tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

RCEPの議論に注目

2017年02月27日 21時28分39秒 | 国際経済
RCEPの議論に注目
 今日からRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)の交渉会合が神戸で始まりました。
 以前、アメリカの入っているTPPは何となくうさん臭くて、アジアの自主性を貫ける RCEPの方がアジアの国々は安心できるのではないかと書きました。

 現実は、まさに「奇なり」で、アメリカがTPPを否定し、折角の環太平洋の国々の自由貿易への努力は水の泡となり、結果的にRCEPだけが残るという事態になりました。

 TPPが何となくうさん臭いというのは、万年赤字のアメリカが、自由貿易のために国際協調の輪に入るという事はどう考えても、さらなる自由化を推進するためとは思えない、多分力ずくで、アメリカが有利になるような中身にしようとするだろうと見ていたからです。

 しかし結果は、結構まともな線に落ち着くような様子になり、これではアメリカとしては譲歩のし過ぎで、赤字は減らないんじゃないかなどと考えていたのですが、最後は、トランプ大統領の登場で、とんだ予想外の結論「アメリカはTPPなど認めない」、即離脱(規定によりTPPは成立しない)という事になりました。

 大統領が変わったことで、「アメリカは得にならないことはやらない」という考え方がはっきりしたのかもしれませんが、お蔭様でRCEPの方が、本格的に脚光を浴びることになってきたようです。

 まだ始まったばかりで、これからの議論がどう発展していくかが問題ですが、RCEPには中国、インドも入っています。アメリカの政治的混乱で、否応なしに「アジアの世紀」の本格化が加速しなくてはならないのかもしれません。

 中国、インドといった巨大国が入って、またいろいろと違った難しさがるのかもしれませんが、ホスト国である日本がどれだけの役割を果たせるか、注目も浴びるでしょうし、それに立派に応えられるリーダーシップか調整能力かを発揮しないければならないでしょう。

 独り立ちした日本の力量、そして、アジアのアジアらしい共生の思想が、どこまで可能性と実現性を持つのか、日本、そしてアジアの実力が試されることになるのでしょう。しっかり見守りたいと思います。

 
 


クロネコヤマト異例の春闘

2017年02月26日 12時58分46秒 | 労働
クロネコヤマト異例の春闘
 ヤマト運輸の労使が、今春闘で、「荷受けの抑制」を検討するというニュースを聞いて、やっぱり」という気持ちと、何か「残念」という気持ちの交錯です。

 ヤマト運輸は日本の物流革命の旗手です。かつて多くの会社で「これリコピーして」とか「ゼロックスしてください」などと言われたことがありましたが、「宅急便」は宅配便の代名詞として、今でも広く使われているようです。

 宅配便が普及して、我々の生活は大きく変わりました。家庭向け物流革命は、日本経済の発展に大きく貢献しました。今、宅配便がなくなったら、日本の家庭の消費行動は停滞し、消費不振は一層ひどくなるでしょう。

 私自身の消費行動でも、この所ネット通販利用が明らかに増えていますが、この我々にとって必須のインフラで、「荷受け抑制」が労使共通の問題になっているのです。
 佐川急便がアマゾンの配送から手を引き、ヤマト運輸が引き受けを続けているという事はネットで知りましたが、「クロネコさんもパンクですか!残念!」というところです。

 しかし考えてみれば、これは、本当は個別企業の労使の問題ではないはずです。問題は日本経済社会の基本的インフラの問題なのです。
 歴史的に見ても、インフラを整備しない国は、経済が発展をしないことは明らかです。ですからどこの国でもインフラは、いろいろな形で政府が手掛けてきています。

 しかし宅配便の場合はヤマト運輸の創業者小倉昌男さんが述べていますように、政府の規制との戦いで市場を切り開いてきました。そして今、宅配便という巨大市場は万人が認める日本の家庭向け物流インフラとして急速に拡大し、関連企業はその重責を担っています。

 繰り返しますが、クロネコヤマトの問題は、単に一企業の問題ではなく、日本の主要インフラの今後の在り方の問題を提起していると考えるべきです。
 問題の本質を考えれば、宅配業界労使、利用者(各家庭)3者が、みんなで文殊の知恵を絞って、今後の在り方を考えなければなりません。

 そのためには政府にもやるべきことはあるでしょう。消費不振に苛立つ政府ですが、文殊の知恵は民間に任せて、政府には、関連するお膳立てや環境整備だけやって頂ければいいのではないかと思っています。

小鳥の巣箱、今年はどんな展開に

2017年02月25日 11時10分39秒 | 環境
小鳥の巣箱、今年はどんな展開に

 先日から二回ほど、シジュウカラのつがいが庭の巣箱を覗きに来たのに気が付きました。

 巣箱を掛けた豊後梅の木は、あまり日当たりが良くないので未だ殆ど花が咲いていません。私の剪定が下手で、蕾が付かない枝ばかり残っているせいもありそうです

 この巣箱は数年前に取り付けたのですが、未だ雛が飛び立つのを見たことはありません。最初の年に後から巣箱の掃除をしたら、苔を敷いた巣の中に、穴の開いたシジュウカラの卵が1つ残っていたことがありました。

 その後、毎年、シジュウカラとスズメが巣箱の奪い合いをし、シジュウカラの巣作りの最中にスズメが邪魔し、シジュウカラはあきらめてしまうことが多いのです。

 昨年は、スズメが入らないように、巣箱の穴を小さくしましたが、それでもスズメが無理やりに入ってシジュウカラを追い払い、 自分の巣にしましたが、矢張り入りにくいのか、新築されたばかりの隣の二階の樋に巣をつくり、お隣では、ゴミが落ちたり雛が落ちたりでお困りで、撤去を頼んでおられました。

 お隣でも「折角お宅で巣箱を用意してくれているのに、なんでウチの樋が良いんでしょう?」などと苦笑いでした。

 今年は、今のところスズメが入らずに、シジュウカラが来ているので、巧いことシジュウカラの巣立ちが見られないかと、早速、豊後梅の木にハシゴを掛けて、巣箱を下ろし中を掃除しました。
 巣箱は枝に挟まれて固定されるようにしていますので、枝を一本動かすと外せるようにしてありまあす。
 
 中は、くしゃくしゃの雀の巣ではなくて、きれいなお椀状のシジュウカラの巣でしたが、卵の殻はありませんでした。
 こんなに綺麗に出来ているのなら、そのまま今年使えばいいのにとも思いましたが、矢張りシジュウカラも新築の方がいいのかなと思って掃除しました。

 ヒントになったのは、玄関脇のハナミズキの メジロの巣です。前の年のが綺麗に残っているのに、 毎年新しいのを作るのです

 どなたかご存知の方、本当はどうなのか教えて頂ければ有難いです。
 さて準備万端、今年はどんな展開になりますか。

トランプ政権はドル・レートをどう見ているのか

2017年02月24日 11時56分40秒 | 国際経済
トランプ政権はドル・レートをどう見ているのか
 トランプ政権は、中国や日本を為替操作国だといいました。これで日銀は、金融政策がやりにくくなったなどという解説もありましたが、トランプ政権の登場で当初円安になっていた円レートが、昨今はじりじりと円高方向に動いているようです。

 報道によれば、FRBのイエレン議長は、今年は金融正常化促進の方向を考えていたようですが、トランプ政権の経済政策が、リーマンショックの反省からの金融システムの健全化路線といささか違うようなので(ドッド・フランク法の廃止など)、従来の路線が見通せなくなり困っているようです。

 現状では、トランプ大統領が何か言うたびに、為替市場はそれを反映し、ドル高になったりドル安になったりしています。トランプさんは、為替に介入するつもりはないのかもしれませんが、結果的に為替操作になってしまっていることは現実でしょう。

 現状では、トランプ政権の経済政策は、何はともあれ、内需拡大、アメリカ・ファーストで、史上最低に近い失業率の下でも、遮二無二雇用拡大を推進するということのようですが、ただでもコスト高のアメリカで、さらに人件費が上がりそうな政策ですから、アメリカの競争力は弱体化の方向でしょう。

 早くシェールオイルやガスを一杯掘らないと国際収支の赤字はますます増えそうです。
 まさかその結果を「為替操作国がアメリカに沢山輸出をするからだ」とは言わないと思いますが、今でもドルは高すぎるなどと言っているのでどうでしょうか。
 盟友「シンゾー」の国には手加減してくれるのでしょうか。

 ムニューシン財務長官は、ゴールドマンサックス出身ですから、為替の事は知悉しているでしょう、インビューで低金利は当分続きそうと発言(今のドル安は容認)、長期的にはドル高が望ましいと優等生のお返事です。

 トランプ大統領は為替問題には大変関心が深いようですし、日本も円レートには極めて敏感です。今後の為替動向は、大げさに言えば、日米経済の命運にもかかわりそうです。

 FRBと政権の考え方の食い違いで、ますます混迷しそうな為替相場ですが、トランプ大統領は、自身の一挙手一投足が為替に影響し、世界経済を不安定にするような状況に思いを致し、為替の安定、各国経済の安定に、少し本気になって欲しいものです。

同一労働・同一賃金:政府案の不思議

2017年02月23日 15時02分57秒 | 労働
同一労働・同一賃金:政府案の不思議
 安倍政権は、同一労働・同一賃金に大変熱心のようです。同一労働・同一賃金のガイドライン(案)まで作って見せ、早期の実現をと言っているようですが、どうもあの内容では、同一労働・同一賃金でもなんでもない奇妙なものが法律で強制されるようなことになりそうで、心配しています。

 政府の検討会の報告では、まず欧米を参考にして、それを日本に合ったように適用すると書いてありますが、その中身は、「それぞれの企業内で」正社員とパートの待遇を同一労働・同一賃金にするという事で、単に同一企業内だけのことです。

 問題はまず、「隣同士の会社でも会社が違えば、同一労働のパートでも、賃金は違っていい」という考え方です。
 パートの賃金は地域のマーケットで決まります。しかし、正社員の賃金は、同じ地域にあっても、各社各様です。高賃金企業に入って正社員並みの仕事をしているパートには正社員並みに払えというのなら、正社員にするのが本筋でしょう。
 パートの時給は、まさに地域別の同一労働・同一賃金です。どちらが本来の同一労働・同一賃金なのでしょうか。

 ガイドライン(案)では、賃金(基本給)の決め方について、経験・能力で決める、成果で決める、勤続で決める、の3つのケースを上げて、それぞれにOKのケース、ダメのケースを例示していますが、日本企業は殆ど皆、これらの混合で決めています。ガイドライン(案)は現実に役に立つような指針になりうるのでしょうか。

 政府の検討会では、同一労働・同一賃金に取り組むことで、非正規をなくし、すべて社員にする必要があるといっています。戦後の日本の経営者は、確かに戦前からの身分制を廃し、社員1本にして労働者の生活の安定に配慮しました。
 十分な食糧もない時代、これは素晴らしい発想だったと思います。戦後日本の経済復興から成長のプロセスに大きな役割を果たしたと思っています。

 しかし今、日本は豊かな社会です。食うために仕事がすべて、収入のためなら長時間労働も、過酷な労働も厭わずといった時代ではありません。
 労働時間は短縮しよう、生活を楽しもう、ワーク・ライフバランスは各人各様という社会です。
 正社員で会社に縛られたくない、働きたい時だけ、自由に働きたいという人は増えています。今後ますます増加する高齢者の多くもそうでしょう。

 正規を望まず、非正規で良しとする労働力は現状でも2割を超えるでしょう(もちろん非正規37%は問題です)。
 非正規で働くことを望む人たちには、地域の労働市場をより良いものにしていくことで対応すべきでしょう。

 日本は、伝統的に、企業内賃金と、市場賃金を適切に使い分けることで、雇用の安定発展を実現し、世界最低の失業率水準を実現してきた国です。
 本当に必要な事は「正規を希望する人は教育訓練をし正規雇用にする」という労使の取り組み努力に任せる事でしょう。これは、労使に立派にやってもらいましょう。

 どう考えても合理性も納得性もない、中身も異様な「同一労働・同一賃金」を政府が労使を押しのけ、法律でやろうなどと言う発想がどうして出てくるのか不思議でなません。

 因みに、今春闘向けの経団連の「経労委報告」、連合の「連合白書」は、非正規の正規化は重要課題として取り上げていますが、同一労働・同一賃金は取り上げていません。

企業における人件費支払能力測定の実務:最終回―K社の中期経営計画の策定―

2017年02月22日 10時19分17秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:最終回
―K社の中期経営計画の策定―
 今回はいよいよ経営計画の検討です。まず5年後の2大目標(付加価値生産性と自己資本比率)を置き、その達成のための各指標の計画を「毎年伸び率一定を原則に」策定するという事で、その第1年度を来年度計画という事にしたいともいます。

 先ず2大目標ですが、付加価値生産性は5年後25パーセント増、9.332千円→11.198千円)年率換算4.6%増、と決めました。自己資本比率は現状すでに73.4%の水準にあり、当面この水準を維持できれば経営基盤は問題ないと判断、現状水準維持としました。
 この年率伸び率を前提に計画を進めてみます。
 <売上高>イメージの湧き易いのは売上高です。まず売り上げの伸びの確保を前提に、付加価値生産性の伸びと同じ、年4.6%増としてみました。
(来年度売上高13232.18百万円)

<付加価値率>製造業の標準と言われる20%を超え20.4%まで来ていますが、さらなる向上(年0.1%ポイント)を目指して初年度20.5%とします。
 (5年後付加価値額3,306.1百万円、5年後付加価値生産性目標11.198百万円で割ると295人(現在277人)の従業員が可能になるので、成長目標はクリア可能です。)

<従業員数>過去5年景気回復で18人増員しましたが、今後は年1人とし、先ず、正規希望の非正規の正規化を優先して考えるとしました。
 (来年度従業員278人、1人当たり売上高47,597千円、付加価値生産性9.757千円)

<有形固定資産:設備投資計画>設備投資の積極化は必須と考え5年後の簿価は30%増、年率5.4%としました。減価償却率は変わらずと考えました。(来年度後有形固定資産2519百万円、減価償却費508.7百万円、設備(資本)生産性1.1円、資本装備率9.1百万円)

<総資本回転率>設備投資は意欲的に考えましたが、金融情勢から企業間信用の圧縮、JIT・リーン生産方式の改善などで、総資本回転率は現状維持(1.55回)で努力することとしました。 (来年度総資本=総資産8536.8百万円)

<自己資本比率>自己資本比率は2大目標の1つで73.4%、現状維持と決めています。資本金は当分現状のままです。
(来年度自己資本6266.0百万円、資本金300百万円、負債2270.8百万円)

<有利子負債、金融費用>総資本と自己資本が出たので負債金額が決まります。有利子負債比率は現状程度(50%)とし、金利水準は、低利融資への借り換えも考え3%程度を予想しました。
(来年度有利子負債1135.4百万円、金融費用は年34.1百万円)

<課税前利益、社外流出>課税前利益は、今前年度自己資本から決算後の社外流出(法人税等、役員賞与、配当)を差し引き、それが、来年度自己資本額に達するにはいくら必要か、という事で算出します。来年度自己資本+今年度社外流出-今年度自己資本です。
役員賞与は2015年度の20百万円を踏襲、配当率は当面15%で据え置くこととします。
決算後社外に流出するのは、法人税等、役員賞与、配当金です。法人税等で課税前利益の40%の負担(社外流出)を見込みます。
(課税前利益は467.0百万円=来年度自己資本-今年度自己資本+今年度社外流出:
今年度社外流出は、役員賞与10百万円、配当45百万円、法人税等91.2百万円)

<賃借料と租税公課>今年度実績を勘案して見込みます。
(賃借料205百万円、租税公課60百万円)
以上で計算は終わりです。
<一覧表>

 経営計画数値表-1が実数値、右側の経営計画数値表-2が比率表で実績値のフォーマットと同じものです。  
計算は計画第1年度、「実数値」、「比率」、それに下の「社外流出」のそれぞれに、当初の推定値と「改定後」と2つあります。

 最初の計画は2大目標に忠実にやりました。ところが問題が発生しました。経営計画数値表-1の人件費と利益のところを見てください。利益が大幅に伸び、人件費は減っています。経営計画数値表-2の方の「労働分配率」(付加価値構成比の人件費の所)を見てください。53%です(今期末は60.8%)。大きく下がっています。
 
 これまでの路線を中心に延長していくと、どうもまずいようです。労働分配率を再検討し引き上げないと労使合意はないでしょう。やはり、円安好況の中で、人件費を抑制気味にしてきたことの見直しが必要のようです。

 そこで、財務体質の上昇路線を一服、労働分配率改善、人件費枠増大を図るために、自己資本比率の目標を抑えめにし、70%台確保で当面善しとし、目標を、今年度の73.4%から、来年度は71%に引き下げたのが「改定後」の数字です。5年後までには73.4%に戻すことを第2年度以降の計画で考えることとしました。
 その結果、労働分配率は60.4%に回復、総額人件費は4.4%の増額が可能になり、1人当たり人件費も4.0%の改善が可能になります。

 これでも課税前利益の伸び率の方が15.0%と大きくなっています。
 勿論、現実が計画数値通りにいくとは限りませんが、全体的な傾向から見て、資本蓄積を多少遅らせ、人件費への配分の時期かもしれません。
 付加価値率向上や、総資本回転率の改善で頑張れば、自己資本比率のさらなる向上も可能でしょう。検討の余地は種々あります。

 こうした「数字をベースにした」総額人件費の策定(労働分配率の決定)についての労使の納得のいく論議が出来れば、その論議の到達点が、わが社の「成長と体質改善が最適値で両立する」人件費支払能力という事になるのでしょう。(この項終わり)
・・・・・・・・・・・・・・
 この「人件費支払能力測定システムは」付加価値分析を使った「最も簡便な計算」で、目的をはずさない計算ができる方式です。ぜひ試みてください。

企業における人件費支払能力測定の実務:第8回―K社の過去5年の実績を見る―

2017年02月20日 10時27分26秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第8回
―K社の過去5年の実績を見る―



 このシリーズのテーマが、支払能力測定の実務ですから、企業の経営数字の具体例を出さないと、具体的な測定(計算)は出来ません。
 これまで全部で13種類の経営指標を説明していきましたが、すでによくご存じの方には蛇足だったかもしれません。

 という事で今回は「K社」という電機・精密機器の部品製造業の中堅企業の例を出してみました。もともと研磨の技術で伸びてきた企業です。

 先ず、最初の2枚の表をご覧ください。過去5年間のK社の具体的な数字(現実の数字を多少改変)を出してみました。付表1、付表2

 付表1は必要な勘定科目の数字をB/ S とP/Lから引っ張り出したものを掲げ、付表2には、それらを使って13の比率を計算したものの一覧表です。
 数字を追って動きをご覧になるのには、字が小さいので、プリントアウトして並べて御覧頂けるとありがたいです。

 各勘定科目や比率を克明にたどると、それだけで何日もかかってしまいますので、基本的な動きと、ちょっと気になると思われるような点について、その理由を説明する程度にします。

 先に書きましたように、財務に詳しい方の力を借りて分析して頂くのが良いかと思います。。
 但し、皆さんにとってわが社の数字ではありませんから、要は、実績の分析と、その後の計画の策定の具体的なやり方をご理解いただくという意味での手順の説明という事になります。

 先ず、過去5年の実績ですが、2016年度は勿論実績見込みです。
 2012年までは日本経済は$1=¥80といった円高に呻吟し、デフレ不況のどん底、2013年の後半に至って徐々に円安傾向が現れ、2014年4月、黒田日銀の金融緩和で$1=¥100になり、さらに2015年秋の異次元金融緩和で$1=¥120と日本経済は様変わりになりました。

 この経済環境の大きな変化はK社でも明らかです。当然輸出がありますから円安差益が利益を押し上げるといった効果が顕著です。
 2013年から売り上げはプラスに転じ(今年度は踊り場か)、付加価値率は20%レベルを回復、付加価値生産性も順調に伸び始めました(今年度は停滞)。それに対して1人当たり人件費は回復期にも微減状態で、労働分配率は2012年度の65.1%から、今年度まで傾向的に下がり60.8%と低下です。13年度から新卒採用を開始、人件費総額は増えていますが、1人当たりは低下です。初任給で全体が薄められたこと、非正規の採用もあったこと、特に今年度の人件費減は、残業規制の影響があると思われます(昨年並みの賃上げはしました)。

 本来の堅実型の経営で自己資本比率は高めの会社です。13年度多少設備投資をしましたが、在庫圧縮で総資産はあまり増えず、その後の総資産増加も抑制気味で、総資本回転率はほとんど変わらず、微かな上昇程度で、1.5回を超える水準は自慢できると思います。
 金利水準が高いのは、気になりますが、借り替えなどで低くすることが可能でしょう。。
 資本生産性は、設備投資をしましたが売り上げ増、付加価値増で安定、資本装備率は従業員増でも上がっています。

 財務比率は順調・良好で、経営は安定していますが、気になるのは、景気回復の中で、労働分配率(付加価値の中の人件費の構成比)の低下が進み、1人当たり人件費が上がっていないことです。世間並みの賃上げはしているのですから、低下は人員構成の問題という事でしょうが、労使ともに重視している「正規化希望の非正規従業員」の正規化も含め、従業員配慮を進めることで、従業員のやる気を引き出すような人事施策も必要なように思われます。

 次回以降、このフォーマットを利用して、5年後の経営目標を立て、人件費支払能力と、雇用量、1人当たり人件費の水準の計画策定を考えたいと思います。

企業における人件費支払能力測定の実務:第7回―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)

2017年02月19日 10時12分17秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第7回
―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)
 経営指標についての説明が3回目に延びてしまって済みません。今回で終わります。
⑨ <配当率> 株主配当/資本金:(%)
 株主が最も関心を持つ指標です。株主にとっては高いほどいいのでしょうが、折角稼いだ利益の中から株主にばかり支払ってしまうと、企業の内部留保に回る分が少なくなります。内部留保は自前の資本蓄積で、企業にとって自由に使える金利のつかないカネです。これが十分あれば、金融機関から金を借りなくても、設備の高度化など自在にできます。
 配当率を上げれば、株価が上がって増資での資金調達が容易になるといった面もありますが、株価は好不況に左右される水ものです。内部留保で自己資本を増強することの方が「堅実経営」でしょう。
 この点株主と企業(企業労使)の利害は食い違うわけです。 企業は株主のものか、労使のものかという論争もあります。王道は企業の発展優先でしょう。
 関連する「配当利回り」は配当/株価(%)という事になります。

⑩ <総資本回転率> 総資本(+割引手形)/売上高:(回)
 総資本1億円の会社が、年間1億円を売り上げれば総資本回転率は1回です。1億5千万円売り上げれば総資本回転率は1.5回です。
 少ない資本で売上が大きければ、資本効率のいい企業という事です。
 売掛金の早期回収とか、JIT(ジャストインタイム)で棚卸資産を減らすとか、遊休資産を持たないとかで総資本回転率は高められます。

⑪ <資本生産性> 付加価値/有形固定資産:(円)
 正確には有形固定資産などの設備投資の生産性です。省力化や省エネ化を進めれば設備生産性は上がります。しかし高度な設備は値段も高いですから、稼働時間を考えたり、リースを選択したりという可能性も検討すべきでしょう。

⑫ <労働の資本装備率> 有形固定資産/従業員数:(円)
 時に、労働装備率といわれたり資本増備率といわれたりします。従業員一人当たりどれだけの設備をしているかで、製造業なら新鋭ロボットなどの高度の機械、販売業なら客に魅力のある店舗など、投資内容で生産性が変わります。
 製造業では昔から「労働生産性は資本装備率」に比例する、などと言われます。1人で2人分の仕事ができる新鋭機械は値段が2倍するという事でしょうか。
 その場合、資本生産性は変わらないわけで、人件費の減と、減価償却費の増の比較で導入のプラス・マイナスは判断できます。

 以上12の経営指標、労働分配率も入れて13の指標の経営上の意味、役割を見て来ました。
 企業成長(付加価値生産性)と財務体質(自己資本比率)の目標を決め、それが実現できるようにその他の経営指標を策定していけば、人件費支払能力は結果として出てきます。どれか1つ数字を変えれば、人件費支払能力は変わります。

 具体的にどんな順序で計算していけば、全体として合理的な経営計画の策定になるかは、順次説明することになりますが、労使の意見を積み上げ、シミュレーションを繰り返して、労使双方の納得を得られるようになれば最高です。

 計画の要諦は、過去(5年)の実績を十分に検討し、現在の企業の実力でどこまでできるかの限界を弁えながら、計画値を積み上げることでしょう。
 企業統計などから適切なケースを取り出し、その企業の過去五年間の実績をベースに、5年後のその企業の姿を計画し、そこに到達すべく毎年5分の1の達成を目指すといった形で来年度分を計画し、来年はその実績を見つつ来年からの5年計画を建てるといった形でもいいでしょう。勿論1年づつ5年間を積み上げればさらに実態に即したものになります。
 次回は具体例を出してみましょう。

企業における人件費支払能力測定の実務:第6回―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)

2017年02月18日 10時36分49秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第6回
―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)
(今回は前回の続きです)
④ <付加価値構成比> 付加価値構成項目の構成比:合計100%
 人件費、課税前利益、金融費用、賃借料、租税公課、減価償却費のそれぞれが付加価値に占める割合です。
これらの内の人件費の構成割合が「労働分配率」です。

 租税公課は一般的には与えられる数字ですが、それ以外は、それぞれに重要な意味を持ちます。
 金融費用は借金体質かどうか、つまり自己資本比率に関係し、賃借料は設備投資かリース調達かに関連し、減価償却費は装置産業化すれば大きくなり資本構成高度化でも膨らみますが、生産性、企業成長にはプラス要因です。
 課税前利益(分析目的によっては経常利益)は企業体質改善と技術開発・高度化投資なアドの最重要な原資で、企業発展の原動力です。
 付加価値構成比は、企業の戦略的な要素を反映するものでもありますから実績の分析でも計画の際でもよく見ていく必要があります。

⑤ <減価償却費> 償却前有形固定資産×(平均)減価償却率:(円)
 減価償却費は本当の意味では付加価値ではありません。これは有形無形の固定資産などを購入した場合、それは5年とか10年かけて使うものですから、買った時に全額経費にするのではなく、その使用期間(耐用年数)の間に分割して経費計上しようというもので、つまりは経費です。
 しかし、経費計上しても、必ずしも金は出ていかず、出ていくのは、新しいものに代替するときです。その間資金繰りとしては余裕になるので利益(内部留保)などに準じて仮に付加価値に算入し算入したものを「粗付加価値」とします。
 GDPのGはGross(粗)で、減価償却を算入した国レベルの粗付加価値です。

 ここでは、企業の生産性向上、成長を支える固定資産投資の役割とコストを数値で見るために「粗付加価値」を使うことにしています。

⑥ <自己資本比率> 自己資本/総資本(+割引手形):(%)
 言わずと知れた経営計画の2大目標の一つです。企業が運用している設備資金、投資資金、運転資金などの総額の中で、自前の金が何%かを示します。自前の金で経営しているほど経営の安定度は高いので、企業体質の指標と言われます。
 むかしから、会計学者は、半分は自己資本でという事で50%が標準などと言いますが、一つの判断基準でしょう。
 かつてアメリカの企業の劣化ぶりを GMの例で見ましたが、よく例に引かれるファナックなどの90%前後、といった数字は経営基盤の盤石の安定性を示しています。
 付加価値との関連では、自己資本比率の高い企業は金利支払いは少なく、その分は人件費と利益に回ることになります。

 自己資本比率については 2つの見方があって、高すぎるのは積極的にリスクを取りにいかない消極的経営といった批判が所謂ファンドなどから出されます。これはその企業の企業文化、性格、経営理念の問題でしょう。

⑦ <有利子負債比率> 有利子負債/負債総額:(%)
 負債の中でも買掛金や支払手形など、金利のかからないものもあります。付加価値の関係するのは金利のかかる負債ですから、この比率は重要です。
 近年のように、ゼロ金利の中では、有利子負債もあまり苦にならないといった感覚もありますが、金利が正常化すれば負担は大きくなります。
 バランスシートでは欄外注記ですが、「受取手形割引残高」も加えて計算すべきでしょう。

⑧ <金利水準> 金融費用/有利子負債:(%)
 長・短期借入金の金利、社債利息、割引料などの金融費用などが全体の平均で、どのくらいの金利水準になっているかで、付加価値の中から金融機関などに流出していく金額が決まります。ゼロ金利時代でも、金利は決してゼロではないので、より低い金利水準が可能であるか検討すべき問題でしょう。
 自己資本比率、有利子負債比率との関連も的確に検討することが重要です。次回に続く

企業における人件費支払能力測定の実務:第5回―付加価値分析は経営計画に適している―

2017年02月17日 13時32分53秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第5回
―付加価値分析は経営計画に適している―
 前回、人件費支払能力測定の前提になる経営計画策定のために活用する「経営指標」とその計算式、そして経営指標計算のために必要なB/S、P/L、SS、の勘定科目を 一覧表にしました。

 企業経営とは大変複雑なものですが、それを、人間が資本を使ってより効率的に付加価値を作り出すという経営の基本構造に還元して考えたとき、人間と企業を結び付ける経営の基本構造(スケルトン)は、前回挙げた指標で、基本的に把握できます。

 これは「付加価値分析」と活用したものですが、付加価値分析は企業における人間と資本の関係を分析するのに適しています。B/SやP/Lは利益計算には適していますが、企業の成長発展の動態分析には適していません。
 付加価値分析で、特に、労働分配率、資本設備(有形・無形)と生産性の関係を追っていけば、企業の成長・発展のメカニズムが見えてくると思います。  

 そこで今回と次回で、前回挙げた12個の主要経営指標について簡潔にその意味するところを見ていってみましょう。

① < 付加価値率> 付加価値/売上高(%)
  付加価値はその企業に組織化されている人間と資本が生み出した経済価値です。日本中で生産された付加価値の合計がGDPで日本人はそれで生活しています。同様に、企業はその企業で生産した付加価値で企業生命を維持しています。
 企業は売上高で生きているのではありません。売上高の中の付加価値で生きているのです。そこで売上高のうちの何%が付加価値かを知ることが重要で、それが「付加価値率」です。

 付加価値率は業態によって大きな差があります。製造業では平均的に20%程度ですが、卸売業では数%、ソフト会社では数十%といった差があります。
 問題は、わが社の付加価値率が上がっているかです。毎年同じことをやっていれば、付加価値率は確実に毎年下がります。
 何か新しい顧客に訴える製品、商品、サービスを開発して初めて付加価値率の維持向上が可能になります。
 という事で、付加価値率は「企業の元気度の指標」などと言われます。

② <付加価値生産性> 付加価値/従業員数(円)
 正確には付加価値労働生産性です。従業員には社長からパート従業員まで、その企業で雇用している従業員はすべて入ります。派遣の場合は「人件費」として入れて(当然付加価値にも入って来る)計算することも、外注扱いで除外することも可能です(入れたほうが総合的な判断が可能になる)。

 これは、先に述べました企業の二大目標の1つ、「企業成長の指標」です。従業員一人当たりの人件費と従業員一人当たりの資本費の合計額ですから、経営計画の最大の目標は、如何にこの数字を成長させていくかを考えることでしょう。この数字が、企業の成長発展と体質改善の可能性の限度を決めます。勿論、人件費、賃金上昇の基本的な指標になります。

③ <1人当たり人件費> 付加価値生産性×労働分配率(円)
  労働分配率は12個の比率の中には入っていないように見えますが、きちんと入っています。それは、下の「付加価値構成比」の中の「人件費」がそれです。
 ここで労使関係の歴史的にも最大の論争点である「付加価値を労働と資本でどう分配するか」という大変重たい問題が出てきます。
 この経営計画では、労働分配率を恣意的に決めることはありません。それは、企業の体質改善、資本構成の高度化、生産性向上、企業成長とのバランスの中で、最適な数字という形で産出されることになります。
  労働分配率によって、その後の付加価値生産性が影響され、1人当たり人件費の上昇が影響を受けるというプロセスが組み込まれています。以下次回

企業における人件費支払能力測定の実務:第4回―必要となる経営比率とその計算式―

2017年02月16日 13時49分51秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第4回
―必要となる経営比率とその計算式―
 成長目標:付加価値生産性、体質改善目標:自己資本比率の基本的に重要と指摘しましたが、先ずは、こうした目標を具体的な数字として設定するときに、何を基準・参考にして決めるかが当然問題になります。

 これからの十数個の経営指標が企業経営上のネットワークの形で出てきますがそうした「鍵」になる経営数値の目標を決める際に検討しなければならないのが、第一に、それぞれの数字についての、わが社の過去の実績値です。
 わが社の実績値の時系列比較・分析(time series analysis)は、出来れば過去5年ほどの経営指標の推移を現実の経営実体との関連で、理解していくことが大事です。

 第二は、同業他社(ライバル企業など)が現在どのような数字であるかを調べ(横断比較=cross-section analysis)、わが社が遅れているのか、進んでいるのか、なぜそうなのかといったことを考慮し、状況に応じて判断をしていくことです。

 勿論時系列比較も横断比較も共に大切ですが、矢張りより重要なのはわが社の実績分析です。わが社にはわが社の事情があります。事情により数字は違います。問題はわが社の健全な発展の計画ですから、わが社の過去の数字の動きを現実の経営と照らし合わせて克明に分析し、そこから将来の進路を見出すことがまず大切です。

 では、この2つの経営指標としての目標数値を実現するために関連して検討しなければならない必須の経営指標を、それらの重要性なども考えながら順番に挙げておきましょう。

① 付加価値率
② 付加価値生産性
③ 1人当たり人件費
④ 付加価値構成比(人件費(労働分配率)、課税前利益、金融費用、賃借料、租税公課、減価償却費)
⑤ 減価償却率
⑥ 自己資本比率
⑦ 有利子負債比率
⑧ 金利水準
⑨ 配当率
⑩ 総資本回転率
⑪ 資本生産性
⑫ 労働の資本装備率

 これらの比率の計算式は別紙に掲げますが、B/S、P/L、SS(正味資産計算書)から引っ張ってきます。

 これだけの比率について、過去5年間の動きを分析します。勿論そのためには、それぞれの比率(経営指標)意味をよく理解していなければなりません。
 当然、人事労務担当者と、経理財務担当者の共同作業(PT)になるでしょう。過去(例えば5年間)の数字の動き、実績分析は、過去5年の企業の現場の動きの反映ですから、本当は、各部門の動きを知悉している担当者数人のPT(プロジェクト・チーム)が必要なのでしょう。

 大事な事は、これらの数字は全て有機的に関連しているという事です、実績値の中でも、資本装備率はこの程度だったから付加価値率がこの程度だった、といった関連がすべての指標にあるはずです。

 従って、計画値を計算する場合も、1つの数字だけ勝手に変えることはできません。全体がネットワークになっていて、その相互関係の中から、求める適正な労働分配率、1人当たりの人件費が出てくることになるのです。

 次回から、各比率についてのその意図する意味とその関連、そして実績を踏まえての計画手順について進めていきたいと思います。
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<別紙>
・12の比率算出(計画段階も含む)に必要な勘定科目等
純売上高、人件費、課税前利益、金融費用、賃借料、租税公課、減価償却費、有形固定資産、総資産(総資本)、自己資本、資本金、負債総額、有利子負債、株主配当、役員賞与、従業員数

・各比率の計算式
① 付加価値率=付加価値/売上高 (%)
② 付加価値生産性=付加価値/従業員数 (円)
③ 1人当たり人件費=人件費/従業員数 (円)
④ 付加価値構成比=人件費+課税前利益+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費:各項目の構成比の合計=100%
⑤ 減価償却率=減価償却費/償却前有形固定資産  (%)
⑥ 自己資本比率=自己資本/総資本(+割引手形) (%)
⑦ 有利子負債比率=有利子負債/負債総額(+割引手形)  (%)
⑧ 金利水準=支払金利/有利子負債  (%)
⑨ 配当率=株主配当/資本金  (%)
⑩ 総資本回転率=総資本(+割引手形)/売上高 (回)
⑪ 資本生産性=付加価値/有形固定資産 (円)
⑫ 労働の資本装備率=有形固定資産/従業員数 (円) 
(注)付加価値はここでは粗付加価値を使う
   無形固定資産が原価償却対象の場合は、有形固定資産に加える(以上)

企業における人件費支払能力測定の実務:第3回 ―中期計画と目標の設定―

2017年02月15日 11時26分22秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第3回
―中期計画と目標の設定―
 今回から、人件費支払能力測定の具体論に入ります。

 まず最初に何をやるかですが、あなたの企業の「企業目標の設定」です。
 賃上げ交渉が差し迫っているのに、何を今から企業の目標設定かとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、申し訳ありません、ここで論議しようという「企業の人件費支払能力」は、企業の将来、その命運を分けるものですから、企業経営の基本からの本格論議です。

 勿論、今年の労使交渉には、今年の事情があり、今年なりの対応策も必要でしょう。しかしその背後には透徹した、その企業の中期計画があり、その計画に沿った範囲での応用動作でなければならないはずです。

 多くの企業調査によれば、通常、企業の7割ぐらいは経営計画を持っているという回答になっています。その計画を応用して、具体的な数字を確定していけばいいと考えて頂ければ結構です。

 経営計画の目標数値としては、売上高や生産量などが良く使われますが、誰にもわかりやすいためには便利な数字です。
 しかし、本当の経営計画としては、企業の存続・発展のための基本的な指標を掲げる必要があります。それをベースに、売上高や生産量は算出されるべきでしょう。

 では、企業の存続発展のための基本的な経営指標とは何でしょうか。これは人間の成長でも、一国経済でも、企業やその他の組織でも、共通と思われますが、「成長の指標」と「体質の指標」です。

 企業の場合は特に重要ですが、「成長」と「体質」は往々相反します。企業成長を速めすぎると体質が弱くなる、企業体質改善ばかりを重視すると成長が遅くなる、という関係です。この2つのバランスを図りながら、経営計画を進めなければなりません。

 そうなると、当然のことながら、「経営数値で示す経営計画」は中期計画ぐらいが必要という事になるのではないでしょうか。出来れば5年計画、少なくとの3年計画ぐらい、長すぎても不確定要素が大きくなりすぎる。
 そして、この、例えば5年計画をベースに、年々リボルビングで新たな5年計画を立てるのです。その第1年度で、今春闘の人件費支払能力が測定可能になるのです。

 という事で、最初の作業は「5年後までの成長目標」と「ご年後までの経営体質改善目標」という事になります。

 そこで問題は、「成長目標の経営指標」として何を選ぶか、「体質改善目標の指標として何を選ぶか」になります。
 これは最も重要な指標ですから、是非皆様にもお考えいただきたいのですが、答えは『付加価値生産性』と『自己資本比率』とするのが最も適切ではないかと考えています。

 この2つの指標のバランスが取れれば、企業は安定的に成長発展していると判断することが可能で、ゴーイング・コンサーンとして、社会の役に立ち続けられることは確実だからです。

企業における人件費支払能力測定の実務:第2回―高度成長期の「賃上げ吸収策」から― 

2017年02月14日 11時59分50秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第2回 
―高度成長期の「賃上げ吸収策」から―
 支払能力測定の実際に入る前に、もう1つ、昔話をしたいと思います。
 日本経済では昭和30年代に入って、神武景気、岩戸景気がありその後昭和39年(1964年)に東京オリンピックがあって、いわば高度成長期の前半の時代でしたが、昭和40年に至って、戦後最大の不況」といわれる深刻な不況に見舞われました。

 山陽特殊鋼の倒産や山一證券行き詰まり日銀の特別融資で救済されるなど、高度成長期の多様なツケが回った形でした。
 この不況からの回復にまつわるエピソードについては「 景気回復策あれこれ」「 株式投資大成功の話」などで触れてきました。

 昭和41年以降の「いざなぎ景気」は、昭和45年(1970年)の「大阪万博」まで続きますが、この間大幅賃上げの動きが年々強まり、インフレ抑制のための引き締め策に加え、1971年のニクソンショック( ブレトンウッズ体制の崩壊)、さらに1973年の第1次石油危機で止めを刺され、日本経済の高度成長期は終わります。

 ところで、このいざなぎ景気の中で言われたのが「賃上げ吸収策」という言葉です。長期の好況と、労働組合の攻勢の強さに、企業はついつい大幅な賃上げをしてしまい。その賃上げコストを吸収するために「賃上げ吸収策」を考えるという大幅賃上げ対応策です。

 最初は、賃金制度の中身や、諸手当、福利厚生費などの減額といった人件費内部の問題のように考えていた企業も、最後には、「賃上げコストの吸収は、企業全体の効率化、生産性の向上で」という事に帰着していきました。

 しかし、賃上げ吸収策ではとても追いつきませんでした。企業の生産性向上、日本の経済成長を超えた年々の賃上げは、日本経済を自家製インフレ、賃上げとインフレのスパイラルに陥れることになりました。
 その極め付けが「 第一次オイルショック」による経済大混乱です。

 この経験から、労使双方は「賃上げと経済の関係」をより合理的なものにしなければならないという理性的な対応を、春闘の中に持ち込み、当時の使用者団体の日経連は、それまでも掲げてきた「生産性基準原理」の徹底を言い、労働組合側も「経済整合性理論」を打ち出し、日本の賃金決定は、マクロレベルでの合理性獲得の時代に入りました。

 しかし、日本の賃上げは「企業レベルの労使交渉」で決まります。個々の企業の状況はマクロ経済と必ずしも同じではありません。
 ならば企業はどう考えればいいのか。ここでの問題「企業の支払能力」はそれです。

 冒頭に、「賃上げ吸収策」という概念を出しましたが、企業の支払能力というのは、いわば「賃上げ吸収策」を賃上げの事後ではなく、賃上げ前に持ってきて、予め吸収できる限度の人件費上昇を測定(予測計画)するという事になります。

 ですから、人件費支払能力の策定は、長期的な企業の成長発展を前提に、「その企業の成長発展と整合する人件費計画」なのです。まさに経営計画の一環で、「如何にすればベストの企業成長が可能になるか」と「如何にすれば最大限の人件費を長期安定的に支払えるか」を共に満足する「解」を探すことにほかなりません。

 ここでの「企業の人件費支払能力」とは、そうした意味のものです。







2016年10-12月期GDP速報:変化の兆し?

2017年02月13日 12時17分42秒 | 経済
2016年10-12月期GDP速報:変化の兆し?
 今朝、内閣府から標記速報が発表になりました。
 マスコミの見出しでは、「実質成長率4四半期連続プラス」とか「年率換算で1%成長、予想より低め」などで、あまり元気という程ではないが、着実に上昇しているといった感じのものになっています。

 政府・日銀の経済見通しも、ほぼそんな調子ですから、「低成長ながら着実に成長」というのはその通りのようで、さてこれからどうかなといった状況という事でしょう。
 先日書きました2017年度の政府経済見通しでは名目2.5%、実質1.5%という事ですから、来年度にかけて徐々に成長率は高まるという見通しなのでしょう。

 マスコミの解説は大概が、いつも通りの対前期の変化率が中心ですが、ここではいつも通り、対前年同期比で年率の成長率、多少傾向的な、いわばトレンドを見てみましょう。

 数字は実質ベースですが、過去4四半期(2015/10-12~21016/10-12)のGDPのの対前期比を見てみますと-0.3、0.6、0.4、0.3、0.2(%)となっていますが、同じ期間を対前年同期比で見て来ますと1.1、0.3、0.9、1.1、1.7(%)という事になっています。

 対前年同期比という数字、昨年の同じ時期に比べてどれだけ増えたかという事で見ますと、何か尻上がりの感じも無きにしも非ずです。
 特に2016/10-12月期の数字は1.7%と随分よい数字になっています。

 そこで、その中身を見てみますと大きく増えているのは国際収支の黒字と家計消費支出の増加です。
 国際収支の黒字は、上記1.7%の成長のうち、1.0%を占めていて、外需依存の成長という感じでもありますが、輸入資源価格の低迷と、この時期円安が進行した影響とがあるはずで、結果的には実際のトレンドより多少増幅されたのかもしれません。

 もう1つの、押し上げ要因、家計消費支出は0.9パーセントの伸びで、1.7%の成長のうち0.5%を占めています。
経済不振の元凶ともいわれる個人消費が伸びたという事で、大変目出度いことですが、実は前年のこの時期が暖冬で、冬物商品の売れ行きが低迷したことの反動という面が大きいようです。

 という事で、対前年同期比で、1.7%伸びたという実質GDPについては、多分に下駄をはかせてもらった感じは否めません。
 とはいえ、日本経済のブレーキになっていた家計の消費支出が何はともあれ増加して日本経済の成長を引っ張たという事は、何か、変わり目の感じを抱かせるもので「も」あります。

 今後の日米関係、世界の経済・政治情勢がどうなるかわかりませんが、今後の家計消費支出の動向に注目したいと思う所です。

企業における人件費支払能力測定の実務:第1回

2017年02月12日 11時50分52秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第1回
 昨年「人件費の支払能力」という問題について、よく使われる割に、中身が極めて曖昧なままで使われているという立場から、その概念規定を明確にする目的で、「支払能力シリーズ」を書きました。

 今まさに春闘の真只中に突入しようという労使ですが、経営側の立場からは経団連の「経労委報告」の中でも「企業の支払能力」という言葉は使われています。
 そこで、これから何回かに分けて、「企業の支払能力」という問題への具体的アプローチを考えてみたいと思います。

 この基本的考え方は、企業というものを労使の共通の財産と考え、労使がそれぞれの立場からその機能を最大限に引き出すことを協力して追求し、その成果を労使で「適切に」配分することによって、さらなる企業の機能の最大限の発揮に繋げるといいうベストの企業の拡大再生産の循環を可能にするためのものです。

 この「適切に」というところが、とかく曖昧になり、労使の意見が「同床異夢」のまま結果は妥協の産物というのが多くの労使交渉の場の現実でしょう。
 ここでは、この「曖昧さ」を極限まで小さくし、「これなら労使双方が、双方にとってベストという究極の win=win の関係を持てるまで、議論を詰めることを考えてみたいと思います。
 これは、「支払能力シリーズ」で書きました、「 真理は中間にあり」という経験からの判断を前提に、その中間にある「労使が共通に納得できる点」を「特定する」ための作業という事になります。

 企業は、人間が考え出したシステムで、人間と資本によって構成され、その中で人間が資本を使って、世の中をより豊かで快適なものにしていくためのものです。
 したがって、企業は、いわゆる ゴーイング・コンサーンとして、存在し続け、その役割を果たし続けるのが使命でしょう。

 これは、企業を構成する人間(便宜的に労使に分けられていますが)に課せられた使命です。その中で人間は資本を出来るだけ巧く活用して、年々生産性を高め、社会をより豊かで快適にするための、より良い製品やサービスをより低いコストで社会に提供しなければなりません。

 ここで2つの概念が重要になります。

1つは、社会をより豊かで快適にするという指標として何を選ぶかです。現在、最適な指標として使われているのは『付加価値』です。企業がより多くの付加価値を創出することによって、社会はより豊かで快適なものになります。

もう1つは、「人間が資本を使って」という場合の資本の中身です。資本は、資本の具体的な形である有形固定資産でも無形固定資産(知的財産)でも、生産性を高めるためには『技術革新』が組み込まれることが必須です。
 社会をより豊かでより快適にする原動力は技術革新です。そして技術革新は金額として企業の資産の中に入っています。

 これ方の展開の中では、この『付加価値』と『技術革新』の関係が極めて重要になってきます。