日本の高齢者の就業問題という論点を軸にして、高齢化社会日本の進むべき道を論じてきました。
改めて指摘できるのは、高齢化社会の概念、つまりは高齢者とは誰かという問題ですが、これが急速に変わってきた事です。
平均寿命の伸びと共に健康寿命も延びて来ました。60歳代は高齢者という時代から70歳はまだ高齢者とは言えないのではないかという時代に変わったのです。
健康長寿を楽しめる時間が10年以上伸びているのでしょう。
こうした大きな個人生活の変化に社会が追い付いていない所に高齢化問題の発生の原因があるというのが現実ではないでしょうか。
典型的には人間と仕事の問題、これは主として企業の問題。仕事からのリタイアと年金の問題、これは政府の問題でしょう。
この2つが、現実の健康寿命の伸びに対応しよう努力しているのですが、意識の遅れが対応の遅れになり、平均寿命の伸びた日本人の老後不安を生んでいるのです。
一方勤勉で堅実な日本人は、制度の遅れに不安を持ちながらも、着実に対応の努力をしている事は
統計の数字が明らかにしています。
ならば、変化を先取りとはいかないまでも、企業の雇用制度、政府の年金制度を、発想を変え、今の状態に合うような新たな基本設計にして、「ここまでの事は企業経営、日本経済の中で可能です」という制度の改革ビジョンを早急に準備、国民がそれぞれに将来設計をし易いようにする事が望ましいと言えるのではないでしょうか。
企業については既に前回述べてきました。年金については言及して来なかったので、年金設計の在り方についての方向を考えながら、このシリーズのまとめにしたいと思います。
年金については、恐らく今政府が考えている方向は、いつかは年金支給開始年齢を70歳にし、企業の雇用義務(定年?)を70歳にし、老後生活の保障を明確にしたいというところではないでしょうか。
これまで述べてきた点からも、それは合理的な線だと考えます。ただ、定年は企業に任せていいのではないでしょうか。もともと法律で決めるものではなかったのですし、リタイアの選択は個人的な問題です。
年金は早期受給の場合は減額年金制で合理的に対応できます。つまり年金制度は70歳を「標準」に置いて、個人の選択によって早期なら減額、遅らせれば加算の適切なシステムを設計すれば済むことです。
今の様なゼロ成長、ゼロ金利の日本経済では、十分な金額にならない可能性は大きいでしょう。
個人的な蓄積と両方でリタイア後の生活を支えるのです。国民はその準備をしています。平均消費性向の長期的な低下は端的にそれを示しています。
政府は国民に、率直に事情を説明する義務があります。医療費や介護も、子育ても、敵基地攻撃能力も必要なのでしょう。
ただ、老後生活には2000万円足りないという審議会の答申の「受け取り拒否」といった不誠実はいけません。国民に不安と不信を与えるだけです。
本当の問題の所在は、日本経済が成長しない事にあります。年金という将来支払うものの原資は経済成長の中でこそ負担できるのです。
このシリーズの中でも見てきましたが、政府の政策宜しきを得て、また、企業が目先の収益より日本経済の成長による企業の成長発展と社会貢献を企業理念とし(以前はそうでした。社是社訓には「時価総額最大」などと書いてはありません。
社会貢献、世のため人のためと書いてあるはずです)、日本経済がかつてのように成長を始めれば、状況は着実に改善するでしょう。
高齢者の雇用、就業がより順調になれば、個人の蓄積の期間も伸び蓄積も増えるでしょう。
ゼロ金利が解消し銀行預金に利息が付けば、一層有利でしょう。
老後資金をギャンブルで稼ごうという今の政府の政策「銀行預金を株式に」で泣く人も減るでしょう。
GPIFの一喜一憂もなくなるでしょう。
そしてマクロ経済スライドは、年金減額の手段ではなく、年金増額の指標になるのではないでしょうか。