その国の経済活動が順調にいくように、適切なルールを作って、国全体としての調節をするのが役割でしょう。

大方の経済問題は、これらのプレーヤー(政・労・使)の行動が自分の利害を優先して、全体の調和に失敗するのが原因です。

複数の失敗が重複すると、解決はなかなか難しいことになります。日本経済の現状は、政府、労働、使用者の3者がそれぞれ失敗したことによるように思われますが、政府の失敗が最も大きいようです。

問題解決のために、金融専門の日銀が、学者の総裁を迎え、客観的な目で見て頂こうという事のようですが、今回は日銀が「賃金」に注目している事が示しますように、「賃金決定」がやっぱり重要な日本経済復活の鍵という事になるのでしょう。


連合、最低賃金を2035年1600円超に

2023年12月23日 15時01分42秒 | 労働問題
来春闘で、連合が今春の要求の定昇込み5%に「定昇込み5%以上」と「以上」を付けただけの要求を掲げたところ、金属労協が今年の6000円要求を10000円に、基幹労連が今年の3500円要求を12000円に引き上げて、来春闘に向けての強力な賃上げ意欲を示しました。

労組のナショナルセンターである連合としては些かモデストに過ぎる要求基準という雰囲気になってしまったかなという感じを受けていたところに、今度は連合が、今年時給1000円という目標を達成した最低賃金について、2035年までに1600円以上に引き上げるという目標を固めたという報道がありました。

連合の意識としては大企業の賃上げで中小企業との賃金格差が拡大しないよう、最低賃金の引き上げで格差是正をという意識が強いと思われますが、12年で6割上げるというのは年率4%です。長期計画も長期に過ぎる感じです。その間何が起きるか・・・。

ところで、今年は4%の最低賃金の上昇が実現して1000円乗せになったわけですが、この所の最低賃金の急激な引き上げは、厚労省主導のもので、審議会では公益委員が厚労省の方針を示し、当然労働側は引き上げに賛成、使用者側はが反対しても2対1で多数決というケースが多いようです。

一方厚労省はこの夏に2030年代半ばに最低賃金を1500円にするという目標を掲げていますから、連合の目標は政府と連合の合意でほぼ達成でしょう。

それはそれでいいにしても、問題が2つほど残るという気がします。
1つは、これで格差是正が目に見えて進むかという問題、2つは、最賃引き上げで、非正規労働者の問題は解決するのかです。

賃金格差問題の発生は、基本的には、企業の非正規労働者の多用によるものです。雇用構造からみても、格差拡大に発する種々の社会問題から見ても、正規労働者として働いて家計を支えるべき人が、正規雇用者になれないという問題こそが主因でしょう。

嘗ての円高不況の中でコスト削減のための窮余の一策だったはずの非正規雇用の増加が円安になってももとにもどらないという経営者の行動を正していくのは、連合の大きな役割ではないでしょうか。(連合は正規雇用者の組織といった意識はもうないはずです)

これは連合自身が、経営者と話し合わなければならない問題でしょう。
非正規雇用4割という現実が、如何に格差問題を含む社会問題に大きなひずみを齎しているかを説き、労使の徹底した真剣な取り組みによって解決すべき問題ではないでしょうか。

最低賃金引き上げで政府・労働の協力も結構かもしれませんが、雇用構造の是正といったより構造的、本質的な問題についても、ナショナルセンターとしての連合の、経営者の在り方につての積極的発言が大いに期待されるところではないでしょいうか。

連合は時代認識に遅れをとるな

2023年12月07日 16時05分19秒 | 労働問題
11月28日に、「金属労協、ベア10,000円以上の要求へ」を書きました。これは正式決定になりましたが、今春闘の6000円を大きく上回る要求基準です。

連合の場合は、今年の「定昇込み5%」に「以上」を付けただけのモデストなものですが、この来春闘についての要求基準の判断の差はどこから来るのでしょうか。

金属産業は輸出企業が多く、円安で潤っているから要求基準を引き上げても良いが、連合は全産業をカバーする組織だからそうはいかないといった説明で済むのでしょうか。

労働組合のナショナルセンターの役割というのは、あらゆる産業、あらゆる企業、あらゆる職務についている人々(労働者)がそれぞれに社会の中で果たす役割に相応しい処遇を受けられるよう配慮するという事ではないでしょうか。

余り指摘したくはない事ですが、金属産業の中でも正規、非正規という身分の違いで教育訓練の機会にも恵まれず、低賃金に甘んじる人達もいます。
その多くは連合の傘下ではないという事で済ませていいのでしょうか。

企業側の配慮で正規転換といったケースもありますが、経営者に任すべき事ではないでしょう。アベノミクスの第1の矢で、円レートが正常化(円安実現)したとき、円高で増えた非正規の正規化運動を連合がリードしたでしょうか。連合は正規中心だからという批判もありました。

労働経済全体の問題としては、技術革新で生産性が上がる産業と対個人ザービス(介護などのエッセンシャルワーカー)といった生産性の上がりにくい産業、職種もあります。

この問題は、生産性の上げやすい部門から生産性の上げにくい部門に付加価値を移転し、社会的にバランスの取れた賃金水準、賃金構造にしなければ社会の安定はありません。

こうした問題は、もちろん政府の税制・社会保障制度、中心の問題ですが、労組のナショナルセンターとしての連合が、賃金水準をベースに発言し行動できるところは大きいはずです。

さらに大きな問題もあります、アベノミクスによる円安、また、今回の円安といった円安の中で、国際的に見た日本の賃金水準は大幅に下がっているのです。

他方、輸出関連企業は円安差益を得、輸入関連企業は政府の手厚い助成金などがありましたが、労働者の賃金水準に関しては、特段の配慮はありませんでした。

賃金は、連合の要求基準設定に任されていたとしか見えません。そして、連合は、円安による国際的実質賃金水準の低下には何も手を打ってこなかったのではないでしょうか。

円高の時は経営者が徹底して人件費削減に努力しました、円安の時は労働組合が人件費(賃金水準)引き上げに本気で努力をしなければならないのです。

それを怠ると、国民の購買力は落ち、家計消費は伸びず、消費不足で経済成長は停滞(自家製デフレ)を招来することになるのです。

プラザ合意、リーマンショックによる円高の時代から、国際情勢の変化の中で、この十数年、円安の時代に流れが変わった日本で、連合はその認識に後れを取ったようです。
労働者は勿論、大多数の国民は、連合のこれからの対応に期待しています。

金属労協、ベア10,000円以上の要求へ

2023年11月28日 12時00分26秒 | 労働問題
金属労協(JMC)が来春闘で、今春闘の6,000円を大幅に上回るベア10,000円の要求で最終調整をしていると今朝の朝日新聞が伝えています。

報道では、金属労協の要求としても過去最高のという事ですが、国際関係をベースにした日本の労働組合組織の動きだけに、そして自動車、電気、基幹など金属関連の産業の労働組合をカバーする協議会組織で、日本の金属産業の主要企業の殆どの組合が参加にいる組織であるだけに来春闘への影響が注目されるところです。

金属労協は、1964年、日本経済が高度成長華やかな頃、日本の金属産業が発展し輸出産業としても世界に注目され始めた頃、IMF(International Metal Federation )の日本委員会(IMF・Japan Committee)として発足したもので、これで日本の金属産業労組も世界主要国の金属産業労組の仲間入りをしたという誇り高い組織です。

春闘華やかなりし頃は鉄鋼労連を中心に、日本の春闘をリードした組織という事も出来ましょう。

世界の産業構造は時代と共に変化し、今は自動車、半導体といったことになって来たようですが、世界の産業構造、貿易構造は、矢張り金属産業が主体という事は大きく変わってはいないようです。

金属労協は、国際的にも、国内的にも主要な産業として、世界経済の発展、変容をリードする産業の労働組合の連帯組織の一員として、今日も重要な役割を持つ組織であると同時に、どちらかというと、常に、国際関係を重視し、民主的労使関係、合理的な活動を主導する労働組合組織と評価される側面を持つという伝統を持っています。

その金属労協がこのところ、連合傘下の組合の組織ではありますが、連合と些か違う春闘を目指しているという事は、国際的により広い視野で見た場合、日本の春闘はこうあるべきではないかという提案をしていると解釈できるような気もするところです。

卑近な例では、アメリカのUAWがビッグ3に対して一斉スト迄打つ労使交渉を展開、アメリカの中間層の復活の方向への意思を示したように、世界的に停滞していた労働運動が、ここにきて動き始めたと感じられる状況もあります。

日本は停滞する労働運動の最右翼かもしれませんが、日本社会も格差化が進み、中間層の縮小が言われる中で、所得水準の国際ランキングは落ちるばかりですが、その中で、賃金水準の停滞、それに加えてアメリカの金利政策によって強いらえた円安が重なり、金属産業の国際競争力は、「開発ではなくコストダウン」で強化されるという状態です。

上記のIMFは、今は「インダストリオール」と名称変更しているそうですが、その主要メンバーとしての金属労協としては、多少とも、国際的に見て合理性のある春闘をリードしなければならないという意識もあるのではないかと思量するところです。

今朝の報道を見て、日本経済は世界に繋がっているのですから、春闘も世界的な視野で見る必要もあるのではないかという事も感じさせられたところです。

正社員の賃金制度と定年再雇用賃金

2023年11月23日 15時56分19秒 | 労働問題
最近ではかなり制度改善が進んできているようですが、高齢化社会が進むにつれて、財政不如意の政府の立場からすれば、社会保障、特に年金財政なども考え、いわゆる正社員の人達に出来るだけ長く働いてもらいたいという事になるようです。

高齢者の就業継続を奨励するという事は、政府の立場を別にしても大変結構なことだと思います。もともと日本人は働くことを善しとし、昔からILOの統計では、高齢者の就業率は世界でも断トツに高いことが知られていました。

ですから、企業に70歳までの雇用義務を要請しても特に驚きません。本人が働きたければ、働いて社会に貢献することは、本人にとっても社会にとってもともに結構なことなのです。

政府は、働く人と辞める人に対して年金の制度設計をすれば、より多くの人が、定年再雇用で、働き慣れた所て、健康が許せば75歳ぐらいまで働きたいと思うのではないでしょうか。

年金設計問題は政府の問題ですが、企業の方では、定年を境に処遇をどうするか、特に定年再雇用者の賃金システムを適切に設計する必要が出て来ます。

今回の問題は、いわゆる正社員の場合ですが、正社員の場合は、多くは職能資格制度で、年功的な部分も持つ賃金システムをお使いではないでしょうか。
春闘の賃上げでも、連合の要求は定昇込み5%以上といった形です。定昇(定期昇給)というのは1年たったら賃金が上がるシステムで、要求自体に年功部分が入っています。

その定昇分は2%という事になっていますが、定昇2%というのは、若い時は定昇率が高く定年近くにはずっと低くなるという「上に凸」の上昇カーブの平均という概念で、若い時の賃金は割安、定年近くでは賃金は割高という形で、結婚、子供の養育という生活費を考慮した賃金制度です。(このシステムの評価はここでの問題ではありません)

日本の賃金制度は、定年までの勤続(いわゆる終身雇用)を前提に、「定年までの生涯賃金プラス退職金」で、従業員の働きと総額人件費がバランスするという前提で成り立っていたわけです。

その結果定年時の賃金は、企業にとっては割高なのです。
ですから定年再雇用の際、定年時の賃金で再雇用することは企業にとって過剰負担になります。
定年再雇用で賃金が定年時の賃金の5割~7割ぐらいに引き下げられるという慣行は、定年時で仕事と賃金の決済は完了、定年以降は新規蒔き直しという、考え方になるのです。

定年再雇用で賃金が下がるので、閑職に異動して賃下げなどという配慮もあるようですが、ベテランの域に達した仕事の継続が最も効率的というケースが多いのではないでしょうか。

その場合、日本人のメンタリティーとして皆一律何%引き下げという形もあるようですが、最近、その職務に応じたジョブ型賃金(職務給)の活用が進められているようです。
定年再雇用が長期化する程、その合理性が見えてくるのではないかと考えます。

大事なことは、長年社内で培った従業員の能力を、企業としてはより長く徹底活用する事、従業員にとっては、最も得意な仕事で思う存分企業に、社会の貢献できるというwin=winの関係を、定年再雇用の中で徹底して生かしていく事ではないかと考ええるところです。

(蛇足)同じ仕事をしていて、定年前と後で賃金が違うのは「同一労働・同一賃金」に反するといった判例もあるようですが、これは過渡期に生じ一過性のものでしょう。