tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

成果主義と年功賃金 補論

2014年12月31日 10時08分09秒 | 労働
成果主義と年功賃金 補論
 「働くことは良いこと」という文化が日本には伝統的に存在します。労働は苦役という欧米文化(と云うと、それは旧約聖書の世界で今は違うと言われますが)の伝統とは違うようです。
 善行と苦役であれば、その対価である賃金は、善行の場合は「お布施」的で曖昧、苦役の場合はキッチリ計算ガッチリ要求ということになるのでしょうか。日本では、かつて「賃金お布施説」などというのもありました。

 年功賃金は同一労働同一賃金とはしばしば両立しません。しかし納得性は高いようです。経営者の賃金(報酬)がべらぼうに高い欧米、比較すれば大幅に低い日本ですが、日本の経営者はそれで納得しています。
 国が格差社会化を懸念するのと同じように、日本では企業内でも、格差の拡大を抑制する文化、システムがビルトインされているようです。

 多くの企業は、35歳くらい迄は年功色の強い賃金、一人前の生活が可能になる水準以降は、職能、仕事、役割、成果などをその企業に適した形で、ボーナス制度も組み合わせ、制度設計をしているのが現状ではないでしょうか。

 こうした賃金制度は、いわゆる正社員のものです。今喫緊の課題は、人手不足が進む中でも増加する「正規を希望」しつつも地域のマーケットで決まる職務給で働く非正規労働の存在です。これは日本企業が本気で取り組むべき問題でしょう。

 最後に能力の評価、考課の問題に触れておきましょう。
 考課や査定は、いわば能力や成果の「測定作業」です。測定には、距離でも時間でも重量でも、必ず測定誤差が伴います。誤差は成果主義の最大の問題です。

 人間の能力測定などでは正確な測定は極めて困難でしょう。出来るだけ正確な結果を出すためには、複数の評価者が(360度など)、多様な評価基準で、多頻度に、時間をかけて評価結果を出し、その結果を正規分布になぞらえ、適切に『推定』するしかないはずです。
 
 そんな大変な事をと言いたくなりますが、従来日本企業で、経営者にまで上り詰める人は、20年30年かけて、こうした評価を積み上げた結果ではないでしょうか。
 人間の問題に付きまとう曖昧さは、最終的は「納得性」が解決してくれるようです。そして、納得性はそれぞれの社会の文化の反映です。

成果主義と年功賃金 5 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給> 前回より

2014年12月30日 09時49分52秒 | 労働

成果主義と年功賃金 5 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給> 前回より
 もちろん日本経済の成長という成果がなければ国民生活は良くならないでしょう。企業業績が上がらなければ賃金は上げられないでしょう。しかし、それをそのまま個人に適用するのは残念ながら誤りです。

 政府は毎年予算案を作り、国会を通して執行します。目的は日本人全体に出来るだけ巧くGDPが均霑するようにということでしょう。稼いでいる所にはインセンティブがあり、しかし運悪く稼げなかったところにも、安定した生活が可能になるように、苦心惨憺するはずです。

 企業も同じです、円安で輸出部門は大幅増益、輸入部門は儲からない、もし社員の賃金をそれに準じて払ったら、企業という人間集団は成り立たないでしょう。

 国や企業は人間集団です。人間集団のトータルな稼ぎやロスを、人間集団として飲み込んで消化し、内部の配分を成員が納得するように分配する、これが組織の役目なのです。
 多くの国は福祉国家を目指し、企業も従業員全体の安定した生活を可能にしようと頑張っているのです。これは個人別の成果主義とは違った行き方です。

 個人レベルになると、人間の上げる成果には大きな差があります。
 端的な例を生命保険会社の勧誘員などに見ることが出来ます。生活ギリギリの人から、世界の高額所得者クラブに入るような人までいるといった成果による格差が現実です。
 
 聖徳太子の時代から「和を以って貴しと為す」としてきた日本では、2倍働いて賃金2割増し、3倍働いて3割増などといって、サラリーマンは笑って納得していたのです。

 成果を上げた個人へのインセンティブは重要です。しかしその成果を組織全体で喜べることはもっと大切でしょう。
 成果主義の問題点としては、
① 成果に繋がりそうな情報をシェアしなくなる。
② 共同体意識が薄れ、組織の人間関係が崩れる。
③ 成果の数値化、貢献者の特定と評価が困難。
④ 業績評価(考課)などの場合の適正度、正確度の客観性への疑問
などがよく挙げられます。

 成果を顕彰するには、カネだけでなく種々の方法があります。賃金制度における成果主義を無理に推し進めることは、日本の組織風土に馴染まない所も多いようです。会社のトータルの成果を高めるためには、いかなる方法が望ましいか、企業の実情を踏まえて、広く論議することが大切なようです。


成果主義と年功賃金 4 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給>

2014年12月29日 15時08分13秒 | 労働
成果主義と年功賃金 4 <職能資格給、仕事給(職務給)、成果給>
 職能資格給というのは日本の発明ですから適切な英語はありません。私は”pay for abity to perform jobなどといっています。
 一般的な形は、年功給の「功」の方を年代が上がると共に重視し、企業内の仕事を数ランクから十数ランクの職能等級にランク付けし、そのランクの範囲で能力の向上に従って、昇給していくが、上のランク(職能等級)に上がらなければ、年々の昇給は次第に低減、ランクの上限に達すると昇給はなくなる、というものです。
 勿論能力が向上すれば上のランクの仕事に移り、昇給は続きます。

 欧米では職務給がベースですが、ホワイトカラーの場合などは、職務をレベル別にまとめてかなり広い幅のバンドに収め、ワイダ―バンドなどと称し、その上のバンドに移らない限りその範囲の中で査定された給与を受け取るといった形が流行っているようで、日本の能力ベース、欧米の職務ベースの違いがあっても、何だか似たようなものになっているような気もします。

 日本で「仕事給」というのは、直訳すればjob wage つまり職務給ですが、欧米のように、職務が決まっていて、それに人間を当てはめるのはパート賃金ぐらいで、正社員の場合は厳密に職務が決まっていることは少ないので、実際にやった仕事に賃金を払うという意味で、「仕事給」というようです。
 余裕があれば、隣の仕事も手伝うといった日本の職場の習慣では、本来の職務給はなかなか成立しません。

 成果給は pay for performance 成果による賃金です。タクシードライバー、セールスマン、生保レディ(男もあり)、ファンドのマネジャーやトレーダーなどは基本的に成果給ですが日本の場合は固定給と組み合わせが多いようです。これは、成果への刺激を生かしながら、生活の安定も考慮するという、日本的なバランス感覚の結果でしょう。

 従来の日本的な方式で言えば、通常の社員の場合は、成果反映の部分はボーナスでということになるのでしょう。生保の勧誘員やファンドマネジャーのような完全な専門職として働く場合は、成果給1本という形もあるわけです。

 今、政権や財界がよく言うのは成果給とか成果型賃金のようです。どんな成果給かという論議まではなくて、「成果が上がらなければ賃金は払えないのだから、成果給は当然」という考え方のようです。
 そこには、現実の成果給適用場面についての決定的な誤解があるようです。(以下次回)

成果主義と年功賃金 3 <年功賃金の長所と欠点>

2014年12月28日 22時12分43秒 | 労働
成果主義と年功賃金 3 <年功賃金の長所と欠点>
 習熟曲線については、皆様ご存じと思います。キャリア研修などで使われる右肩上がり、しかし上に凸で、段々平らに近づいて行く曲線です。

 企業で働く方々は、多分新入社員のころの経験をご記憶でしょう。新入社員研修を経て、職場に配属、初めは何も解らずに先輩から教わった通り一生懸命。学校で習ったことは余り役に立ちません。早く仕事を覚えようと頑張った日々だったと思います。

 やっと仕事に慣れ、仕事の意味が解るようになるのに2年ぐらい掛ったのでしょうか。3年ぐらいがマンネリ化か、さらに仕事を深め能力を伸ばすかの別れ目だったりします。
 そして多くの企業では、この辺りで異動があって、他の部署に配属になり、新しい習熟曲線の始まりになります。

 こうして2~3年おきにいろいろな部所を経験し、より広い知識と能力を持った社員、多能社員になっていくわけですが、ごく一般的に言えば、その間最低10年ほどでしょうか。つまりこの間は年々能力は高まり、高度な仕事がこなせるように成長するのです。

 年功賃金はもともと経営者がパターナリズムの立場から、生活費の応じた賃金ということで、考えたなどといわれますが、「年」と「功」の2文字の組み合わせのように、功、つまり習熟曲線にも見合っているのです。日本には昔から「亀の甲より年の功」などという諺もあります。但し「功」の部分には個人差があり、小幅でも当然査定部分もあり得ます。

 仕事にもよりますが、平均的に言えば、入社10年から15年ぐらいは、習熟曲線に見合った昇給があって当然ということであれば、この間、年功賃金は納得性があるでしょう。   もちろん習熟曲線と同様、賃金カーブも上に凸、段々上昇幅は小さくなります。

 産別労組などから「35歳賃金」というポイント要求もありますが、望ましいのは35歳、つまり年功賃金が合理性を持つ限界、同時に所帯形成期の近辺で、一家の生活を賄える(種々の形の共働きを考慮して)水準まで賃金が到達していることでしょう。

 さてその後はどうなるのでしょうか。定型化していえば、3つぐらいのグループに分かれるのでしょう。
① その時点の仕事を継続して熟練工・ベテラン社員になる
② 部下指導やマネジメントの能力を身に着け、監督職→管理職→経営陣入りと成長していく
③ 専門職として、社内レベル、産業レベル、国レベル、世界レベルと進化する

 このレベルになると、年功色は次第に薄れ、能力給、仕事給、成果給といった要素が増えて来るのが自然でしょう。

 年功給の欠点としては、こうした段階になっても、自動的に昇給するといった意識が残った場合に発生する「功」に見合わない賃金(賃金コスト)の上昇です。
 かつて、高度成長期、若年層中心、インフレ高進期には可能だった賃金コスト吸収策も、低成長、マイナス成長、高齢化、デフレといった時期には為す術もなくなります。企業にとって致命傷になりかねません。

 これからはサラリーマンのそれぞれのライフステージに合わせて多様な賃金制度を「ハイブリッド型」に適切に組み合わせていく必要があるのでしょう。

成果主義と年功賃金 2 <年功賃金成立の要件>

2014年12月25日 09時57分50秒 | 労働
成果主義と年功賃金 2 <年功賃金成立の要件>
 賃金の制度・体系を考える場合に必要となるものに「合理性」と「納得性」の2つがあるように思います。

 合理性というのは通常「同一労働・同一賃金」などに代表されるように、賃金は「労働の対価」というのなら「働きに応じた賃金」が合理的という視点でしょう。
 もっとはっきり言えば、「稼ぎに応じた賃金」「同一価値労働・同一賃金」とか「同一付加価値労働・同一賃金」とかいうことになるのでしょう。成果主義などはこの視点からのものでしょう。

 納得性は少し違うようです。入社2、3年目の優秀な社員が「もう俺は1年先輩には十分追いついた」と思い、上司もそれを認めたとしても、賃金は1年先輩より低いのが年功賃金です。そして本人も通常それで納得しています。
 納得性というのは、多少合理性に欠けているとしても、「世の中そういうものでしょう」ということで特に文句はないということです。
 君は良く出来るからと、ボーナスの上積みでもあれば、本人は十分納得です。

 何故それで納得るかというと、単に制度がそうだからというのではなく、その会社での自分の永い将来を考えるからということのようです。早期の役職昇進、更には役員への昇進、長い目で見れば、リターンはいろいろ考えられます。
 つまり、同一価値労働・同一賃金でなくても納得しているというのは、仕事と賃金の関係を長期的に考えているからで、こうした納得性の背後には「人間と企業との関係の在り方」が関係しているからでしょう。

 同じその人でも、もし2~3年間の契約社員で働いているとしたら「俺の方が仕事が出来る」と企業に契約賃金の改定を要求するのではないでしょうか。

 J.アベグレンが、かつて日本的経営の3要素として、終身雇用、年功賃金、企業別組合を挙げましたが、年功賃金と長期雇用は表裏の関係にあるということでしょう。

 かつても触れましたが、日本は世界でもまれな長寿命の企業が多い国です。また同じように、個人と企業の関係でも、基本的には「定期採用で正社員」、つまり、学卒で入社し、多分、その企業で定年まで頑張る、という長期の関係が常識の国です。

 年功賃金が根強く日本企業に残るのも、こうした社会・文化的背景があってのことです。次回は年功賃金の長所と欠点について考えてみましょう。

成果主義と年功賃金 1 <職能資格給>

2014年12月23日 23時24分08秒 | 労働
成果主義と年功賃金 1 <職能資格給>
 円高の解消で日本経済も正常な経済活動を取り戻し、さしあたって安定した状況が予測され、経済成長率も次第に高まっていくと思われます。

 当然賃金も上昇していくことになります。連合の賃上げ要求もきちんとした数字になり、経営側も引き上げる気になって来ているようです。
 年末ボーナスは、かなりの伸びになりました。日本の経営者は、一時的な収益向上にはボーナスで応え、着実な企業成長には賃金で応えるというのがかつてからの基本的な考え方です。この基本は変わっていないようです。

 こうした「企業あるいは経済の成長と賃金への配分」という問題に並んで、いわゆる賃金問題の中には、「賃金制度、賃金体系」といった問題も入って来ます。
 そして、賃金引き上げが出来るような状況が出て来る中で、改めてこうした問題が取り上げられてきています。

 最近の論議を見れば、伝統的な年功賃金体系の良さを認めようという視点と、そうした古い殻から脱して、成果や役割をより重視した賃金制度にすべきという視点に大きく区分できるのではないでしょうか。

 現実の日本の賃金制度・体系は、一括りに「職能資格給」といわれ、これは人事制度の「職能資格制度」と裏腹の関係になっています。
 この職能資格制度というのは、戦後日本経済の発展の中で、大幅インフレの中でのベースアップと定期昇給制度(年功賃金の原型)のせめぎ合い、その後の高度成長期、さらには安定成長と高齢化などなどにもまれながら、年功賃金の欠点を修正しようと時間をかけて熟成してきたものです。

 そうした経緯を持つものですから、「職能資格給」というのは大変良く出来ていて、それぞれの産業や企業文化に応じて、年功色を強くしたり、能力主義を色濃く出したり、当然「役割」や「成果」をより生かすことも可能、まさに柔軟性に富んだ制度です。

 もう1つ日本の賃金制度の特色に「賞与・一時金」があります。いわゆるボーナスです。冒頭にも振れましたように、この冬のボーナスはかなり伸びました。円高で予想外の利益が出ればそれは「ボーナスで」というのが日本の伝統的な支払い形態で、かつてMITのワイツマン教授が「シェア・エコノミー」という本を書いて絶賛したものです。

 此の所の長期不況、マネー経済化の中で、実体経済に適切にマッチした日本の賃金制度が一部に忘れられ、極端な成果主義などが言われたりしますが、賃金制度については、これは国や企業の「文化」と関わるものだけに、これまでの日本の賃金制度の進化を十分に学び、より良い選択をしてほしいと思う所です。

アメリカの良識とその盲点

2014年12月19日 16時40分35秒 | 経済
アメリカの良識とその盲点
  アメリカの金融政策も超金融緩和からの脱出の仕上げ時期に入ったようです。テーパリングを終了、いよいよゼロ金利からの脱出に入る日程の論議になるという所です。
 FRBもここに来ては、慎重にならざるを得ません。金利引き上げは急がないけれど、きちんとやる、しかし経済情勢を見極めて・・・、といった姿勢です。

 原油価格の下落はシェールオイル・ガスの開発にはプラス要因ではありませんが、ロシアのようにそれで打撃を受けるわけではありません。シェールオイル・ガスの比重はアメリカ経済全体の5パーセント以内でしょう。

 もともとアメリカの景気回復は国民経済の7割ほどを占めている消費が中心です。サブプライム問題の時は住宅金融→住宅価格上昇→モーゲージ利用の消費増、その一方でサブプライムローンの証券化で世界中からカネを集める、という手法でした。

 今回もガソリン価格の低下で、燃費は悪くても大型のピックアップなどに需要がシフト、自動車向けのサブプライムローンが盛況などといったニュースもありますが、アメリカ経済の好況にはいつも影が付きまといます。

 その「影」はもう疾うにお分かりと思いますが、国際経常収支の赤字です。確かにシェールエネルギーのせいでしょう、GDPに対する経常赤字の幅は、かつての4~5パーセントから2パーセント台に減りました。しかしアメリカ経済が赤字経済であることには変わりありません。

 この赤字を賄うのが金融収支です。その手段の一つとしてアメリカは金融工学を発達させたのでしょう。しかしそれはリーマンショックで破綻、G20でも金融機関の投機行動の行過ぎの規制が言われ、FSBが出来、アメリカではドッド・フランク法が出来ました。

 今朝の朝日新聞のコラムで、P.クルーグマンは、共和党によるドッド・フランク法の規定の後退の動きを厳しく批判していました。ノーベル賞経済学者のこうした論評は影響は大きいでしょうし、アメリカの良識の表れだという感を持ちます。

 しかし残念なことに、アメリカの経常赤字が続く限り、何らかの手段で世界中からカネを調達するという必要から逃れることは出来ません。

 金融機関の行動を規制するというのはいわば末節の問題で、問題の本質的な解決を可能にするのは、アメリカが経常赤字国でなくなることです。これはアメリカの盲点なのでしょうか、それとも、もう解決する気がないのでしょうか。
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 IMFによるアメリカの経常赤字の実績と予想(対GDP比)
  2013年   -2.39%
  2014年   -2.47%
  2015年   -2.64%
  2016年   -2.76%
  2017年   -2.83%

先ず賃上げ、この道しかない?

2014年12月17日 11時24分30秒 | 経済
先ず賃上げ、この道しかない?
 選挙が終わって先ず政府が動いたのは政労使会議における労使への賃上げ要請でした。政府にとっては「この道しかない」の続きなのかも知れませんが、残念ながら、この道は誤った道です。

 大多数の日本の経営者は、もともと賃上げが出来れば賃上げはすべきという考え方です。労働組合は経済力に見合った賃上げは最低勝ち取ると行動するのは当然です。
 本来政府の出る幕はないのです。どこの世界でも労使自治は大原則です。特に日本のような素晴らしい労使関係の国では政府の介入の余地はないはずです。

 経団連は「政府も余計な事を言ってくれるなぁ」と思いながら、礼儀として「最大限努力します」と言います。中小企業を代表する商工会議所や全国中小企業中央会は「中小企業にとって環境はまだ整っていない」、「輸入品高騰の価格転嫁や下請け代金の改善が先」と本音を言います。
 
 連合は、経済合理性も十分考えながら「2パーセント以上」「の要求基準を決め、日本経済の安定した発展の中での「長期安定的な」労働者の生活の向上を考えて2015春闘に臨もうとしています。
 そこで政府が「賃上げ要請」をし、賃上げが実現したら「政府の賃上げ要請の成果だ」というのですから、まさに憤懣遣る方ないでしょう。

 視野狭窄の政府にすれ「この道しかない」のかもしれませんが、全体を確り見れば、その前にやることが沢山あります。
 「輸入物価上昇を確り転嫁しましょう」、「非正規雇用の正規化を」の2つは先ず社会の常識にしてほしい所です。これらは経済を不安定にする格差社会の二大元凶です。

 環境を整えずに「賃上げ」ばかり言うのは手抜きです。中小企業でも賃上げの出来る環境を整えるのが政府の役目でしょう。 
 「子供を産め」と言うのではなく、「生める環境を整えるのが政府の役割」と同じです。

 こうして経済環境が改善し、格差縮小が見え、安定雇用が増えて、はじめて消費は増え、中小企業を含め企業経営も順調に回り始め、安定成長が始まるのです。

 種々の歪みは放置したままで、賃上げさえすれば経済は良くなるなどというのはエコノミストの判断としては最悪の部類でしょう。
 安倍さんのブレーンにも、こうした経済の仕組みがよく解ってほしいと思います。

FCV(燃料電池車)第1号 MIRAI

2014年12月15日 15時41分57秒 | 科学技術
FCV(燃料電池車)第1号 MIRAI
 今日、トヨタ自動車からMIRAI(ミライ、未来)が発売になりました。
 世界初、日本の技術の誇りです。

 価格は720万円。国の補助金200万円を差し引いて、520万円で買える。カーキチの「キチ」をますますクレイジーにしそうです。
 燃料電池を使った発電機であるエネファームはLNGを改質して水素だけを使いますが、MIRAIは水素そのものをタンクに充填、満タンで600キロ以上も走るのだそうです。水素タンクに関わる高圧でも安全という技術は素材から構造まで大変なものだと言われます。水素の貯蔵や輸送が安全に行なえれば、今のエネルギーシステムは様変わりになるでしょう。

 2014年の12月15日は、将来、エネルギー革命、カー革命の記念日にになるかもしれないなどと思ってしまいます。

 ホンダもFCVの発表を控えているそうです。ホンダはFCVのエンジンを今のガソリンエンジンと同様な形でボンネットの中に収めることを考えていると言われます。そうすると、現在の市販車のエンジンを燃料電池に取り換えることも可能になるのでしょうか。

 マツダは、水素でロータリーエンジンを回すことを考えているという話も聞きました。

 もちろん海外の車メーカーも、燃料電池車の開発にはしのぎを削っているのでしょう。しかし、日本のモノづくりの力が一歩先を制したという所でしょう。

 選挙ではアベノミクスが争点でしたが、日本経済が本当に着実な成長の道を辿るかどうかは、こうした多様な科学技術の要素の融合を、日本企業が世界に先駆けて実現していくことに掛かっているのでしょう。

 MIRAIの発売は、いよいよ本格的に進みつつあるこうした日本人、日本企業の真剣な努力、日本経済の将来の発展の原動力の実像を、まさに象徴的に示しているように思われます。

選挙結果とこれからの日本経済

2014年12月15日 10時33分39秒 | 経済
選挙結果とこれからの日本経済
 選挙が終わって与党圧勝でした。与党というより自民党の圧勝でしょうか。投票率は最低を記録しました。政権選択に関係ない選挙では投票率は上がらないと解説者が言っていました。

 私も今回の選挙は行っても行かなくても同じだから初体験の棄権にしようかと思っていましたが、最終的には、国民の権利(義務)と思って期日全投票をしました。

 結果は発表の通りで、安倍政権は3分の2を超え、政権は盤石、何でも思い通りに出来そうです。これから何をするのでしょうか、国民はこれからが大事になりそうです。
 日本の小選挙区制は一強多弱になる傾向があるようです。二大政党の図式は日本には合わないのでしょうか。

 ところで、今回の選挙の争点は自民党の作戦勝ちで、アベノミクスの絞られた感がありますが、アベノミクスとは何なのか、はっきり答えられる人はあんまりいないのではないでしょうか。言葉は不思議なもので独り歩きします。

 確かに安倍政権になって日本経済は復活しました。これはハッキリ言って、円安のせいです。プラザ合意、リーマンショックと円高に苦しめられた日本経済は、円高が解消すれば、まさに戒めを解かれたように活動を始めます。

 円安転換は日銀の政策変更によるものですが、日銀総裁を任命するのは総理大臣ですから、これは安倍さんの功績でしょう。これをアベノミクスというならアベノミクスは絶大の効果を持ったと言えます。

 中小企業に均霑しないとか、格差拡大と言いながら、矢張り円高時代に比べれば、可能性も含めて、今の方がずっといいというのはほとんど異論のない所でしょう。どちらがいいかという選挙になれば、やっぱり自民党かなとなるのでしょう。

 円安実現以来の2年間、消費増税や財政のばらまき、改善できない中国・韓国との関係など民間の経済活動を混乱させるようなこともありましたが、経済の現場で真面目に努力する日本人の底力で日本経済は実体経済においても、先行する株価を追いかけて、徐々ながら着実に回復してきています。

 安倍さんは、自分がやったと言いたがる癖が強すぎるようですが、政権基盤も安定しました。当面、次の選挙を目指す必要もないでしょう。少しおっとり構えて、経済は国民に任せて裏方に徹し、日本人の働きは素晴らしいと国民を褒めるぐらいの余裕を持ったら如何でしょうか。

トリクルダウン理論 vs.所得税制

2014年12月11日 10時29分57秒 | 経済
トリクルダウン理論 vs.所得税制
 前3回、中身が不明確なアベノミクスと現実の日本経済の動きにつて見て来ました。$1=120円の為替レートでは日本は疾うにデフレを脱出、世界でも物価の安い方の国になりつつあります。外国より安い物価は上がりこそすれ、もう下がりません。

 その中で気になるのは、格差拡大という問題です。原因は大きく3つでしょう。
① 非正規雇用の拡大が、そのままになっていること。
② 輸入物価の高騰がきちんと転嫁されていないこと。
③ 株価上昇の結果、資産(株式)保有者の資産・収入が急拡大していること。
日本もいよいよアメリカ型の所得・資産構造に近づいているようです。

 アメリカは格差社会であっても、「アメリカン・ドリーム」という価値観があり、「何時かは自分もミリオネアに」というメンタリティーがありますが、日本は違います。
 そのアメリカでも、格差社会化がひどすぎ、ピケティの「21世紀の資本論」が広く読まれているようです。

 日本経済は、これから勤勉な日本人の努力で確実に伸びていくでしょう。そこでの問題は「如何に1980年代のような格差の小さな社会を実現するか」になるでしょう。
しかし、「分厚い中間層」という言葉だけが聞こえ、そのための具体的政策の論議は殆どありません。

 あるのはせいぜい「トリクルダウン理論」つまり「上が潤えば下に滴り落ちる」ぐらいで、何か中国の「大人宴を張れば、その徳犬猫に及ぶ」に似ています。
 レーガンがレーガノミクスで高所得者の手厚い減税をして、景気回復に成功と言われた頃から「トリクルダウン」という言葉がよく使われるようになりましたが、その後の格差社会化の進展は現実の通りです。
 
 1980年代日本が「ジャパンアズナンバーワン」といわれた頃は、日本は世界でもトップクラスの所得格差の小さい国でした。日本は日本的な行き方で、世界から羨望の目で見られる国を創りました。

 羨望は嫉妬になったのでしょうか。日本は「プラザ合意」による円高と、アメリカの推奨による超金融緩和、その結果の土地バブルで、築き上げた地位から転落、失われた20年の中で、次第にアメリカ型になる道を余儀なくされました。

 因みに、1980年代と今日の給与にかかる最高税率(所得税+個人住民税)を比べてみると、こんな数字です。
  1986年(昭和61年)    88パーセント
  2007年(平成19年)~   50パーセント
 昔の話ですが、「松下幸之助さんは、給料は高いけど、9割以上税金で取られているんだよ」(昭和49年は93パーセント)といわれていたことをご記憶の方もおられるでしょう。

 「分厚い中間層」「一億総中流」への具体的政策を提示する政党がないのが残念です。

円安なのに輸出が増えない、貿易赤字が心配?

2014年12月10日 14時55分10秒 | 経済
円安なのに輸出が増えない、貿易赤字が心配?
 3つ目の問題は、円安になれば輸出が増えるはずなのに、思うように輸出が増えないではないか、貿易赤字は二十数か月連続赤字、円安で輸出がどんどん伸びるような気配は全くない、輸出企業は円安で利益が増えても、円安が止まれば為替差益はなくなる。これからの景気回復はどうなるか心配、といったことでしょうか。

 確かにこんなに貿易赤字が続くのは予想外かもしれません。原因として指摘されているのは、原発停止によるLNG、原油の輸入増加と価格の高騰、輸出企業は、これまでの円高で海外に生産拠点を移し海外生産に切り替えている。スマホなどアジア製品の性能向上、などでしょう。

 原発問題は、日本のエネルギー源の転換問題で、長期の対応が必要でしょう。
 生産拠点の海外展開の問題は、20年も続いた円高に日本企業が必死で対応した結果ですから、国内生産化を含む新環境への対応には時間がかかるでしょう。企業としては、また円高時代が来たら、という不安感も払拭できないということもあります。
 アジア諸国との競合は、今後もいろいろな面で起きるでしょう。

 これらは失われた20年のGDPが縮小する中で、人材開発、技術革新、新規投資への支出を削らなければならなかった日本経済が、どん底から再起し、新たに世界市場に向かって挑戦すべき課題です。
 アベノミクスで円安にしたからすぐ解決するような問題ではありません。「3本の矢ですぐに解決」などと国民に思わせたのが、そもそも安易に過ぎたようです。

 しかし有難いことに、今の日本経済にも救いがあります。それは、貿易収支は赤字でも経常収支は黒字だということです。一口で言えば、海外展開した日本企業の収益が、貿易赤字を超える大きさで、国際的には日本は健全な黒字国ということです。
 因みに、この10月の経常収支は8000億円の黒、このペースで行けば年間10兆円の黒字国です。

 冗談「半分」で言えば、この上、貿易収支も黒字だったら、日本は超大幅黒字国で、またプラザ同意やリーマンンショックのように、円高に押し込められるかもしれません。

 20年の円高不況は日本経済に大きな爪痕を残しました。非正規社員の著増、格差社会化。教育訓練・人材育成費用削減による現場力の低下、単純ミスの増加、メンタルヘルス問題の多発。無職者の犯罪の増加、技術革新の遅れ、対外援助予算の削減、などなど。

 マネー資本主義跋扈の中で、円高を避けつつ、日本経済の再活性化を実現し、科学技術開発で世界をリードし、経済行動、社会活動における人間の在り方としても世界の規範となるような日本を再び目指すために、企業も、働く人たちも、それらを含めて日本全体が、改めて本格的な取り組みを始めたのが「今」というところではないでしょうか。

 先は長いのです。選挙の論戦も結構ですが、問題の本質を、人気取りや政争中心ではなく、日本の現状を客観的、論理的に分析確認し、進むべき最適な道の探求のために国民みんなで本格的に取り組まなければならない時なのではないでしょうか。


物価は上がる、賃金は上がらない、消費不況?

2014年12月09日 09時50分51秒 | 経済
物価は上がる、賃金は上がらない、消費不況?
 前々回指摘の第2点です。円安、原油等の海外価格上昇で物価は上がるが(さらに消費税の追い討ち)、実質賃金は上がらない。実質消費は縮んで景気は良くならないから政府は何とかすべきだ、ということで安倍政権は「賃上げ、賃上げ」と連呼しています。

 経団連は政府に迎合したのか賃上げ容認を言うようですが、具体的なことは言わないでしょう。連合は、当然賃上げ要求を言いますが、中身は「2パーセント以上」というもので。消費者物価指数の最近時点10月の前年同月比2.9パーセントより低いものです。

 これでは景気が良くなるはずはない、デフレに逆戻りなどといった極論もあるようですが、いかなる理解と行動が必要なのでしょうか。

 今、消費者物価が上がっている原因はマスコミも書いていますが、大きく3つでしょう。円安、海外の資源高、消費増税がその3つです。

 まず円安。円安で物価が上がるのは当然です。円高の時物価が下がる(デフレ)の反対です。日本の物価が(コストも)円安によって安くなるというのは、海外の物価に比べて(ドル建て)の話です。これが競争力回復、経済復活の原因です。国際的に安くなった日本の物価(円建て)には上昇圧力が掛ります。

 ですから、ここで大事なことは、安易に円建ての物価(コストも)を上げないことです。安易に賃上げなどして、コストと物価を上げてしまえば、円安のメリットは消えます。

 2つ目の海外の資源高については前回も触れました。これは国内で対抗する手段はありません。きっちり価格転嫁して国民全体で耐え忍ぶより外に方法はありません。

 第3の消費増税につては、国民所得の中で「官と民の配分」を変えるためのものです。民間の実質購買力を消費増税分だけ政府に移すということです。民間の富を政府に移すためですから、民間は耐えるよりありません。財政再建のためです。

 しかし政府は増税で得たカネを、政府支出として使います。GDPとしては、政府が使うか民間が使うかで同じことです。政府が無駄遣いすれば別ですが。
 
 こうしてみて来ると、円安、海外資源高、消費増税の3つとも、それらによる物価高は、国民が耐え忍ぶより方法はないのです。もともとこれらは「一過性」ですから、一定期間耐え忍べば、新たな国際競争力が付いた日本経済が成長を始めるとともに、家計の所得は増え、消費も増えていく段階に入ります。今はそのための調整期間です。

 安倍さんはポピュリストなのでしょう、すぐに良くなるようなことを言った手前、当面の人気を気にし過ぎて、消費税の先延ばしをしたり、解散に踏み切ったり、色々と大変ですが、もう半年か1年すれば、やっぱり日本経済は良くなったと実感できるようになるでしょう。前回も書きましたように、みんな「時間が解決する」問題です。
 
 日本人には間違いなく、こうした問題を適切に解決する能力はあります。連合の2パーセント以上という低めの要求にも、日本人、日本経済の底力を確りと理解していることが見えています。

円安で輸出企業・輸入企業の明暗への合理的な対処法

2014年12月08日 10時13分43秒 | 経済
円安で輸出企業・輸入企業の明暗への合理的な対処法
 前回提起した第1の問題、円安で輸出企業は儲かるが、輸入企業は損ばかりという現実に対してどう対処すべきかという問題を考えてみましょう。

 円安というのは円の価値が国際的に見て下がったということです。だから外国から買うものは高くなります。それでも円安の方が良いから、日銀も無理して円安にしたわけけです。そして確かに日本経済は復活しました。

 多くの人は、「輸出企業は得して、輸入企業は損する」と言います。その通りですが、その論で行くと今は輸入の方が多い(貿易赤字)のですから、損をする方が多いということになります。しかし日本経済は復活しました。何故でしょうか。

 円安で影響を受けるのは輸出企業と輸入企業だけではありません。日本経済全体です。日本経済全体のコスと物価が円安の分だけ国際比較して下がるのです。当然競争力は強くなります。損得勘定は全て円高になった時と反対です。

 国内産業と思いがちな観光地の旅館でも、国際競争力が強くなって、海外からの観光客が増えています。円安の恩恵は、本来日本の津々浦々まで行きわたるべきものです。

 そうした本来あるべき状態に出来るだけ近づけていくような政策(政府だけでなく、全ての産業・企業がとるべき)とは何でしょうか。

 まず、円安で輸入価格が上昇した分はきっちり計算して確実に価格転嫁することを奨励することです。もちろん便乗値上げは駄目です。
 それが当然の経済行動(商習慣)になれば、輸入関連企業が損ということはありません。

 それで物価が上がっても、輸入依存度はGDPの約1割です。2割の円安でも物価全体に与える影響は2パーセントで、こんな円安がいつまでも続くことはありませんから、1~2年の一過性の上昇です。
 
 更に必要なことは、国内のコストと価格が下がるわけですから、輸入品より国産品が有利になります。このメリットを徹底的に活用することです。完成品でも部品でも、サービスでもすべて日本品、日本のサービスが円安分だけ有利になります。これを意識して確り活用することです。円高の時安い外国品が入ってきたのと反対です。
 こうした動きには、多少時間がかかります。しかし企業も消費者も(円安が続く限り)自然に対応していくでしょう。
 
 ついでに、原油価格値上がり(最近は下がっていますが)などの、海外インフレの影響について考えてみましょう。
 海外で価格上昇が起き、日本で輸入価格が高くなるのは、いわゆる輸入インフレです。これは、経済用語で言えば、「交易条件の悪化」で、例えて言えば、原油価格が高くなった分だけ、日本から産油国に貢物をしたということです。

 ですからこれには、国内政策で対抗することは出来ません。きちんと価格転嫁して、貢物の分だけ減少したGDPで国民が我慢するしかないのです。
 第一次オイルショックの時は、賃上げで取り返そうとしましたが、それは大幅インフレ(26%)とゼロ成長を齎しただけでした。
 原油が値下がりすればその分は返ってきます。

 今の経済論争には、争点の不明確な選挙戦に無理して争点を作っているような面があるのではないでしょうか。ほとんどの問題は時間が解決する性質のものです。

円安とインフレを正確に理解しよう

2014年12月06日 15時54分20秒 | 経済
円安とインフレを正確に理解しよう
 $1=¥120前後まで円安が進み、「円安の弊害」があちこちで取り上げられるようになりました。
 リーマンショックで120円→80円という円高になって、円高の苦痛が日本中で大変深刻だったのは数年前です。
 120円に戻ったら、今度は円安の弊害が言われます。問題はいろいろあると思いますが、ここは冷静な判断と、適切な政策、そして国民の合理的な行動が必要でしょう。

 「基本的」には、自国通貨の評価が上がること(円高)は、その国の経済にマイナスの影響を持ち、逆に自国通貨の評価が下がること(円安)はプラスの影響を持ちます。
 これは「為替レートとゴルフのハンディ」(2014年7月15日付)で説明した通りです。

 しかし、経済というものは、不都合があれば、その不都合に適応するように行動する(人間の体などと同じ)ものですから、その不都合がなくなると、今度は元に戻すのに結構手間と時間がかかるのです。

 今、大企業・輸出企業はもうかり、中小企業・輸入原材料を多用する企業はかえって厳しくなるという状態や、物価は上がるけれども、賃金は上がらないから消費が伸びず、景気回復が進まないなどと言った状態は、「元に戻すのに結構手間と時間がかかる」と言うプロセスの真っ只中にいることの結果でしょう。

 このプロセスを放置することは、どちらかと言えば「知恵の無い」ことで、円安という条件変化の本質を確り把握して、適切な政策をとれば、新しい状態への適応をより早くすることが出来ます。

 もちろんこんなことが起きるのも、今の国際金融制度が「マネー資本主義」に便利なように出来ていて、為替レートが国際投機資本の思惑で常に乱高下するようなことになっているからで、これをもう少し為替レートは安定するような仕組み(例えばクローリングペッグ制やバンド制、通貨委員会制などなど)考えるべきという意見はありますが、今はそうなっていないので、現状に対応するしかありません。

 現状指摘されている主要な問題は、先ほど触れましたが、一つは輸出企業が儲かり、輸入企業は損をするということでいいのかという問題、もう一つは、円安で輸入品が値上がりし物価が上がるのに賃金は上がらない、その結果、消費は不振で、景気回復が遅れてしまう、3つ目は、円安になったのに、予想より輸出が伸びない、などの問題でしょう。
 これらの点を一つ一つ見ていってみましょう。