tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

2017年、「少し良い年だった」でしょうか

2017年12月31日 14時47分20秒 | 経済
2017年、「少し良い年だった」でしょうか
 今年も、多くの方々のご訪問、誠に有難う御座いました。
 アクセス数も何となく増えてきているように感じられ、来年も頑張ろうと思っているところです。

 ところで、今年は皆様にとって良い年だったでしょうか。私にとっては個人的な事情であまり良い年とは言えませんでしたが、このブログの主要テーマである日本の経済、経営にとっては、少し良い年になってきたという所ではないでしょうか。

 政治的には、国内政治は情けなくなる様な酷いものでしたが、外交面では多くの問題を抱えながら、多くの国々と、日本らしい共生と共栄を目指すという「役に立つ、しかし人畜無害な国、日本」という印象を何とか維持するようなことが出来たように思えます。

 国内では政府のカネの使い方はうまいとは言えませんが(それで種々トラブルが起きていますから)、外交面では、日本の経済協力に感謝している国は多でしょう。

 国際関係でこうした立場が取れるのも、日本経済が健全で、外国から金を工面するなどと考えずに、相手国に役に立つことが思い切って出来るという条件があるからです。
 政治家はそういう経済を作り上げている日本国民の真面目な働きにまず感謝すべきでしょう。

 政治家の役割は、国民の経済活動というプレーに口出しをすることではなく、良いプレーが出来る環境を整備することでしょう。
 その意味で、最も基本的な環境条件である「円レート」を正常に戻した($1=¥110~120に)ことは、プラザ合意の大失敗を取り戻したという点で、高評価すべきでしょう。

 それから足掛け5年になりますが、その間、馴れない大変化に戸惑っていた国民、企業労使も次第にやるべきこと、出来ることがハッキリして来たのではないでしょうか。
  プラザ合意の円高に対応するには10年かかりましたが、円安への適応は5年でした。今年から日本経済は健全な成長路線に乗り始めたのではないかと私は感じています。

 ゼロ金利で円安を実現した日銀は、その成功体験から、未だにゼロ金利に固執しているようですが、この辺りは、国が正常な経済の環境条件を整える作業の一環としてしっかり対応すべき残された問題でしょう。
 それに、もう少し長期な、財政再建問題への取り組みも付け加えておきましょう。

 来年は、迫りくる消費増税の問題も加えて、これらの問題への本格的な取り組みが否応なしに必要になるでしょうから、対応さえ誤らなければ、日本経済は安定成長軌道に乗ることが十分可能と考えています。
 そう言い切る理由は、日本人の真面目な勤勉さ、それに近頃はスマートさといった概念も持ち込まれてきているようですから、といったところにあります。

 来年は、この辺りを巧く成功路線に載せたいものです。(為替レートさえ安定していてくれれば)古来日本の諺に言う「稼ぐに追いつく貧乏なし」は実証されるのはないでしょうか。

今年から変わったGDPの計算基準

2017年12月30日 23時51分05秒 | 経済
今年から変わったGDPの計算基準
 先月11月7日に「政権の成長率論争の不毛」を書きました。
 民主党時代より安倍政権になってからの方が経済成長率が高いかどうかといった問題でした。

 あの時の視点は、経済成長は、多様な要因が絡まった結果で、車の様にアクセルを踏んだからすぐスピードが出るといったものではありませんといった意味で、そんな論争は不毛ですよと書いたのですが、その時、最近の経済成長は、GDPの計算方式が変わったことの影響を受けているという解説がありました。

 実は今年からSNA(system of national account)は変わっています。遡って改訂した数字も出ているようです。このブログで見て来ました四半期ごとのGDP速報も、2009年に国連で採択された2008SNAに準拠するように変更されています。

 その結果、GDPは少し大きくなりました。ご存知の方、お気づきの方も多いと思いますが、年末でもありますので、今年採用の方式の要点だけでも記しておきたいと思います。

 この方式が国連で新しい国民経済計算の基準としてふさわしいとされた理由は、研究開発の重要性(投資としての重要性)をGDPに反映できるようにしたいという事だと思われます。
 日本では「米百俵」の逸話にもありますように、人間に対する投資(教育)の重要性は言われていますが、GDP計算ではそこまで行くのは困難で、さしあたって企業の研究開発投資を設備投資と同じように、資本支出として、GDPの構成要素にしたいという事が中心のようです。

 では具体的のどうなるかといいますと下のようです。
旧計算:国全体の産出100で、内訳が、中間消費50、資本支出20、消費支出30
新計算:国全体の支出100で、内訳は、中間消費40、資本支出30、消費支出30

 という形になり、これまで中間消費として材料部品などの経費と同じに扱われていたR&D(研究開発)に支払った経費10が、機械設備などと同じように資本支出に勘定されて、中間消費が10減り、資本支出が10増えて、GDPは50だったのが60になるという事です。

 現実の経済活動そのものは何も変わらないで、研究開発の10がGDPに入るだけですから、GDPが大きくなったからと言って、経済成長が高まったわけではありません。研究開発の効果で将来成長率が高まるという事(期待)でしょう。

 国民経済計算は三面等価ですから、上の数字は支出面で、生産面では、(カッコ内旧計算)中間投入40(50)、付加価値60(60)、分配面では、営業余剰30(20)、雇用者報酬等30(30)でGDPは支出面、生産面、分配面共に60となります。

 このほか防衛装備品の扱いも資本とされますが、これは、政府の消費支出が、政府の資本支出になるだけで、GDPは変わりません。

 GDPの概念も少しづつ変わるのかもしれませんが、人間が豊かで快適な生活をする原資がGDPと思っていましたら、豊かになる可能性もGDPに入ることになったようです。
 また、労働問題、労使関係で言いますと労働分配率は、下がることになりそうですので、その辺りで誤解のないようにすることも大事でしょう。
 年が明ければ春闘ですが、労使間でどんな話になるのでしょうか。

人口論議と合計特殊出生率

2017年12月29日 15時21分31秒 | 社会
人口論議と合計特殊出生率
 このブログでは、ずっと「合計特殊出生率」の動きを追ってきました。
 高度成長時代末期から高齢化問題が言われ、それが少子・高齢化問題になり、人口減少問題になってきたというのが従来の動きです。

 日本の合計特殊出生率は戦後のベビーブーム時代以降一貫して下がり続け、今世紀に入っても2005年までは下がり続けました。
 合計特殊出生率というのは、ご承知のように、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す数字で、2.1人ぐらいでないと人口が減るという事になります。


 2005年の1.26人という数字は「1.26ショック」などと言われたショッキングな数字で、このままいくと、将来日本人はいなくなるなどと言われ、日本中が合計特殊出生率の低下を心配する雰囲気になりました。

 そのせいかその後はこの数字は徐々に回復をはじめ、1.4人台まで回復してきています。2.1人にはまだかなりありますが、多くの予測では、この回復はまだ続いていくだろうという事のようです。

 少子化は高齢化に繋がり結局人口減少につながるわけですから、高齢化は社会保障問題を難しくし、人口減少は経済成長を困難にするという事で、政府も当然心配しています。

 しかし見方はいろいろあって、狭い日本に1億2千万人は多すぎる、8千万人ぐらいが丁度良いのではないかとか、人口が減っても、1人当りの数字が高くなれば、暮らしは良くなるから問題ないなどという意見もあります。これも量から質への転換でしょうか。

 常識的に考えれば、人口が増えるにしても減るにしても、急激に変化すると、社会システムや人の意識が追い付かず、いろいろ問題が起きるので、あまり急激に変化するのは良くないといったところでしょうか。

 その意味では2006年以降の合計特殊出生率の上昇は歓迎すべきことで、さらに当面1.8人ぐらいまで上がり、その後はその後で改めてより良い方向を考えるなどと言うのが良いのかななどと言った意見もあるようです。

 ただ、問題は、合計特殊出生率といった数字は、政策でどうなるといった数字ではないことでしょう。
 世界では出生率が回復した国の例として、フランスやスエーデンの例が挙げられますが、フランスでは世界一手厚いと言われる子供手当制度を実施しても何十年も出生率は上がりませんでしたし、スエーデンで出生率が上がって来たとき専門家の方にお伺いしても、「理由は良く解りません。ただ、そんな雰囲気になってきたことはありますね」などと言った返事でした。

 今日本で出生率が上がってきている理由も、誰もうまく説明できないでしょう。しかし上がって来ていることは、良い事だと思います、このまま、こんなペースの上昇が続いてくれればいいなと思っていますが、今年6月に発表になった2016年の数字は微減でした。

 最近の電車の中のベビーカーの様子とか、街を走る子供シート付の電動アシスト自転車の数などを見ていると、回復基調は続いているように思いますが、さて今後の「合計特殊出生率」の動きはどうなるのでしょうか。
 順調な回復傾向が続くことを期待したいと思っています。

経済は少し暖かく、政治は寒々の年の暮れ

2017年12月28日 16時02分34秒 | 国際関係
経済は少し暖かく、政治は寒々の年の暮れ
 この表題は、日本というよりも、世界という意味で書きました。確かに日本も経済は少し暖かく、政治は寒々ですが、世界を見渡すと、超大国も含めて、政治は本当に難しいですね。

 世界経済は、有難いことに少し、暖かくなってきたようです。OECDは世界経済の見通しを11月時点で3.5%の成長から3.6%の成長に引き上げたようですし、アメリカ経済もなんだかんだ言いながらも雇用も順調、物価も目標の2%に近づいているようです。

 ヨーロッパも政治的にはいろいろ揉めながらも、経済の方は比較的堅実な動きのようで、アジアをはじめ、新興国も途上国も、結構元気が良くなっているようです。
 経済が良くなれば、政治もやり易くなると思うのですが、政治は政治で、また、全く違った問題がいろいろあるようで、なんでそんなことにあるのかな、もう少しいい考えはないのかな、などと思いながら、何か薄ら寒くなるような気持ちです。

 勿論、北朝鮮とアメリカの脅しあい、口撃戦のエスカレートもそうですが、トランプ大統領の政治自体も、アメリカ内部でも人気がイマイチのようで、ギャラップ調査では「尊敬される男性」の第1位はオバマ前大統領、トランプさんは第2位にあまんじたそうです。

 覇権国アメリカの大統領が、対北朝鮮では国連決議を徹底活用しながら、エルサレム問題では、一転、国連決議を無視するといったことを平気でやるのですから、世界政治も寒々です。アメリカからのクリスマスカードに「困ったことです」と書いてありましたが、アメリカの政治はどうなっているのでしょうか。

 アメリカと覇権を争うと言われる中国は、習近平さんが地位を固めたようですが、香港との関係、国内の言論弾圧などは国際的にも問題指摘が多いようですし、一帯一路構想も、中国製品の売り込み(石炭火力発電の売り込みなど)との抱き合わせといった見方もあり、純粋にヨーロッパとアジアをつなぐ共存共栄の経済発展の構想なのかは見えて来ません。

 もう1つの大国ロシアですが、世界有数の石油・ガス資源を誇り、経済発展加速の段階でしょうが、政治面では、領土的野心が見え見えだったり、大統領選挙を控え、形は民主主義選挙かもしれませんが、政敵を立候補出来ないように追い込むといった様相で、国際的にも批判は絶えません。

 ロシアとヨーロッパの間が平和になれば、世界は大きく変わるのでしょうが、ベルリンの壁崩壊でちらっと見えたそうした可能性も、今は昔という北の寒さです。

 経済が温かくなったら、政治も雪解けが始まってくれればいいのですが、人間の性なのか、政治というものの性なのか、はたまたリーダーになる人間の性なのか、政治というものは本当に難しくて困ったもののように感じられる年の暮れです。

輸入物価、企業物価、消費者物価の関係

2017年12月27日 22時28分36秒 | 経済
輸入物価、企業物価、消費者物価の関係
 一昨日、12月25日のこのブログで、来年度の政府経済見通しを見ましたが、その中で、消費者物価については、前年度実績が-0.1%、今年度の実績見込みが0.7%、来年度の見通しが1.1%になっていることを指摘しておきました。

 年金が目減りするわれわれ高齢者にとっては、多少の貯金があっても、利息は殆どつかない中で、物価が1%以上上がったら、実生活の目減りは些か厳しいことになるな、と感じるところですが、政府の目標は2%ですから致し方ないかとも思うところです。

 そんなことで、今回は物価について少しデータを並べてみました。取り上げたのは輸入物価、企業物価、消費者物価の3つの主要物価です。数字は、各月の対前年同月の上昇率です。グラフを下に掲げました。


 青色が輸入物価指数ですが、昨年12月まではマイナスでした、資源価格の値下がりが中心でした。ところが今年になって上昇に転じ、最近はガソリンスタンドの価格表示も随分高くなりました。11月分は速報ですので、変わる可能性があります。10月は確報で、対前年15.4%の上昇です。

 茶色の企業物価は似た動きで、昨年末を境にマイナスからプラスに転じていますが、上がり下がりの幅はずっと小さくなっています。

 緑色の消費者物価になりますとこれは殆ど安定で、昨年10月は0.1%、だんだん上がってきて、今年の8月9月は0.7%の上昇ですが、10月は0.2%、11月(速報)が0.6%です。

 この3つの物価の関係を考えてみますと、輸入物価は日本の場合、主として資源(原材料)で、これは国際価格で動きます。
 資源価格はマネーゲームの対象になりますから、どうしても高い時はより高く、下げるときはより低くといった乱高下になりやすいものです。

 その影響は、資源の多くを輸入に頼る日本の物価に当然出ます。結果は、企業物価に表れています。しかし企業物価の方が、輸入物価より振れ幅がずっと小さくなっているのは、企業の販売価格に占める輸入原材料価格の比率は、その企業の生産物の加工度が高いほど小さくなりますから、国内の加工コストで薄められることになるからです。

 輸入コストが高くなったと言っても、納入先の企業が、簡単には値上げを認めてくれないという事もあるかもしれません。
 
 消費者物価になりますと、外国産のトウモロコシや、豆、小麦、牛肉などを使っても、コーンスープや、豆腐、パン、牛丼などに占める輸入品の価格は1割以下の場合が多いですし、サービス関連などでは「輸入品?関係ないね」となります。

 日本のGDPに占める輸入の比率は10%強程度なので、GDPデフレータ(総合物価)で見ても、輸入品が1割上がってせいぜい1%ちょっとの影響しかないわけです。
 つまり、輸入品の価格が上がっても、最終製品(サービス)の価格は陸揚げされてから日本の国内でかかる、加工コスト、物流コスト、販売コストの方がずっと大きいので、消費者物価の上昇率を決めるのは、ほとんどが国内価格、その太宗は人件費という事になります。
 それに加えて、生鮮食料品のように天候などによって乱高下するものがありますから、そちらの影響の方が大きく出ます。

 こうした観点から、来年度の政府経済見通しの物価を見てみますと来年度の企業物価は2.3%の上昇で、消費者物価は1.1%の上昇という見通しです。
 多分輸入物価は上がり続け、人件費の方はそれ程上がらないという見通しなのでしょうが、今年度の消費者物価上昇0.7%に対して、来年度は1.1%が見通しという事は、3%賃上げの実現を見通しているのかもしれません。

消費支出に動意?これからに注目を!

2017年12月26日 12時31分03秒 | 経済
消費支出に動意?これからに注目を!
 今朝、総務省統計局から2017年11月分の家計調査報告の速報が発表になりました。
 TVニュースなどでは「消費支出3か月ぶり増加」などと報道されていますが、中身を見ますと、何か、家計消費に動きが出たような様子も見られますので、その辺りを取り上げてみました。

 家計調査の中心である2人以上世帯で見ますと、11月の消費支出は、一所帯当たり277千円余で、前年同月に比べて2.4%の増加、住居や自動車購入といった特別なものを除く「除く住居等」では、242千円弱で、同3.4%の増加になっています。(いずれも名目値、実質値は物価上昇0.7%を差し引いた値)

 注目すべきは「除く住居等」の3.4%増で、これは、耐久消費財なども入っていますが、ほぼ日常の買い物といった概念で捉えて良いように思います。
 昨日のブログで見ました政府経済見通しの2017年度の個人最終所費支出の伸び(実績見込み)は1.6%、来年度の見通しでも2.1%の伸びですから(いずれも名目)、3.4%というのは大きな伸びです。(政府経済見通しでは民間住宅は別計上)

 このブログでいつも気にしております勤労者所帯の「平均消費性向」はどうなっているのかと見てみましたら、可処分所得361千円、前年同月比2.7%増の中で、消費支出301千円の伸びは2.4%で、平均消費性向は83.4%、残念ながら昨年11月の83.6%から0.2%ポイントの低下でした。

 しかし従来、可処分所得が増えても、消費が増えない傾向が強かったのに比べれば、何か消費に動意が見えているような気がします。

 以上は「速報」よりですから、確報までには変更もあるかもしれませんが、家計調査は毎月出ます。年明けの1月末には12月分の速報が出て、年末商戦の様子も数字で見られるでしょう。
 これからの消費需要の活発化に期待して、見守っていきたいと思います。

平成30年度の政府経済見通しを見る

2017年12月25日 20時13分25秒 | 経済
平成30年度の政府経済見通しを見る
 去る22日、来年度予算案が閣議決定されましたので、近く、分配国民所得なども入った政府経済見通しが出るはずで、それが発表になれば、政府が考えている来年度の賃上げの水準なども計算できるはずですが、その前に、19日の閣議了解の後発表された政府経済見通しについて、重要なところを見ておきたいとおみます。

 先ずは経済成長率ですが、
名目値:28年度 1.0%(実績)、29年度2.0%(実績見込み)、30年度2.5%(見通し)
実質値:28年度 1.2%(実績)、29年度1.9%(実績見込み)、30年度1.8%(見通し)
 となっていて、名目値では年々増加ですが、実質値では、来年度の上昇率は今年度よりも0.1ポイントですが、低い見通しになっています。

 今年度と来年度の大きな違いは、今年度はGDPデフレータはほとんど上がりません(0.2%)が、来年度は大きく上がって0.8%になるという見込みです。政府は2%インフレを目指していますが、あまり物価が上がることは、国民の多く、特に年金の手取りが減るような高齢者には困ったことですが、残念ながら、政府見通しは、2%インフレに近づくことの方を向いているように思えます。

 GDPデフレータに触れたついでに、GDPデフフレータと消費者あ物価について見ますと
GDPデフレータ:28年度 -0.2%(実績)、29年度0.2%(実績見込み)、30年度0.8%(見通し)
消費者物価指数:28年度 -0.1%(実績)、29年度0.7%(実績見込み)、30年度1.1%(見通し)
 となっていて、政府の説明では、「景気回復による需給の引き締まりで」となっていますが、需給の引き締まりというのは買い手が多くなって品薄になるという事でしょうから、政府は消費需要が伸びてくるとみているという事のようです。
 
 それほど消費が伸びるというのは、消費不振に悩む日本経済ですから、大変結構なことですが、GDPの名目増は2.5%、実質増は1.8%で、一方民間最終消費支出の伸びは名目で2.1%、実質で1.4%ですから、消費よりも生産の方が余計伸びているわけで、需給の引き締まりというのは、特に消費物資で起きるのかなという感じがし、消費者物価が上がった方が良いと考える政府と生活者である家計の感覚の違いがあるようにも思えます。

 働く人の数を見ますと、就業者数の来年度の伸びは0.5%、雇用者の伸びは0.7%と見通されていますから、労働需給は相変わらずタイトで、人口減少、高齢化の中でも、勤勉な日本人の勤労意欲は衰えないという見通しのようです。

 ところでGDPに、海外で日本人日本企業が稼いだ分を加えたGNI(国民総所得)を見ますと、来年度のGDPは564兆円、GNIは586兆円で、日本人が使えるカネは、GDPより22兆円多いという事になります。
 この分は、経常収支黒字の22.8兆円とほぼ見合っていて、政府の説明では、GDPと同じくらいの伸び率としか書いてありませんが、あまり経常黒字が増えると、円高になりやすいので、そのあたり、政府がど考えているのか聞いてみたい気がします。

2018年度予算案:国債依存度は微減

2017年12月24日 20時42分21秒 | 政治
2018年度予算案:国債依存度は微減
 来年度の予算案が22日、閣議決定になりました。予算規模は史上最高97.7兆円、みんなが心配している国債依存度は34.5%で、リーマンショック後に比べれば、かなり下がってきましたが、健全化には程遠く、 プライマリーバランス達成には、税収が10兆円も足りません。

 安倍政権は、2020年度のプライマリーバランス達成は諦め、「ただし財政再建の旗は降ろさない」といういい方に変えました。
 財政再建の旗を下ろしますとは責任ある政権としては絶対言えませんから、具体策は言わず、精神論だけにして「出来ませんでした」と言わなく済むようにしたのでしょうか。

 そんなことで済むのも、日本国民は真面目で、政府が出す国債のほとんどが国内での消化(90%以上)で、外国からいろいろ言われることがないからでしょう。国民の勤倹貯蓄精神で成り立っているのが日本の財政です。

 ここでちょっと国債依存度の推移を見てみますと、下のようです

 バブルで一番潤ったのは政府だなどと言われましたが、バブル崩壊の後も税収は景気に遅れますので国債依存度は10%ほどです。バブル崩壊の後、財政依存が強まり1997年にはアジア金融危機などもあり、90年代の終わりにかけて国債依存度は急増しています。

 2003、2004年度をピークに依存後は下がりましたが、これはいわゆる「いざなぎ越え」の円高不況からの脱出のプロセスです。しかし世の中巧く行かないもので2008年にはリーマンショックが起き、財政出動が必要になります。国債依存度は50%に近づいています。

 2013年からは、日銀の異次元金融緩和で円高デフレは終わり、為替レートの正常化で、日本経済は上昇軌道に乗ります。
 しかしそれ以降の国債依存度はどちらかというと下げ渋りといった状況です。2014年4月からの消費増税も、このグラフでは目立つほどの効果はなく、その後の2回に亘る10%への引き上げの延期で、支出は伸びますから、国債依存度はますます低下しにくくなっています。

 政治家にとっては、消費増税は命取りとった過去の経験もあり、アベノミクスも思うようにいかず、焦りも大きかったのでしょう、安倍さんは消費増税延期の際、2020年のプライマリー・バランス達成には関係ありませんと言っていましたが、結局はギブアップでした。

 予算の中で最大なのは勿論社会保障費で33兆円、国債発行額は34兆円弱ですから、単純に見れば、社会保障費全額が国債で賄われっているという勘定です。しかし国債費(国債の償還・利払い費)が23兆円を超えているのですから、34兆円発行しても、正味10兆円ほどしか使えないといったことになります。

 消費増税に賛成の意見も多くなっています。やはり「旗を掲げる」だけではなく、本気で財政再建を実行することが大事になってきているようです。


国民の冷静な行動に支えられて

2017年12月23日 14時54分15秒 | 政治
国民の冷静な行動に支えられて
 前回も含めて、近年の春闘については、軽率にはしゃぎすぎる政府(安倍総理?)の態度に些か批判的なことを書いてきましたが、幸いなことに、国民や企業の方は極めて冷静で、現実の経済に整合的な態度で事に処してきているように思います。

 結果的に、日本経済は徐々ながら着実に健全な成長路線に向かって進みつつあるように思います。
 これまで日本経済の回復が遅れた原因は何と言っても、消費不振、統計で見れば、低い賃金上昇率というより平均消費性向の低下にありました。
 
 原因は、政府の意識的に演出したり煽ったりしている将来不安(人口減少、老後不安、不安定雇用の増加、政府債務の増加、などなど)にあるようですが、勤勉な日本人の働きがそうした将来不安を徐々ながら薄めていくように思います。

 政府は大変だ、国難だと言ったほうが、国民に関心を持ってもらえると思うようですが、国民はもっと冷静なのではないでしょうか。
 国民の貯蓄は年々増えていますし、雇用は堅調、物価安定の中で賃金も上昇傾向がみえてきていますから次第に消費性向も上昇が予想されます。

  今、企業経営はかなり積極的ですから、これで消費が少しづつ出てくれば、日本経済のバランスはよくなり、健全な安定成長路線に乗る可能性は強くなっているように思います。
 身近な例ですが、例えば、最近タクシーがつかまりにくくなっていませんか?

 前回指摘しましたように、2018春闘では、連合の賃上げ(ベースアップ)要求の数字2%より、政府の賃上げ介入の数字3%の方が高く、経団連がそれを認めているようなおかしな関係になっていても、現実の企業の場での賃金決定は、それぞれの企業の自主性の中で、労使が合意できる水準に収まっていくでしょう。

 現状の経済情勢、企業業績の中では、多分前年より高めのものになるでしょうし、しかし、インフレ率を2%にするようなお高い賃上げ率にはならないと思っています。

 これから年が明け、労使の春闘の旗開きがあって、真剣な交渉が重ねられ、3月中には大手の山場を越えるという例年と同じ動きの中で、しかるべきところに落ち着いていくでしょう。

 そして期待されるのは、この所の家計の消費に対する意識、態度です。
 これまでは賃金が上がっても、それが消費に反映せず、貯蓄性向が一方的に高まる様相が見られました。
 これからは、日本経済として最も期待されるように、消費意欲の高まりが次第に顕在化するのではないでしょうか。

 そうなった暁には、恐らく安倍政権は「 アベノミクスの大成功」と自画自賛するでしょう。しかし、冷静に日本経済をみている人たちは、その実態は、日本の企業労使、国民全体の、勤勉で真面目な努力の結果と理解しているはずです。

  安倍政権が謙虚で愚直であるならば、その際に、自分のことは兎も角、日本の国民の勤勉な努力、労使の賢明な判断で、日本経済は健全に前進しています、政権を代表して、国民の皆様に感謝しますというのではないでしょうか。

2018春闘、奇妙な展開になりそうですが?

2017年12月22日 15時09分37秒 | 労働
2018春闘、奇妙な展開になりそうですが?
 マスコミによれば、経団連が2018春闘で、参加企業に3%賃上げを呼びかけるという事のようです。
 経団連の「経労委報告」は、1月になって出されるのが通例ですから、マスコミ報道はスクープなのか、それとも経団連が意図的に漏らしたものかわかりませんが、政府の「賃上げした企業には法人税を負ける」という発言と、平仄があっているので、「フェイク」ではないかななどと納得しています。

 政府が春闘に介入するのも異常ですが、経営サイドが賃上げのガイドラインを数字で示すというのは、日本でも滅多にないことで、昭和50年春闘で、当時の日経連が15%以下という数字を示して以来2回目です。

その時は、第一次オイルショック(昭和48年秋)のあとゼロ成長だった昭和49年春闘で32.6%の賃上げが行われ、日本経済が年率22%にインフレになり、一部にパニック状態が起きた時で、インフレ抑制が目的でした。

 今回は日本経済はほぼ順調で、しかし、消費不振が経済成長の足枷になっており、政府の掲げたインフレ目標の2%まで物価を上げるために、先ず賃上げ率を高めようという事のようです。

 一方、労働側の連合は「ベースアップ2%」という要求で、数字だけ並べれば、組合に要求が低く、経営者側の回答方針の方が高いという、逆立ち賃金交渉になっています。
 連合に言わせれば、ベースアップは2%だが、定期昇給2%相当があるので合計4%という事で、しかし定期昇給はすでに賃金制度・賃金協約などで決まっているものですから、要求はしないという事でしょう。

 政府はこの辺りの細かいことは多分解っていないので、毎年発表になる「春闘賃上げ率」(ベースアップ+定昇)を3パーセントに引き上げて、インフレ・ターゲットに繋げたいという事でしょうが、「なぜ」ターゲットが2%なのかこれは誰も知りません。

 2%ターゲット決めた経緯から言えば、アメリカのFRBがゼロ金利政策をとる際2%と決めたのをそのまま借用、という事のようですが、インフレ率とか失業率というのは、国によって正常とする水準が違うのが普通です。日本やドイツなどはインフレ率が低い国、アメリカやイタリア、フランスなどは高くなりやすい国というのが常識です。

 マスコミに出る専門家が、「インフレ率2%は国際標準」などと言っていますが、どこの経済学にも、そんなものはありません。
 失業率ならば、アメリカは5%台なら完全雇用状態、日本では2%台で完全雇用常態というのが常識でしょう。

 問題はいろいろありますが、一番解らないのは、3%賃上げをした企業に税金を負けるとした場合の3%とは何かという問題です。

 経団連の3%の背後には、安倍さんの3%賃上げがあるのでしょうが、政府からすれば、経済成長促進のために賃上げを奨励しているのでしょう。ならば、企業の払う人件費が増えなければ効果がありません。
 残業代が減ったから3%賃上げしました。賃金の高い高齢者の退職が多かったので3%賃上げの原資が出ました。人減らしをして3%賃上げしましたでは効果はありまあせん。
 逆に、賃上げは3%に届きませんでしたが、採用を増やしたので人件費は5%増えましたといった場合は、経済成長には貢献大でしょう。

 賃上げした企業には税金を負けるというのでしたら、賃上げに税金の補助金を出すという事ですから、誰もが納得する基準が必要でしょう。
 多分、各産業・各社各様の労使交渉に、政府が介入するからこうしたことになるのでしょう。

 賃金決定は労使の専管事項というのが「国際標準」と言えば、多分異議はないはずです。と言う事で政府は労交渉などに介入しないというのが、世界の常識なのではないでしょうか。 政府の仕事は別にあるように思います。

なぜ物価は上がらないのか:4 特に日本ではあまり上がらないのでは

2017年12月21日 13時33分54秒 | 経済
なぜ物価は上がらないのか:4 特に日本ではあまり上がらないのでは
 日米ともに2%というインフレ・ターゲットを決めて、物価を上げようとしたのですが、どうも思うように上げらないというので、前3回、「思うように上がらないのはこうした状況のせいではないでしょうか」という事を書いてきました。

 残された問題は、では「これからも物価はなかなか上がらないのか」という問題でしょう。
 結論から先に 言ってしまえば、私は、先進国と途上国の関係、社会の雰囲気、庶民の感覚、労働組合の態度などによって変わると思っていますが、現状は、急には変わらないでしょう。特に日本は、その傾向が強いと思います

 冗談から真面目な話しまでになりますが、消費税を2%上げれば消費者物価は2%上がります。しかしそれは話が違うという事でしょう。
 資源価格が上がって輸入インフレが起き、消費者物価が2%上がった。これはどうでしょうか。資源価格は上がったり下がったりします。これもダメですね。
 生鮮食品の値段が悪天候で上がったというも同じでしょう。

 2%インフレというのはどのように物価が上がることを想定しているのでしょうか。多分、景気が良くなって、自然に毎年消費者物価が2%ほど上がるというのが正解でしょう。

 どうすればそういう事が起きるのでしょうか。主要な条件は2つあると思います。1つはコストが毎年2%ほど上がって、値上げしないと採算が取れないという売り手、もう1つは、値段が2%上がっても買いますよという買い手、その双方が揃って、初めて成立するのでしょう。

 日本経済で言えば、コストは輸入物価(太宗は 資源価格)あとは国内の 生産要素の価格、つまり人件費と金利です。
 資源価格の問題は先ほどの通りです。金利が恒常的に上がり続けるという事はあり得ません。上げり続ける可能性があるのは人件費、つまり賃金だけです。

 しかし賃金が上がっても、生産性が上がればコストアップにはなりません。コストアップになるのは、生産性以上に賃金が上がった部分です。
 そして、この場合は、賃金が上がって、買い手の所得も上がっていますから、値上げの条件(消費者物価の上昇の条件)が揃います。

 2パーセントのインフレ・ターゲットというのは、例えば、賃金が3パーセント上がって、生産性が1パーセント上がって、その結果、消費者物価が2%上がって、賃上げ3%のうち1%は実質所得増となり、生活水準が1%向上するのを目指しているのでしょう。

 ならば、アメリカは2%インフレ・ターゲットですが、超高齢化を控えた日本では、インフレは1%にして、賃上げを2%、生産性向上1%という組み合わせでもいいのです。物価上昇で年金が目減りする高齢者にはその方が歓迎かもしれません。
 連合はこの辺りの事は良く知っています。だから大幅賃上げ要求はしません。

 残る問題は、インフレ率がある程度高い方が生産性を上げやすいかどうか、物価安定ムードより、物価も賃金も上がった方が、庶民は楽しい(年金生活者はつらいですが)、などといった問題でしょう。
  最終的にまとめれば、現代の経済社会では、物価問題というのは「物価は賃金と生産性の関係」で決まるという事を関係者が理解しているかどうかで決まります。
(ここまでの前提は、為替レートが安定していること、あるいは固定相場制です)

 1960年代以降の先進国は、その理解が不足していたため、賃金さえ上げれば生活が良くなるという考えが主流で、インフレからスタグフレーションという経済運営の失敗を重ね、その窮状から脱出するために、国際競争力の低下を、最終的に「変動相場制」で解決してきたという事なのでしょう。

 生産性と賃金の関係を早期に理解した日本(日本の労使)この失敗を避け「ジャパンアズナンバーワン」とまで言われましたが、 変動相場制の中で、円高の本質(恐ろしさ)を理解しなかったため、プラザ合意で円高を認め、この30年ほどはその結果の超長期不況に苦しんだという事でしょう。

 賃金と生産性の関係を理解し、変動相場制(自国通貨の切り上げ)の本質を知った日本は、もう、失敗はしないようにしたいものです。

なぜ物価は上がらないのか:3 ゼロ金利でも物価安定

2017年12月20日 12時29分29秒 | 経済
なぜ物価は上がらないのか:3 ゼロ金利でも物価安定
 第1回は、先進国社会のインフレの最大の原因は賃金コストインフレだという事、第2回は、通貨供給を増やしても物価が上がらないメカニズムについて書いてきました。今回(第3回)は、変動相場制の中での金利政策の意味について考えてみたいと思います。

 基軸通貨国アメリカのサブプライムローンの証券化に端を発した、世界金融恐慌に発展しかねない問題への対処のため、アメリカFRB議長(当時)だったバーナンキさんは、金融の量的緩和とともにゼロ金利政策をとりました。
 金融恐慌は金融緩和で防げるという信念の持ち主だという事です。

 その際、経済回復の目標の中にインフレ率2%というターゲットを掲げました。
 日本では日銀が、2013年、黒田新総裁のもと、アメリカに倣って異次元金融緩和を進め、インフレ・ターゲットもアメリカと同じ2%としました。この金融緩和は、翌2014年と二回にわたって行われましたが、その結果起こったことは皆様ご記憶の通りです。

 現実に起きたことは、2013年4月のいわゆる黒田バズーカでは円レートが90円から110円に、2014年10月の第二弾では円レートが120円水準になったという変化です。
 振り返れば、リーマンショック時のアメリカのゼロ金利政策で、円レートは120円から80円の円高になっています。

 詰まるところ、ゼロ金利政策といった、金融政策の劇薬で起きたことは、 為替レートの変動だったという事です。長期の円高デフレに苦しんだ日本には経済正常化への特効薬でした。

 ご記憶に新しいところでしょうが、日本の場合、異次元金融緩和で起きたことは、円安、というより、円レートの正常な(購買力平価などから見て)水準への復帰、それによる国際競争力と企業業績の回復、そして為替差益による企業の自己資本充実、さらに金融の量的緩和にも支えられた株価の急騰でした。

 これはまさに劇的な変化で、アベノミクス第1の矢は大成功でしたが、消費者物価はほとんど動きませんでした。
 伝統的な見方で言えば、企業経営は正常化し、収益改善、雇用環境改善という事になれば、賃金上昇率も次第に生産性上昇率を越え、インフレ基調の経済にという事だったのでしょう。このインフレ基調が、[経済好調のシンボル]だとして、(しかしインフレ率が高くなり過ぎないように)2%インフレ・ターゲットを掲げたのでしょう。

 しかし、現実はそうした予想通りにはなっていません。変動相場制のもとでの企業収益は為替レートで大きく左右されます。労働組合には、労働者の貢献で稼ぎ出したという実感がありません。企業も、従業員の働きで業績が良くなったと考えていないようです。
真面目な日本の労組の要求は、常にモデストです。賃金コストプッシュが起きそうにありません。

 しかし一部には、値上げが起きてきています。人手不足から正規労働者より賃金上昇率が高くなった非正規を多用するところ、例えば加工食品業界、サービス業界などでは、明らかに 値上げに動き出しています。

 日本の経済社会はアメリカとはかなり違います。超高齢化を控え、国民の生活態度は、キリギリス型ではなくアリ型(イソップ寓話)です。労使関係も違います。
 アメリカは資源国、日本は無資源国という点でも大きく違います。資源価格上昇で得する国と損する国です。

 しかし新興国との競争という点では同じ問題を抱えています。国内のコスト高で、海外投資重視という企業の視点も同じです。
 そうした中で、今、アメリカでも日本でも、かつてインフレの主因であった労働側からの賃金昇圧力が大きくないという現状が、インフレの高進を阻んでいるというのが、インフレが起きない最大の原因でしょう。

 しかし、社会の雰囲気が変われば、インフレという経済の病が亢進する可能性は何時でもあるのでしょう。
 なぜ物価が上がらないかという問題への答えは、これから、現実の経験が徐々に教えてくれるように思います。その辺も少し考えてみたいと思います。

なぜ物価は上がらないのか:2 機能しない貨幣数量説

2017年12月19日 15時15分10秒 | 経済
なぜ物価は上がらないのか:2 機能しない貨幣数量説
 物価とおカネの関係で伝統的な理論に「貨幣数量説」があります。通貨供給を増やせば、通貨と物のバランスが変わるから、物価水準は貨幣供給量の関数という説です。

 単純に言えば、物の量が同じで、通貨供給が2倍になれば、物価は2倍になるという事で、最近でも「ヘリコプターマネー」などと言われ、ヘリコプターで紙幣をばらまけば物価が上がるはずと主張する人もいるわけです。

 プリミティブな社会では通用したかもしれないこの理論は、庶民の知識が豊富になった今では、なかなか通用しません。

 典型的な例を一つ挙げますと、日本では1980年代後半、大幅な金融緩和が行われました。アメリカから教えられたようですが、2つの「前川レポート」特に「 新前川レポート」の影響は強く、政府の方針で、金融機関は貸し出し競争に狂奔しました。

 さぞかし物価が上がるだろうと思いきや、第一次石油危機でインフレの恐ろしさを熟知し、第二次石油ショックをインフレ高進なしで乗り切った日本人(労使)は、この金融緩和と経常経済を切り離し、消費者物価は極めて安定的で、カネ余りで高騰したのは不動産価格、ご存知の土地バブルでした。これは1991年のバブル崩壊で終わります。(これでまた日本人はバブルは良くないという知識を得ました。お蔭で異次元緩和がバブルに直結しません)
 
 あの土地バブルの最中に、消費者物価が安定していたことについては日銀前総裁白川さんも 気付いていて指摘されていたのを記憶しています。
 
 すでにこの時、日本はプラザ合意による円高で、主要産業の多くが競争力を失い、工場が海外に出ていき、製造業の空洞化が言われ、金融がいくら緩んでも、借金で投資や賃上げをして、これ以上コスト高になったら、やっていけないことを労使はともに知悉していたのです。こうした経験と知識の蓄積がインフレを阻んだのでしょう。

 量的金融緩和は、それが所得(最大の所得は賃金)に繋がり、コストの増加につながらない限り、経常経済(実体経済)のインフレ化にはつながらないための条件が、労使や庶民の知識の中に整備されて来ていたのです(前回のタクシー運転手の言葉)。

 では金融政策のうち、金利政策についてはどうでしょうか。
 金利を高くすることは借金している人から、貯金している人に「富」が移転するという事です。低金利・マイナス金利はその反対です。

 企業が借金をしていることを前提にすれば、金利を上げれば、企業はコスト増と資金不足で活動しにくくなって景気が悪くなり、不況になって物価も下がります。
 高度成長期、大蔵省(当時)の「法人企業統計」で、法人企業の自己資本比率の平均が13%(87%が他人資本という状態)といった時代には、金融引き締めはよく効いたようです。逆に金融を緩めると企業活動はすぐに活発になりました。

 今では企業の自己資本比率も上がり、個人貯蓄は1800兆円などと言われるので、低金利の恩恵は限られ、高金利になった方が消費は増えそうです。

 それなのに、政府・日銀は低金利、マイナス金利に固執しています。多分、いくら蓄積しても金利も付かないのなら、使った方が得だと感じて、経済活動が活発になると思っているのでしょう。しかし、蓄積社会ではこれは勘違いかも知れません( 低金利の罠)。

 消費活動が活発になれば、消費者物価が上がる効果があるというのならば、定期預金に3%、5%の金利が付けば、消費は活発になりそうです。

 しかし、黒田日銀は、異次元金融緩和・ゼロ金利政策で、現実に日本経済の復活を果たしました。これは紛れもない事実です。何故でしょうか? (以下次回にします)

なぜ物価は上がらないのか:1

2017年12月18日 22時19分16秒 | 経済
なぜ物価は上がらないのか:1
 長いサラリーマン生活の中で、好況不況の景気の波、その反映でもあるインフレ、デフレ、スタグフレーションといった物価の変動、そして、そうした経済の波への対策としての、経済政策、具体的には金融政策、財政政策、さらにそれらに絡む、労使関係、労働政策などの動きを経験しながら分析してきました。

 そうした経験を、折に触れてこのブログの中でも書いてきました。インフレの原因や問題点、デフレの経済活動への打撃、1970年を境に代わった固定相場制と変動相場制と、経済活動や物価との関係。高度成長やバブル景気、その崩壊、さらには基軸通貨国発の金融恐慌・・・、本当にいろいろあった時代でした。

 今、先進国で、なぜ物価が上がらないのかという疑問が提起されています。前々回書きましたように米FBRのイエレン議長も「なぜ?」と言っています。
 しかし、経済活動の現場でよく観察すれば、その理由もある程度理解できるのではないでしょうか。そんなことを少し書いてみたいと思います。

 先日、少し長い距離、タクシーに乗りました。「 街角景気」ではありませんが、運転手さんと話をしました。「給料安くて、大変だけど、小さな会社だし、無理言って会社がなくなれば、元も子もないからね。」一言で言えば、そんな心情を話してくれました。

 これは、物価がなかなか上がらないという問題についての素晴らしいヒントです。
 2014年の7月に「 インフレの原因1,2,3」を書きましたが、戦後の主要国の経済の中で、インフレの最大の原因は「賃金コストインフレ」でしょう。国民経済の7割前後を占める賃金が上がれば、企業は値上げをしないと潰れます。

 賃金が上がるきっかけになるものはいろいろあります。日本では、昭和30年代から春闘が始まり、合言葉は「大幅賃上げ」で、戦後の貧しさからの脱却が試みられ、経営側も高度成長予測の中で、毎年払い過ぎ、あとから値上げでしのぐ状況でした。

 1973年には、オイルショックがあり、原油価格が4倍に上がるという輸入インフレの中で74年春闘では、経済ゼロ成長の一方、33%の賃上げが行われ、一時消費者物価は前年比26%も上がりました。

 このインフレは数年かけて 労使の努力で正常化し、日本の労使は、賃上げとインフレの関係を理解することになりました。
 第2次オイルショックでは、日本労使はこの教訓に学び、賃金コストインフレを起こさず、世界から驚嘆の目で見られました。

 当時欧米主要国は、相変わらず高賃上げを続け、経営サイドの物価引き上げも限界に達し、コストアップが価格転嫁できずに減益を重ね、 スタグフレーション(先進国病と言われた)に呻吟しました。
 この脱出のために、英国のサッチャー政権は、4回の労働法改正を行い、労働組合の力を殺ぐことに注力、漸くスタグフレーション脱出を果たしています。最低賃金制も一時はなくしました。
 
 近年では、先進諸国は途上国に企業進出、先進技術と安価な労働の組み合わせで、安くて良い商品を輸入するようになりました。この経営政策は、どうも裏目に出ました。
 新興国との競争に敗れた名門企業は、GMやコダックをはじめバタバタと倒産です。自国内の賃金水準の高い労働力は失業、ラストベルトの出現です。アメリカでは、AFL-CIOも、昔のように賃上げ要求をすれば、会社が倒産することを知っています。賃上げには慎重になりました。失業が怖くて、賃上げに及び腰、という所でしょう。
 賃金コストインフレを起こしてきた労働組合の力は大きく落ちました。

 一方、金融の世界では、金融(通貨)とインフレの関係を昔の儘に信じている様子が見られます。この点は次回にします。

今、好況の中で企業にしてほしいこと

2017年12月17日 23時12分40秒 | 経営
今、好況の中で企業にしてほしいこと
 この所、いろいろな調査データなどを紹介し、景気の現状を見て来ました。
 結論から言えば、有難いことに今、日本経済は好調です。

 地球上、至る所にいろいろな問題はありますが、権力闘争というのは多くの場合リーダーたちの頭の中で始まることで、庶民は平和と安寧そして豊かで快適な日常生活を求めているというのが現実の姿でしょう。

 その意味では挑発合戦のようなことにかまけているリーダーたちも、庶民の心に気づいてくれることを望むばかりです。

 冒頭「有難いことに」と書きましたが、この有難いことが、リーダーたちの責任ある行動で、安定したものになることが望まれます。
 太平洋戦争の反省の上に立って、戦争をしない国であることを闡明している日本は、平和国家、文化、科学、経済の活動で世界に貢献することを目指してきています。
 それでこそ日本は世界から必要な国として認められるのです。

 幸い、日本は長期の低迷から脱し、今、好況に入り、今年の年末商戦は今までとは少し違ってくるだろうなどと見られています。
 多くの企業の健全性も増しています。厚くなった資本蓄積は自己資本比率の改善の表れています。

 経常収支の大幅黒字の主要部分をなす第一次所得収支は、日本企業が、海外で多くの付加価値生産を行い、現地経済に付加価値(豊かさ)をもたらしていることの結果でしょう。

 日本経済にとって大事な事は、こうした経済の活発な活動を、企業で言えば『ゴーイング・コンサーン』と言われるように、永続して安定的に継続することです。
 各種調査でも、好況がいつまで続くかには不安を持つ企業も多い事が知られます。

ならば今、企業の為すべきことは何でしょうか。それは明らかで、将来に向けての成長発展の芽を育てることでしょう。厚くなった資本蓄積を生かして、将来を支えるイノベーション、多様な意味での技術開発への注力です。

 折しも、人々の生活を変えるような変化の時代になりつつあります。交通システム(自動車・鉄道)、情報システム、AI、健康長寿、地球環境、それを支えるエネルギー革命、30年後、50年後、世の中は大きく変わるでしょう。

 これこそビジネスチャンスです。成功は革新的なイノベーションにかかっています。日本は、その多くの部分で先端を走っているようです。長期不況の中で、些か遅れをとっていたイノベーションに拍車をかけるための財務基盤は整っているはずです。

 通常技術は、賃金コストの低い新興国に任せてもいいでしょう。日本の狙うのは画期的な新技術です。例えば、有機ELパネルを印刷で作るなどはその1例でしょう。
 そして最後に付け加えれば、開発は全て、人間の頭の中から生まれるのです。ですから、根源は「人の育成」です。
 日本的経営は、人間中心、人間尊重が基本です。これからの日本に期待しましょう。