tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

輸入インフレと国内インフレの関係

2022年08月28日 12時02分55秒 | 経済
この所、欧米主要国と日本のインフレ率の違いが際立っています。
日本では消費者物価の上昇率は2.6%(7月)で、政府は大変だとか言っていますが欧米諸国は軒並み7~10%の上昇率です。

国際商品(原油、穀物など)の値上がりは世界共通ですから、国別の違いは、国際商品の価格上昇を国内に持ち込んでしまうかどうかによるのです。

まず日本の経験からその辺を見てみましょう。
1973年秋、OPECの戦略で原油価格が4倍になるという第一次石油危機が起きました。石油の99.8%を輸入という日本はまさにパニックになり、毎日使うトイレットペーパーや洗剤が作れなくなると大変とみんなが買いあさり、店頭から消えました。

物価はうなぎのぼりで消費者物価の上昇は20%を越えました。労働組合は、これでは生活が立ち行かないと1974年春闘では大幅賃上げを要求、1974年春闘の賃上げ率は30%を越えました。
その結果賃金インフレが起き、消費者物価はピークで26%まで上がりました。

つまり日本は、典型的な形で海外インフレを国内に持ち込む国だったのです。
しかし日本人は賢明でした。こんなインフレを続けたら日本は国際競争力がなくなって日本経済は破綻するという議論が労使の最大の問題になり、徹底した討論の末1975年の春闘の賃上げ率は13%に落ち着き、その後年々正常化してインフレは収まりました。

5年後の第二次石油危機ではOPECは原油価格を3倍に引き上げましたが、日本の労使は第一次石油危機の教訓を生かして正常な賃金上昇率で合意し、原油価格上昇で多少の物価上昇はありましたが、日本経済は安定成長を続けました。
一方、欧米先進国は賃金インフレを繰り返しスタグレーションに呻吟しました。

いま日本が国際商品の値上がりの中で、インフレを最低限に抑えているのは、この時の経験を労使が共有しているからです。
当時の議論を思い起こせば、経営側の「生産性基準原理」、労働側の「経済整合性理論」がインフレを抑え安定した経済を生み出しているという事でしょう。

今の欧米諸国は、第一次石油危機の際の日本の労使の様な傾向を多少とも残しているからインフレ率が高くなるのです。
アメリカは石油をはじめ資源豊富ですからまだいいとして、ヨーロッパはロシアのLNGへの依存が大きいので大変です。

輸入商品が値上がりしたとき、賃上げなど国内の経済政策で対抗することは出来ません。
値上がり分だけその国のGDPが輸入相手国に流出するのですから、耐え忍ぶ以外にはないのです。
インフレの嫌いなドイツではこのことは解っていて、冬の暖房は19℃までという目標を出しいているのです。

以上が、海外インフレと国内インフレの関係がいかなるものかという事の説明ですが、このブログでは、日本は少し真面目すぎるのではないかという思いも持っています。
日本だけが生真面目に、低インフレを守っていても、国際的に異質な国だと思われることは、時にマイナスの効果を持ちかねません。(ジャパンアズナンバーワン→プラザ合意)

また、多少の自家製インフレ傾向(賃金も物価も上がるインフレ)があった方が、政府や日銀にとっては、経済、金融政策がやり易いという面もありそうです。

こうした視点も含めて政策の方向を決めるのには、政・労・使の十分な話し合いや相互理解、納得や合意が必要なのでしょう。それが上手く出来ると良いですね。